悪役令嬢様、予感
12話
いよいよ、物語は幕を開けようとしている。
このアヴァロン王国には、聖女が存在する。国の配下に置かれることのない唯一無二の存在だ。聖女は、自身の死に際に次なる継承者を選出する。『聖唄』であれば、ヒロインが聖女になり、王子や公爵家嫡男や近衛騎士などを引き連れて、国の各地に溜まる穢れを浄化する旅が始まるのだ。聖女に選ばれれば、王太子妃になれる可能性は高い。たとえ平民でも。アナザーストーリーでは、リリス・ノーブルは、聖女となるヒロインの補佐として選ばれ(正確には選ばせた)、国の各地をまわり、魔獣と戦いながら、慈善活動に力を入れ、国民の支持を得て、ヒロインを蹴落とし、見事王太子妃の座を掴みとっている。それは、ハッピーエンドでの話である。前世の女は永遠に魔獣狩りをして、リリスをゴリゴリのゴリラにしていた(見た目は美少女よ安心して)。誰とも結ばれることのないエンディングを選び、自由を謳歌するリリスは、それなりに楽しそうであったように思う。
わたくしは、王太子妃なんぞに興味はない。王妃、引いて国母となれば国のトップであるが、それでは他国に遊びにいくのも、ままならなくなる。結局はそれなりに自由がほしいのだ。
前世の女が結婚できなかったせいで、どうしても今世は結婚したいという願望がある。それを叶えつつ、やはりヒロインとは遊びたい。こうなったら道は1つしか残されていない。そう。
ヒロインもわたくしも聖女に選ばれ、ともに国を巡るのだ。
ああ、今から楽しみだわ。
「愉しそうでございますね、リリス様」
「あら、わかるの?ラミ」
「貴方に仕えて何年目だと思っていらっしゃるんです」
「わたくしが、5歳のときからよね。もう10年になるのねぇ」
「兄妹ともに、貴方様にお仕えできて光栄でございます」
「感謝なさい。でも、ラミもハニーも10年前と姿がまるで変わらないわ」
「魔族との混血ですから、こればかりは。申し訳ありません」
深々と頭を下げる、かわいい下僕を横目に、ミルクと砂糖をたっぷり入れた紅茶に舌づつみを打つ。サクリと口内で砕いたクッキーの甘さもクセになる。
「まぁ、美味しいわ....頭をあげなさい。褒めているのよ。お前たちの内面ももちろんだけれど、見た目も美しいから、とても気に入っているわ」
「ありがたき幸せです...ところでリリス様、夕食が召し上がれなくなります」
「それもそうね。片付けてちょうだい。残りは使用人たちで好きにするといいわ。兄様にあげてもいいわよ。わたくしの残りなら喜んで食べるわ」
「ありがとうございます。使用人たちでわけさせていただきます」
「えぇ、それがいいとわたくしも思うわ」
物語の幕開けの音がする。




