6話 呼び出しと嫌な再会
「ぐぅ……んん……」
……暑い。
意識が覚醒していくのと同時に、耐えがたい暑さが俺を襲っているのを感じる。
最近寒いから毛布をひっかぶってたのが仇になって、服は汗でぐしょぐしょだ。
頭も寝汗で何となく脂っこい。
「あークッソ、寝覚め最悪だ」
俺は毛布を蹴り飛ばし、ベッドから跳ね起きる。
机の上に置いておいたタオルでガシガシと頭や体をふきながら、俺はちらりとベッドへと目を向ける。
そこには多少の汗をかきながらも、ぐっすりと寝ているソラヒメの姿があった。
良く寝ていられるなぁ……うっ、寝不足で頭が痛え。
重い頭を押さえながら、窓へと向かう。
ベッドに入ったのは朝方だから、正直かなり寝不足だ。
多分数時間しか眠れてないだろう。
「それでも一旦起きて窓開けねーとダメだこりゃ。
流石に蒸し暑くて二度寝も出来ねえ……って、外もかなり暑いな」
窓の外には、蝉がけたたましく鳴く、俺のよく知る夏が広がっていた。
俺達が昨日空を覆ってた、雲っぽい何かを吹っ飛ばしたからだろう。
こうして青い空を見てると、気分がいい。
……やっぱりこの暑さだけは嫌だけどな。
『むうぅ……うるさいですね……。
シムル、もう起きていたのですか』
蝉の声にやられたらしいソラヒメが眠そうに目をこすりながら、大きくあくびをする。
そしてもそもそと起き上がり、座りながら背伸びをした。
「あー……起こしちまったか。
でもまあ、お前は夜になれば元気になるからいっか」
冗談交じりにそう言ってみると、ソラヒメは意外と本気にしたのか、小さくため息をついた。
『それはそうですが……貴方は、まだそんなことを言っているのですか』
「オイオイ、冗談だって。
悪かったから本気にするなって」
昨日の晩から今朝にかけての話になぞらえた、冗談のつもりだったんだけどな。
どうにもウケが悪かったか。
『全く。
貴方は本気なのか冗談なのか、未だに分からないところがあるから困ります』
ソラヒメは腕を組みつつ、俺に愚痴をこぼした。
「そうか?
俺としては、そんな自覚は無いんだが……」
するとソラヒメは俺の方に、ベッドの際までずいっと寄って来た。
……何で膨れてるんだ?
『貴方の普段の言動が、こういった勘違いを生むのですよ。
貴方はもう少し、落ち着いた性格になったらどうでしょうか?
当代の竜王である私の相棒にふさわしい人になってもらうために、この学園に居るのを……忘れたとは、言わせませんよ?』
いや、それ言ってるのはお前とテーラだけだろ。
朝から説教はごめんだって……ん?
俺が何とかソラヒメの説教から逃れようとしていた時、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「うっす、誰っすかー?」
俺はドアに向かって返事をする。
ついでに、説教をいい感じに回避した俺を見て、ますますソラヒメは膨れた。
「シムル君、入りますよ?」
「マール先生、朝っぱらからどうしたんすか?」
俺の部屋に入って来たのは、夏休み中にローナスに残る数少ない教師、マール先生だ。
確か……宿直?
とか言うのをやらされて、暫く帰れないって話だったっけ。
「ええ。
学園長が呼んでいるから、伝えに来たの。
もうお昼だから、着替えて食堂に行った後は、学園長室に行ってね」
「……うっす」
多分今の俺の顔には「ええ……」と言う文字が張り付いているだろう。
何かもう……嫌なんだが。
そうかと言って、今までの例からして、俺が行かなきゃまたでかい被害が出そうな気もするから困る。
……とりあえず、用件だけ聞きに行こ。
それで最悪、しょうもない話だったら「疲れてるし、最近よく働いてるだろ。休ませてくれ」って断るか。
俺の考えを知ってか知らずか、俺を見て苦笑いを浮かべたマール先生は、忙しいのか急ぎながら部屋から出て行った。
「はあ、学園長も何なんだかなぁ……何だお前」
振り向けば、少し笑ってるソラヒメの姿があった。
……苦笑いって訳でもなさそうだ。
「お前心の中で、俺にばちが当たった、とか思ってないよな?」
『いえいえ、そんなことは決して思ってはいません。
学園長が貴方の素行を改めさるために呼び出した、などと言う淡い期待はしていません」
……。
ダダ漏れだっての!
***
「さーて、ここまで来ちまった訳だが」
昼飯を平らげた後。
例によって俺……いや、俺達は学園長室まで来ていた。
「……お前までついてくる必要、あったか?」
『それは当然。
貴方が学園長室に行かなかったら、更正させることができませんから』
「その話まだ続いてんのか!?」
『冗談です』
ソラヒメがふふっと小さく笑う。
……間違いなく、お前の冗談も相当分かりにくいって。
「さーて、入るか」
そう言ってドアノブに手をかけたところ。
『シムル、ノックです』
……どうやら、ソラヒメの更正計画は既に始まっているらしい。
また面倒になりそうだ……。
この場では観念した俺は、ため息をつきながらドアをノックする。
「入りなさい」
返事を返された俺はガチャっとドアを開く……すると。
「シムル君……熱でもあるのかね?」
――あったらここに居ねーよ!!
内心そう返してみるが、ソラヒメと違って逐一返事をするのも何故か癪だから、スルーだ。
『学園長、失礼しますよ』
俺の後ろにいるソラヒメを見て、学園長が「ほほう」と納得したような顔になる。
「そうですか、ソラヒメ様がシムル君を止めて下さったのですね。
てっきり、またドアを壊されるものだとばかり……」
あ、おい学園長!
余計な事言うな!
あれは流石に反省してるっての!
『また……?
シムル、貴方は一体何を……』
ソラヒメが目を細めて、俺を見つめる。
……怖っ。
今度こそ降らされると思われたソラヒメの説教に、俺は小さく身構えるのだが。
「シムル、貴様は全く……。
また何をしでかしたのだ」
小さく開けたドアの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
――こいつはまた、どういう了見だ?
ソラヒメや学園長とのやり取りで弛緩していた心を隅に追いやり、俺は殺気を心に巡らせる。
ドアを大きく開くとそこには、数人の学生や、役人みたいな人が居たが……そいつらは別にいい。
問題は、その中の一人だ。
それ以外の問題は、今は些細なことだ。
「久しいなシムル。
まさかこうして貴様と一緒に集められる日が来るとは、思ってもみなかったぞ」
「……アルス・テルドロッテ……!」
少し前に俺と摸擬戦闘をした生徒代表が、俺を見据えていた。
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