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19話 一面真っ白じゃねーか!?

本作1巻の3刷目の重版が決定しております!

読者の皆様、ありがとうございます!!

「クッ……!

一体、何がどうなっている……!?」


アルスは操竜によって氷竜の翼爪を火竜カエデに受け止めさせながら、その背の上で頭を全力で回転させる。

――現状確認。

待機中に四体の氷竜が唐突に現れたことによって、生徒達は分断され……半数の生徒は王宮から派遣されたドラゴンライダー2騎と共に山を下って逃げ延びたが、もう半数はこうして山を登るようにして四体の氷竜から逃げている……!


「……ッ!

翼竜カマイタチ!」


アルスは思考を深めながらも翼竜カマイタチを遠隔操竜し、生徒達に襲い掛かろうとした氷竜を風のブレスによっていなす。

更に火竜カエデのブレスを続けざまに放出することによって、空中にいる二体の氷竜を牽制する。

アルス達を追いかけている氷竜は合計四体であるが、アルスの駆る二体のワイバーンが真竜であることとアルス自身の実力の高さもあって、なんとか氷竜の牙や爪が生徒達に届く前に抑えることができていた。


――しかし……様子を見に行った先遣隊から魔法弾が六発上がったのと同時に、見計らったように氷竜が攻めてくるなど……間違いなくおかしい!

こんな山のふもとに氷竜が四体も現れること自体が既にイレギュラーではあるが、アルスはそれ以上に、氷竜の現れたタイミングそのものが不可解であると感じていた。

作為すら感じさせるこの襲撃に、アルスはより思考を深めようとするが……。


「グッ!?」


横からの突き上げるかのような衝撃によって、アルスは思考の海から半ば強制的に引き上げられることとなった。

氷竜の一体が火竜カエデの脇腹に突進してきたのだ。


「舐めるなっ!!」


アルスは腰から剣を引き抜き、超物質活性化オニポテント・エンチャントの魔法を発動して自身の体を強化する。


「ハァッ!」


アルスはその強化された筋力を以て、氷竜の飛膜に一太刀浴びせた。


『ギャォォォォォォ!!』


『グルァァァァァァ!!』


氷竜が悲鳴を上げるのと共に、火竜カエデも反撃に移る。

アルスが生み出した隙を逃すまいと、半狂乱の氷竜の喉笛に噛みついた。


『グォォォォォォォォ!!』


そのまま火竜カエデは体内のコロナ器官から爆炎のブレスを滾らせ、ゼロ距離から氷竜にブレスをたたき込む!


『ギャォォォォォォォ!!』


首元で小爆発にも等しい一撃をもろに受けた氷竜は、その場に雪の煙を上げながら倒れ伏したのだった。


『『『グルルル……』』』


全身から白い凍気を吹き出して威嚇する残りの三体に対し、アルスは火竜カエデの背で油断なく剣を構える。

――後三体……いや。

生徒達がこの場から離れるだけの時間を稼ぐことができれば、私の勝ちだ!


「征くぞ!

火竜カエデ

翼竜カマイタチ!」


アルスは臆することなく、二体の真竜と共に氷竜へと突撃するのだった。


***


『シムル、見えてきましたよ!』


「はぁ!?

オイオイ、あいつらがいる場所まではまだ距離が……オイオイ!?

何がどうなってやがるんだ!?」


驚愕するシムルの眼下には、氷竜に追われて山へと逃げる生徒達と、三体の氷竜を抑えるべく奮闘するアルスの姿があった。


「まぁ、考えるのは後か。

ソラヒメ、この際だから俺達も生徒代表パツキンに加勢してやろ……」


シムルが口を開いたその時。


「えいっ!」


覚えて間もない水魔法で氷竜を攻撃しながら、アルスを援護するテーラの姿がシムルの目に入った。

テーラの魔法陣から放たれた水流が、氷竜に直撃する。

……だが。


『……グァ?』


間の抜けた鳴き声と共に、テーラに水魔法で水流を当てられた氷竜は、何事もなかったかのようにテーラへと鎌首をもたげたのだった。


「あの馬鹿!

あんなんで竜が止まるかっての!

ソラヒメ、テーラの所に突っ込め!!」


『言われなくとも、です!』


ソラヒメはさらに加速し、テーラに狙いを定めつつある氷竜に向かって一直線に飛翔した。

そしてそのまま、ソラヒメはテーラの手前に迫る氷竜に肉薄しようとする。

……しかし。


「ソラヒメ、横だ!」


『クッ……!』


飛行中のソラヒメの脇腹へと、新たに現れた五体目の氷竜が飛来する!

空中でもつれ合うソラヒメはバランスを崩すが、シムルはソラヒメの背から跳んで、テーラの近くまで一気に移動した。


「テーラ!!」


シムルは顔を青くして震えるテーラに向かって、一気に走り寄る。

テーラがシムルに気づいた瞬間、氷竜の翼爪がテーラに襲い掛かった。


「危ねぇなッ!」


シムルはテーラを抱えて飛び退き、すんでのところで翼爪を回避する。


「シムル、アンタどうして……!」


「青い信号弾が二発見えた、そういう事だ!

……舌噛むから黙ってろ、来るぞ!」


シムルは追撃をかけてくる氷竜を、バックステップやスライディングを駆使して躱し続ける。

更に木々を盾にするようにして立ちまわり、テーラを抱えながらも縦横無尽に動き回って氷竜から距離を取る。

だが、シムルとてただ逃げているわけではない。


「nearly equal:竜骨格ドラゴスケルトン!」


シムルは魔法陣を展開して氷竜の体を解析スキャンし、回避行動と同時並行で自身の体に氷竜の能力や筋力の近似値を加える。

――よし、いけるぜ!

シムルは強化された体全身の筋力を総動員させ、木々の間を掻い潜りながら瞬時に氷竜の右脇腹へと肉薄した。


『グルウッ!』


「おらよッ!!」


シムルは横から振られた氷竜の尾を右脚で蹴り上げ、勢いのままに一回転して右拳を氷竜の腹へと突き立てた。


「そろそろ反撃だ!

nearly equal:竜咆哮バースト!!」


シムルは左腕でテーラを抱えながら、右腕に魔法陣を展開し、氷結のブレスを解放する。


『ギャォォォォォォ!!』


爆炎のような白いモヤが立ち込め、ゼロ距離で叩きこまれた予想外のダメージに氷竜が怯む。

その大きな隙に。


『シムル!!』


シムルの頼れる相棒が、雷を纏いながら氷竜の上から飛来した。


『ハァッ!』


ソラヒメは超至近距離で氷竜へと雷撃を放ち、氷竜の動きを感電によって封殺する。


『ギィィィィィィィィ!?』


数秒の後、雷撃によって体中をボロボロに焦がして気絶した氷竜は、その場でドサリと倒れたのだった。


「テーラ、大丈夫か?」


シムルは抱えていたテーラを降ろしながら、テーラの無事を確認する。


「うん、大丈夫よ。

ありがとね、シムル」


「おう、そりゃよかった。

それに悪いなソラヒメ、助かった」


『二人とも無事で何よりです。

それより、アルスの方は……』


「あっちは……大丈夫そうだな」


シムルとソラヒメが首を回した時には、アルスは既に残った二体の氷竜を撃退した後だった。

少し高い丘のような場所に生徒達を集め、指示を出している。


「……!」


アルスはシムルの視線に気が付くと、火竜カエデを生徒達の近くに残し、翼竜カマイタチと共にシムル達の方へと歩み寄って来た。

近寄ってくるアルスに、シムルはいつもの調子で言葉を投げかける。


「よぉ生徒代表パツキン

またエラいことになってたけどよ……何があったんだ?

それと、カレンは無事だろうな?」


「あぁ。

彼女はここにいない生徒達と共に山を下った。

既に安全な場所まで離脱しているだろう」


シムルは先ほどから姿が見えないカレンの身を案じていたが、アルスの言葉で安心したように肩を落とした。


「……それでシムル。

貴様らが行った方からは、六つの魔法弾が見えたが……どういう事だ?

それに、戻って来たのは貴様だけか」


「あぁ、そうみてーだな。

それに、どういう事なんだかっつーのは……俺の方が聞きてぇや。

でもまぁ、一応何があったかはお前に言っておく」


「あぁ。

では私も、一応は貴様に状況を説明するとしよう」


シムルとアルスは、それぞれお互いに何があったかを説明し合った。

そこでまずはっきりと分かったのは……やはりこの山は氷竜の巣であるらしい、危険な場所だということだった。


「……成る程。

では、一度残った生徒達と共に下山した方がいいだろう。

山に残っている五人の安否は今すぐにでも確認したいところだが、今はこの場にいる生徒達の安全を確保する方が優先だ」


「そりゃそうだな。

それじゃあ俺とソラヒメは……」


「シムル、あれ!」


唐突にテーラから上がった高い声に、シムルが何事かと顔を上げたその時、大きな地響きが起きた。

巨大な白いモヤが……山の上から自分達の下へと迫り来るのを視認して、シムルは大きく目を見開いた。


――な……雪崩だと!?

ったく、こんな時に次から次へと!!


シムルは一瞬だけ驚愕したが、すぐに思考を切り替える。

数秒後に到来するであろう雪崩より先に、急いでテーラと共にソラヒメに跨ろうと考えるのだが。


『グォォォォォォォォォ!!』


「チッ!?

まだいやがったのか!!」


足元から穴を掘って新たに現れた氷竜に、シムルは動きを止めた。

このままソラヒメと共に飛ぼうとしても、下からこの至近距離で氷竜にブレスで狙われようものなら、数秒後に迫り来るであろう雪崩の中に墜落しかねない。

そうなれば、テーラは間違いなく無事では済まない。


それを悟ったシムルは……行動を決めた。


『シムル、急いでください!』


「シムル、早くミスリスフィーアと共に地上から離脱しろ!」


空中に飛び立ったソラヒメ達を視界の端に収めたシムルは、氷竜を躱しながら、はじけ飛ぶようにテーラの下まで移動した。


「シムル、早く逃げましょ!

……シムル?

アンタ何を……!」


シムルの動きが何か不穏だと感じたテーラは、シムルに抱え上げられながら声を上げた。


「ソラヒメ!

受け止めろッ!!」


「えっ……!?」


テーラは次の瞬間、思考が追い付いていないかのようなおかしな声を出してしまった。

いや、実際にテーラの思考は止まっていた。

何故なら……シムルが力いっぱいテーラを空中に投げ飛ばしたからだ。


『……くっ!』


ソラヒメは空中で目を見開くテーラを無事にキャッチして、次はシムルを回収しようとするが……。


『ギュォォォォォ!!』


そんなソラヒメをめがけて、地上の氷竜がブレスを放たんとする!

氷竜の口腔に氷結の魔力が充填されるのを感じながらも、ソラヒメは地上へと降下しようとした。


「ソラヒメ様、早くシムルを……!」


『分かっています!

そこの氷竜、邪魔です!!』


氷竜がブレスを放ちかけたその刹那。


「させるか!」


シムルが氷竜の顎を力いっぱい殴りつけたことで、氷竜のブレスは軌道を逸らしてソラヒメの体をかすりすらしなかった。

だが。


「ソラヒメ、ちょいとテーラを頼む……ッ!」


『シムル!

貴方という人は……!!』


「シムルーーー!」


シムルと氷竜のすぐそばまで迫っていた雪崩が、氷竜諸共……シムルのいる場所を飲み込み、白で埋め尽くした。

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