悪役令嬢様、覚醒
1話
リリス・ノーブル公爵令嬢、御歳5歳。両親と兄からの愛情を一心に受け、蝶よ花よ、と育てられている彼女は、ちょっぴり我儘な心優しい幼女となった。
そんな彼女は、今日も好奇心にかられ、父親の書斎に侵入していた。キョロキョロと大きなおめめを忙しなく動かして、てとてとと彼女は歩き回る。
「しゅてきだわ!まるでえほんのなかみたい!きっとおにいしゃまやおかあしゃまにおこりゃれてしみゃうけれど!」
小さなレディの大冒険は、始まったばかりである。自分より数倍の大きさはあるだろう本棚に囲まれて、きゃっきゃっはしゃいでいる。
「ありゃ?にゃにかしら?」
ポトリ、と不自然に通路に置かれた古びた真っ黒な本が、小さなレディの行く手を阻んだ。小さな手が、古びた本に触れた。瞬間、リリスは漆黒に呑まれた。
久しぶりの餌だ。美味しそう。はやく食べよう。待って。傀儡にして外の世界に出よう。変わる変わる聞こえる老若男女区別のつかぬ、声、こえ、コエ。
リリスは、脳に直接響くような声を気にしている余裕はなかった。全身が痛いのだ。裂かれるような痛みに、もはや口からは音すらでない。
あれ、こいつ死んだ?生きてるよ。動かないね?あれ、動いた。
「お黙りなさい。わたくしの前にひれ伏しなさい、72の悪魔たち」
リリスは目を開けた。その瞳には、きらりと輝く知性が宿っていた。彼女は、気づいてしまったのだ。私は、死んだ。そして、わたくしは、悪役令嬢になった。
識ったからには、活用しなければ。2度目の生だ。必ず、幸せに、生きてみせる。例え、どのような手段をとることになったとしても。
小さなレディは、ここに決意を固めた。
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