17話 クラスの連中が帰ってきた
重版分を書店で見て「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」ってなりました
( ^ω^)
読者の皆様ありがとうございます!
「もう……昨日の夜はうまくごまかせたとは言え、本当に危なかったんだから!
アンタもっと助けてよ!!」
「うんうん!
おにーちゃん、隠れちゃうんだもん!
ダメだよー!」
「そんなこと言ったってよ……あそこで俺が出て行ったら、マール先生がまた騒ぎ出すに決まってるだろ?
流石にしょうがねーっての……」
食堂で朝飯を食いながら、テーラは昨日の夜にマール先生が部屋に押しかけて来た事に関して、俺に抗議をしていた。
ついでにカレンもプリプリと怒っていた。
……まぁ、俺によって引き起こされた面倒にテーラは巻き込まれたって形だから、二人の怒りはごもっともなのだが。
「ただよ。
お前が変な叫び声上げたのも原因の一つだって、忘れんなよ?」
食堂に居る手前小声でそう指摘すると、テーラは「うっ!」と言って肩を小さくした。
「分かっているわよ……もう。
でも、それでもびっくりしたのー!
もー!」
テーラもその辺は最初から頭にあったのか、反応が半ば八つ当たりに近いものがあった。
でも、可愛い反応だから見ていて悪い気はしない。
……マックスの馬鹿がやってたら、鉄拳が入ってるかもしれねーけど。
「それにしても、マックスとか委員長とか、元気にやってんのかなー」
夏休みと同時に帰省したクラスの連中がふと思い浮かぶ。
「それは勿論、元気に決まっているって!」
「ん?」
適当にぼやいた筈の独り言に、背後から聞き覚えのある声が帰って来た。
まさかと思って振り返れば、そこには。
「久しぶりだなシムル!
テーラちゃんと仲良くやってる?」
「シムル君こそ、元気にしてた?」
委員長やマックス、それに見慣れたクラスの連中が揃っていた。
「なっ!?
お前らいつの間に戻って来たんだよ!?
……それとマックス、最後のは余計な世話だっつーの」
「はいはい」と苦笑いするマックスに、それを見て笑い出すクラスの連中。
――あまり長い間会ってなかったわけじゃねーのに、こうして見ると何か安心するな。
「それで、お前ら何でローナスに居るんだ?」
俺が聞きなおすと、数人が答える。
「それはね、私達も氷竜討伐戦に参加するから!」
「つい数日前に連絡がきたんだよねー」
「実習の単位にもなるって話だったし!」
「シムル君も行くみたいだし、また面白いことになるかなって~」
「お前ら……遊びに行くんじゃねーんだぞ?」
――冬の山とか、野生のモンスターの危険性とか分かってんのかこいつら?
俺ですらそう呆れかえる程に、クラスの連中の反応はあっけらかんとしていた。
「大丈夫大丈夫!
何かあればまたシムルがどうにかしてくれるだろ?」
マックスは俺の肩をバシバシ叩きながらそう言う。
「そりゃどうにかしてやるつもりだけどよ。
……あんまり調子に乗ったことはやらかすんじゃねーぞ?」
「分かってる分かってる!」
ガハハと笑うマックスに、一抹の不安を覚える俺であった。
「……よかった。
シムル、もうちゃんと溶け込んでいるわね」
「テーラさん、何か言った?」
「ううん、何でもないわ!
さぁカレンちゃん、早く朝ご飯食べちゃいましょ!」
「う、うん」
テーラが何かを言って、委員長を誤魔化したらしいが……小声だったからよく聞き取れなかったとだけ言っておく。
……あ、おい急かされたカレンが飯を詰まらせかけてるじゃねーか。
俺はすかさずカレンに水を渡した。
***
「どうしたカレン。
話でもあるのか?」
「うん。
これを渡しに来たのー」
飯の後。
カレンが一人で俺の部屋に来たかと思えば、手のひらくらいの大きさの鉄の塊を渡してきた。
ちなみに、ソラヒメはまだ朝飯を食ってるのか、部屋には戻っていなかった。
「こいつは……また何だ?」
四角くて薄い……箱?
ほんのりと魔力が通っているのを感じるし、魔道具かもしれない。
「それは電話って言ってねー。
昔、おかーさんが作り方を教えてくれたのー」
「へぇー。
おかーさん……か」
俺は一瞬カレンの母親について聞こうとしたが、すぐに聞くのをやめた。
カレンの顔が少しだけ悲しそうだったからだ。
「……それでカレン、こいつはどう使うんだ?」
「うーんと、そこの赤いところに魔力を通してみてー!」
「えーっと……こいつか」
俺は言われるままに、四角形……電話の中央にある赤いくぼみを指で触って、そこから魔力を通す。
「ちょっと待っていてねー!」
カレンは俺が電話に魔力を通すのを見ると、部屋から出て行った。
トタトタと軽い足音が聞こえ、カレンが部屋から遠ざかるのを感じる。
――忘れ物でもしたのか?
俺が暫く待とうとした……その時。
『もしもしー!
聞ーこえーてるー?』
「はぁ!?」
電話とか言う四角い箱から、カレンの声が聞こえて来た!
驚いた俺は電話を落としかけたが、何とか空中で拾い上げる。
「えっちょっ!?
どうなってやがる!?」
俺は思わず四角い箱に聞き返した。
――あまりに唐突過ぎるだろッ!?
『これはねー。
遠く離れた人とお話できる魔道具なんだよー!
頑張って作ってみた……しさくひん? だからまだ二つしかないけど、一応おにーちゃんに渡しておくねー!』
「お……おう。
そっか」
どうも通信用の魔法石みたいなものらしい。
ただ、通信用の魔法石よりよっぽど軽くて頑丈そうだが。
ついでに持ち運びもしやすそうだ。
「よしっと……nearly equal」
電話とか言う魔道具の原理が気になった俺は、それを解析することにした。
「解析完了……成る程なぁ」
結論から言えば、電話は大体金属で出来ていた。
内部は所々材質の違う金属が使われていて、一部にはどこから手に入れたのか分からない魔法石も入っていた。
色々複雑で難しい構造をしている。
……ただ、一つ分かったことはある。
「……やっぱりmachine craftか」
原理に関して詳しいことは分からなかったが、カレンの魔法による産物であることははっきりと分かった。
電話内からは、俺の魔力に混じってカレンの独特な質の魔力を感じるし、電話本体に鉄が使われてるからそれは間違いない。
――と言うか、カレンが昨日の夜に難しい顔をしてテーラの部屋で作っていたのはこれか。
一人で納得していたら、トタトタと言う軽い足音に続いて部屋のドアが開いた。
「どう?
びっくりした!?」
カレンは興奮気味にそう言ってきた。
「おう、凄えなこりゃ!
色々びっくりだ」
「でしょー?」
カレンはテーラの様に、無い胸を張ってふふんと笑った。
……おう、本格的にテーラに似てきたかもな。
「それで、電話の詳しい使い方はねー!」
「ん?
俺にも自由に使えるのか?」
「うん!
例えば相手へのつなぎ方とかねー」
その後、カレンは次々に俺へと電話の使い方を教えていった。
中々難しいところもあったが……覚えておけばそこそこ便利だろうと思い、無理矢理頭の中に叩き込んでいった。
――何だ、この懐かしい感じ。
カレンが俺に色々と教えてくれるうちに、俺はどこか懐かしい気分になっていった。
――そうだ、この感覚……親父に数学を教わった時以来か。
何でそんな感覚になったのかは、この時の俺には分からなかった。
たまたまか、くらいに……そう思っていた。
だが……遠くない未来に、この時俺はどうしてそんな感覚になったかを知ることになる。
――概念干渉の正体と共に。




