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EX とある夏の日

リアルと書籍化作業が重なって思う様に投稿文を描く時間が確保できませんでした……間が空いてしまって皆様申し訳ございません。

俺はシムル。

セプト村近くの山の麓で、一人ゆっくりと暮らしている。

毎日やっていることと言えば、体を鍛えることや、親父の残した参考書を広げて頭を捻る位だ。

そんな俺の日常は数年間、あまり代わり映えのないものだった。

だけど、そんな毎日にも、時々変化ってやつがあるもんだ。


***


「魚釣りだぁ?」


窓から射す朝日と、俺を起こした声に目を細めながら、俺は意識を覚醒させる。

安眠を妨げられた俺は眉間に皺が寄るのを感じながら、声のした方へと顔を向けた。


「うん、魚釣り」 「シムルー、寝てないで起きてよー」 「早く! 早く!」


「……朝っぱらからどうした?」


俺は被っていた軽い毛布を跳ね上げ、我が物顔で俺の家に入って来たチビ達の前に立つ。

目の前には、村のチビ助五人がずらりと並んでいる。

ときたまこうしてチビが大人と一緒に我が家に訪ねてくることはあるんだが、今日はまたどうしたんだか。


「あのね、今日はおとーさんやおかーさんが畑で忙しいんだって」 「それで皆つまらないねーってなって」 「だからシムルに釣りに連れて行ってもらおーって話になったの」


成る程そういう事か。

今の季節は秋じゃなく夏なんだが、どうもそれなりに収穫する野菜があるらしくて、村の大人がこの時期になると忙しく働くのだ。

確かにそれだとこのチビ助達は暇で仕方が無いだろう。


でもな。


「悪いが俺は眠い。

他を当たってくれぇ~」


チビ達の「「「えー」」」と言う声から背を向け、俺は毛布を被りなおしてごろ寝する。

仕方が無いだろ……昨日親父の参考書にあったラプラス変換……だったか?の項目を見たら、頭が痛くなって仕方ねーんだから。

何だあれ、微分とかとはまるっきり別物じゃねーか。

それにそのページに会った親父の説明を何となく理解できたと思ったら、急に魔法陣が全開で開き始めるし。

お陰で魔力不足による不調に絶賛襲われている。

それにしても、あの魔法ってどうやって使うんだか。

気が付いたら使えるようになってたけど、魔法陣から炎や水が出る訳でもないし……。

全くもって謎だ。


……と、まあ俺はこんな理由からくる疲れによって、二度寝を決意した……けれども。


「こらー起きろー」 「のっかるぞー!」 「シムルが寝たらつーまーらーなーいー!」 「毛布はがすぞー!」 「僕も僕もー!」


「ぐっ、やめろチビ共……ちょっ!

飛び込んでくるなよお前ら危な痛った!?」


俺は五人同時にのしかかってきやがった、チビ達の餌食になった。

頭突きをかまされた上に、痛む頭を押さえてるうちに布団をはがされ、俺は五人がかりで布団から引きずり出された。


「だー、くっそ!

分かったっての!

釣りに連れて行ってやるから離れろお前ら!!」


「「「「「やったー!」」」」」


俺の怒鳴り声に、チビ達は歓喜の声を上げる。

……はぁ。

またこれからどうなるんだか。


***


「あいつら、まだかなぁ」


チビ達に引っ張られながら村に降りた俺は、チビ達それぞれに釣りの準備をするように言って、村長の家の前で暫く待っていた。

それにしても、本当に誰も居ねーな。

やっぱり村中総出で畑仕事が。


「シムル―!」「おまたせー!」


「おう、やっと来たか……っと、お前らなんだそれ」


チビ達が五人そろって仲良く走って来たと思ったら、釣り具を背負っているだけじゃなく、その両腕にトウモロコシを抱えていた。


「えーと、ジムの釣り竿がどこにあるのか分からなくて、ジムのおとーさんに聞きに行ったの」「そうしたら、ジムのおとうさんが『シムル君と行くのか?』って」「このトウモロコシをシムルにあげて、ってねー」


「そうかい、そりゃありがたいな。

後で礼を言っといてくれ。

いつもありがとうってな」


重たそうにトウモロコシを抱えているチビ達からトウモロコシを受け取って、背中に背負っている袋に放り込む。

またこんなに沢山……村の大人達には、いつものことながら感謝だな。


「さて、行くか!」


「「「「「おー!!」」」」」


俺はチビ達に囲まれながら村を出て、少し離れたセプト川へと向かった。

セプト川は、歩いて大体一時間位の場所にある、そこそこ大きい川だ。


***


「最近あんまり雨が降ってなかったから、水の量がちょうどいいな。

水も透明だし。

今日は大丈夫そうだな」


大丈夫そうだな、と俺がわざわざチビ達を川から離して一人で確認しに行ったのには、きちんと理由がある。

雨が降ってから数日は、川の幅が二、三倍くらいになることも珍しくはない。

あの濁流に呑まれれば、大人でも簡単に流される。

その上、増水した川の中は水棲の大型のモンスターが身を隠すにはぴったりだ。

普段はもっと下流の方に居る大型のモンスターが、増水した川を遡ってくることもあって、増水した川に近寄るのは色んな意味で危険なのだ。


「お前ら、こっちに来てもいいぞー!」


「わかったよー!」 「おー、川なんて久しぶり!」


ぞろぞろとチビ達が木陰から出てくる。


「さて、それじゃあ釣り竿の準備をしてやるから、そこに竿を纏めて置いてくれ」


チビ達は背負っていた釣り竿を草の上に置き、更に釣り糸やら針やらも袋から出して置いていく。

俺はまず分解していた釣り竿を、それぞれ六本、人数分組み立てて、俺の背丈くらいに仕上げた。

その後、釣り糸を丁度いい長さにかみ切って、浮きやおもりを通し、そして釣り糸を釣り竿に縛り付けた。


ちなみに、この釣り糸の長さはかなり重要だ。

魚が泳ぐ深さまできちんと釣り糸を伸ばさないと、まず魚はエサに食いつかない。

そうかと言って、あまりに糸が長すぎても針が川底に引っかかって、俗に言う所の「地面を釣る」と言うことになりかねない。

そういう時は大体、貴重な糸を針もろとも切らないといけないから、糸は長すぎてもいけない。


この糸の長さは、大凡釣りをするやつの勘に依存する。

多分、チビ達が俺の所の大挙してきやがったのもまあ……この糸の長さが分からなかったから、って言うのもあるだろう。


「最後に釣り糸に針を括り付けて……よし。

出来たぞー、エサは見つかったか?」


俺が竿の準備をしていた間に、浅瀬で石をひっくり返して川虫や小さなカニなどのエサを探していたチビ達に声をかける。

するとチビ達はニコニコしながら走って来た。


「「「「「見て!」」」」」


チビ達がエサ入れ一杯に入った、エサを突き付けて来た。


「……おう、わさわさしてるな」


これだけあれば一日足りるだろう。

……採りすぎだけどな。

元気のいいチビ達に時間をやるとこうなるんだなー、なんて思った。


「それじゃシムル、竿持って行っていい?」


「おう、良いけど、お前らこの近くでやれよ?

それと、あんまり固まって釣りをするなよ」


「「「「「はーい!」」」」」


……こいつら、分かってるのか?

前もこんな返事をされたと思ったら、固まった五人が一斉に竿を振って、糸を絡ませやがった気がするんだが……。

でも次は自分で直せって前に言ってあるから、大丈夫か。


「俺も釣るか」


チビ達のエサ入れから小さなカニを拝借しながら、俺は張り出した岩の上に座った。

魚が逃げないようにゆっくりと釣り糸を川の中へと入れていく。


川の音を聞きながら、ゆっくりするこの時間……中々良い。


「……っと、もうかかったか」


浮きが一気に川の中へと引きずり込まれる。

それに合わせて、俺は竿を立てる。


「よっこらせっと!」


勢いよく跳ね上がった竿につられて、川の中からきらきらと太陽の光を反射して輝く魚体が現れた。

長さは大体、俺の手のひら二つ分くらいか。

割と大きいな。

手早く釣り針を魚から外した俺は、腰につけていたびくに、魚を放り込む。


「もう釣れたの?」 「早いよー!」 「いいなー」


「お前らもその内釣れるだろ……っと。

ミア、お前の竿、引いてるぞ」


「えっ? 

……きゃっ!」


唐突にチビ達の一人、ミアの竿が大きくしなりだした。

それを見た周りの四人がミアに加勢しにかかるが……中々引っ張りきれないらしい。


「仕方がねーな」


俺は竿をその場に置いて、ミアを手伝ってやることにした。

周りのチビ達をどかし、ミアの小さな手と一緒に竿を掴む。


「いいかミア、竿は適当に引っ張るんじゃだめだ。

こうやって思いっきり立てて……後ろに引く!」


「わぁ……! 

やった!」


ミアは自分の釣り竿にかかった魚が川から上がったのを見て、目を大きくした。

……それは良いんだが。


「ミア、竿を少し下ろせ。

そんなに上げてるとだな……」


「ふぁっ!?」


振り子みたいに、釣れた魚が釣り竿を持ってるやつの方に向かってくるんだよなぁ。

顔に魚が当たったミアは、服の裾で顔をぬぐっていたが、その後すぐに釣れた魚を俺に見せて来た。

ミアが釣った魚の大きさは、さっき俺が釣った魚より一回り大きい。

良い型だな。


「釣れた釣れたー!」


「おう、良かったな」


俺は自分の釣り竿を取りに行こうとするが、ミアに裾をつかまれて立ち止まった。


「ん?

どうした?」


ミアは魚の尾びれをつまみながら、俺にこう言った。


「シムル!

針取って!!」


……そうだった。

こいつら、まだ上手く針を取れないんだった。

釣り針にはかえしが付いていて、魚が暴れても簡単に針が抜けないようになっている。

だが、それは人間が魚から針を抜こうとするときも同じなのだ。


「しょうがねーなぁ」


本日快晴。

雲一つなし。

――これは日が暮れるまで一日中釣りに付き合わされて、俺が針を取り続けるやつだ。

そう今更ながらに再認識した俺は、深いため息をついた。

今年の夏もまた魚釣りしたいです。

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