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EX 発売日、重版記念SS シムルの誕生日

本日が公式発売日の本作【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】ですが……なんと!

本日重版が決定致しました!

ありがとうございます!!


と言う訳で(急遽)短編を仕上げました!

読者の皆様、どうぞ!!

『シムルはいつ生まれたのですか?』


――それはいつだったか、よくは覚えちゃいない。

ただ、その日の夕飯になる獲物を仕留めた後のとある拍子に、ソラヒメがそんなことを言い出した。

またどうしたと思いつつ、獲物を引きずっていた俺は足を止めた。


「藪から棒に何だよ。

いつ生まれたかって……そりゃ、誕生日の話か?」


『ええ。

人には生まれた日を一年周期で祝う習わしがあると言うではないですか。

ですから、せめて私も相棒の誕生日くらいは知っておきたいのです』


「もしかして、誕生日は祝ってくれるのか?」


『それは勿論。

人にとって、それは大切なことなのでしょう?

貴方だって、誰かに祝福されて生まれてきたに違いないのですから』


誕生日に、祝い……か。

親父が居なくなってからその言葉に会うのは、とても久しぶりだ。

だからか、俺は何となく嬉しくなってつい笑っちまった。


「そうだな。

俺にだって、大切にしてくれた親が居たことには違いねーからな。

お袋は顔も知らないけど、親父曰く、俺のことを大事にしてくれてたみたいだし。

……っと、話がそれちまったな。

俺の誕生日だっけ?

それは~月の~日だ。

その日になったらよろしくな、相棒」


『はい、期待していてください』


***


「……うーん……何の夢だったっけ」


ぼんやりとした意識の中、ベッドの上で薄く目を開ける。

……またかなり懐かしい夢を見てた気がする。

内容ははっきりと覚えてないが、確かソラヒメが居た夢だった。


「また昔懐かしい夢だったのかもな。

……っと、アレっ?

ソラヒメ、居ないのか?」


いつも起きた時には部屋に居るか、横で毛布にくるまっている筈のソラヒメの姿が無い。

――先に飯を食いに行ったのか?

それにしては少しだけ早い気がしなくもないが、居ないという事はきっとそういうことなんだろう。


「俺もとっとと朝飯を食いに行くかな」


俺はいつも通り少し硬い制服に手早く着替えて身だしなみを適当に整えつつ、食堂に向かうのだった。

今日は休日だからそう早く動く必要もないのだが、腹が減っては何とやら、だ。




「……テーラまで居ねえな。

それにカレンも」


食堂に来たものの、いつもこの時間帯には食堂に顔を覗かせている筈のテーラやカレンの姿もなかった。

今日は不思議な日だなー何て思いながらコックに食券を渡し、俺はいつも通り美味い朝飯にありつくのだった。


「おっ、今朝はベーコンか。

前に食堂で食った時にも思ったんだけど、朝飯に一番合う肉はこれだと思うな」


俺はそう独りごちながら、いつもならここに適当なあいづちを入れてくれる相棒や幼馴染をふと思い出すのだった。

別に寂しいって訳でもないが、妙に静かに感じちまうのは、俺がローナスでの生活に慣れたって事なんだろうか。




「……暇だな」


暇だ。

周りに誰も居ないと時間が有り余って仕方が無い。

暇つぶしがてら知り合いが居そうな場所を回ってみたのだが、クラスの連中は学園の外に行ったのか、校舎内でもグラウンドでも全く見かけなかった。

そして当然のごとく、テーラやカレンも見当たらない。


「竜舎の方に行ってみるか」


ふとそう思った俺は廊下の窓をガラッと開け、そこからぴょいっと飛び降りるのだった。

テーラが居たらまた行儀が悪いって怒る所だろうが、居ないからきっと大丈夫だろう。

……見つかった時が怖いけどな。




「ソラヒメ―、居ねーのかー?」


広いグラウンドに俺の声が響く。

しかし、当然のようにソラヒメからの返事はない。

――またどこかで隠れるようにして、昼寝をしているのかもしれないな。


「なら、俺もしばらく寝るかな」


空は良く晴れていて、良い感じに暖かい。

――今日の夜は綺麗な星空になりそうだし、ソラヒメが喜びそうだ。

そう思いながら俺はグラウンドの芝生の上に寝転がり、眠りにつくのだった。




『……ムル、シムル。

起きて下さい。

いつまで寝ているのですか』


「……んぁ?

ソラヒメか」


目を開けると、そこには少し困ったような顔をしたソラヒメが居た。

何でそんなに困り顔なのかは分からないが。


『それではシムル。

目が覚めたところで、一緒に来て下さい。

皆待っていますよ』


「……待ってる?

今日は何かあったっけ」


寝ぼけた頭で思い返そうとするが、待ち合わせに該当する記憶は何も出て来なかった。

――おかしいな。

ソラヒメは何の話をしているんだ?


ただ、ソラヒメが俺を急かすので、俺はソラヒメに手を引かれるまま日の暮れかかった空の下、どこかへと向かうのだった。




「……教室?

また何でだ??」


しかも、この時間なのに教室内は魔力灯が灯っているようだった。

と言うか、ソラヒメが俺をここに誘導したことと言い、不思議でならない。


『良いから、入ってみてください』


「あ、あぁ、分かった」


いつも以上にぐいぐいと来るソラヒメに、俺は思わず教室のドアに手をかけた。

そして勢いよくドアを開けると、そこには。


「「「シムル、誕生日おめでとう!」」」


テーラやカレン、そしていつも話すクラスメイト達が揃っていた。

あまりにも予想外でかつ突飛その光景に、俺は暫く固まっていた。


――そっか。

今朝から誰も見なかったのは、皆で準備してくれていたからだったのか。


「ほらシムル!

早く中に入って来て!!」


「今日はおにーちゃんの大好きなプリンも用意してあるよー!」


テーラやカレンの言葉で教室内を見てみれば、教室の真ん中に固められた机の上には、プリンなどが大量に用意してあった。


『シムル、前に言った事を覚えていますか?』


「あぁ……思い出した」


今朝の夢……俺の誕生日を祝ってくれると言う、ソラヒメとの約束。

それは、こうして。


「目の前の光景が、全て物語ってるって訳だ……なぁ、ソラヒメ。

テーラやカレン、それに皆」


――こうやって祝ってもらうのも、もう何年振りなんだろうな。

ただ一人、山に籠って己を鍛え上げた日々が脳裏を掠める。

そしてその光景は、ソラヒメと出会い、テーラと再会し、紆余曲折あってカレンと仲良くなり……今に至った。


目の前に居る奴らに俺が言えること、言うべきことはただ一つ。


「ありがとな!

超が付くほど嬉しいぜ!!」


そう言って、俺は教室の中に飛び込んでいった。

――この日を忘れることは、きっと一生ないだろうな。


俺達の賑やかな喧騒は、空が白み始めるまで続くのだった。

たまにはこんな、シムル君がやらかさずに幸せになる短編も……と思い、ご用意致しました!

いかがでしたでしょうか?

ちなみに、書籍特典の短編の方は4種類ともガッツリとシムル君が(良い意味で)やらかしているので、もしよろしければ是非そちらもご覧ください!

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