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谷子と「本の神さま」

事件は、ある日に起こった。


「うわあ!?」


元祖「うわあ!?」ガールの谷子の悲鳴が朝の渋谷にこだまする。ここは谷子の屋根裏部屋である。


「なになに!? どうしたの怪獣ちゃん!?」


かくかくしかじかで同じ部屋に住むことになった姉の栞は、カワイイ妹の悲鳴を目覚まし時計代わりに目が覚めて飛び起きる。


「い、いつものカワイイ妹の怪獣ちゃんじゃない!?」


谷子は、禍々しい怒れる闇のオーラに包まれていた。いつものおっとりとした無口で本が好きなだけの前髪長過ぎガールとは違い、どこか威圧的・高圧的な雰囲気がある。


「おはよう。お姉ちゃん。」

「お、お、おはようございます。」


フワッとした口調でない、はきはきした谷子の口調に、思わず丁寧語で朝の挨拶を返事してしまう栞だった。


「さっさと着替えて、ご飯を食べに行くよ。」

「はい!?」


なんだか、いつものカワイイ怪獣ちゃんと違う。そう思いながらも気軽に声をかけられない空気を漂わせている谷子。着替えや授業の用意を済ませ、さっさと着替えを終える。


「お姉ちゃん、先に行ってるよ。」

「ちょ、ちょっと待って!?」


栞は、まだ着替えの最中である。あり得ない、。あり得ないことが起こっている。おっとりの谷子が姉の私よりも早く着替えたり、学校の準備ができることなど、今まで1度も無かったのだ。


「エレベーターを呼んでくるから、戸締りよろしくね。」

「うん、わかった。」


谷子は1人でさっさと屋根裏部屋の部屋を出ていった。いつもなら谷子と栞は、2人で仲良く一緒に部屋から出ていくのに・・・。


「どうしたのかしら? 怪獣ちゃん? 何か変よね?」


何か変なモノを食べたのかしら? どれだけ考えても、今日の谷子は変だった。栞は、部屋の鍵を閉め、10階へと続く階段を下りていく。


「怪獣ちゃん、お待たせ~♪」

「遅い、お姉ちゃん。」

「え!?」

「早く乗って。」

「はい!? すいません・・・。」


思わず恐縮してしまう栞。谷子は口調は厳しくはないものの、言葉には棘があった。こういう時に谷子の前髪が長過ぎて、表情を読むことができないのも不気味さを倍増させていた。


「おはよう。お父さん、お母さん。」


エレベーターを下り、3階の両親の部屋に朝食を食べにやって来た。いつもと違うハッキリとした口調で挨拶をする。


「え!? なに!?」

「ど、どうしたの!?」


さすが、両親。父、谷男と母、谷代は少しの谷子の変化も見逃さなかった。低血圧なのか、普段の性格なのか、朝から、いや、本を読むとき以外の谷子にやる気がある訳がないのを知っていた。谷子が普通に挨拶をするだけでも、鳥肌が立つような違和感を感じた。


「栞、谷子はどうしたんだ!?」

「朝起きたら、ハキハキしてたの。」

「ま、まさか!? これが反抗期!?」

「お母さん、ご飯。」

「は、はい!? すぐに準備するわね。」


戸惑う渋井家の家族たち。谷子1人の性格が少し変わるだけで、まったりとした、今時のアルバイト両親家族の朝の食卓は、重苦しい雰囲気になってしまった。ピリピリとした状態で飲む味噌汁は、美味しくなかった。


「ごちそうさま。行くよ、お姉ちゃん。」

「え!? 怪獣ちゃん!?」

「お父さん、お母さん、行ってきます。」

「行ってきます!? 待って!? 怪獣ちゃん!?」

「いってらっしゃい。」


ここには用はないと言わんがばかりに、谷子は速読ならぬ、速食を行い、一瞬で朝ご飯を食べ終える。谷子はお箸を置き、早々に学校に行こうとカバンを持って部屋を出ていく。栞は急いで追いかけていく。両親もただ、見送ることしかできなかった。


「谷子はどうしたんだ? 何か悪いものでも食べたんじゃないか?」

「反抗期ですよ!? きっと学校から帰ってきたら、金髪でピアスとかしてるんですよ!?」

「それを言うなら、タトゥーとかするんじゃないだろな?」

「谷子が、あんなに元気なのを、我が子ながら初めて見ましたよ。」

「まあ、栞がいるから大丈夫だろう。」

「そうですね。栞がいますもんね。」

「ハハハハハッ。」


他力本願の谷子の両親であった。本当は実の娘ではないが、魔法を使い谷子の双子のお姉ちゃんになり、人間生活を楽しんでいる栞こと、「夜空のお星さま~☆彡」の本の世界の通行人の女の子Bだったが、夜空のお星さまにお願い事をして、銀河系最強の魔法の杖、ギャラクシーロッドを手に入れ銀河の守り人になったエロメスに、普通になった谷子の面倒は任されることになった。



ここは帰渋高校の谷子の教室。


「おはよう~♪ かわいいドキ子より、可愛くない谷子ちゃんとおまけの栞ちゃん~♪」


谷子と栞は無事に帰渋高校にたどり着くことができた。そして、いつものように顔だけカワイイ美少女、性格はブスのドキ子の洗礼を受ける。


「おはよう、ゲジゲジ眉。」

「おはよう、ドキ子。」

「ええ!? 谷子ちゃんが、ドキ子の名前を言った!?」


人見知り? 関心がない? 眼中にない? いつもウザいので形だけしか挨拶を返さない谷子が、ドキ子の名前を言ったのである。本来は栞のゲジゲジ眉発言に起こるところだが、それよりも谷子がドキ子と言ったことに、ドキ子は驚いた。


「ちょ、ちょっと!? 栞ちゃん、谷子ちゃんはどうしたの?」

「私にも分からないの。今日の怪獣ちゃん、やっぱり変よね?」

「変よ! ちゃんと挨拶を返されたら、ドキ子、そこからいじれなくて困っちゃうじゃない!? 栞ちゃんも「かわいい怪獣ちゃんをいじめるな!」って、割り込んでこれないじゃない!? そうすると私たちの毎朝の恒例の竜と虎の戦いができないじゃない!? 今日はあっち向いてホイをやろうと思っていたのに!?」


長いな、と呆れる栞。ドキ子は目立つのが大好きなので、長台詞でも自分の出番がもらえるのがうれしかった。それでも今日の谷子は変なのだった。


「はい、授業を始めるぞ。みんな席に着いて。」


担任の大門先生が教室にやって来た。下の名前は決まっていたのか忘れたので、大門先生で書いていこう。作品が長過ぎて全てを把握しきれていないことをお詫び。


「それでは授業を始める。」


数学の授業が始まった。大門先生が黒板に問題を書き始める。問題は「1+1=?」である。至って簡単な問題である。


「栞、解いてみろ。」

「2です。」

「正解。さすが栞だな。」


16才、高校1年生で褒められてもうれしくはない。それでも正解することはいいことなのだ。次の問題を先生が黒板に書く。問題は「2+2=?」である。


「ドキ子、解いてみろ。」

「先生! ドキ子より可愛くない谷子ちゃんが答えたがっています!」


ドキ子は答えが分からないので、罪を谷子に擦り付けようとした。「うわあ!?」というのが、いつもの谷子の反応である。そうなるとドキ子はシメシメと想像していた。


「4です。」

「正解。さすが谷子だ。」

「な!? 谷子ちゃんが答えた!?」


ドキ子は驚いた。大好きな本を読むこと以外はやる気が無い、おバカ友達の谷子が数学の問題を答えてしまった。このままではおバカは自分1人になってしまう恐怖をドキ子は感じた。


「変よ!? 今日の谷子ちゃんは絶対に変よ!?」

「でも怪獣ちゃんは、1億冊の本を読んできたから、知識があって、頭が賢くてもなんの問題もないわ。ただ本以外に興味がないだけで。」

「谷子ちゃんが、頭が賢い設定になると、ドキ子は困る! 絶対に谷子ちゃんを元のダラダラした谷子ちゃんに戻して見せる!」


ドキ子は決意した。谷子の少しの変化でも見逃さずに、何が原因で谷子がおかしくなったのかを追求しようと心に決めた。ドキ子は、なんと友達思いなのだろう。


「ギャア!?」

「ドキ子、うるさい。」


チョークが飛んできた。大門先生のお得意のチョーク・ライフルである。チョークが命中したドキ子は目を回して気絶した。


「次は、体育の時間だ。全員、グラウンドに集合するように。」

「はい。」


ということで、体操着に着替え、グラウンドに集合した。谷子は相変わらずのキレキレの俊敏性を見せて着替えも移動も1番乗りだった。


「50メートル走のタイムを計る。まず、栞。」

「はい。」

「よ~い、ドン!」

「8秒。標準だ。」


栞が50メートル走を走る。タイムは8秒、女子としては平均並みのタイムであった。次にドキ子が走る準備を始める。


「次、ドキ子。」

「はい。」

「よ~い、ドン!」

「10秒。遅い。」


しかし普段のドキ子は余裕だった。なぜなら自分より谷子の方が足が遅いからだ。しかし、今日の谷子は一味違う。キレキレなのだ。


「間マリコ、6秒。早い。」

「ヤトラ、7秒、普通。」

「角山角子、8秒、普通。」

「イスラ、9秒、普通。」

「綾、9秒、普通。」

「虹子、9秒、普通。」

「川田、9秒、普通。」

「おみつちゃん、9秒、普通。」

「睦月、9秒、普通。」

「鈴木、9秒、普通。」

「森田、9秒、普通。」

「ちょっと!? どうしてドキ子以外は9秒なのよ!?」


参考までにクラスメートの50メートル走のタイムを書いておこう。ドキ子以外に10秒かかった生徒はいない。この展開にドキ子は悪意を感じる。


「でも大丈夫。だって、まだ可愛くなくて足も遅い谷子ちゃんが残っているわ!」

「最後、谷子。」

「はい。」

「よ~い、ドン!」


谷子がドキ子の最後の希望だった。きっと谷子なら、50メートル走で15秒台の世界新記録を出してくれるはず!? ドキ子は谷子に期待した。


「3秒。」


ズルっとドキ子はズッコケた。いつもはドキ子よりも遅い谷子が、50メートルを3秒で走り抜けた。もうドキ子は起き上がれないくらいのダメージを受けた。


「谷子。世界新記録。おめでとう。」

「大門先生、ありがとうございます。」

「すごいわね。怪獣ちゃん。」

「お姉ちゃんもありがとう。」


完全にいつもの谷子とは違っていた。ここまで性格と性能が数段レベルアップしていると、もう別人としか言いようがない。仮に帰渋高校の授業に組手があったとしても、今日の谷子は勝ちあがるだろう。新魔王のマリコすら倒してしまうだろう。


キーンコーンカーンコーン~♪ 授業が終わり、放課後を迎える。


「お姉ちゃん、図書室に行くよ。」


谷子は積極的に部活動に参加しようとしていた。その光景を見ていた栞とドキ子は、身震いがするほど気持ちが悪かった。


「栞ちゃん、あなた、お姉ちゃんでしょ。妹を何とかしなさい。」

「私だって、いつものカワイイ怪獣ちゃんがいいわよ。」

「う・・・。」


2人は困り果ててしまう。人見知りで本ばかり読んでいる引きこもりの女子高生、それが渋井谷子である。(長過ぎる前髪をあげると、天下無敵の「ほんのおねえさん~☆」になる。)


「遅かったな。」


谷子が図書室にやって来ると、図書部の部長が既にやって来ていた。いつもなら「部長、ウザすぎます。」と谷子が言うところだが、今日の谷子は一味違う。


「遅れてすいません、部長。」

「な!? なに!? 谷子が謝った!?」


図書部長、確か本名は渋井ハチ助で谷子の親戚に無理やりしたような気がするが正確なことは記憶にない。改めて、お詫びする。


「おい!? おまえら!? 谷子は熱があるんじゃないか!?」

「今朝から、普通の妹になってしまったんです。」

「可愛くない谷子ちゃんが、さらに可愛くない谷子ちゃんになったんです。」


相変わらずの酷い言われようであるが、図書部長も谷子のキレキレの様子にテンポが狂う。しかし、高校3年生設定で、谷子たちよりも2歳年上の図書部長は何か気づいたみたいだ。


「こういう時、よくあるパターンでは、催眠術にかけられたか、別人物と変わったか? ・・・若しくは何かに憑かれた時だ!」

「・・・バレたか。」


大正解。図書部長の発言から、谷子の周りに稲妻のような、ハリケーンのような、神々しい雨嵐が巻き起こる。しかし、なぜか図書室の本は無事である。全く動きもしなければ、濡れもしない。


「いったい、どうしたの!? 怪獣ちゃん!?」

「ドキ子より目立つなんて、許せない!」

「うわあ!? 飛ばされる!?」


図書室の中で台風が発生した。栞、ドキ子、図書部長は本棚に必死にしがみつく。なぜか嵐は、図書室にある本には被害を与えないのだった。


「いったい何が憑いているの!?」


その時だった。栞ちゃんの首に巻いているエルメスのスカーフが風になびく。これは栞ちゃんことエロメスが何か良いことを閃いたのである。栞は谷子の禍々しいオーラを見て、谷子に憑いている正体に気づいた。


「分かった! 私のカワイイ怪獣ちゃんに憑いているのは・・・本の神さまね!」


本の神さまとは、本が大好き過ぎる谷子に憑いている神さまである。以前、製作委員会の最中に、本が傷つけられたことに怒り、谷子の体を借りて、本を大切にしない人間を懲らしめるために現れたことがある。


「本の神さまって、なんだ!?」

「部長は知らなくても大丈夫!」

「そんな・・・。」

「それよりも怪獣ちゃんの意識を目覚めさせないと!」

「仕方がない。栞ちゃん、一時休戦よ!」


悲しむ図書部長を放置して、栞とドキ子は本の神さまから谷子を救うべく、必殺技の態勢に入る。栞は銀河系最強のギャラクシー魔法を、ドキ子は口から文字を吐き出すドッキドキ砲の態勢に入る。


「ストップ!!!」


本の神さまが憑いている谷子が、図書部員全員に聞こえるように、大声で戦闘態勢に入っている栞とドキ子を制止して動きを止める。


「なによ!? 本の神さま!?」

「今日は争いに来たんじゃないんだ!?」

「だから何なのよ?」

「最近、おまえたちがサボって、本の世界に行って、ゴットブックを探してきてくれないから、催促に来ただけだ。」


そう、本の神さまは自分の存在が忘れ去られていることに危機感を感じ、「帰渋」を原点のストーリーに戻すために、谷子に憑いて、ゴットブックのことを思いだしてもらおうとしたのだった。


「・・・ドキ子、忘れてたわ。」

「私も・・・って、本の世界に行くたびに、あんたが自分のギルドのメンバーを増やしていくから、そっちに話を持っていったのが原因でしょ!?」

「なによ!? ドキ子の性って言うの!? 勝負するなら、勝負してあげるわよ!」

「望むところよ! 今日こそ、眉毛を全部抜いてやる!」


栞とドキ子はいつものように戦いを始めようとした。ここまでいってしまうと谷子のことはどうでも良いのだった。収拾がつかなくなってしまった時、どこかからか本の神さまを呼ぶ声がする。


「本の神さま。」

「ん? 谷子か?」

「本の神さま、次回はどこか本の世界に行って、ゴットブックを見つけてくるから、今日のところは許してね。」

「別に怒ってないよ。谷子は本が好きな優しい子だな。」

「うん。」

「人間の生活も楽しかったぞ。それでは期待してるからな。谷子、さらばだ。」

「本の神さま、さようなら。」


こうして谷子は、いつものおっとりな谷子に戻った。本の神さまも自分のことを忘れてほしくないのだ。本が売れないと寂しい。本を読んでもらえないと悲しいということだった。


「くらえ! カワイイドキ子のドッキドキ砲10倍!」

「銀河系最強の魔法使いエロメスが命じる! ギャラクシー・ビックバーン!」


谷子は仲良く遊んでいる栞とドキ子を見て、関わりたくないと正直に思った。邪魔をするのは悪いので声はかけなかった。


「本の神さまって、なんなんだ!?」

「部長、ウザ過ぎます。」


いつもの谷子のセリフが出たところで、1話5000字のノルマも達成しているので終わってしまおう。次回は、どこかの本の世界に行くだろう。この帰渋高校の図書部の光景を陰から神の目で見ている女神がいた。


「あの本好きの女の子、運命を変えたわ!? 本当にいるんだ、運命を変えることができる女の子が!?」


運命の女神も谷子には、ビックリして感心するのであった。


つづく。

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