18話 初っ端から問題だらけだなオイ!
本作【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】ですが、なんと3刷目の重版が決定致しました!
読者の皆様、本当にありがとうございます!!
マックス達がローナスに戻って来てから、討伐戦の説明やら移動やらであっという間に時間は流れて。
今日は氷竜討伐戦当日。
昨日のうちに今回の現場であるオロス山近くまで来ていた俺達は、現在山のふもとに到着していた。
顔ぶれは勿論、クラスの連中を始めとした討伐戦の参加希望者やヒュグのような王宮のドラゴンライダー達が数人、更に俺達王都選抜特待生の集まりだ。
俺は目の前に広がる山を見上げて、見たままの感想を漏らす。
「へぇー、これがオロス山かぁ。
聞いてた通り、本当に高い山なんだな」
「そうね。
セプト村を囲っている山だって、こんなに高くはなかったわね」
そう答えるテーラは、背負っている重たそうな背嚢のせいか若干苦しそうだ。
服装ももこもこしていて、少し動きづらそうだし。
「テーラ大丈夫か?
少し持ってやろうか?」
「大丈夫よ……というよりも、アンタはちゃんと周りを警戒しなさい。
ヒュグさんや先輩方がワイバーンの上で周囲を警戒しているけど、アンタも今回はそういう役割なんだからちゃんと警戒しなきゃダメよ?」
少し心配そうなテーラに、俺は意気揚々と答えてやる。
「分かってるっての!
なぁ、ソラヒメ?」
『……えぇ。
ここから先はいつ氷竜が現れるか分かりませんから、気を引き締めて行きましょう』
俺を背に乗せながらそう答えたソラヒメの声は、俺とは真逆でとても平坦で……冷静だった。
口では氷竜を警戒すると言うソラヒメだが、実際には他のものも警戒していることが、俺にはありありと分かった。
――この前ソラヒメと一緒に払ったあの雲……何でこの山の上だけ払いきれてねーんだ?
俺が空を見上げれば、鉛色の空には夏らしくない重たい雲が浮かんでいた。
嫌な予感がビンビンするのは、きっとソラヒメも同じだろう。
「……さて、もうすぐ色々始まっちまうと思うけどよ。
カレン、できるだけ戦うな。
……分かったな?」
俺は極力真面目な声と顔をイメージして、テーラの横にいるカレンに声を掛ける。
カレンは俺の雰囲気から色々と察してくれたのか、こくりと一つ頷いた。
詳しいことはテーラやカレン、そしてソラヒメと十分話し合ったから、後は大丈夫だろう……そう思いたい。
「それでは今から行動に移る!
予定通りのメンバーで先行して、作戦を開始せよ!」
「ソラヒメ、出番だぜ!」
『えぇ!
行きましょう!!』
ヒュグのかけ声と同時に、俺はソラヒメと共に空へと舞い上がる……その刹那。
下からこっちを見ている奴と目が合った。
そいつは……生徒代表だった。
この場に残る生徒達の護衛役も兼ねて、待機するドラゴンライダーは三人。
生徒代表もその内の一人だ。
俺にはあいつが今、何を思ってやがるのかさっぱり分からねぇ。
だがまぁ……もしあいつに言う事があるならと思い、俺は目線だけでこう告げた。
――俺がいない間だけでいい。
ちょいとテーラやカレン……ついでにクラスの連中を頼んだぜ。
内心だけでもあいつにものを頼むのは色々複雑だが、思うだけならな……と、俺はそういった感じだったのだが。
生徒代表は何を思ったのか、俺に首肯を返したのだった。
俺とソラヒメが空中に上がった後、ヒュグを含めた他のドラゴンライダー五人は、俺達と同じように空へと上がった。
季節外れの粉雪が降る中、俺達と五騎のドラゴンライダー達は季節外れの防寒装備に身を包み、それぞれ空中で別れる。
「確か、氷竜が見えたら簡易式の魔法弾で合図……だったよな?」
俺はポケットの中の物の感触を確かめつつ、念話でソラヒメに確認を取る。
『えぇ。
後から来る生徒達の安全を確保する為の偵察が、今回の……最初の作戦ですから。
山に潜む氷竜を探し、その位置を魔法弾で知らせるのです。
そうしたら、他のドラゴンライダー達と共に一旦待機している生徒達の下まで撤退する手筈です』
氷竜がどこに潜んでいるのか分からない以上、まずは目標を探す必要があると言う訳だ。
俺達は言われた通りに進み、目を皿にして氷竜を探した。
それから……約十五分後。
早くもそこで、事態は大きく動いた。
「……!
今の光、魔法弾か!」
雪がふぶいてきた山の中腹の辺りで、右方向から赤い魔法弾の光が薄く見えた。
よし、あそこに氷竜が……!
『そのようですね……なっ!
シムル、あれを!!』
「うん?
どうした……はぁ!?」
ソラヒメが首を向ける方向……俺の左側には、それぞれ離れた位置に、更に赤い魔法弾が三つ上がったのが見えた。
――こいつは一体どういうこった!?
俺が混乱しているうちに、右手側にまた赤い魔法弾が一つ上がる。
……これで、俺達を除いた全員が魔法弾を放ったことになる。
「こりゃあ……いやまさか!?」
『……えぇ、そのまさかのようですね……!
シムル、掴まってください!』
俺がソラヒメにしがみ付いた瞬間、ソラヒメが大きく旋回。
その直後、吹雪を割いて三発のブレスが俺達のいた位置に放たれた。
――しかもこっちには三体かよ!?
「……オイオイ!
氷竜は一体じゃなかったのか!」
『多くとも全部で三体、と聞いていたのですが……他の場所でも魔法弾は上がっています。
という事はつまり……!』
「他のドラゴンライダー達も、こうして複数の氷竜とやりあってるかもしれねーって訳だ!
クソッ、話とまるで違うじゃねーか!!
この山は氷竜の巣かよ!!」
俺はポケットから筒状の魔道具を取り出し、空に向けて内部に魔力を流し込む。
その直後、筒から赤い魔法弾が放たれた。
それと同時に。
『『『ギャォォォォォォ!!!』』』
吹雪の中から、三体の氷竜が迫り来る!
「チッ!
ソラヒメ、このまま戻ってもこいつらを引き連れてくハメになる!
ここで倒すぞ!!」
『えぇ、その方がよいでしょうね……!
ハァッ!』
ソラヒメは雷撃を放って、正面から飛来する一体を迎え撃つ。
『ギャォォォォ!?』
雷撃が直撃して全身を焦がされた一体は墜落して吹雪の陰に隠れてすぐに見えなくなるが、残る二体が左右から突っ込んで来た。
「nearly equal!」
俺は左から突っ込んで来た氷竜の全身を解析し、飛行速度や鱗の硬さ、更に運動エネルギーを始めとしたあらゆる値を読み取る。
「食らえッ!」
俺は右腕に魔法陣を展開し、読み取ったあらゆる値よりも少し大きな値を右腕に加える。
そしてそのまま突っ込んで来た氷竜の翼爪の薙ぎ払いを紙一重で避けつつ、がら空きの喉元に全力の正拳突きをかます!
『グルァァァァァ!』
カウンターの勢いも合わさり、弱点部位に多大なダメージが入った氷竜はたまらず墜落していった。
「ソラヒメ、そっちはどうだ!?」
『こちらも片が付きました』
右から迫っていた氷竜は、一体目のようにソラヒメが雷撃で焦がしたらしく、焦げ臭さを漂わせながら既に落下を始めていた。
「ソラヒメ、今すぐ戻るぞ!
待機組のいた場所からも魔法弾は見えた筈だが、このことをちゃんと知らせねー……と……ッ!」
俺は言いかけていた言葉が、喉奥に詰まったのを感じていた。
何故なら……テーラやカレン達がいる方向から、青い魔法弾が二発上がっていたからだ。
「青い魔法弾が二回上がったら、救難信号よ」と、この前テーラが俺に教えてくれたのがふと頭をよぎった。
その後、テーラはこうやって続けていた。
「でも、そんなことになったらアンタが助けてくれるだろうから、心配はしてないけどね!」……と。
「ソラヒメッ!!」
『了解です!!』
俺達は、元来た空の道を逆走する。
ソラヒメの背中から伝わる筋肉の動きから、ソラヒメが全力で飛行しているのが分かった。
――あっちには生徒代表達がいるから、そうそうやべぇことにはなってねぇだろうが……!
ソラヒメがこの調子なら、五分もあればテーラ達のところに戻れるだろう。
だが……心配なものは心配だ。
現に、想定外の事が連続している。
複数体の氷竜の奇襲に、安全だと言われていた山のふもとから上がった救難信号。
――初っ端からあまりにも問題だらけじゃねーか!!
何がどうなってやがるんだ!!!
「……なぁ、ソラヒメ」
『……何でしょうか?』
吹雪の中、俺は念話なしの大声を上げる。
「今回の討伐戦が終わった後!!!
こんなクソみてーな計画を立てやがった連中に文句の一つもかましてやろうぜ!!!」
『当然ですね!!!』
俺達は勢いを増す吹雪の中、テーラ達の下を目指すのだった。




