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20話 氷竜が四体も現れたんだが

早く3章を終わらせなきゃ(使命感)

あ、2巻作業中です

「グッ……いってぇな……」


シムルは自分の頭をさすりながら起き上がる。

――触った感じ、たんこぶにはなっちゃいねーな。


「ここは……どこだ?」


あたりを見回すと、薄暗い洞窟のようだった。

しかし、シムルはふいに、自分の寝そべっている場所だけが明るくなっていることに気がつく。

シムルが洞窟の天井を見上げると、そこには雪で埋まったらしい大穴が開いていた。


「……そうだった、思い出したぜ。

俺、確かあそこに飛び込んだんだよな」


そう、シムルは雪崩に巻き込まれかけたその時、雪にまみれながらも氷竜が這い出てきた穴に向かって飛び込んでいたのだ。

それによって彼は、こうして地下の洞窟に落下し……今に至る。


「テーラ達は……まぁ飛んでたから大丈夫か。

問題は俺だ俺。

どうやってこの洞窟から出るか、なんだが……」


自分が落ちてきた穴は雪で埋まっている上、高さは数メートルもありそうなことから、登ることもかなり難しいとシムルは感じた。

ならばこの出口も分からない洞穴を彷徨うのか、という話なのだが。


「まぁ……そうするしかねーか。

ただちょっと気になるのは……」


――何でこの洞窟はこんなに魔力が濃いんだ? お陰でソラヒメとの念話もうまく繋がらねぇや。


そうして考察を続けてしばらく。

この魔力は外に通じるどこからか流れてきているんじゃないか、と思い至ったシムルは薄暗い洞窟の中を、魔力を辿って移動をすることにした。


「……ん?

なんかポケットの中が光って……って、もしかして!」


立ち上がったシムルは自分の胸元から何やら光が漏れ出していることを確認すると、急いで上着の中を確認して、光の発信源を取り出す。


「やっぱりカレンから渡されてた、電話とかいう魔道具か……」


ポケットの中で光り輝いていたのは、電話に取り付けられた魔法石だった。


「光ってるってことは……もしかして、今この魔道具を使えばカレンと話ができるのか?」


シムルはカレンに教わった通りに、電話に魔力を通す……すると。


『あ、やっと繋がった!

おにーちゃん大丈夫!?』


『シムルと話ができるようになったのですか!?

シムル、無事ですか!?』


『シムル、アンタ今どこよ!?』


『シムルー、大丈夫か-?』


カレンやソラヒメにテーラ……そしてマックスのおまけ付きの声が一斉に聞こえてきた。

――どうやら、あいつらは上手く合流できたみてーだな。


「お前ら声がでけぇって!

うるせーよ!!

……俺は一応無事だ。

体もなんともねぇよ」


竜骨格ドラゴスケルトンの恩恵もあって、高所から落下したにも関わらず、シムルの体には大きな外傷は見られなかった。


『それでシムル、貴方は一体どこにいるのですか!?

まさか、まだ雪の下なのですか!?

如何なる理由かは分かりませんが、貴方の位置がルーンを通しても分からないのです……!』


「落ち着けよソラヒメ。

俺は今、洞窟の中だ。

氷竜の掘った穴に入り込んで、間一髪助かった。

俺の位置が分からないのも、多分ここの魔力が濃すぎるからだろ。

……まぁいい、俺はこれからここから脱出……チッ!?」


シムルは付近の岩陰から出て来た巨大な影を確認するや、瞬時にその場から飛び退く。

そのコンマ数秒後、シムルのいた場所を巨大な尾が擦過した。


『シムル、大丈夫ですか!?』


「悪いソラヒメ、また後でな!」


シムルは電話に魔力を流すのを中止し、ポケットに電話を入れる。

そして尾の主……氷竜へと向き直る。

洞窟内は薄暗くてその姿がよく見えないが、それでも巨大な影が視認できた。


「次から次へと……なっ!?」


シムルは何の前触れもなく洞窟の壁からせり出した氷竜の巨大な頭に、体をはじき飛ばされかかる。

しかし、彼は自慢の脚力によって間一髪で氷竜の頭突きを回避する。


「ったく、一体一じゃ戦えねーのかお前ら?

間髪入れずにご苦労なこったな!」


『『グォォォォォォォォ!!!』』


シムルの挑発に呼応するように、氷竜二体は咆哮を上げた。

その直後、洞窟の地面から新たに二体の氷竜が這い出てきた。


計四体の氷竜に対するのは、相棒とはぐれた人間ドラゴンライダーただ一人。

……誰にでも分かる通り、シムルのおかれている状況は最悪だ。

体力を奪い取り続ける刺すような寒さに洞窟内の視界の悪さ。

如何なる手練れと言えども、この状況で竜四体に勝利できる確率は常識的に考えれば限りなくゼロに近い。

更に言えば、人間が竜四体から足で逃げきることのできる確率も極めて低い。


しかし、シムルの瞳には臆するところが一切なかった。

寧ろ……その瞳は、闘気であふれていた。

その理由は、語るまでもないだろう。


「状況は最悪、助けは無し……あぁ!

上等だ!!

お前らを超えて、俺はここから出て行くぜッ!!!」


彼はその性格上、どんな逆境においても……一切の諦めを持たないからだ。

どんな逆境も力任せで跳ね除けようとする意志の強さ。

それこそが……シムルの最大の武器だ。


『『『『ギャォォォォォォォォォ!!!』』』』


四体の氷竜がそれぞれ動き出す。

左右から噛みつかんと迫ってきた二体に対し、シムルはその二体の間の隙間を爆発的な速度で駆け抜ける。

二体の氷竜の顎はシムルを捉えそこない、空気を噛むばかりだ。


「まずはテメェらからだ!!」


地を滑るかのように駆けてくるシムルを見た奥の二体が、ブレスを放とうと口を開ける。

シムルはその瞬間に、ポケットからあるものを取り出し……自身から見て左側にいる氷竜の口へと発射した。


「信号用の魔法弾の予備だ!

食らいやがれ!!」


シムル自身の莫大な魔力量と異常な動体視力によって、高速で筒状の魔道具から放たれた魔法弾は、狙い過たずに氷竜の口腔へと吸い込まれるかのように入っていった。

氷竜の喉奥に入った魔法弾とブレスが混ざり合う。

その結果、氷竜の体内で異常なまでの魔力反応が起き……。


『グギャォォォォォォォ!?』


洞窟いっぱいに轟くほどの爆発を体内で起こされた氷竜は、口から黒煙を吐きながらその場に倒れ伏した。

だが……シムルから見て右側にいた氷竜からブレスが発射されるには、それはあまりに十分な時間だった。


『ギャォッ!』


「グッ……!?」


シムルは左腕で氷竜のブレスを受け止める。

骨が湾曲しかかるほどの衝撃に、焼け付くような冷たさがシムルの左腕を襲う。

だが、強化されたシムルの左腕は、そのブレスをかろうじて受け止めきった。


「そらいくぜ!

early equal:加速竜咆哮ブースター・バーストッ!!」


シムルは右腕に魔法陣を二重に展開し、そのまま魔力を一気に解放して攻めに転じる。

下から放たれたシムル渾身のその一撃を……氷竜は首を振って易々と避ける。

それは当たり前だ。

なぜなら……このシムルの攻撃は、そもそも氷竜を狙ったものではなかったからだ。


「流石のワイバーンも……上から押しつぶされちゃぁひとたまりもねーよなァ!!」


シムル渾身の一撃は、氷竜の頭上の岩盤に直撃して大きくヒビを入れる。

そして……轟音と共に、洞窟の天井が一気に崩落した。


『ギャォォォォォォォォォ!?』


自らを押し潰さんとする莫大な質量から逃れようと、氷竜は半ば本能的に翼を広げる。

しかしながら。


「オイオイ……この狭い空間で、どこを飛ぼうっていうんだよ?」


洞窟内に氷竜が飛行できるスペースなど、あるはずもなく。


『ギャォォォアァァァァァァァ!!!』


氷竜はシムルの狙い通り、岩雪崩の下敷きとなったのだった。


「さて、次は……グッ!!」


振り返ったシムルに、氷竜の尾が振られる。

シムルは両腕でガードして受け流すが、全身を貫通するかのような衝撃が駆け巡る。

更に。


「クソッ……!

左腕がイカれたか……!?」


シムルは切れ傷や擦り傷だらけの左手を軽く握るが、うまく力が入らない。

氷竜のブレスを受け止めた際のダメージも合わさって、シムルの左腕は一時的に痺れてしまっていた。


「……っと、当たるかッ!」


シムルは二体の氷竜の爪撃を、ぎりぎりのところで躱していく。

――感覚を研ぎ澄ませッ! 奴らの動きを……纏めて見切ってやらァ!!


シムルは上半身を反らして翼爪を躱し、次に迫り来る噛みつきを、氷竜の頭部を全力の蹴りを以って躱す。

蹴りによって脳を揺らされた氷竜はたまらず倒れ込むが、シムルは飛び上がり、もう一体の氷竜の眼前へと躍り出た。


――左腕は……痺れも引いてきたし、一応は動くな! なら……ッ!


「nearly equal:氷結刃アイスブレード!!」


シムルは氷竜の飛膜前部にある翼爪を解析スキャンし、魔法陣と共に両腕に氷の刃を展開する。


「ぶった切れろッ!!」


シムルには剣を扱った経験はほとんどない……だが、それでも。


「ハァッ!!!」


竜骨格ドラゴスケルトンによって強化されたシムルの腕力と、nearly equalの超高密度魔力によって生成された鋭利な刃が合わされば……切断できないものなど、この世において探す方が難しいというものだ。

圧倒的な破壊力を保持するその斬撃は、氷竜の甲殻を容易く切り裂いた。


『ギャォォォォァァァァァァ!?』


たったの一撃で首の甲殻を切り裂かれた氷竜は、たまらずたたらを踏んだ。


――今だッ!!


「まだまだいくぜェッ!!!」


シムルは氷竜の隙を逃すまいと、全力で氷の刃を氷竜にたたき込む。

刺突からの切り上げ、更に連続回転によって両腕の刃を氷竜に当て続け、全身の甲殻を削り取りにかかる。


『グォォォォォォォォォ!!』


「チッ、もう起きやがったか!」


シムルに頭を蹴られた氷竜が、彼に向かって突進をする。


「そんなのが今更当たるかよ!」


シムルは飛び上がって突進を躱し、すれ違いざまに氷竜の背に一撃を加えようとした時、氷竜の動きが瞬間的に変わった。


「なっ……!?」


氷竜は、翼を広げて突進を急停止した次の瞬間……なんと爪でも尾でもなく、その大木のような脚で、シムルに蹴りを放ったのだ。

完全に予想外の一撃に、シムルはnearly equalの発動が間に合わないと悟る。


「だからって……見えてりゃ当たらねーよ!!」


シムルは体を回転させて氷竜の脚に刃を当て……氷竜の攻撃を強引に受け流す!


『ギャォッ!?』


シムルの回転切りのような受け流しによって脚を切られた氷竜は、たまらず体制を崩す。

シムルはその間に距離を取って、二体の氷竜に向かって構えをとる。


『『グルルルル……グルァァァァァァ!!』』


如何にシムルが氷竜の体と同程度の耐久力を竜骨格ドラゴスケルトンによって得ているとはいえ、その体には既に多大なダメージと疲労が蓄積している。

それを本能で感じたのか、二体の氷竜は自身らの体の所々から血を垂れ流しながらも、シムルへと突進を仕掛けた。


しかし、それを見たシムルは不敵に笑う。


「おう……待ってたぜ!

お前らと俺の距離が開いてかつ、お前らが揃って俺の方を向いたこの瞬間をよォ!!」


シムルはズボンのポケットからあるものを取り出し、最大限の魔力を込めてから氷竜二体の鼻先へとそれを投げつける。


「これでも食らって目を回しやがれ!」


――ソラヒメに頼んで、一応一つだけ持って来てよかったぜ!


「光爆弾ッ!!」


――これであいつらは少なくとも……暫くは視界が効かなくなる!

その隙に畳みかけて沈めてやる!!


シムルは光爆弾から目を守るべく、二の腕で目を塞ぐ。

次の瞬間に光爆弾が炸裂するが……炸裂したのは光だけではなかった。




先日、シムルが地竜を光爆弾で気絶させた時。

地竜は、何も閃光のみで気絶したのではない。

シムル達はまばゆい光のみに着目していたが……いや、光に気をとられて気がついてはいなかったのだが。

あの時地竜の頭部付近で炸裂した光爆弾は、確かに爆弾の名に恥じない衝撃波を放っていたのだ。

……セプト村の住人とは比較にならないほどの魔力を持つ、シムルに起動させられたことによって。


そう……光爆弾の本質は、光を放つことではない。

流し込まれた魔力によって起動した後、大気中の魔力を吸収、増幅させてから。

「使用者の技量によっては、至近距離であればワイバーンが気絶するほどの光と衝撃波を放つ」のだ。

これこそ、この魔道具の本質にして……あまりに手軽かつ強力な殺傷兵器として禁忌とされる理由でもある。


では、この場で……大気中に含まれる魔力が非常に濃いこの洞窟内で、シムルが全力の魔力を光爆弾に流せばどうなるか。


それは。




「なっ……うおぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


光と共に、文字通りの大爆発が起こった。


『『ギャォォォォォォォォ!!??』』


シムルは衝撃波によって、洞窟の奥へと吹き飛ばされ。

爆心地の氷竜に至っては、体中の氷の甲殻を砕かれ……シムルから受けたダメージもあり、二体同時にその場に倒れ伏したのだった。

また、この惨状を一言で言い表すのであれば。


「何で自爆みてーになってやがるんだよォォォォォォォォォ!?」


最早それは……自爆テロも同然の所行であった。

暫くの間、シムルは自身の絶叫と共に、遮蔽物のない洞窟の中を飛び続けていたのだった。

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