EX とある夏の日 2
読者の皆様、申し訳ございません!
お待たせしました!!
書籍化作業とリアルで逝ってしまう……(泣き言)
「そろそろ昼飯時か」
俺の腹時計が、いつも昼飯を食っている時間帯になったと告げている。
釣れた魚は六匹……丁度いいな。
チビ達が釣りに夢中な中、俺は竿を一旦川から上げ、岩の上から飛び降りて河原に着地する。
そして手ごろな石を集めて適当に囲いを作った後、その辺に転がっていた流木を集める。
大きすぎるものは適当にへし折って小さくしながら、流木の内側が湿ってはいないかを確認していく。
「さて、火をつけるか」
乾いた流木をある程度集め終えた俺は、それらを石の囲い……簡易的な竈の中に入れて、背負って来た袋の中からトウモロコシと一緒に、あるものを取り出した。
それは、少し長めの柄をしたおかしな形の……俗にいう魔道具?ってやつだ。
親父が生きていた時から、この魔道具には世話になっている。
我が家の火種作りは火打石を使うんじゃなく、この魔道具についているでっぱりを「カチッ」と押すだけで済んでいる。
その上小さくて、持ち運びにとても便利だ。
……最近は古くなってきたのか、中々火が付かないこともあるけど。
この魔道具は親父の元々住んでいた場所だと、普通に使われていたって話だったが……親父は中々便利な道具が多くあった場所に、昔住んでいたらしい。
こいつみたいに魔力を使わない魔道具とか、聞いたこともないし。
俺は色々考えながらも手を動かす。
流木に火を付けながら、石の囲いの中に上手く風が通るように石の配置を調整する。
風の流れがある程度ないと、火が大きくなりにくい。
釣り糸の調整みたく、ここの調整もかなり重要だ。
「シムル―、何やってるのー?」「火おこし?」「シムルって、火おこしもできるんだ」
気が付けば、チビ達が揃って近寄ってきていた。
「おうお前ら。腹減ってるだろ?
ここらで昼飯にしようかなって思ってよ」
「「「「「おー!」」」」」
やはりチビ達も腹が減っていたらしく、目を輝かせ始めた。
「ならシムル、僕らが釣った魚も持ってくる?」
「いや、お前らが釣った魚は家に持ち帰って自慢しな。
『こんなに大きい魚が釣れたぜー!』ってな。
お前らが食う分の魚なら、ここにあるからよ」
そう言って俺は、チビ達にびくの中に入っている魚を見せた。
それに、貰ったトウモロコシも焼けば、チビ達には十分だろう。
俺は火が大きくなったのを見計らって、魚の鱗を小刀で削るように取った後、手早くはらわたも取り除く。
そして魚の腹を持ってきた井戸水で軽く流してから、塩を振って串に刺し、竈の中に串を差し込んだ。
それと一緒に皮をむいたトウモロコシにも塩を振って、焼けた石の上に転がした。
「おいしそー!」「シムルって何でもできるんだねー!」
すぐに魚から滴る油が、辺り一面に美味しそうな匂いを漂わせはじめ、チビ達は焼けた魚に飛び掛かりそうになっていた。
「よしよし、トウモロコシもいい感じだ……あちちち」
火傷をしそうになりながらも、俺は魚やトウモロコシをある程度冷ましてから、チビ達に渡していく。
「うん!」「もごもご……おいしい!」「これで夕方まで頑張れるねー!」
やっぱり夕方まで付き合わされる羽目になるのか。
俺はがっくりと肩を落としそうになったが、目の前で美味そうに魚やトウモロコシを食べるチビ達を見て、何故か元気になってきた。
「まあ……午後も頑張るか」
そう呟き、俺は自分の魚やトウモロコシを腹に収めた。
「シムルー!
全然釣れなくなっちゃったー!!」
「はぁ!?
釣り糸の長さ変えたとか、そう言う話じゃないよな!?」
「違うよー!」「急に釣れなくなっちゃったの」「何でかなー……」
チビ達が落胆するのを見ながら、俺は自分の釣果を確認する。
確かに午前に比べて、釣れるペースが落ちたかもしれない。
何があったのかは分からないが、魚がこのあたりから散ったのかもしれない。
普通ならここでお開きにするところだが。
「「「「「……」」」」」
チビ達が残念そうな顔になっているのを見て、気が変わった。
「それじゃ、一丁やってやるか」
俺は背負って来た袋の中から細長い棒を出して、その先端に三又に分かれた刃を取り付ける。
「シムル、その銛で何をするの?」
ミアがきょとんとしながら聞いてくる。
「おう、こいつで魚を獲ってくる!
ちょっと持っててくれ」
そう、釣れなかったら直接獲ればいい。
俺は上着を脱いで、チビ達に投げる。
さて隠れた魚共……観念して、チビ達の土産になりな!
俺は釣りをしていた岩の上から跳んで、川に飛び込んだ。
「もごもご……。
(本当に魚の影すら見えねえ。
どうしちまったんだ)」
いつもなら結構な数の魚が泳いでいる筈なんだけどな。
水草や岩の陰、はたまた今いる若干深めの場所にも魚はいない。
少し泳いで移動するか、そう考え始めた時。
何かが水流を作り出すほどに素早く、俺の背後から迫って来た。
「!?」
俺は勘任せに水を蹴って水面へと向かいつつ、謎の接近物へと銛を叩き込む。
『ォォォォォォォ!!!』
深々と銛が刺さった感触と共に、そいつは体を捻じって暴れ始めた。
「もごっ!
(オイコラ!
暴れんな!!)」
水が泥で濁ってそいつがよく見えない。
俺は水面に顔を出して一息吸った後。
「むんっ!!」
川底めがけて、思い切り銛を押し出す。
そして川底にそいつの肉ごと銛を突き刺し、泥が晴れるのを待つ。
「もがもが……ッ!?
(やっとご対面か。
さて、お前の正体は……はぁ!?)」
俺は川底に張り付けたそいつの正体に、少しびっくりした。
つぶらな瞳。
茶色い毛に細長い胴体。
短い手足。
細長い尾。
どこからどう見てもカワウソだ。
「もごォッ!!??
(でかぁっ!!??)」
ただし、大きさ以外は。
体の長さは、俺の背丈の倍以上ある。
間違いなく水棲モンスターだ。
こいつが出て来たから魚が釣れなくなったらしい。
ちなみに、銛が刺さっていたのは大カワウソの尻尾だ。
『ミューン……』
大カワウソは尻尾に銛が刺さって若干痛そうだ。
何となく哀愁漂うその姿に、俺も一瞬だけ銛を引き抜いてやろうと思った。
その一瞬の後に。
「(こいつ……焼いたら美味いかな)」
『!?』
食欲に負けた。
「「「「「ただいまー!」」」」」
夕方。
あまり暗くならない内に、俺はチビ達を村に送った。
チビ達は釣れた魚や、大カワウソを大人達に笑顔で見せている。
それを見た大人たちは、目を丸くしている。
結局、大カワウソはチビ達にくれてやったのだ。
「これで親にも良い土産話が出来ただろ?
魚だけじゃ、物足りねーよな!!」と、言った具合に。
「さて、俺も帰るかな」
チビ達の親からお礼という事で、採れたて新鮮な野菜を大量に貰いながら、俺は帰路についた。
――帰ったら俺にも、チビ達みたいに……親父に、良い土産話が出来たな。
「……っと、目にゴミでも入ったか」
軽く目をこすった後。
「さあ、明日から特訓だ!!」
はっきりと澄んだ視界で、俺はいつまでも――紅く綺麗な夕焼け空を、見つめていた。
***
これは、俺がソラヒメに出会う前の話。
ガキながらも、それでも一生懸命に一人で生きようともがいていた……そんな頃の、今じゃ懐かしくも感じる昔話だ。
皆様、夏休みはどの様にお過ごしでしょうか?
私の様に、研究があって勉強があって書籍化作業がある夏休みは……言うに及ばずです!(白目)




