悪役令嬢、溜息
16話
リリス視点
なんということかしら。あんな低知能がヒロインだとはさすがのわたくしも驚いたわ。平民ではなく、仮にも貴族令嬢でしょう?カーテシーの1つもできないなんて。聖女に選ばれる人間がヒロイン枠であることを知っていたから、面白そうであったし、わざわざわたくしも聖女に選ばれるように仕組んだけれど、無駄だったような気もする。
「少し疲れてしまったわ。1人でゆっくりしたいの。1人にしていただけるかしら?」
「承知いたしました。何かあれば、またお呼びくださいませ。いつでも参ります」
「ご苦労さま。貴方たちも休むといいわ」
「もったいないお言葉です、リリス様。それでは、失礼いたします」
スっと下がる、王宮の侍女たちを横目に、上品でありながら、美しく飾られた客室を見回す。
「いいお部屋だわ。誰もいないのかしら」
うんうん、いないよー!姫様だけだよー!
精霊たちのあどけない声が、脳内に響く。
「そう、ありがとう。...エーデルワイス、ラミエル」
「ここに」
「お呼びかな、僕の主」
音もなく、彼らは現れる。どうここまで来ているのか、については聞いていない。おそらく、ラミエルは魔族であり、エーデルワイスは精霊であるからこそなせる技だ。
「任命式中に精霊たちが教えてくれたわ。あの小娘、魅了魔法を使えるそうね。しかも、バージル殿下と兄様とメリルとエーデルワイスに向かって魔法に使っていたと」
「僕は、姫様に隷属しているからね。他に、唯一は作れない。そもそも精霊だし、魔法くらいかからないつもりだったんだけど、かなり強力な魔法だよ。あれに対抗するのに、吐くかと思った」
「つまり、他の御三方は魅了魔法にかかっている、ということですか」
「そうなるわ....せっかくヒロインに兄様を攻略されないために、落としたのに...無駄だったみたいね」
「いくつか私にはわからぬ言葉が聞こえましたが、それは私が無能故でしょう。それはいいとして、アルフレッド様とそのような仲になれられいたのですか、リリス様」
目をこれでもか、というほど見開いて、わたくしの執事殿は静かに怒気を纏う。
「あら、怖い。怖い。お前の想像するような不埒な仲ではなくってよ。愛を告げられたわけでもないわ。ただ、わたくしのことを片時も妹としてみれなくしただけの話だわ」
「リリス様、もっと詳しく」
「詳細はエーデルワイスに見せてもらういいわ。どうせ知っているでしょう?」
「もちろん。あのまま姫様に何かするようであれば、それ相応の処置をとる予定だったからね」
「ラミエル、一生の不覚でございます....っ」
「とりあえず、その話は後よ。エーデルワイス、さっさと3人を不能にしてきなさい。あの小娘、いつ、誰と子を成そうとするかわからないわ。とくにあの3人の誰かとまぐわえば、確実に大事よ。すべての責任は、わたくしが負うわ」
「あの小娘が誰と交わろうと、妾として処理をすることは.....不可能でしたね。仮にも、聖女。確実に正妻になる、ということですか」
全員、深刻な顔で押し黙る。あれが、有力貴族もしくは王族に娶られることは、国の威信に関わる。あのような低知能に、正妻としての、女主人としての仕事が務めるはずがないのだ。正直、彼女の今回の振る舞いによって、カーティス男爵家が没落してもおかしくはない。没落、とまではいかなくても、ただでさえ平民と変わらなかった暮らしが、より苦しいものになるだろう。
「魅了魔法については、エーデルワイスから陛下にお話をつけておきなさい。わたくしは、小娘の教育を陛下....いえ、王妃様に嘆願するわ。あんなのと同列にされるのは、耐えられない...ああ、忘れていたわ。バージル王太子と兄様が持ちうるすべての権限を停止させるよう陛下に進言なさい。ラミエル、お前綺麗な顔なのだから、あの小娘に絶対に会わないようになさい」
「魅了魔法のせいで、理性も知性もないも同然だもんねぇ。任せてよ、僕の主。必ず君の望み通りに」
「はい、そのようにさせていただきます。私は、お傍に侍ることができませんが、妹が必ずやリリス様のお力になりましょう」
「えぇ、期待しているわ。2人とも」
これからの困難を思い、ため息が漏れる。侍女を呼ぶためのベルの音が、なんだか重苦しく聞こえた。




