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3話 ソラヒメの故郷へ向けて

「……んで、いつも通りの面子が集まった訳だが」


 早朝、竜舎の前に集まったテーラ、カレン、生徒代表パツキンにソラヒメたち竜といったいつもの面々を眺めながら、俺はテーラが差し出している物を見つめていた。


「なんだよそれ」


「いいから早く受け取りなさいよっ! 

 結構重たいんだから!!!」


 顔を赤くして腕をプルプルと震わせるテーラは、巨大な背嚢を俺に差し出していた。

 テーラの身長からして随分と大きい背嚢に見える……じゃねぇよ。


「お前、それ俺に持って行けってか!?

 一体何が入ってんだか……やっぱそこそこ重いな!」


 テーラは俺に背嚢を渡したことで重さから解放され、すっきりした表情になった。


「それ、旅の間の水とか食料とか色々入っているから。

 無くさないでね」


「食料? 

 この前の雪山でもあるまいしその辺で狩ればいいだろ、セプト村にもいたデカい猪とかその辺を適当に。

 水だって川が綺麗なら別に……」


 と、デカい背嚢を背負いながら言ったら、テーラから猛抗議が飛んできた。


「そんな適当なことやってお腹壊さないのはアンタだけよ!! 

 ……全く、普通ドラゴンライダーでも何でも、遠征する時にはこうして水や食料くらい持っていくのよ。

 水や食料の現地調達って手間だし、中には毒を持ってるのもあるから」


「ああ、特にイオスダケとルオカダケのように、間違えて食べれば食中毒では済まないものもあるからな。

 彼女の言う通りだとも」


 テーラの言葉に同意する生徒代表パツキン

 ……なるほど、イオスダケとルオカダケってやっぱ普通は間違えて食ったらマズいもんなんだな。

 俺も小さい頃は腹壊して散々な目にあった……気がしなくもない。


「ま、言いたいことは大体分かった。

 荷物も少ないし、俺が持って行ってやるよ。

 ソラヒメもこの程度なら問題ないだろうし、な?」


『ええ、構いません』


 俺はひょいっとソラヒメの上に乗り、テーラとカレンはヴァルハリアの背へ。

 生徒代表は翼竜カマイタチの上で、火竜カエデの方は何やら背に荷物を括り付けられていた。

 お前、俺と同じで今回は荷物持ちか……というか火竜に乗り切らなかった物を俺に持たせやがったな、テーラの奴。


『さて、そろそろ行きましょうか。

 ──ヴァルハリア!』


『はいはい、分かっていますともお姉様』


 ヴァルハリアが何かを唱えた途端、俺たちの姿が透明化していく。

 一応、星竜がローナスにいることは秘密といえば秘密扱いなので、王都から飛び立つ時はこうやって姿を隠して行けば安心って寸法だ。


『これで問題ない筈よ』


『ではシムル、飛び立ちますよ!』


「おうよ!」


 ソラヒメは大きく翼を広げ、一気に飛び立った。

 ローナスがみるみるうちに小さくなっていき、俺たちはあっという間に空の中にいた。

 それに後から、ヴァルハリアたちも続いてくる。


 そしていくらか王都から離れてから、ヴァルハリアは透明化の魔法を解いた。


「天気も悪くないし、この分なら問題なくソラヒメの故郷まで行けそうだな」


『いえ、そうでもないかと』


「どういうこった?」


 俺とソラヒメは普段通り念話に切り替え、話を続ける。


『神竜樹の渓谷は、その周囲を嵐が守っているのです。

 謂わば、風の要塞で侵入者を拒んでいる形になります』


「……ってなると、お前も中に入れなくないか?」


『いえ、しっかりと陸・空から内部に入る道が少数ながら存在します。

 今回はシムル以外にテーラたちも居ますし、あまり乱暴な飛び方をせずに地下から入った方がいいでしょうね』


「ま、そりゃそうだ」


 神竜樹の渓谷……か。

 ソラヒメの故郷についてはあまり聞いたこともなかったけど、まあ行って見てみりゃ大体分かるか。


「……というかよ、今更ながら気になったんだが。

 お前、どうして故郷を出てセプト村近くに飛んできたんだ?

 たまたまか?」


『いえ、たまたまというか、そうでもなかったのですが……』


 ソラヒメは濁した物言いだったが、しばらくして『そうですね、言うならば……』と言葉を続けた。


『人里の近くを飛んでいた、というのもありますし、何より強い相棒を探していた……のかもしれません』


「どういうこった」


『星竜にも、人間と同じく一人前になる条件がいくつかあるのですよ。

 その中の一つに、人の相棒を持って世界を巡り、見識を広めよ……といった趣旨のものがあるのです。

 いかに強大な力を持った星竜と言え、神竜樹の渓谷でずっと暮らす箱入りでは困ります。

 何より私は竜王ですから、早く一人前になりたいと焦っていた時期もありましたから』


「お前もそういうこと、考えてた時期があったんだな」


 人間と比べてもソラヒメは結構落ち着いている方だと思うんだが、星竜の中だとそうでもないんだろうか。


『とはいえシムルを見ているうちに、私以上の半人前も居るものなのだと分かったのであまり考えなくなりましたが……』


「オイコラ」


『ふふっ、冗談ですよ。

 しかし冗談を軽く言えるようになったのは、私の進歩の一つかもしれませんね』


「あー、そいつはあるかもしれねーな。

 ……お前の冗談は冗談って分かりにくいのが難点だが」


 ここだけの話、ソラヒメと相棒同士になったばかりの時は「こんな頭の固いやつとやっていけんのかなぁ」とか思っていたりもしたもんだ。

 それが今や、王都に行ったと思いきやコイツの故郷にまで行くことになろうとは。

 世の中何があるか分かったもんじゃ……。


『シムル、一応掴まっていてください』


「うん? 何かあったか……そゆことか」


 俺はソラヒメの見つめる雲の切れ間に視線を移し、ソラヒメの言いたいことを理解した。

 雲の切れ間からは、十体前後の翼竜の群れが見えていて、何体かはこっちの方をじっと見つめていた。


「野生の翼竜って、ああやって群れてるんだな」


『よく見れば、群れの真ん中に小柄な翼竜がいますね。

 きっと子供でしょう。

 親達がこちらを警戒するのも、納得です』


 ソラヒメの言うように、群れの中心には小さな翼竜が固まっていた。

 小さな翼竜は『キューィ!』と吠えて俺たちの方に飛んで来ようとしたが、大人の翼竜の口先でコツンと頭を叩かれていた。


「いきなり襲って来るってのはなさそうだな」


『こちらは星竜二体と真竜二体ですからね。

 積極的に攻撃するほど、ワイバーンも愚かではないでしょう。

 それにあちらからしても、私たちと遭遇したのはアクシデントのようなものだと思いますから』


 しばらくしたら翼竜達は雲の上に飛んでいき、やがて姿は見えなくなっていった。

 ……まあ、そんなだからだろうか。


「ソラヒメ。何か前の方の雲、暗くないか?」


『そうですね、妙な感覚が……なっ!?』


 目の前の雲が裂けて翼竜たちが落ちて来た時には、俺もソラヒメもまとめて変な声を出しちまったのだ。


ここ1ヶ月ほど新作を書いてたので少々更新が遅くなりました…… (汗)

ドラゴンライダーもまた更新を再開していきたいと思います。

そしてここ1ヶ月ほどランキングに載っている新作【神獣使い】の方もお願いします!

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