悪役令嬢様、手遅れ
5話
「リリス、大丈夫かい!?」
バンッ、と思い切り扉が開き、お父様とお母様とお兄様、それから騒動に気づいたであろう使用人たちがぐわっと押し寄せた。
「マーリン!なぜ、わたくしたちに挨拶もせず、娘の傍にいるというの!説明なさい」
お母様は、普段からは想像できないような低い声で仰った。ピリリ、と空気が張り詰める。
「ご無礼をお許しください、ノーブル公爵夫人。緊急事態と聞き及び、急ぎ対処させていただきました」
美しい顏の男、宮廷魔導師マーリンは、お母様とお父様に向け、膝を折った。
「顔を上げなさい。此度の無礼を許します....リリスちゃん、これに何かされなかった?」
大いにされたわ。もう手遅れよ。
「ええ、なにもされていませんわ!」
「リリスの瞳が、夜空の色に戻っている!ああ、リリス....」
お父様にぎゅぅっと抱きしめられ、少し苦しい。恐らく、瞳の色は“戻った”のではなく、月の女神の権能を手に入れたから夜空の色に“なった”、というのが正しいのでしょうけれど、これは誰も知らなくていいこと。
「ノーブル公爵、折り入ってお話がございます」
「それは、リリスに関することか?」
「ええ、その通りです。できれば、貴方様と2人きりでお話がしたいのですが」
「いいだろう。応接間を用意せよ」
お父様とマーリン、こと精霊王エーデルワイスは、わたくしの部屋を後にした。わたくしの下僕は、わたくしの不利になるようなことはお父様には言わないでしょう。
さて、お兄様とお母様のご機嫌取りしなくちゃ。