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23話 割り込みの加勢で危機一髪だった

2巻が3/10に発売しました!

また、コミカライズも決定致しました!

読者の皆様、いつもありがとうございます!

「何故だ……何故だいシムル君、何故君は僕らの側に、支配する側に立たない!!

それだけの力が君にはあるのに!!」


イオグレスは口の端から血を垂れ流しながらも、その声を荒らげる。

シムルもまた、肩で息をしながらその口を開く。


「……なら逆に、テメェこそ、どうしてこの国を潰してぇんだ?」


「それは当然……これが、親をこの国に奪われた僕の復讐だからだ……!!」


「……何だと?」


シムルが思わず顔を大きく上げたことで、イオグレスは憎悪の凶相を浮かべる。


「そうか……今までの君の態度を、言動を見てよく分かった。

君は……概念干渉ノーネームだからと言って、本当の意味での迫害を受けたことがないのだろう!

……僕は元々……この国の人間だった……!」


「……そりゃまたどういうことだ」


話が見えないシムルに、イオグレスは血を吐くように続ける。


「文字通りさ!

僕は生まれながらにバーリッシュの人間だった訳じゃない。

僕はただ、純粋に……この国に復讐する為にバーリッシュに行ったのさ!

そして……僕のような思いをしている同胞達を救うために、概念干渉ノーネーム使い達をユグドラシル王国からバーリッシュへと逃がす役割にも就いた!

だと言うのに、君は……君は……!!」


理解できないと言わんばかりに、イオグレスは右腕を横に振る。


「どうして分からない!

この力は祈りと願いなんだよ、僕らの両親の!!

僕らがこうあって欲しい、こんな世界でも不自由なく、自由に生きて欲しいという願いの結晶だ!!

その力をそうやって……曲がりなりにもこの国のために使うことは、間違いなく君にとってのマイナスだ!

自分が何をしているのかを、考え直せ!!

君だって、概念干渉ノーネームのその力を疎ましく思われたことがあるだろう!

この国には……そんな連中が多いんだぞ!!」


イオグレスの言葉は、まぁまぁ筋が通っている部分があるとシムルは感じていた。

確かに自分達、概念干渉ノーネーム使いはそこそこ忌諱されてはいる。


――でもな。


「あぁそうかよクソッたれ。

テメェ、いい加減にしやがれ」


シムルはイオグレスを適当にあしらうだけだった。

ここまで軽く流されるとは思っていなかったらしいイオグレスは、逆にたじろぐ。


「いいかよく聞け。

俺はな、そもそもこの国のことなんざ……言っちまえばどうだっていいっての。

そんな大義名分の為に、命がけでテメェとやり合ってるんじゃねぇ。

さっきも言ったけど、テメェのお陰で俺だけじゃなく相棒達が迷惑してやがるんだよ。

だからテメェの好きにはされたくねぇし、カレンを道具みたいに扱った連中の良いようになるのが癪ってだけだ」


「それに」と、シムルは呼吸を落ち着け、イオグレスに向かって構える。


「この力が……もし本当に親父がくれたもんならな。

俺は親父が言ってたみてぇに、こんな世界でも好きなように、それでいて強く生きるだけだっての!!」


「……そうか。

ならば君とは……真の意味で一生分かり合えないだろう!」


イオグレスは言葉による説得を諦め、既に数度目になる魔法陣の展開を行う。

先ほどと変わらず常識外れな量と質の魔力を感じながらも……シムルはそれでも臆さない。


「こっちこそ、テメェみたいな野郎の考えなんか理解したくねぇっての!!」


「消し飛べ!!」


イオグレスの放った溶岩の一撃は、シムルを飲み込まんと大波の様にシムルへと差し迫る。

シムルがその波を回避しようとした時。


『シムル、伏せて下さい!!』


聞き慣れたその声と共に、落雷が溶撃を裂き散らす!


『シムル、大丈夫ですか!?』


事なきを得たシムルは、イオグレスへと落雷を落とした張本人……上空でホバリング飛行をするソラヒメを確認する。


「おう、大丈夫だ!

助かったぜ!!

……それにしても、よく俺の場所が分かったな。

これだけ魔力の濃度が濃いと、上手くルーンも機能しねぇと思ったんだが……」


釈然としないシムルに、ソラヒメが……いや、ソラヒメ達が答える。


『あぁ、それはですね』


「おにーちゃんが持っている電話が、おにーちゃんのいる位置を教えてくれたんだよー!

自分が作った物がどこにあるのか、私には分かるから!」


ソラヒメの背からひょこりと背を覗かせるカレンに、シムルは目を丸くする。


「カレン、お前も来たのか!?」


「うん!

おにーちゃんを助けにね!!」


「私もいるわよ!!」


「おっ、お前もかよ……」


胸を張るカレンの後ろで、何故かふふん胸を張るのはテーラだ。

それを見たシムルは、何とも言えない脱力感に襲われた。


――お前ら……こんな時でも本ッ当にいつも通りだな!


傍から見れば平和な光景だが、それも長くは続かない。


「meltォォォォォォッ downッッッ!!」


落雷が落ちて爆炎が立ち込めるその中から、溶岩の滝が空に向かって遡上する。

自身に向かう溶岩に向けて、ソラヒメはブレスを放ち、それを相殺する。

溶岩の滝が重力に従い地へと流れるが、その滝の中からイオグレスが瞳をギラつかせながら現れる。


「カレン……!

全く君という子は、バーリッシュに対する恩を忘れたのかい……!?」


天に向かって顔をしかめるイオグレスに、カレンは気後れしたような表情になった。

そして後ろにいるテーラに張り付いて、小さく……それでも地上にいるシムル達に聞こえるくらいの声で、こう答えた。


「だって……おにーちゃんやおねーちゃん達は、イオグレス達と違ってぶったりしないし、お話だって、ちゃんとしてくれるんだもん」


聞いたカレンの弁を聞いたイオグレスは、一層声を荒げる。


「それは違う!

そもそも、あれらは命令に従わなかった君が……!!」


「オイコラァ……!!」


会話に割り込んだのは、聞くだけで背筋が凍り付くような、低い怒声。


「テメェ、ガキに命令だの何だの……!

舐めたことばっかりやってるんじゃねーぞ!!」


「寄るなッ!」


シムルはスタミナの切れかけた脚を酷使して全力で駆けるが、イオグレスの発動した魔法によって足場が溶解し始め、思うようにイオグレスに近寄れない。

だがしかし、シムルの言葉は止まらない。


「テメェ、さっき迫害がどうとか言ってたけど、そりゃあ多分だが……テメェの歳からして、カレンと同じような歳の頃の話じゃねーのか!

どうなんだ!!」


「それは……」と言い淀むイオグレスに、シムルは畳み掛けるように怒鳴り散らす。


「いいかよく聞け!

テメェもカレンと同じような歳に、俺と同じく一生消えねぇ経験をしちまったんだろうよ!

でもならなァ!!

似たような境遇のガキには……せめて優しくしてやろうってのが情ってもんじゃねーのか!!!」


イオグレスは目を伏せ、拳を握りしめる。


「あぁ……確かにそうです。

僕も君の言う通り、カレンと同じような歳の頃に迫害され、バーリッシュに逃れた。

……でも、カレンに厳しくしたのは彼女が僕と同じような境遇に陥って欲しくなかったから、力をつけて欲しかったからだ!」


イオグレスの言葉が言い訳じみていると感じたシムルの怒りは、遂に有頂天に達した。


「だからそれが歪んでやがるんだよテメェは!!

力を付けさせるためだの何だの体の良いことばっかり抜かす割に、カレンは結局俺達の前に……王都を襲いに現れたんだぞ!!

テメェらバーリッシュにいいようにされてな!!

結局テメェらがカレンにしたのはなぁ……根本的にテメェを迫害したとかいう連中と何ら変わらねぇ!!

ガキを嫌がらせてるって一点においちゃあな!!!」


「しかし……それでもッ!!」


イオグレスは魔法陣を展開し、シムルへと照準を定める。

シムルに加勢しようとソラヒメが雷撃を溜め始めるのだが……そんな一触即発の状況下に、二発のブレスが割り込んだ。


火竜カエデ

翼竜カマイタチ!!」


『『グォォォォォォォ!!!』』


二体の真竜から放たれ、自身の両脇から接近するブレスに対し、イオグレスはそれらへと照準を変更する。


「ハァ!」


炎が溶岩と爆ぜ、風を散らしながら溶岩もまた地に落ちる。

ブレスを相殺したイオグレスは、二体の真竜の内、翼竜に跨る者を視界に入れると、苛立たしそうに顔を歪めた。


「次から次へと、本当に鬱陶しいですねぇ……!

それに真竜を二頭従えているドラゴンライダー……まさか、あのアルス・テルドロッテまで現れようとは……!!」


「ほう、私を知っているのか。

そういう貴様は……成る程。

熱を操る紅髪、バーリッシュ帝国の概念干渉ノーネーム使い、melt downか。

ならば今回の一件の元凶は……貴様だな?」


颯爽と現れた紅いマントを見に纏う女騎士、アルスはイオグレスに突き付けるようにして剣を引き抜くのだった。

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