宮坂家の仕事始め 慌ただしい朝編
正月五日。
先日降った雪は、昨日のうちにほぼ融けて、日陰に少し残る程度。
今日は宮坂家の大人たちの仕事始め。日常が戻ってきます。
先ずはそんな日の朝から見てみましょう。
午前5時過ぎ、みんながまだ寝ている中で、起きだしたお母さんとお祖母ちゃん。
早朝の台所では、もう煮炊きの香りに包まれています。
「母さん、この味はどう?父さん大丈夫かな」
「ん、ちょうどいいね」
お祖母ちゃんとお母さんは、みんなの朝ご飯と作り。それと同時に、お母さんは会社に持って行くお父さんのお弁当も一緒に作成中。
ちなみに宮坂お母さん、年に何回かのよほど忙しい日ではない限り、ほぼ毎日宮坂お父さんにお弁当を持たせます。え?、普段、あまり大切に扱っていないように見えるのに、なぜわざわざお弁当を作ってあげているかって?ははは、宮坂お母さん、日ごろのお父さんに対する言動に反して、本当に純粋に宮坂お父さんにべた惚れなんです。結婚当初、もしお父さんがお昼に外食をして、そこの店に美人な店員さんがいて、仲良しにでもなったら・・・なんて必要もない焦燥に駆られて以来、ずっと今日まで愛妻弁当を作り続けている、そんな可愛いところもあったりなんかするのです。
そんな二人が忙しく働く早朝の台所。宮坂お母さんが、ぽつりと、
「ねえ、かあさん。もうそろそろ、本当に一緒に暮らさない?」
と宮坂お父さんのお弁当を詰めながら言います。
宮坂お父さんとお母さんが結婚した年、婿さんの宮坂お父さんに気を使ったのか、二人の反対を押し切って、宮坂お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、今も住んでいる、歩いても10分そこそこのマンションに引っ越しました。
それ以来、宮坂お母さんに子供が生まれるたびにずっと泊り込んだり、四季折々の季節の行事は一緒に過ごしたりしますが、基本は宮坂お父さんとお母さんの家庭をを尊重して、過度に干渉しないようにと、別居と言う形をとっています。
「母さんたちは、ずっと私たち夫婦に気を使ってくれていたんだとわかるんだけど、今では、昨日の美咲の事もそうだけど、文香や陽菜にとっても、お祖母ちゃんお祖父ちゃんがいてくれるのが、いろいろ成長していく上ではいいと思うの。颯太も懐いているし、あの人も大賛成だし」
と言う宮坂お母さん。宮坂お母さん自身も、子供の頃、宮坂お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに大切に育てられ、さらに当時同居していた祖父母にも可愛がられ、また時には、悪い事は悪いと窘められたりと、豊かな愛情に包まれた子供時代を過ごしてきたので、そんな豊かな子供時代を自分の子供たちにもさせてあげればと強く望んでいます。また宮坂お父さんも、自身の実家が曾祖父母、祖父母、両親、さらに四人兄弟姉妹の大家族だったこともあり、同居には大賛成。
「う~ん、そうねぇ。私たちもそろそろ仕事をセーブしようかと思っているところだし、あなたたちさえよければ、父さんと相談してみるわね」
とお祖母ちゃん。
「本当にお願いします」
とペコリと頭を下げる宮坂お母さん。
そんな会話をしながら母娘は朝の支度をしてゆきます。
6時ちょっと前になると、文香さんが起きてきます。文香さん、普段からお母さんの朝のお手伝いをするため、みんなが休みの日以外はこの時間に起きています。
「あ、もう朝の準備してるんだ。ごめんなさい」
と文香さんが言うと、
「大丈夫よ。それよりあなたはまだ冬休みなんだから、もっとゆっくり寝ててもいいのよ」
とお母さん。
「ううん、お母さんとお父さん、今日からお仕事だから、私手伝う」
と、いつも使っているシンプルなエプロンを着けて、朝の支度に加わります。
6時になると、
「おっはよぅ~」
と元気な声で、それと
「おはようございます」
とやっぱり元気な声で陽菜さんと美咲さんが起きてきました。
(みんなで一緒に寝て家族エネルギーを充填したせいか、美咲さん、今朝は元気いっぱいの様です)
起き抜けから、
「母ちゃんわたし、朝飯前にジョギングしてくるな」
「はいはい、まだ少し雪が残ってるから、足元には気を付けるのよ」
「はははぁ~い」
と陽菜さんは、氷点下のなかジョギングへ。
家から飛び出て行く陽菜さんを見て、
「こんな寒い中、ジョギング・・・最近あの子が人間とは思えなくなってきた・・・」
と文香さん、
「やっぱ。陽菜お姉ちゃんはお化けだ」
と寒さの大っ嫌いな美咲さんが顔を見合し、つぶやきました。
その後、お母さんに頼まれて、美咲さんはお父さんとお祖父ちゃんを起こしに行きます。
ほどなくして、父さんと颯太君、お祖父ちゃんが起き、お父さんとお祖父ちゃんで、みんなで寝た布団を片付けて、六時半過ぎになると、ジョギングから帰ってきた陽菜さんも含め、みんなで朝ご飯。
今朝は、派手な容姿に似合わない、お祖父ちゃんの好みの和食の朝食。ご飯に豆腐と長ネギとわかめの味噌汁、鰤の焼き物、かぼちゃの煮物、ホウレンソウの胡麻和え、ひじきと大豆煮、温泉たまご、焼き海苔、納豆、それに自家製のたくあん漬けをみんなで美味しく頂きます。
朝食を食べ終え、8時前、先ずは宮坂お父さんが出勤。
お父さんの会社は自転車で10分強の場所にあります。
「ううう、今日から会社です。ああ、もっと休んで家族といたいなあ」
と玄関先でぶつくさ言うお父さん。
「なに、美咲みたいなこと言ってるの、ほら早くしないと蹴りだすわよ」
とお母さんが足を上げます。
「わ、わかりました。行きますよ、行けばいいんでしょ」
と若干いじけながらお父さんは自転車にまたがります。
「お父さん行ってらっしゃい」
「父ちゃんお仕事がんばれよ」
「お父さん、早く帰って来てね」
「パパいってらっしゃい~」
と子供たちに見送られ、お父さん出発。
「本当に世話が焼ける」
やれやれとお母さんが言うと、
「ふふふ、可愛いじゃない。休ませてやればよかったんじゃない」
とお祖母ちゃん。
「ちょっと、母さん。私の婿さんをあまり甘やかさないでよ」
とお母さんはじと目でお祖母ちゃんを見ます。
「あ!!お父さん、お弁当おいて行っちゃった!」
と文香さんが下駄箱の上に置かれたお弁当の包みを発見。
「え!陽菜、すぐに自転車で追いかけて渡してきて」
とお母さんは陽菜さんにお弁当を渡します。
「おう!まかせて!」
と陽菜さんは自分の自転車に飛び乗り、自慢の脚力で弾丸のようにお父さんを追いかけて行きました。
「まったく、正月明けとはいえ、私のお弁当を忘れるなんて、たるんでる証拠ね。帰ってきたら喝を入れてやらなきゃ」
とお母さんは拳をポキポキ鳴らしながら言います。
そんな宮坂家の慌ただしい朝は過ぎて行きます。




