12話 王都の街で問題発生
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「買い物?
それも王都の街中で??
アンタがそう言いだすなんて珍しいわね……何だか眠たそうだけど、大丈夫?」
「おう、ちょっと買いたいものがあってだな。
ついて来て欲しいんだ。
……ついでにそこは気にすんな、事情アリで夜寝てねーんだ」
昼飯をぱくつくテーラとカレンを食堂で捕まえ、軽く事情を説明する。
よく考えたらテーラが居ないと星結晶の換金に手間取りそうだし、何より王都での生活が長いテーラなら、少なくとも俺よりは街中に詳しいだろう。
「ヒカリムシに太陽苔……うーん。
珍し過ぎて王都のどこに売っているかまでは分からないわね」
「そっか……」
――さてそうなるといよいよ諦めるか、それとも他の物を作るかになるな。
どうするかを考えようとしていたら、テーラがすっと立ち上がった。
「ただ、売っていそうな場所ならいくつか知っているわ!
今日は一日やることもないし、今から街中に行くわよ!!」
両手を腰に当て、元気よく立ち上がるテーラ。
こいつは本当にいつでも元気だな。
「二人とも、どこかに行くのー?」
「ちょっと王都の街中にな。
お前も来るか?」
「行く行くー!」
テーラに続いてカレンまで元気に立ち上がった。
何か、テーラとカレンの仲が良い理由が分かった気がする。
こいつら、案外似たもの同士なのかもな。
「ソラヒメ―、テーラとカレンが付いて来てくれるらしいから、俺らはこのまま街中まで行ってくる」
足りない睡眠時間を確保するべく、グラウンドで昼寝をしていたソラヒメがむくりと顔を上げる。
俺達の姿を確認すると、ソラヒメは眠たそうに眼を細めた。
『そうですか。
それでは三人とも、気を付けて……』
と、ソラヒメは首を下げて二度寝を再開しようとするのだが。
「ソラヒメ様。
折角ですし、私達と一緒に行きませんか?」
俺の横から飛んできたテーラの提案に、ソラヒメは『……ふむ』と少しだけ目を大きくした。
並みのワイバーンよりも一回り大きいソラヒメの巨体が、ゆっくりと俺達の方を向く。
『王都の街を歩いたことはないので、三人について行くのは有意義であると思いますし、その申し出は魅力的ではあります。
ただ、すいませんが今は少し眠気があるので……』
「そうですか……」
ソラヒメの返事に、テーラはやや残念そうだった。
ただ、本人がああ言うのだから仕方が無い。
ソラヒメも相当眠たそうだし、今回は俺らだけで……。
「ソラヒメおねーちゃん、行かないのー?」
『……むっ』
予想外の声に、体を丸めかけていたソラヒメがぴたりと止まった。
ソラヒメの二度寝を妨げたのは、子供特有のか細い声……誰であろう、カレンの声だ。
見れば、カレンもまた相当に残念そうな顔をしていた。
「……はぁ、ソラヒメ」
『……分かっています』
俺が声を掛けると、何を言いたいのかを察した……と言うより、場の雰囲気を読んだソラヒメはすぐに起き上がり、尻尾と翼をピンと伸ばす。
体の節々からポキポキと言う大きな音がして、ソラヒメは『ふぅ』と声を漏らした。
「よし、それじゃあとっとと行こうぜ。
テーラ曰く、これから色んなところを回るみたいだし、早くしねぇと帰る頃には日が暮れちまう」
ソラヒメはすっきりとした顔で一つ頷くと、すぐに人間の姿になった。
『分かりました。
それでは、すぐに行きましょう』
そんなソラヒメを見たテーラとカレンが嬉しそうだったのは、言うまでもない。
「さて、どっから回るよ」
銀行でぱぱっと換金を済ませた俺達は、目的の物を探すべく大通りの前で作戦会議をしていた。
「そうね、候補はいくつかあるけど……。
この近くに、魔道具の素材を扱っているお店が集まった通りがあるわ。
輸入品みたいな珍しい物もある場所だから、まずはそこに行きましょ」
「よし、分かった。
それじゃあ早速……そう言いたいところなんだが」
俺は黙って後ろを指す。
すると、テーラも分かっていると言わんばかりに困った顔になった。
さて、俺の背後で何が起きているのかと言うと。
『ふむふむ。
これが王都の街ですか。
空から見下ろすのとこうして歩くのではまるで違いますね……おぉ、大小様々な魔道具に、食べ物のいい匂いが……!』
「私、こうやって自由に歩くのってとっても久しぶりだから嬉しいなー!」
――目を輝かせながら自由気ままにうろちょろとする二人を中心に、人だかりができてやがるんだよ!
それも結構な人数の!!
当の本人達は色々なものに夢中で一切気づいていないみたいだが、人だかりは少しずつ増え続けている。
「……なぁ、何であの二人はあんなに目立ってやがるんだ?」
「見た目と、服装と、態度と、雰囲気と、言動と……こう客観視すると、あの二人が人目を惹く要素は結構あるわね」
「それもう全部じゃねーか!」
しょっぱなからこんな調子で滞りなく王都の街中探索は出来るのか、段々と不安になって来た。
行く先々でこうも人目を惹くとなれば……それはもう色々と面倒になるだろう。
――あぁ、目立つとロクなことにならないのは、ローナスに編入したての頃に十分味わったとも。……だからもう、勘弁してくれよ……。
この先々で起こりそうな面倒ごとを幻視していたら、横のテーラが顎に手を当てながら「成程ね」と、一人で納得するような謎の素振りを見せていた。
「うーん、これはアレね」
「アレってなんだよ?」
「ううん、大したことじゃないの。
あの二人、他の人達にはどう映るのかって思ってたんだけど……うん。
世間知らずな貴族の娘と、お忍びで街中に遊びに来たお姫様ってところかしら。
これなら人目を惹いたって、仕方が無いわよ」
「だからもうそれ全部そのまんまだよな!?」
カレンが本当に貴族なのかどうかはさておき、後者の方はある意味と言うか本当の意味と言うか、兎に角事実だからまた困った話だ。
「そんなことよりシムル、そろそろ二人を呼びましょ。
これ以上人だかりが増えちゃうと、本当に動きにくく……」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
人だかりの中心から突如、数人の男の悲鳴が矢継ぎ早に轟いた。
人だかりが一気にどよめく。
「シムル!」
「行くぞテーラ!」
人が集まりすぎていてよくは見えないが、声が上がったのはソラヒメとカレンがいる辺りであることは分かった。
上がった声は男のものだったが、ソラヒメとカレンに何かあったかもしれないと、人込みを力ずくでかき分けながら騒ぎの中心へと躍り出る。
「ソラヒメ、カレン!
一体何……が?」
……んっ?
思ってたのとまるで違う光景に、俺は目を見開いた。
と言うか、これは……えっと……。
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「まだやるのですか?」
俺が目の前の光景に唖然としていると、人込みの中からテーラがぴょこりと顔を出した。
「シムル!
大丈……夫ね。
うん、そもそも……ソラヒメ様が居るのに、心配する必要がなかったわね」
杞憂だったと、テーラの表情が焦ったものからどんどん微妙そうなものへと変わっていった。
多分今の俺も、テーラと似たか寄ったかの表情をしているだろう。
今俺の目と鼻の先で起こっていること。
一つ、男の右手を掴んだソラヒメが、それを真顔で店のカウンターに何度も叩きつけ、そのたびに男から悲鳴が上がり、カウンターも大きくヒビを入れながらミシミシと泣いている。
――俺は、そっと目を閉じた。
二つ、その横で右腕を抑えながら倒れ込んで小刻みに痙攣し、悶えている男達。
それを無邪気な顔でツンツンと触りながら「大丈夫?」と声を掛けるカレン。
――俺は、静かに振り返った。
三つ、それを見て「蹂躙だ……」「一方的すぎる……」と顔を青くする人々。
――俺は、黙って歩きだし……。
「待ちなさい」
だせなかった。
見れば、テーラが俺の服の袖を掴んでいた。
脂汗が滲んできたのを感じる。
「……何だよ。
俺は今から買い物なんだが」
「収拾してきなさい」
「悪いな。
俺はそんな好き好んでこんなおかしな場に首を突っ込むつもりは」
「収拾してきなさい」
「一応聞いてやるよ。
……お前、拒否権って言葉、知ってるか?」
「ならシムル。
アンタはソラヒメ様が憲兵さんに連れていかれてもいいの?
カレンちゃんもこの場に居るし……大変なことになるわよ?」
……。
…………。
………………。
「ソォォォラァァァヒィィィメェェェ!!
お前ッ、いいッ加減にしろォーーー!!!」
俺はわき目もふらずにソラヒメに飛び掛かり、男の手をソラヒメから引きはがすのだった。
――あぁチクショウ!
最近妙に損な役割が多いな!!
ソラヒメがこれ以上暴れないように、後ろから抱きしめるようにしてソラヒメを確保する。
『シムル、そんなに慌てて、一体どうしたのですか?』
目を丸くするソラヒメに、すかさず俺は突っ込む。
「一体どうした、はこっちのセリフだ!
お前普段は落ち着いてるくせして、時々本当に凄いことするよな!?」
『はて……凄いこととは?』
「ぬかせこの馬鹿!!!」
あまりにもあっけらかんとした物言いのソラヒメに、俺は思わず声を荒げた。
「もー。
おにーちゃん、怒ったら嫌だよ―」
むすっとした顔で俺に抱き着くカレンに、それを見て再びざわめきだす群衆。
「何だ、どういうことだ」
「あの少年、何者?」
「お姫様、お嬢様ときたら……王子様? それにしては少し野性味がありすぎると言うか……」
――いけねえ、悪目立ちしすぎたな。
急いでその場を離れるべく、ソラヒメとカレンを連れ出そうとする。
「はいはい、少し通し……て……」
だが、丁度俺の目の前に、人だかりをかき分けて憲兵が現れた。
……アッ。
周囲の様子……主に倒れ悶えている男達……をじっくりと見た憲兵が、ゆっくりと近づいて来て、俺に一言。
「君、彼女さんや妹さんを守るのは良いが……これはちょっと……せめて、一ヶ月は覚悟してくれよ?」
俺の肩に手を乗せながら、悲しそうな顔でそう言った。
「だ~か~ら~、何で……こうなるんだっつーのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺の絶叫が、王都の街中に広く響いた。
この後、なんやかんやでテーラや周囲に居た人達のお陰で、何とか誤解は解けた。
ついでに、その間俺がソラヒメとカレンに
「お前ら!
もう好き勝手に動くんじゃねえぞ!!
分かったな!!!」
と説教をかましていたのは、最早仕方が無いことだっただろうとだけ言っておく。
リアルが忙しいですが、暫く週2〜3日投稿が出来れば良いなと思っています。




