14話 俺の大切なものはここに、ってな!
本作【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】いよいよ10/10発売です!
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ソラヒメやテーラと合流した後、俺達はカレンを追いかけていた不届き物を憲兵に引き渡してから、カレンから事情を聞いていた。
「それでカレン、何でまた一人で追いかけられてたんだよ?
近くに俺達が居たのに、何で呼ばなかった」
カレンが俺から視線を逸らそうとするが、俺はカレンの細っこい肩をがっちりと掴んで逃がさない。
これはかなり大切な話だ。
カレンにとっても、俺達にとっても。
「えーっと……お店から出た後、あの三人と目が合って……バーリッシュの人だって何となく分かって、それで……」
「それで、どうしたんだよ?」
俺は若干声を荒げ、カレンに次を話すように催促する。
「だから……逃げ」
「だからって、お前一人で逃げることはねーだろ」
俺はカレンの瞳をのぞき込みながら、言葉を続ける。
「良いか、よく聞け。
お前は俺達に迷惑がかかると思って一人であの三人を撒こうとしたんだろうがな。
寧ろ一人でうろちょろされる方が迷惑だ。
お前を追ってこのだだっ広い王都を彷徨うこっちの身にもなれ」
「シムル!
アンタ、もう少し優しい言い方って言う物が……」
淡々と自分の迷惑を語る俺にテーラが詰め寄りかけるが、ソラヒメがそれを手で制してくれた。
俺はテーラとソラヒメに一つ頷くと、話を続ける。
「良いか?
ここまでの話は『お前が俺達に迷惑をかけないようにした結果、余計に迷惑がかかる』って話だ。
さて……それじゃあ、次はお前が俺に聞かせてくれ」
俺はスッと息を吸って、一息溜める。
カレンの顔は、完全に怒られている子供のそれで、次に俺が怒鳴り散らすんじゃないかと怯えている。
だが、俺は怒鳴り散らしたいんじゃない。
「カレンお前……俺達が信用できないか?」
俺はそれを知りたいだけだ。
カレンの普段の態度を見れば、そんなの言うまでもない……何てことは決してない。
今ここで、カレンの口からそれを聞くことにこそ意味がある、俺はそう思う。
「ううん……そんなこと、ない」
「そっか、なら」
俺はカレンの頭をぐりぐりと撫でてやる。
「お前さ、もうちょっと俺達を頼れ。
追手くらい、軽く叩きのめしてやる。
んーと……何だ、御大層な事なんざ上手く言えねーけど、少なくとも俺達はお前の味方だからよ」
するとカレンは、大きな瞳を少し閉じて……俺に寄り掛かって来た。
そして、少し鼻声を混じらせながら。
「……ありがとう」
そう言ったのだった。
――柄にもない説教が上手くいったみてーでよかった。
「シムルにも、こういう面倒見が良いところがあるのね。
見直しちゃった」
テーラがそう言ってくれて、俺は少し嬉しくなった。
『ええ。
これでこそシムルです』
ソラヒメもなんだかんだ分かってくれていて良かった。
「……全く、貴様は誤解を招きやすい人間だな。
普段からその面倒見の良さを活かせば良いものを。
いつも一緒に居るそこの二人も、さぞかし苦労をしているだろう」
そして俺を素直に褒めない若干一名、やっぱりお前は嫌な奴だな。
「『ええ』」
「オイコラ!
そこで同意すんな!!」
――折角良い気分だったのに、喜んで良いんだか悪いんだか分からないじゃねーか!
「……おにーちゃん?」
「……カレン、お前はまっすぐに育ってくれよな」
俺はカレンを撫でながら、がっくりとうなだれるのであった。
***
「これがジュースと言うものですか。
どれどれ……っ!?
これもまた、どんな果実よりも甘い……いや、果実の甘みを濃縮させたような感じですね。
とても美味しいです』
「あまーい!」
「やっぱりここのジュースは美味しいわね!」
「へぇ、中々美味いな!」
俺達は今、とある店に居る。
テーラ曰く、喫茶店だそうだ。
店そのものは小さいが、管理が行き届いてとても綺麗だ。
さっきの件について立ち話も何だという事で、テーラおすすめの一件に来たわけだが……中々いい店だと思う。
「で、何でお前はカレンが追われてた現場に居たんだ?
……その格好でよ」
一息ついたところで、俺は生徒代表にそう真顔で聞いたつもり……だったんだが。
どうにも頬が上がっていくのを我慢できない。
――ダメだ、真面目な話をしようとしても笑っちまう!
普段のツンツンした雰囲気と、目の前の柔らかそうな雰囲気を醸し出すドレスから生まれる謎のギャップに、俺は笑い出すのをこらえきれなかった。
「シムル貴さ……ゴホン!」
真っ赤になった生徒代表がガタンと椅子と机を揺らしながら立ち上がる。
だが、その直後に目を丸くして驚くテーラやジュースをひっくり返しかけたカレンを見ると、すごすごと生徒代表は席に戻った。
「シムル、真面目な話をする時に笑わないの。
……テルドロッテ代表、今日はどんな用事でオリフィー市に?」
「ふむ、それはだな。
研究で使うための、とある魔道具を買いに来たのだ」
「研究?
生徒代表様はえらく勉強熱心なんだな」
別に、今の一言は嫌味で言ったわけじゃない。
素直に「ふーん、こいつは研究もやってるのか」と思っただけだ。
関心……ともまた違うが。
「シムル、人ごとみたいに言っているけど、全然人ごとじゃないのよ?
私達も首段に進級したら、本格的にやらなきゃいけないんだから」
「ん?
そうなのか?」
話が見えない俺を見て、生徒代表が付け足して説明をする。
「私が行っているのは、卒業研究だ。
ローナスの生徒が学園を出る際、自らが三年かけて積み重ねた研鑽を研究として学園に提出するのだ」
「ほーん、そうなのか。
また面倒っぽいなぁ……じゃねえや、話がそれた。
それじゃあ、お前がカレンを助けたのは、たまたま見かけたからか?」
「そう言うことだ」
魔道具を買いに来ていてたまたまカレンを見かけたって言うなら、話は通っている。
ドレスっぽい服装からして、この辺にお堅い野暮用で来たって訳でもなさそうだし。
腰に付いてる剣に関しては……普通に護身用だろう。
街で帯剣している奴もちらほら見かけたし、剣を持ち歩くのは別に王都じゃ普通の事なんだろうな。
「そうか。
なら買い物中にカレンを助けてくれたって訳だ……まぁ、アレだ、ありがとうよ」
面と向かってそう言うのは相手が相手なだけに、なんとも複雑な気持ちではあった。
ただ……これも必要な事だと思った、ただそれだけだ。
「むっ?」
生徒代表が訝し気な顔をする。
まぁ、そうなるよな。
「えっ……シムル、熱でもあるの?」
テーラが何の臆面もなく、俺にそう言ってくる。
……まぁ、テーラってもんだよな。
「何だよ、そんなにおかしいか?」
「……うん」
テーラは今までの俺と生徒代表について近くでよく見て来た訳だし、意外に思われても仕方が無いかもしれないな。
ただ。
「相手が誰であろうと、筋くらいは最低限通すっての。
助けてもらってありがとうの一言も言えねーほど、俺は落ちてねーよ」
「そっか……ううん。
そうじゃなきゃ、シムルじゃないわよね!」
テーラは妙な物言いをしてはいたが、納得した様だった。
「……貴様は、本当に勘違いをされやすい損な性格をしているな」
生徒代表がふと口を開く。
「ソラヒメにもよくそう言われるぜ。
ただ、俺は性格を直す気も曲げる気もねぇけどな」
ガシガシと後ろ頭を掻きながらそう生徒代表に告げると、生徒代表はフッと笑った。
「あぁ、そうだな。
貴様はそうでなければならないと私も思っている。
……さて、それでは私はこの辺りで失礼させてもらおう。
まだまだ行かなくてはならない場所があるからな」
生徒代表は自分のジュース代を机に置いて立ち上がり、立ち去ろうとする素振りを見せたのだが、ふと俺の方を向いて。
「シムル、そう言えば聞き忘れていたのだが、貴様は何をしにこの街へ来た?」
「端的に言っちまえば、氷竜討伐の準備だ」
「そうか」
そんな簡潔な会話を最後に、生徒代表は静かに去っていった。
それと、これは蛇足かもしれないが。
「アルスおねーちゃん、助けてくれてありがとー!」
生徒代表が店から出る際にカレンがそう言ったことに対して、あいつは少し笑っているような、そんな気がした。
「ねぇ、シムル。
シムルとテルドロッテ代表って、実はそんなに仲が悪くないの?」
生徒代表が去って暫くしてから店を出た後、テーラが藪から棒にそんなことを言い出した。
「何だよ急に。
見りゃ分かんだろ、相性差最悪だ。
そうじゃなけりゃ、あいつは俺がローナスに来て早々突っかかって来なかっただろうしよ」
相性最悪、それは間違いない話だ。
寧ろ、お互いがお互いの筋を曲げようとすれば、何度でも前の模擬戦闘と同じことが起こるだろう。
極端な話、今回は互いが互いを逆なでしなかった、それだけの話だ。
『その割に、今日はスムーズに話せていましたね。
……寧ろ、先日呼び出された時の貴方は必要以上に警戒しすぎて逆立っていた、と言えるかもしれませんが』
「そうだな。
……次にあいつと会った時にどうなるかは知らねーけど」
次に会ったらどうなるか分からない、これも本当だ。
またあいつが俺の能力や身の上をコケにしたり、特に再びソラヒメを馬鹿にしたら……その時は言うまでもないだろう。
まぁ、あっちもその辺はこの前の模擬戦闘でよく理解しただろうし、流石にまたそのネタで突っかかってきたら喧嘩上等も良いところなのだが。
「それにしても、シムルに追いついたあの時はびっくりしたわ。
着いたらシムルとテルドロッテ代表が一緒に居るし、三人くらい倒れていたし……その上シムルが馬鹿みたいに笑っていたし」
「オイ、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。
せめて元気が良いとか言えよ」
テーラは軽く呆れたような雰囲気を醸し出しながら、ぶつくさと俺に文句を言う。
でも、その癖に楽しそうな顔をしているから、本気で呆れているわけでもなさそうだった。
「あんなゲラゲラした笑い方は普通しないわよ。
あれは世界を炎に包む類いの悪役の笑い方ね。
間違いないわ!」
『そうですね。
ただ、シムルが何らかの理由によって世界と敵対したなら本当にやりかねないとほんの少しだけ思えなくもないので、一抹の不穏さがありますが』
「……それ、何となく分かります。
もっと言えば、その時でさえ多分ソラヒメ様はシムルの味方だと思いますし、本当にそうなって欲しくは無いんですけど……」
「おにーちゃん、本当にやらないでよ……?」
無駄に顔を青くするテーラとカレンに、俺も反応をせざるを得なかった。
「だーッ!
お前ら!!
俺を何だと思ってやがる!!!」
――良い雰囲気の良い話だったのにどうしてまたこうなった!?
俺は魔王か何かか!!
ついでに、ただしと言うか、いつもの話と言うかで。
俺がそう騒ぐように反論すると、三人は揃って楽しそうに笑った。
――なんだろうな、こういうのも、ある意味役得ってやつなのかもな。
楽しそうなこいつらを見ていると、それだけで俺も良い気分になるから不思議な話だ。
俺は、そんな事を思いながら。
「さて、適当なことやるのもこれ位にして、また本格的に物探しを始めるぞ!
この調子じゃ日が暮れちまうからな!!」
「ええ、そうね!」
『頑張りましょう!』
「えいえい、おー!」
再び目当てのものを探すべく、捜索を再開するのであった。
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