悪役令嬢様、排除 後編
暴力を受けたあとだとわかるシーンがあります。お気をつけください。
6話 後編
「お前ごときが、わたくしを辱めるような真似をしていいと思っているの?」
髪の毛をぐっと掴まれ、床に膝立ちのわたくしは、なんと痛々しく見えることでしょうね。
「いいに決まっているでしょう!?」
「わたくしを誰だと心得ているの?」
「リリス・ノーブル、この忌み子がぁああああ!!」
女は、拳を振り上げた。わたくしの嘲笑は、この女以外には、見えない。
「リリスちゃん!!!!」
振り返ってお母様を見たわたくしは、大きな瞳からボロボロと涙を零して、頬は赤く腫れていて、顔は恐怖に歪んでいて、さぞ哀れみを誘ったことだろう。
「....おかあ、さま.....ひっく...いだいわ...だすげて....うぅ」
お母様は家庭教師の女の手を、わたくしから払い落とし、優しく、優しく、わたくしを抱きしめた。メイド達も血相を変え、わたくしを守るように女の前に立つ。
「ごめんなさい。わたくしのせいで....リリスちゃん、ごめんなさい。可愛い可愛いわたくしのリリスちゃん....痛かったわね。辛かったわね。怖かったわね....もう大丈夫よ。お母様が、必ず守るわ。その女を、地下牢へ連れて行きなさい」
「ひ、姫様ぁああ!違うんです!そいつが!リリスが!私は悪くない!!姫様ぁあああああ!!!」
引きずられていく女に、見せつけるようにお母様にキツく抱きついた。
あの後、すぐにお父様は城からご帰宅なさった。お兄様も、泣きながらわたくしから離れようとしない。久しぶりに、4人全員で眠ることとなった。
月が、わたくしたちの寝室を照らしている。真夜中、誰もが寝静まったころ、わたくしは起き上がった。
「エーデルワイス」
静寂に呑まれた世界が、揺れる。
「待ってたよ、姫様」
相も変わらず美しい男は、わたくしに跪いている。
「地下牢に遊びに行くわ。付き合いなさい」
「御意」
彼に横抱きをされ、湿った薄汚い空気のなかに沈んでいく。少しずつ明確に聞こえてくるのは、悪意を込めた呪い。
「ごきげんよう、ミセス。ご気分は如何かしら?」
「私がなにをしたのいうの!?お前のせいでお前のせいでおまえのせいで」
固まった血液と大きな傷や痣のせいで、アンデッド系のモンスターのようになった女は、これまたモンスターらしく血走った目で、ギョロりとわたくしを見る。
「狂った忠誠は、いつか、お母様への害になるわ。そも、わたくしが気に入らない時点で、お前は、要らないのよ」
お分かりいただけたかしら?とわたくしが嗤うと、女は茫然としていた。
「あ?え?マーリン様?何故ここいらっしゃるのです?マーリン様、わかっいただけますか?こいつが悪いのです。私は悪くない」
「煩いなぁ。僕の主が、君を要らないと言ったんだ。君は、不要だよ」
「ダメよ。殺させないわ。お前には、加護をあげる。月の加護よ。光栄に思いなさい。“わたくし以外には、殺されることのできない”加護をあげるわ。さぁ、精霊たち。好きに遊んでいいわよ」
瞬間、女は叫び出す。この世の終わりのような声で。
大丈夫、心もわたくし以外には壊せないわ。しばらくは、あの女で遊びましょう。