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EX 星竜の逆鱗

本日はコミカライズ版1巻の発売日になります!

それを記念して、今回はちょっとした短編になります。

 ローナスに来て、生徒代表パツキンとの模擬戦闘デュエルを終えて少し経った頃。

 俺は相変わらず小難しい講義に苦しめられていたが、それでも少しくらいは興味を惹かれる内容もちらほらと出てくるようになった。

 今回はまあ、そんな珍しい授業に関連した思い出話だ。


 ***


「竜の逆鱗、なあ」


 俺は逆鱗に関する板書をじーっと眺めながら、ソラヒメについて思い出していた。

 逆鱗、それは竜の弱点とされる特殊な鱗。

 何でも逆鱗を突かれると竜は体から力が抜けるようで、しかもその鱗は通常の鱗とは違って逆さに生えているから分かりやすいんだとか。


 ──でも、ソラヒメの体にそんなもん生えてなかった気がするけどな。もしかして星竜には逆鱗がないのか? だったら少し残念な気もするが……。


 ソラヒメの鱗は光沢があり滑らかで、手触りがとてもいい。

 正直、癖になると言ってもいいかもしれない。

 それでもし逆鱗って変わった鱗があるなら、一度触ってみたくなってきたのだ。

 どうせ軽く触るくらいならソラヒメも笑って許してくれるだろうし、興味もあるから探してみるのもいいかもな……と、そんなことを考えていたところ。


「……ムル、シムル!」


「……ん?」


 目の前には、いつの間にかテーラが立っていた。


「ぼーっとしていたらダメでしょ? 早く竜舎に行くわよ?」


「竜舎? また何でだよ?」


 聞き返すと、テーラはため息をついた。


「何でって、マール先生が実際にワイバーンの逆鱗を見に行きましょうって言っていたじゃない。ほら、他の皆はほとんど行った後よ?」


 周囲を見れば、テーラの言うように生徒たちは教室の外へと移動していた。


「ほら、早く早く」


「分かった、分かったからそう急かすなっての」


 テーラはいつもの調子で言い、俺の腕を引っ張って竜舎まで行くのだった。


 ***


「で、ワイバーンの逆鱗ってのは……あれか」


 俺たちが外に出た時にはもう、マール先生が昼寝中のワイバーンの首元を指しながらあれこれと説明をしているところだった。


「この通り、逆鱗は大抵ワイバーンの首元に出現します。しかし逆鱗は常に存在するものではなく、どちらかと言えば鱗が生え変わった直後などに稀に見られるもので……」


 呑気に眠るワイバーンの首元にある逆鱗は、確かに逆さに生えた小さな一枚の鱗だった。


「なるほど、あれが逆鱗か……」


 逆鱗の形を覚えた俺は、できるだけ自然にその場から離れた。

 当然、テーラには特にバレないように。

 そして……。


「お、いたいた」


 竜舎から少し離れた木陰で昼寝をしているソラヒメを見つけ、ゆっくりと寄っていく。

 それからソラヒメの首元や全身を触ってみるが……。


「やっぱ無いな」


 純粋な興味だけで見てみたが、ソラヒメの体はつやつやした鱗が規則的に並んでいて、逆立った鱗なんてものは一枚足りともなかった。

 また、俺がペタペタ触っていたからか、ソラヒメが身じろぎして目を覚ました。


『うぅ……シムル、私に何か用ですか?』


「ああ、ちょっとお前の逆鱗探してるところ。乱暴にはしないから安心してくれよな」


 だからまだ寝ていてもいいぞ、というニュアンスで俺はそう言ったのだが、ソラヒメは飛び上がるようにして跳ね起きた。

 それからソラヒメは、今まで見たことがないほどに慌てていた。


『ま、待ってください!? 私の逆鱗を探そうなどと、貴方は正気ですか!?』


「うおっ!? ……いや、そんなに驚くことか? 言っちまえば、単にお前の鱗を探しているだけじゃねーか」


 思わずそう聞き返すと、ソラヒメはじーっと俺を見てきた。


『……もしや、星竜の逆鱗を探して触れる意味を貴方は知らないと?』


「意味……?」


 俺を見て何を思ったのか、ソラヒメは安堵したように言った。


『その様子では知らないようですね……いいですか? 竜の弱点たる逆鱗に進んで触れるという行為は、星竜の間では文字通りの絶交を意味するものです。……もし貴方がこれを知っていて、なおかつ私に不満があると言うなら話は別ですが……』


 急にいじけたようにしんみりし始めたソラヒメに、今度は俺が慌てさせられた。


「んなっ、そんな訳ねーだろ!? 今回のはその、あれだ。マール先生が逆鱗についての講義をしてくれたから、お前にもあるんじゃないかって思っただけの話だ。別にお前に不満がある訳じゃない。……俺の編入に加担したこと以外はな」


『……本当ですか?』


「嘘言ってどうすんだよ」


『そうですか……』


 ソラヒメは安堵したように振り向いて、俺を中心にして丸まった。


「おいおい、何すんだよ?」


『全く、驚かせないでください。罰としてしばらくはこのままです』


 いや、この後も講義あるんだが……と言いかかったものの。

 ──流石にソラヒメをびっくりさせちまった後だし、少し一緒にいてやるのもいいか。

 そう思いなおした俺は、そのままソラヒメの腹を枕がわりにして横になり、なんとも自然な流れで昼寝をしちまったのだった。


 ……当然その後、夕方頃にテーラに見つかって小言を言われた訳だが。

 今回に限っては仕方がない話だと思いたい。


 ついでに、ソラヒメの逆鱗については後日やんわりと聞いてみたところ……。


『私の甲殻の下です、どことは言いませんが』


 何にせよ事故でも絶対に触れることのない箇所で、ある意味安心させられたのだった。

新作『無能な勇者パーティーに追放されたので、ゼロから辺境スローライフを目指したい〜外れスキル【読解術】を極めたら神々の魔導書を読めるようになったので、習得した創造魔法で開拓無双〜‬‬』も投稿しています。

もしよろしければこちらもお願いします。


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