7話 流石にそれは無茶振りってやつじゃね
書籍化が決定致しました、ありがとうございます!
また、ハイファンタジーランキングに再び載りました……!
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「……何でお前まで、ここに居るんだよ……ッ?」
俺は出来る限り声を低くしながら、生徒代表を睨む。
――また俺達に突っかかって来るなら、また返り討ちにしてやろうか……!?
本気で生徒代表を退ける算段をしていると、横から学園長の声が割り込んで来た。
「シムル君、落ち着きなさい。
ここはそういう場では無い。
……これから君達は、協力してもらうことになるのでな。
お互いの溝を深めるような行いは、やめて欲しい」
「……協力する……だと?」
俺は思わず、学園長の方へと振り向いた。
この爺さんはまた何の冗談のつもりだ?
俺とこいつを協力させようだなんてな……御免だっての!
そして俺の顔を見た学園長もまた、諭すように声を低くした。
「シムル君、君の気持は分かる。
……だが、時には自分の苦手な相手とも手を取り合うことも必要じゃ。
それを分かって欲しい」
自分の苦手な相手……な。
確かに学園長の言いたいことは分かる。
……でもだな。
「学園長、俺は……いや、俺達は。
知っての通りこの高慢ちきな生徒代表様に、ついこの前だな……!」
『シムル、学園長の言う通りです。
少し落ち着いて下さい』
学園長に食ってかかろうとした俺の肩に、ポンとソラヒメの手が乗る。
それを感じた俺は一旦大きく息を吸い……そして長く吐き出した。
「……ソラヒメ、お前は良いのか?
お前だって、あの生徒代表にはいい思い出が無かった筈だぞ」
ソラヒメの瞳を見つめながらそう聞くと、ソラヒメもまた、真面目な顔で返してくれた。
『確かに、彼女がシムルのことを悪く言ったことに対し、良い思いを抱いていないのは事実です。
ですが……この場は、そう言った私情を挟むような雰囲気ではないように思えます』
ソラヒメの冷静な判断に、俺は周りの連中を伺う。
……ソラヒメの言う通り、周りの連中は至って静かだ。
生徒代表でさえ、腰に手を当てて……俺の方を見ているだけだ。
――お前のそう言うスカしたところ、本当に気に食わねーや。
だが、俺以外の連中が俺の反応を窺がって、話を進ませることができていないのもまた事実だ。
そのことに気が付いた今は……この場は黙ってやるのが一番だろうと思える。
一人だけ騒いでるのも馬鹿らしい話だしな。
「……分かった、学園長。
怒鳴りかかって悪かったな。
話を進めてくれ」
俺が下がったことに対し、学園長は頷いて答える。
「では……王都選抜特待生の諸君。
今日は貴重な休暇中に呼び出して済まなかった。
諸君を呼び出した理由であるのだが……その説明を、火竜隊『バーナー』所属のヒュグ氏から受けて貰おうと思う」
学園長の言葉と同時に、部屋の隅に居た役人っぽい恰好をした、若い男が出て来た。
それと同時に、周りの生徒……六人の中の誰かが、「なっ……『バーナー』……だと?」と小さく漏らしたのが聞こえた。
どうやらあの若い男は、そこそこの地位に居るらしい。
ついでに火竜部隊ってことは、あの男は正規のドラゴンライダーって訳だ。
それにしても、また王都選抜特待生……か。
七面倒くさそうな話になりそうだし、適当に聞き流して終わりにしよう。
「皆さん、初めまして。
私は王宮直轄の火竜部隊『バーナー』所属のヒュグと言います。
今回は皆さんに、お願いがあって集まって頂きました」
朗らかな顔でそう挨拶をする男……ヒュグとは対照的に、周りの生徒連中の表情はかなり固い。
あの生徒代表ですら、冷や汗でもかいてそうな顔だ。
あいつ、何者なんだか。
「さて、まず私が話すことですが……」
ヒュグと名乗った男は軽い身振り手振りを交えながら、説明を始めた。
――要するに、自分が山で氷のワイバーンに襲われたって話だった。
ついでにその氷のワイバーンが最近よく降ってた雹の原因かも、とか。
その雹のお陰で国中困っててうんぬんかんぬん……ってところか。
ついでに、雹がいきなり止んでその上雲も夜のうちに全部吹き飛んで王宮の連中がびっくりしてる、みたいな話もあった。
……それは身に覚えがありすぎるのでさておき、だ。
氷のワイバーンなんているんだなー、何て思っていたら、生徒代表が口を開いた。
「……それで、貴方は我々にそのワイバーンを討伐させよう、と?
しかし、それならば王宮のドラゴンライダー部隊を動員させれば、済む話なのではないでしょうか?
わざわざローナスの生徒にその話をような持ち出すのは……失礼を承知の上で申し上げますが、些かおかしな話かと」
生徒代表の言ってることは、気に食わないけど……まあまあ道理だ。
氷のワイバーンの話をこのタイミングでするってことは、つまり俺達が氷のワイバーンを倒せって事なのだが。
そもそも、氷のワイバーンが出たって山は猛吹雪って話だったし、そこに生徒に行けって言うのも中々おかしな話だ。
俺がローナスに編入させられた初日に、「ローナスはドラゴン絡みの事件も扱ってる」って話もあったと言えばあった……がしかし。
それらの始末は教師達の仕事であって、生徒の仕事じゃ無いはずだ。
ヒュグとかいうドラゴンライダーがもし本当に、俺達に氷のワイバーンを討伐させようって腹なら……それは完全にお門違いだろう。
生徒代表のもっともな疑問に対し、ヒュグはふむと頷いて、生徒代表に向かって言葉を返す。
「……成る程。
貴方が今のローナスの生徒代表である、アルス・テルドロッテさんですね。
噂に違わず、聡明な方であるようだ。
確かに貴方が言う通り、私が王宮に指示されているのは、ローナスの生徒に氷のワイバーンを討伐するよう伝えよ、と言う事だった。
ですが、氷のワイバーンをただ討伐せよ! ……という訳ではないのです」
「それでは……一体、どのような事なのでしょうか?」
生徒代表は本当に目的が分からない、とでも言いたげな雰囲気で声を上げた。
ヒュグはそれに対し、それまで笑顔だった顔を、少し真面目そうにして聞き返す。
「唐突ではありますが。
我々が貴方たちに求めているものは……何だと思いますか?」
「「「……?」」」
俺を含めた生徒連中は揃って眉をひそめた。
……質問の意味が、一切分からねえ。
どういう事だ?
だから、氷のワイバーンを倒せってことじゃねーのか?
でもただ倒せってだけじゃねえって……意味が分からねえ。
俺が他の生徒連中と同じく頭を捻っていると、後ろに居たソラヒメがずいっと前に出て来た。
『王宮のドラゴンライダーよ。
少し質問をしてもよろしいでしょうか?
貴方のこの問いかけは、あまりに難しいものに感じるので。
生徒達にヒントを与えるべきかと』
ヒュグは今まで無言だったソラヒメがいきなり話しかけてきたことに、少し驚き気味だったが、すぐに納得したような顔になった。
「ええ、それは勿論構いませんよ。
……竜王様に逆らうドラゴンライダーなど、存在する筈もないので」
何となく嫌味っぽく聞こえる言い方だったが、ソラヒメはそれに構わず言葉を発した。
『では失礼しますが……貴方は先ほど我々、と言いました。
あの問いかけの意味は、王宮がローナスの生徒に「何を求めているか」という解釈でよろしいですか?』
ソラヒメのその言葉を、ヒュグはこくりと肯定した。
「……そうか、そういう事か」
ソラヒメの言葉から何かを感じたらしい生徒代表が、小さく声を上げる。
……俺には未だにさっぱりだ。
「ソラヒメ、難しいことはいい。
つまり、どういう事なんだ?」
『つまりですね。
王宮側はこの氷竜討伐を通して、生徒に訓練をさせたがっているのですよ。
王宮がこの学園に求めているのは、「この国の未来を担う、強力なドラゴンライダーの育成」なのですから』
「……そういう事か」
つまるところ、経験を積んで来いって話だ。
学園長の方も
「実戦を知らない生徒がまともなドラゴンライダーになれる筈が無い」
とか言ってたって、クラスの奴に聞いたことがある。
王宮側も学園長の方針を汲んだって訳だ。
……と、まあ。
ここまでの話は良かった。
氷のワイバーン討伐に参加するかどうかは兎に角、話としてはそこそこ納得できたし。
問題は、この直後に放たれたヒュグの一言だった。
「と言うわけで。
王都選抜特待生の皆さんには、ローナスの生徒達を守りながら、氷のワイバーンを討伐して頂きます」
「「「……は?」」」
その場にいた大体の生徒が、素っ頓狂な声を上げた。
いや、それは無茶振りってやつじゃね……?
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