悪役令嬢様、救済 後編
※暴力的、流血シーンを含みます。気をつけてください。
8話 後編
「それじゃぁ、行くわよ。準備はいいかしら」
「はい」
真っ黒なローブにわたくしとラミエルは、身を包んでいる。時刻は、月が空の真上にある時間。わたくしは、初めて悪魔の名を喚んだ。
「転移させよ」
景色は弾け、瞬きの間に、わたくしたちは貧民街の入口に立っていた。
「う....きもちわるいわ....」
「!?お休みになられますか」
「お前は、問題ないのね?」
「はい、私は大丈夫です」
「なら、行くわ。時間がないの」
精霊たちの案内を受け、わたくしはラミエルを伴いよろよろと奥へ進んでいく。
「ここは...もしや....」
「今頃気付いたの?ああ、ちょっと出遅れたわね。はやく妹の元に行ってやりなさい」
「...ありがとうございます。この御恩、決して忘れません」
「えぇ、それがいいわ。あと、クズ共は殺すんじゃないわよ」
「御意」
奴隷商人による不法な売買のための、商品回収作業中に、彼の妹は、抵抗し、魔力を暴走させ死んでしまう。
この国では、奴隷自体が不法であるため、王立騎士団に匿名で密告してある。騎士団が来る前に立ち去らなければならないこと、彼の妹が死ぬ前に救出すること、から2つの意味で時間がないのだ。
「へぇ、ここにもいい商品になりそうなのがいるじぇねぇか」
「お、可愛い顔してんなァ」
妹を混乱させまい、と外で待っていたのが仇になったらしい。粗大ゴミが出現してしまった。
「精霊たち、殺してはいけないと言っているでしょう」
「おいおい、なんか独り言いってるぜ?」
「頭おかしいのか?まあ、これだけ顔がいいんじゃ頭がおかしくても売れるだろ」
そう言って、1人の男がわたくしへと手を伸ばした。もちろん、触れることなどできない。
「へ?.....ぎゃあああああうで、うでがああああおれのうでぇえええええ」
ドサッと音を立てて、男の後ろに腕が落ちた。溢れる血液が、わたくしを汚すことはない。
「最近のゴミは、随分と五月蝿いのね?あんまりにも、五月蝿いわ。燃えろ」
肉が焼ける臭いに思わず顔を顰めた。悪魔は愉しそうに、笑っている。
「お待たせいたしました」
「無事かしら?」
「妹ともに無事でございます」
「あら、お前の妹、怪我しているじゃない」
気を失っている彼女に手をかざせば、ふわりと柔らかな光が溢れる。
「光属性の魔術...!?貴方様は、まさか全属性使えるのですか!?」
「そうよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてません!」
「それはごめんあそばせ?さぁ、帰るわよ」
「しかし、妹が...」
「貴方の妹なら、それなりに使えるわね?明日、お父様に彼女をわたくし専属の侍女にするように伝えるわ。だから、3人で帰るわよ」
ありがとうございます、と泣きそうな笑顔で彼は言った。彼は、やっと笑った。




