11話 相棒の話
本作【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】カドカワBOOKS様HPにて表紙が公開されています!
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そして、また間が空いてしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m
星結晶をソラヒメから貰ったその晩。
「……暑いな……」
うだるような暑さで、俺はゆっくりと目を覚ました。
――やけに寝苦しい夜だな。
王都は寒くなったり暑くなったりで気候が極端だ。
セプト村に居た時には、こういう夜はよく涼しい木の上で寝てたんだが……今考えても仕方が無いか。
ここは王都、勝手知ったる田舎じゃない。
俺は被っていた薄い毛布をポンと蹴り飛ばし、体を起こす。
暑い熱気を外に追い出すべく窓を全開に開け放とうと立ち上がると、窓際に座っていたソラヒメと目が合う。
「ソラヒメ、起きてたのか」
『シムルこそ、どうかしたのですか?』
「この暑さじゃ眠れねーや」
『成る程、そう言う事ですか』
俺の様子を見たソラヒメが、ガラリと窓を開けてくれた。
俺は風に当たろうと、ソラヒメの方に歩いて行くが……何かおかしい様な気がする。
ソラヒメにどこか違和感を感じる。
寝ぼけているせいでそう思うのか、それとも部屋が薄暗いせいでそう見えるのか。
その違和感は、窓の外から月明かりが差し込んだことで解消された。
「……角?」
ソラヒメの額から、一角生えている。
ソラヒメが竜の姿の時には当たり前のように生えていた角が、人間の姿になった時にはどこに行ってるんだと、時々思っていたのだが。
どうやら、ソラヒメの好きなように出したり引っ込めたりが出来るらしい。
『この姿の時に角があると、やはり少しおかしいですか?』
「そうでもない。
寧ろ、角があった方がソラヒメらしいとも思う。
だけど、何でまたいきなり角を出してるんだ?」
『今晩のように少し曇った夜には、角があった方が星の光から魔力を吸収しやすいのですよ。
星結晶生成に使った魔力は微々たるものですが、それでも使った日のうちに魔力を回復しておきたいので』
そう言えば、ソラヒメは角から魔力を吸収できるって前に言ってた気がする。
角は飾りじゃなく、ちゃんとした魔力調整器官うんぬん……みたいな?
小難しい話だったからあまり覚えてないけど。
「成る程な。
ところで、雲が出ていても角を出せば魔力の吸収が出来るってことは」
『ええ。
やはり正常な雲に戻ったようです。
雲を散らして正解でしたね』
ソラヒメは満足そうに軽く微笑みつつ、それも当たり前のように言うが……雲を散らしたアレ、文字通り天災並みの破壊力を持つブレスだったからな。
こいつはその辺を分かって言ってるんだろうか……っと、ちなみになんだが。
「ソラヒメ。
角が出るって事は、もしかして翼も出せるのか?」
『ええ、やろうと思えば可能です。お見せしますか?』
「おっ、出来るのか。
折角だから見てみたい」
『それでは』
そう言ってソラヒメは立ち上がり、魔法陣を背中に展開して光を放出する。
みるみるうちに光が翼の形になり、光が収まるのと同時にソラヒメの背中に翼が生えた。
いつも見るソラヒメの空色の翼を、人間大に小さくしたような感じだ。
『どうですか、シムル』
「おぉ……!
ソラヒメって結構器用なんだな」
一部だけ姿を変えるのって、多分魔力の調整がかなり難しい筈なんだが。
それを当たり前のようにやってのけたソラヒメに、何か感動した。
『そうですね。
魔力の扱いに関しては私自身、ある程度できる方だと自負しています』
「やっぱりお前、凄いやつだったんだな。
流石は当代の竜王って訳だ。
珍しい筈の光と雷関連の魔法や魔力の扱いはお手の物、か」
腕を組んでそれっぽく頷いてみたら、ソラヒメが目を丸くして、不思議なことを言いだした。
『何を言っているのですか。
恐らく私の雷撃よりも、貴方が使う魔法の方が珍しいと思いますよ?』
「そうか?」
『そうです。
私は貴方と出会う前は大陸中を飛び回っていたのですが、貴方と同じ魔法を使う者を見たことがありません。
寧ろ、私と同じ星竜には何頭も出会いましたが』
「ふーん、そっか」
どうやら本当に、俺が住んでいた場所が片田舎だったから同じ魔法を使う奴を見なかった、と言う訳では無いらしい。
――なら、何で俺はあの魔法を使えるようになったんだ?
数年前に唐突に使えるようになったnearly equal、あの魔法の『本質』は分かる。
指先が指先であると感覚で分かるように、あの魔法についての詳しいことは俺自身がよく知っている。
ただ……その『正体』は分からない。
どこから現れ、どこから生まれた魔法なのか。
何故俺が使えるのか。
話は少し戻るが、この前ソラヒメが放った天変地異にも匹敵するブレスは、俺のnearly equalによる補助があったから成立したようなものだ。
逆に俺は、天変地異の半分に相当する魔力をnearly equalで生成できたわけだ。
毎度のことながら、そんな馬鹿げた量の魔力はどこから来ているんだか。
周りの連中はnearly equalを「既存の魔法とはまるで違う代物」と言った趣旨の言葉で説明する。
――そうじゃない、それだけは分かる。
それに、そんな生半可な説明じゃ俺は納得できない。
妙に引っかかる。
何かが違う。
解釈の仕方、捉え方……そうでもないのか?
俺が知りたいのはこう、もっと本質的な……。
……と、俺が本格的に考えを深めようとしたその時。
視界の端でソラヒメが肩を落としたのを、俺は見逃さなかった。
――この時、俺がソラヒメを無視して考えを深めればnearly equalについての結論が出たのかもしれないが……この時の俺は「まあいいや」で考察を投げ捨てていた。
『なので……貴方の言動さえ良くなれば、私はもう満足なのですが……ハァ。
何故一流とも言える魔法使いの素質がある者が、これ程までに粗暴なのでしょうか』
何だこいつ、毎回この手の話になるとカチンとくる言い方になるな。
「オイ何だその言い草は。
これも個性だって割り切ってくれよ」
俺は軽く目を細めてみるが、ソラヒメもさっきの俺と同じように腕を組んで、軽く怒っているような様子になった。
『いえいえ、個性で済めばこれ程悩みはしないのです。
貴方の性格はまっすぐだとは思いますが、その歯に衣着せぬ言動は、間違いなく直した方が良いですよ。
貴方自身の不利益を生むだけでなく、周囲にも不利益をもたらす可能性があります』
「何を!?
お前こそ、少し頭が固いすぎるところがあるだろ!
もっと柔らかく考えろよ、柔らかく!」
売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだと思う。
俺達の言い争いは、結局朝日が昇るまで続いた。
朝が来る頃には、俺達は屍の様にぐったりとしていた。
まさかここまで疲れるとは……。
「……なぁソラヒメ、思ったんだけどよ。
お前、何で俺を相棒に選んだわけ?
契約うんぬんとかみたいな話はさて置きだな。
お前の考えを教えてくれよ」
窓から射す光の中、角と翼を引っ込め、眼の下にくまを作りながら椅子にもたれかかるソラヒメに、俺もまたベッドに倒れながら聞いてみることにした。
俺からしたら、相棒は後にも先にもソラヒメだけだ。
それは俺にとっては当然であり、当たり前のことだ。
ただ、ふと気になった。
――俺の性格に、それこそ一晩中難ありだと言い張るソラヒメが何故俺を相棒にしたのか、と。
『それは……貴方も分かっているのではないのですか?』
「……どういうことだよ、それ」
眠気に意識を持っていかれかけるが、ソラヒメの答えだけは聞いてやろうと意識を保つ。
どうせこういう時でもないと、俺はこんなことは聞かないだろうと分かっていたからだ。
ソラヒメがふと立ち上がり、ふらふらとベッドに倒れこむ。
それはつまり。
「ぎゅっ!?」
俺の上にソラヒメが倒れるという事だ。
ソラヒメが腹の上に降ってきたせいで、変な声が出た。
オイコラ何すんだよ、とソラヒメを退かそうとした時、ソラヒメがぼそぼそと呟いた。
『私の相棒は……貴方だけなので……』
それだけ言って、ソラヒメは俺の上で静かに寝息を立て始めた。
「……何だそりゃ。
答えになってねーよ」
ソラヒメにしては珍しく、はっきりとした物言いじゃないような……理詰めじゃない答え。
でもまあ、悪い気分じゃない。
案外、俺もその答えが聞きたかったのかもな。
――何でソラヒメが俺を選んだか、なんて要らない疑問だったか。
らしくない事を思ったもんだ。
そう思ったその時、今度こそ抗えないほどの眠気に襲われた。
窓から射す太陽の暖かさと、吹いてくる風、そして俺に覆いかぶさるようにして寝ているソラヒメの暖かさが心地よく感じて、俺の意識はスッと無くなった。




