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宮坂家ほのぼのカレンダー  作者: 文具屋太郎
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宮坂家のお餅つき

 今日は西の山から吹く寒風も治まり、お日様の光が暖かい日。旧暦十月には外れるけど、小春日和みたいな穏やかな一日。

さて、今日の宮坂家は・・・



 地元では、そこそこ土地持ちの古い家柄である宮坂家。築地塀に囲まれた家が建っている敷地は、驚くほどでもないですが相応に広く、年季の入った土蔵や、屋敷神様の小さい祠、昔ながらの手押しポンプのついた井戸など、今では珍しい物が現役であちこちにあります。


 そのような敷地の一角に、木造瓦葺で煙突のついた、一見納屋のような小さく古い小屋があります。

普段は人気のないその小屋ですが、今日は煙突から白い煙がもくもくと立っています。

2坪ほどの小屋の中には、今ではほとんどお目にかからない、大正時代に作られた、モダンな2口のタイル張りかまどがでんと据えられています。

このかまど、昭和30年代頃まで毎日煮炊きに使用されていたものを、先代が捨てるものもったいないとこの小屋へ移動し、慶弔の餅つきや赤飯、おこわを炊くときに使うようになりました。


 お父さんが火吹竹で火の番をするタイルかまどには、二つのお釜がかけられて、その上では蒸篭からしゅっしゅと湯気が上がっています。

やがてもち米が蒸しあがる良い香りが立ち込めてきました。

「おかあさ~ん、そろそろ蒸しあがるけど、準備はいいですかあ~」

お父さんは、庭にいるお母さんに声をかけます。

「はーい、いつでもいいわよ~」

その声でお父さんは、

「あっちち、あっちち」

と手早く蒸しあがったもち米を持って庭に行き、杵を軽々持っているお母さんの前におかれた、欅の臼に入れます。お母さんは慣れた手つきで、先ず杵を素早く動かして、もち米を捏ねはじめます。

本当は男衆でも一人じゃ手に余る力仕を、一人でたいして苦も無くやってのけるお母さん。

「よいしょよいしょ」

と何度かもち米を裏返しながら、つぶすように捏ね、程よく米粒がつぶれたところで、

「さーて、そろそろつき始めますよ~、あなた、合いの手おねがいね。調子よくやらないと、お餅と一緒につき込んじゃいますよ~」

とお母さんが声をかけます。

「こ、怖いこと言わんでくださいよ。・・・とういうか本気でやりそう」

と、少々おびえるお父さん。

まあ、そこはそれ、幼馴染で小さい時から餅つきも一緒にやってきた仲だから、

「うわ~お父さんとお母さん、いつも餅つき上手だね~」

「すごーい、おどってるみた~い」

と縁側から見ているチビッ子担当の二人組が感心するくらい息もぴったり、ぺったんぺったんとお餅をついてゆきます。

「なあ、姉ちゃん。毎回思うんだけど、むかしこんなふうに餅つきする芸人さんいなかったか?」

「うん、陽菜、私もそれ思ってた・・・」



「よし、こんなものかな」

 つき終わったお餅は、縁側を挟んだお座敷のちゃぶ台の上の餅とり粉をまいたのし板へ素早くのせ、

「さて、最初は鏡餅を作るわよ。大きいのはお母さんがつくるから、みんなはそれぞれ自分の部屋用のをつくってね」

と手際よく丸めて、きれいに鏡餅を作ってゆきます。

子供たちもそれをまねて、それぞれのてのひらサイズの作ってゆきます。

文香さんは、お母さんに劣らず上手に作ります。

陽菜さんは、作るより食べているような・・・

美咲さんは、あれ?お餅に可愛い耳とお目目がついてますよ。

颯太くん、まん丸のが二つ・・・それではまるでゆきだるまさんじゃないですか。

できた鏡餅は、お盆に乗せて固まるのを待ちます。


「おーい、次のが蒸しあがるよ~」

 お父さんが声をかけます。

もうもうと湯気が上がるもち米が臼に入ると、

「今度は、あなたがやって」

とお母さんがお父さんい杵を渡します。

「え、僕が。よ~し、お父さんの技をみせてあげますよ」

と杵を取るお父さん。

「父ちゃんがんばれ~」

「パパ、がんばってね」

「ぱぱ、かっこいい~」

「はぁ~、お父さん、張り切りすぎて、腰を痛めなければいいけど」

そんな子供たちの声の中、お父さん頑張ります。

こねこねこねこね。

「ほら、もっと腰を入れないと。そんなへっぴり腰じゃいつまでたっても捏ねられないわよ!根性根性」

お母さんの激が飛ぶ中、

「はぁはぁ」

お父さんは汗だくで、捏ねます。

 程よく捏ねた後、

「ほら、もっと強く切れをよく、すばやく振り下ろしなさい。ダメダメ、振り下ろすとき、手の内を絞らなきゃ!それじゃ相手を斬れないわよ!!」

と、餅つきのアドバイスなんだか、剣術のアドバイスなんだかよく分からないお母さんの指示で、一臼つき終わり、次はのし棒を使って、角餅作り。ちなみにお父さんは、ふらふら。

その後、つきたてのお餅にあんこやきな粉をを付けて、皆で食べたり(陽菜さん、食べ過ぎ)しながら、合計5臼お餅をついて宮坂家の餅つきはおしまい。


「う、こ、腰が・・・」

「父ちゃん大丈夫か?わたし腰もんであげようか?」

「おお、陽菜、なんて優しい子なんだお前は。それじゃちょっと揉んでもらおうか」

「OK。おりゃ」

「ぐはぁぁ~!!力入れすぎ~~!!!」

お母さんの次に力持ちの陽菜さんでした。


鏡餅もお供えして、松飾も飾り、お正月の準備はどんどん整ってゆきます。


宮坂家、今日も平和です。





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