4話 性懲りも無く寄ってくる奴らもいるようで
本日コミカライズ版も更新されたのでそちらもお願いします!
「翼が……燃えてやがるのか!?」
『ギャオオオオオオ!?』
『くっ……!』
悲鳴を上げながら焼け落ちてきた翼竜の群れに衝突しないよう、ソラヒメは急旋回をかけた。
両手でソラヒメにしがみつき、後ろからついてきているテーラたちの方を見る。
──よかった、こっちと距離が離れてたこともあって無事みてぇだな……!
と、安堵したのもつかの間。
「余所見たぁいい度胸じゃんか! 数の概念干渉使いのお兄さぁぁぁん!」
翼竜たちが降ってきたのに続いて、俺たちの目の前に巨大な何かが雲に紛れて飛来してきた。
『ふんっ!』
ソラヒメがブレスで雲を払うと、そこには漆黒の翼を持った獣……これまでもう何度も見てきたキマイラの姿があった。
それも一体ではなく二体、騎乗者を乗せていやがった。
「……チッ、性懲りも無く! またバーリッシュの連中か!!」
「これが他にどう見えるのさ? ねえ??」
キマイラの背に乗る赤髪の少女が狂犬めいた笑みを浮かべて吠え、キマイラを駆って飛来してくる。
しかし内通者だったメルニウスを倒したのにまだキマイラが王都の近くに入り込めるってのは、妙に引っかかるところだった。
『シムル、どうしますか?』
そう聞いてきたソラヒメに、俺は思考を切り上げて答えた。
「今はテーラたちもいるからな、時間稼ぎ一択だ! ──ヴァルハリア、お前ら先行ってろ! 俺たちも後から追いかける!!」
『分かったわ!』
ソラヒメとヴァルハリアが二体のキマイラにブレスを放った刹那、俺とソラヒメは荷物を放り投げて敵の方へ。
俺の投げた荷物をキャッチした火竜とヴァルハリアたちは、雲の中まで上昇して行った。
「へえ、一騎で私たちを相手にしようなんていい度胸じゃん」
「抜かせ! テメェら次から次へと寄って来やがって、今度は何の用だ!!」
「用って、見て分かんない?」
少女は曲芸じみた動きでキマイラの背から跳躍し、あろうことかソラヒメの背にいる俺へと接近して来た。
それもただ跳ね飛んだだけじゃなく、自由自在に浮遊しているような動きだった。
「何だありゃ、魔法か!?」
「さぁて、どうだろうねぇ!!」
少女が短剣を抜き放ったのと同時、俺も魔法陣を展開。
短剣の硬度などを解析し、両腕に付与する。
「真正面から突っ込んで来るとはいい度胸だ! nearly equal:鋼拳!」
「ははっ!」
俺の拳と少女の短剣が交差し、金属と金属のかち合う甲高い音が空いっぱいにこだまする。
その須臾、少女は俺に顔を近づけ熱っぽく耳元で囁いた。
「お兄さんのその首、私たちがもらうから」
「チッ!」
俺は少女を突き飛ばし、宙に放り出した。
しかし次の瞬間、少女は如何なる原理か宙に静止した。
「またどういうこった?」
俺は即座にnearly equalの解析能力で少女の魔力を探る。
……その解析結果を見て、俺は苦虫を纏めて噛み潰した気分になった。
【?????】
要素:解析不能
属性:解析不能
魔法:概念干渉
総合評価:解析不能
「お前も概念干渉使いか……! 次から次へとバーリッシュは随分と抱えているらしいな!」
「……そういう国だということは、お前もよく知ってる筈」
「……ッ!?」
背後からした凍える声音に、俺は考えるより先に回し蹴りを放った。
馬鹿な、ここは空のド真ん中でソラヒメの上だぞ。
そんな思いが体の動きに追いついてくる状態だった。
「へぇ、速いね。噂通りの反応速度」
背後にいたのは白い髪の少女で、もう片方のキマイラに乗っていた方だった。
少女は俺へと長剣を振り上げていたが、あまり鍛えている様子もなく、俺の回し蹴りが炸裂して長剣を叩き落とす方が数瞬早いのが既に分かった……が。
「とんだ化け物だね、数の概念干渉使い」
「……ッ!?」
俺の蹴りが炸裂するほんの手前、少女の体がかき消えた。
代わりに白髪の少女は、赤髪の乗るキマイラの上に立っていた。
「オイオイ、流石に意味分からねぇぞ……!?」
『魔法を詠唱すら聞こえませんでしたね……。彼女らも相当な手練れでしょう』
「んなモン見りゃ分かる! nearly equal!!」
俺は白髪の方もnearly equalの解析能力で調べにかかった。
……いや、調べるまでもなく、白髪の方の魔法体系も大体予想はついていた。
それでも……だ。
「……やっぱり白髪の方も概念干渉使いだ、クソッタレ」
まあ、あんな手品みたいな瞬間移動、概念干渉使い以外にありえないとは思っていたが。
『バーリッシュの概念干渉使いが同時に二人も……!?』
驚愕を声にするソラヒメを他所に、赤髪の方がありゃりゃと苦笑した。
「あちゃー、もうばれちったか。数の概念干渉ってホント何なんだろうね?」
「……イオグレスの話も統合すれば、自己強化と敵戦力の解析」
「そんなかけ離れた二つのことを、本当に一つの概念干渉能力でこなしてんの? はぁー、ますます意味不明、概念干渉使いの私が言うんだから尚更ね」
目の前で軽口を叩く赤髪と白髪。
俺はその間、ソラヒメに念話を送っていた。
「ソラヒメ、奴らから距離を取れるか?」
『さしもの貴方も、ここで突っ込むような無謀はなしですか』
「このまま突っ込んでもまた白髪に後ろに回り込まれて、今度は正面の赤髪と挟まれる。……それに俺たちの目的はあくまで時間稼ぎだ。奴ら二人を最後までご丁寧に相手してやる道理もねぇしな」
『言えていますね。猛々しくも目的を見失わないあたり、貴方も成長しましたね』
「そりゃどうもだ……くっ!」
突然キマイラがかましてきた突撃飛行を、ソラヒメは真上に飛んで回避した。
地上戦では化け物じみた筋力で暴れまわるキマイラも、飛行能力の方は滅茶苦茶高いってほどでもない。
ソラヒメや生徒代表のカマイタチに比べれば、まだ可愛げがある。
「ソラヒメ合わせろ! ──nearly equal:星竜咆哮!」
『了解しました!』
二筋の極大雷撃が、二人の概念干渉使いに殺到する。
しかし白髪が目を見開いた刹那、奴らはキマイラごと真横に逸れた。
文字通りの瞬間移動のような芸当。
なるほど、キマイラごと瞬間移動できるってことはあの白髪の力でキマイラを王都近くまで連れてきたって訳か。
ソラヒメはブレスを放った直後、大きく羽ばたいて言った。
『このままヴァルハリアたちを追いかけます!!』
「逃げないでよ、いけずー!」
赤髪の少女がキマイラの上から跳ね飛び、またもや空を浮遊して迫ってきた。
その速さはソラヒメの飛行速度と大差なく、俺は思わず舌打ちした。
「クソッ、お前ら一体何なんだ! またどうして俺たちを襲う!!」
「そりゃお兄さんがユグドラシル王国における最大の障害の一つになるって、バーリッシュのお偉いさんが判断したからだよっ! ……それにさ」
赤髪は狂犬めいた笑みで、俺に告げた。
「お兄さんのことをよく調べていくうちに、何やら面白そうなことが分かってさ? 身内の恥はとっとと身内で排除しろって、そういう話にもなってきたワケよ?」
「……身内の恥だぁ?」
俺はその言葉が嫌に刺さった気になって、思わず言い返した。
「俺の親父はもう死んだ! 身内なんざ、もうこの世にいねーってんだよ!!」
「あらら、短絡的なことで」
赤髪の奴が一体何が言いたいのか分からないが、その薄ら笑いが妙に癪に障った。
「……まあ、別に貴方はもう知らなくてもいいこと」
「くそ、またか……!」
白髪の方が突然目の前に現れて、俺は拳を叩き込みにかかる。
それでも白髪はまた姿を消し、気が付いた時にはまたキマイラの背へ。
「そうそう、気にしなくてもいいこと。だってお兄さんは今から私たち……対概念干渉こと、このレイとミーナに潰されちゃうんだからさぁ!」
「対概念干渉……? ふざけたこと抜かしやがって、お前らだって概念干渉使いだろうが!!」
『シムル、速度を上げます!』
「おう、振り切っちまえ!!」
ソラヒメはより加速していくが、対概念干渉とかいう連中も負けじと食らいついてくる。
突然現れた二人の概念干渉使いを前に、俺とソラヒメの戦いはまだしばらくかかりそうだった。
余談ですが現在連載中の「神獣使い」の方も書籍化決定しました!
そちらも是非見てみてください!




