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22話 魔力が尽きてもやりようはある

本日3/10に2巻が発売した本作

【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】

ですが……なんと、コミカライズ企画が進行中です!

読者の皆様、ありがとうございます!!

「クッ……!?」


イオグレスは爆炎の中から飛び退きつつも、冷静にシムルを分析する。


――シムル君の父親からして、彼の能力は間違いなく「数」に関するもの。

しかし、それが報告にあった身体能力の強化や攻撃の反射、相殺にどう関係する……?


「まだまだいくぜぇ!」


「……ッ!?」


氷竜の脚力を爆発させ、驚異的なその脚力で火口を飛び越えて迫り来るシムルに、イオグレスは更にその場から後退する。

しかし、イオグレスも逃げるだけでなく、魔法陣を展開しながらシムルへと狙いを定める。


「……侮るなよ、数の概念干渉ノーネーム

melt down:溶撃弾ファイヤーブレット!」


イオグレスは火口付近の空間に集めた濃密な魔力を溶岩と共に掌付近に集約させ、散弾のように乱射する。

数十発のそれを確認したシムルは、足下の地盤に両腕を強引に差し込む。


「おらよっ!」


そしてそのまま……それを持ち上げ、急造の盾とする!

重厚な地盤の盾は、イオグレスの放った凶弾を全て受けきった。

また、その重々しい盾を。


「潰れちまえッ!」


シムルはイオグレスへと投げつけ、防御から攻めへと転じる!


「くそっ!

なんてデタラメなんだっ!!」


イオグレスは驚愕に顔を歪めながら、シムルの放った岩塊を溶撃によって溶かし尽す。


――彼の戦闘スタイルは体術によるものと聞いていましたが……何が体術だ!

あれではまるで……!


「オイオイ、さっきから避けてばっかりじゃねーか!

テメェがふっかけてきやがった喧嘩くらい、正々堂々と戦いやがれ!」


――本物の竜みたいじゃないか!

身体能力、反応速度、魔力量……どれをとってもバカげているとしか形容できない!!

そもそも……何故あんなにボロボロになってもこんなにも動ける!?

魔力の残量も心許ない筈なのに、何故僕の全力の一撃をあぁも容易くいなしきれる!?


イオグレスは予想を遙かに上回るシムルの戦いぶりに、ただひたすら圧倒されていた。


***


「オラオラオラオラ!

避けてんじゃねーぞ!!」


「グウッ……!?」


シムルは鬼神の如き連撃による急戦をイオグレスに仕掛けるが、それには理由があった。


――クソッ、もう体中が悲鳴を上げていやがるぜ……!

氷竜だけならまだしもそれに加えて概念干渉ノーネーム使いの相手とか……今日は厄日か!?


シムルの体力や魔力の残量から言えば、彼はもう長くは動けない。

連戦による疲労の蓄積は最早シムルと言えど、無視できない領域にまで達していたのだ。

それでも……万全でないにも関わらず、イオグレスというバーリッシュ帝国の切り札の一角を一方的に押し込めるシムルの強さは、異常と言う他ないだろう。


***


「見切った!」


「チッ!!」


イオグレスはシムルの回し蹴りを紙一重で躱し、地面に転がりこむ。

転がって跳ね起きたところで、イオグレスは魔法陣を展開する。


「ならば……こちらも反撃といきましょうか!

melt down:溶岩池バーニングアビス!」


イオグレスは魔力を惜しげなく使い、シムルの足元に十メートルにも及ぶ巨大な魔法陣を発生させ、その一帯を溶解させにかかる。

だが、それでもシムルを倒すにはまだ足りない。


「へっ!

この程度がどうしたってんだよ!!」


シムルは何度か大きく跳躍し、足場が溶岩の池に沈み切る前に安全圏へと離脱する。


「やはり、一筋縄ではいきませんか。

……カレンを倒しただけのことはありますね」


イオグレスは大きく息を吐いて、肩の力をストンと抜いた。

シムルは距離を取りながら、戦闘行為を停止したイオグレスを訝しむように見据える。


「……成る程。

確かに君は強い。

ですが……それだけの力を、君はどのようにして得たのですか?」


藪から棒とも言える問いかけに、シムルは「……はぁ?」と反応する。


「えーっと、どのようにっつーのは……鍛え方か?

まぁ、教えたところでお前みてーなひょろい奴には無理だろうけどな」


どちらかと言えばやせ型のイオグレスには、シムルの様に野山を駆け回るのは難しいだろう。

しかしながら、イオグレスはそうではないと言いたげに頭を横に振る。


「いえ、僕が言っているのはそう言うことではなく、どれだけの執念によって君はそれだけの実力を身に着けたのか、ということです」


シムルは「あぁ、そういうことか」と理解を示す。


「執念っつーか……まぁ、力が欲しかったからだ。

俺が目指す背中を追いかけて……な。

……そういうお前はどうなんだよ?」


「僕ですか?

僕も……力が欲しかった。

だから己を鍛え上げてきました。

……失礼、愚問でしたね」


「いやいや、意味はあっただろ。

……少なくとも、お前がこうやって時間を稼いで魔法発動の準備をするくらいには、な」


己の目論見がシムルには筒抜けだったと知ったイオグレスは、小さくたじろぐ。


「……ばればれでしたか。

ですが……それが分かっていながら、どうして君は僕の話を聞いたのですか?」


「さぁな」


そうシムルは口では軽く言うものの、実際にはシムルにも立ち止まる必要があったのだ。

――俺の方も、少し休んで体が楽になったしな。


「そうですか……それでは、そろそろ君を仕留めるとしましょう!」


「やれるもんならやってみろよッ!!」


イオグレスは体内で圧縮した魔力を一気に解放し、自身の正面に魔法陣を展開する。

魔力の密度は……これまでの魔法の比ではなかった。

それを確認したシムルもまた、回避を捨ててなけなしの魔力で魔法陣を展開する。

互いの殺気が空間を侵食するかのような数秒ののち


「nearly equal!」「melt down!」


両者、同時にこの世界の理を外れた規格外の魔法を発動し……共に解き放つ!


竜咆哮バーストォッ!!」「溶撃ファイヤーァァ!!」


氷結の咆哮と紅い溶撃の拮抗によって、大気が、大地が、空間が震える。

その衝突と共に大量の水蒸気が発生するが、両者の魔法で発生した衝撃波によって、水蒸気は発生しては掻き消えてを繰り返す。


「ハァァァァァァァァァァ!!」


イオグレスは全力を以ってシムルを仕留めんとする。


イオグレスはこの時点で、勝ちを確信していた。

何故ならシムルから感じられる魔力は、最早後数回しか魔法陣を展開できないほどに微弱になっていたからだ。


――そうだ。

どれだけ身体能力を向上させようとも、その能力がそれだけ優れていようとも……彼には魔力量と言う名の避けられないタイムリミットがある!

それに比べて、僕の魔力は実質的に無尽蔵……こうして彼をジリ貧にさせれば、勝利の美酒は必然的に僕が味わうことになる!


その頬に笑みを浮かべながら、イオグレスが自身の絶対優位を確信したその瞬間。


「悪いな。

正面からの真っ向勝負なら……誰が相手でも俺の勝ちだぜッ!!」


シムルのニヤリとした笑みに、イオグレスは自身の顔が凍り付くのを感じた。


「nearly equal!!」


シムルは魔法陣を二重展開し、イオグレスの放っている魔法について、魔力量や運動エネルギーなどの、「攻撃力」になりうるものだけを解析スキャン

その解析スキャンした値より少し大きな値、すなわち近似値を、自らの竜咆哮バーストに上乗せする!


シムルのnearly equalが「あらゆる面で近似値とは言え、相手(たいしょう)よりも大きな値を取れる」と言う時点で、シムルが正面からの撃ち合いで負けることはない。


それでも……シムルは今この場で確実にイオグレスを押し切らんと、魔法陣を更に……三重展開する!

――ここまできて、ケチケチやってられるかってんだよ!


「今ここで!

魔力を全部使い切ってやらァ!!

nearly equal:加速ブーーースターーーァァァァァァァァァ!!! 竜咆哮バーーーストーーーォォォォォォォォォォ!!」


一重目の魔法陣によって竜咆哮バーストを発動。

二重目の魔法陣でイオグレスの攻撃力を上回る威力を竜咆哮に付与。

三重目の加速によってシムルは竜咆哮バーストを強化し……絶対破壊の一撃をイオグレスへと叩き込む!!


「グウッ!?

まだこんな魔力が残っていたとは!?

……いや違う、彼の概念干渉ノーネームは……発動した後、彼自身の魔力量に依存しないのか!?」


魔法とは基本的に、発動者の魔力量によって魔法の威力などが絶対的に決まってしまうものだ。

しかしシムルの概念干渉ノーネームは、その魔法の常識にすら当てはまらない……などというバカげているとしか言えない結論に達したイオグレスは、呆けた表情を一瞬だけ晒すが、そのすぐ後に「やられるものか!」と自身の手前に二つ目の魔法陣を展開してそこから溶岩の盾を生み出す。

生み出された溶岩の盾は数メートルもの大きさであり、並みの竜のブレスになら容易に耐えうるものであったが……シムルの一撃の前では、ないよりはマシといった程度の役割しかない。


「食らいやがれェェェェェェェェェ!!!」


「やられるかァァァァァァァ!!!」


シムルの氷結の一撃がイオグレスの溶撃ファイヤーを打ち砕き、イオグレスの盾に突き刺さる。

その圧倒的な温度差によって、攻撃の接触面から水蒸気爆発にも似たものが発生し……破滅的な爆発音と共に、盾が爆ぜた。


「くっ……グァァァァァァァァ!!!」


世界が、空間が、感覚が白で埋め尽くされる。

イオグレスは溶岩の盾によって攻撃の直撃は免れたものの、衝撃によって何度も地面をバウンドして岩盤に叩きつけられる。

しかしながら、自身の体の痛みと共に……シムルの魔力が完全に枯渇するのをイオグレスは感じた。

そしてイオグレスは内心ほくそ笑む。


――勝った!

これで彼はもう魔法は使えまい!

体を強化することも、攻撃を相殺することもできない!!

魔法が使えない魔法使いなど、最早木偶同然……!


「何ボケっとしてんだァ!!」


「何だと!?」


イオグレスは白い煙の中からシムルが現れたのを確認して、急ぎ立ち上がる。

何と、水蒸気に紛れてシムルがイオグレスに接近していたのだ。


イオグレスが魔法を発動しようと構えようとした時には、既にシムルの拳が全てを支配する間合いに入っていた。

イオグレスの予想通り、シムルは魔力切れによって竜骨格ドラゴスケルトンを解除していたが……魔法による戦闘補助は、最早必要ない。


「この距離なら……逃がさねぇ!!」


得意の近接格闘インファイトによって、シムルは勝負をかける!


シムルは左足を踏み込み、地面に大きくヒビを入れる。

その勢いのまま、イオグレスにアッパーを叩き込む!


「グハァッ!?」


両腕のガードの上から顎を撃ち抜かれたイオグレスはたたらを踏むが、イオグレスも軍人の端くれ。

決してその場には崩れ落ちない。

両腕を使って体を守りながら、魔法を発動してなんとか抵抗しようとするものの。


「させるかァ!!!」


シムルの右拳がイオグレスの腹を捉え、イオグレスの体が沈んだところでシムルは跳躍し、肘でその背中に一撃を叩き込む!


「ゲホッ……!!」


イオグレスの肺から空気が絞り出され、内臓にヒビが入ったと錯覚する程の痛みと共に血反吐が口から吐き出される。


イオグレスが魔法を発動させようとするたび、シムルの容赦のない一撃がイオグレスの意識を刈り取らんとし、魔法の発動がキャンセルされる。

腹部、みぞおち、こめかみ、のどぼとけ……魔力を失ったシムルもまた、必死に自身の肉体技でイオグレスを仕留めにかかる。


それが暫く続き、シムルのスタミナが遂に底を突きかけた頃。


「ウ……ウォォォォォォォォォ!!!」


イオグレスは、喉が張り裂けんばかりの絶叫を轟かせる。


「こいつまだ意識が……チッ!?」


シムルの拳打に耐え切ったイオグレスは、シムルの生んだ一瞬の隙に魔法を発動する。

シムルが数メートル後退したその直後、シムルいた場所の直下から溶岩の柱が吹き出した。

早く3章を最後まで書き上げねば(使命感)

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