5話 対概念干渉
今日はあとがきにてお知らせがあります!
「お前らメルニウス並みにしつこいな! お呼びじゃねぇってんだよ!!」
対概念干渉とかいう連中に追われることしばらく。
奴らは交互に攻撃を仕掛けに来ていて、まるで攻撃の手が緩まなかった。
「アハハッ、お兄さん中々やるねぇ! 足場の悪い空中で私たちの追撃が効かないなんて、こんなの初めてだよっ!!」
「そりゃどうもだクソッタレ!!」
俺は赤髪の繰り出す短剣の攻撃を弾きながら、歯を食い縛った。
ここが地上ならいざ知らず、今俺がいるのは飛行し続けるソラヒメの上。
防御はどうにかなりそうだが、反撃にまで手が回らない。
ついでによく動き回るあいつらは真正面からやりあうタイプでもないようで、真っ向勝負でこそ真価を発揮する俺のnearly equalとは相性最悪らしかった。
『シムル、まだ保ちそうですか!?』
「防ぐだけならテンポが掴めてきたところだっ!」
『それなら彼女らの魔力切れを待ちましょう。あんなにも自由に動き回れる魔法なのですから、燃費は良くもないはずです!』
「引きはがせない以上、それも十分ありだな……くっ!」
『グオオオオオオオオ!』
ソラヒメと念話をしている途中、真横からキマイラが突っ込んできた。
その突進はソラヒメが急旋回したことでぎりぎり回避できたが、相性の悪い概念干渉使い二人に加えて、キマイラまで相手にするのは分が悪い。
どうすりゃこいつらを振り切れるかと本格的に考え出した時、雲の切れ間からキマイラへと赤黒い雷撃が走った。
『グオオ!?』
『ドンピシャね!』
「ヴァルハリアか!」
雲の切れ間から飛び出して来たヴァルハリアはそのまま稲妻のブレスを連射して、キマイラを強引に俺たちから引き剥がした。
「先に行けって言っただろ! 背中にテーラとかを乗せてたらいくらお前でも……ん?」
よく見たら、ヴァルハリアの背中にテーラの姿はない。
『大丈夫よ、火の真竜に預けて来たから!』
「火竜は相変わらず荷物持ち枠なのか……」
何か火竜が不憫に思えて来たが、ヴァルハリアが来てくれた今がチャンスだ。
「ヴァルハリア、俺たちの姿を……!」
透明化できるか、と言うより手前。
白髪のミーナとか言う方がまた瞬間移動のように俺の前へと現れ、いつの間にか握っていた黒い金属質の棒切れモドキを振り上げた。
「……あなたは、ここまで」
「チッ! ……うっ、何だよこれ……!?」
俺は棒の一振りを手で受け止めたが、その瞬間に腕から焼け付くような痛みが走った。
同時に体から力が抜け、腕に纏っていたnearly equal:鋼拳の魔力が凄まじい速度で棒に吸い込まれて消失していく。
本能的にマズいと悟り、まだ動かせる右足で瞬時に棒を蹴り上げた。
「……嘘、どうして動け……!?」
「危ねぇ……!」
あの棒が体から離れた途端に痛みと違和感が消え、体が自由になった。
雰囲気からして、メルニウスの持っていた魔力を砕く槍に近いものがあると感じられた。
──対概念干渉の文字通り、概念干渉の能力を殺す武器ってことかよ!
「面倒な武器こさえやがって!!」
反撃で殴りかかろうとした途端、驚愕に目を見開いた白髪が消えたのを確認した俺はヴァルハリアに言った。
「ヴァルハリア、頼む!」
『了解よ!!』
ヴァルハリアは俺の言わんとすることを即座に理解して、俺たちの姿を透明化した。
「あっ、お兄さんズルいぞ! 真面目に戦えーッ!!!」
俺たちの姿を見失った赤髪の方、レイと名乗った奴が声を荒らげた。
──流石に姿が見えなきゃ追って来れないってか。
まあ、目的は時間稼ぎだったしひとまずはこんなもんでいいだろう。
俺たちはそのまま脇目も振らず、先に行ったテーラたちの方へと向かって行った。
***
「……ったく、今日はとんでもない一日だったな」
適当な場所で夜営することになった俺たちは、火のついた薪を囲んで座り込んでいた。
テーラたちともさっき無事に合流できたものの、夜にまた襲われないとも限らない。
妙な緊張感が俺たちを包んでいた。
「話を聞く限りだと、シムルの攻撃が当たらない相手っていうのもかなり異常よね……。バーリッシュの隠し球ってことかしら?」
難しい顔になったテーラに、カレンがぼそりと呟いた。
「……対概念干渉、正直噂だと思ってたよー……」
「カレン?」
おもむろに話し出したカレンに、皆の視線が向いた。
「対概念干渉、バーリッシュから逃げ出した概念干渉使いを狩る概念干渉使い。バーリッシュの軍で聞いた時には、正直冗談だと思っていたけど……」
「実在してたってか。てか、バーリッシュから逃げ出す概念干渉使いっているのか? この王国よりも、バーリッシュの方が概念干渉使いの扱いは上なんだろ?」
イオグレスがそんなことを言っていたと思うが。
「うーんと、事情はバラバラだけど、逃げ出した人は過去に数人いたんだって。そして情報漏洩を嫌ったバーリッシュのお偉いさんが、専門に概念干渉使いを狩る部隊を立ち上げた。……噂だと、こんなところかなって」
「その話だと対概念干渉とやらは既に、過去に何度か概念干渉使いを狩っているということになるが。……そうなれば厄介だぞ、天災級の力すら発揮し得る概念干渉使いをも狩る存在に目をつけられたなどと」
生徒代表の話に、俺は思わず頷いていた。
「全くだ。これから星竜を狩る奴とご対面するかもしれないって時なのに、本当に面倒な連中だな」
しかも星竜であるソラヒメ並みの飛行能力を持つ奴に、音もなく突然背後に現れる奴が手を組んでいるときた。
対概念干渉の呼び名の通り、流石の概念干渉使いでも寝首を掻かれる条件としては十分以上だろう。
「それに奴らの能力、何がどうなってるのか俺にすらさっぱりだった。カレンみたいに鉄に魔力を流し込んでる気配もなければ、イオグレスみたく分かりやすく火や溶岩みたいなのを操るって特徴もなしだ」
「それでは対策のしようもないではないか、もう少し有益な情報はないのか」
「んなもんがあったら、俺が教えて欲しいところだ」
ああいう変則的な手合いは苦手だし、対策ができるもんなら万々歳なんだが。
「……それと、肝心のこれからの話なんだが。あんな奴らに追われてるままだと、肝心のソラヒメの故郷にあいつらを引き込みかねない。だからここは……」
と言いかけた時、竜姿のソラヒメがぐいっと首を向けてきた。
『あなただけ別れて彼女らを迎え撃つと? ……冗談でもそんなことは言わせませんよ?』
目を細めて声音を低くしたソラヒメは、有無を言わせない迫力があった。
どうやら怒っているらしいと判断した俺は、ソラヒメから目を逸らした。
「……うーん、だめだったか?」
『ダメです。故郷も大切ですが、相棒であるあなたも同じくらい大事です。……「今更他人行儀はよせ」とはあなたの言葉ではありませんでしたか?』
「うぐっ……」
『シムルなりに私を気遣っているのも分かりますが、あなたの身に何かあったらと思うと私も故郷には戻れませんので。そのことはしっかりと覚えておいてください』
鼻先を俺の胸元に押し付けてきたソラヒメを撫でながら、俺は「分かった分かった」と返事をした。
……でないと一晩中ソラヒメに説教されそうな雰囲気だった。
『ともかくこうなってしまった以上は、道中で対概念干渉の相手もするしかないでしょう。もしくはヴァルハリアの力で彼女らを撒きながら移動するなどですが……』
ソラヒメがヴァルハリアの方を見ると、ヴァルハリアは胸を張った。
『ええ、そこは任せてくれても良いわよ? アタシの膨大な魔力量をもってすれば、ここにいる全員を透明化しながら神竜樹の渓谷に連れていくことだってできるから。……ただね』
ヴァルハリアは少し言いづらそうにしながら、口を開いた。
『多分全員を透明化している間、アタシはブレスすら出せなくなると思うから。その……』
チラチラと俺を見てくるヴァルハリア。
俺は「?」と首を傾げたが、ソラヒメがため息交じりに言った。
『……ええ、分かっています。シムルをあなたに乗せろと言うのでしょう? ……彼を私以外に乗せるのは業腹ではありますが、今回に限ってはやむなしですね』
「えーとつまり、ヴァルハリアに何かあったら俺が代わりに攻撃しろってか?」
nearly equal:星竜咆哮みたいな攻撃手段で。
『そゆこと〜』
提案をソラヒメに受け入れられたのが嬉しかったのか、ヴァルハリアは上機嫌気味に頭を俺に擦り寄せてきた。
その間、ソラヒメが少しムッとしていたのを見て、皆揃って苦笑したのだった。
活動報告の方でもお知らせしましたが、11/22に本作
「王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者」
のコミカライズ版1巻が発売されます!!
活き活きとした主人公のシムルや可愛いヒロインたち、それに迫力のあるドラゴンなど見所満載の作品となっています!
全国書店での発売はもちろんのこと、電子書籍版や店舗特典もあります!
店舗特典については活動報告にてまとめましたので、是非ご確認ください!
web版や発売中の原作小説と共に、コミカライズ版もよろしくお願いします!!




