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4話 天気を変えるって……流石に冗談だろ?

「王都の学園に強制連行された最強クラスのドラゴンライダーは超が付くほど田舎者」書籍化決定致しました!

ありがとうございます!!!

食事を終えた俺達は、それぞれの部屋へと戻って行った。

テーラとカレンは女子寮へ、俺とソラヒメは俺達の部屋に。

後は体を綺麗にして寝るだけ……だと思ったんだが。


『さてシムル、行きますよ!』


消灯後の深夜、グラウンドにて。

ソラヒメが魔法陣を展開して、人の姿から元の竜の姿に戻る。


――そう言えば、今夜も曇ってたら、雲の上まで飛ぶとか言ってたな。

それを思い出した俺は、ソラヒメに付き合って飛ぶことにしたって訳だ。


「ああ。

腹ごなしに、一発雲の上まで飛び出そうぜ!」


俺を背に乗せたソラヒメは、魔力を回復するべく、一気に空へと舞い上がった。

いつものように、身体が地面の方向にもっていかれるような感覚の後、浮遊感が迫って来る。


『シムル、落ちないように掴まっていて下さいよ!』


「おうよッ……!」


重力を振り切り、一直線に空へと駆け上がるソラヒメの背に張り付きながら俺は答える。

こういうときのソラヒメの加速力は、本当に体が下に持っていかれるかと思うくらいに凄い。

魔力で強化された体がばらばらになるんじゃねーかって思うくらいだ。


そうして……ソラヒメが雲に差し掛かろうとした辺りで。

俺は、違和感を感じさせたあの鉛色の雲を、nearly equal の魔法で解析スキャンする。

流石に地上に居た時は距離が離れすぎて解析スキャンができなかったが……ここまで近づけば、解析スキャン出来るはずだ。


魔法陣を展開して、あの雲の嫌な予感の原因を探ってや……


「……!!!

ソラヒメッ!

ブレスだ!

雲に向けてブレスをぶちかませ!!!」


『……っ!?

はい!』


念話交じりの俺の大声にソラヒメが一瞬驚くが、その一瞬の後に、ソラヒメは俺の指示通りにブレスを放つ。

ソラヒメの体内の魔力は、ここ数週間に及ぶ魔力不足でかなり少なくなっているが……それでも俺に応えるようにして、ソラヒメはいつも通り、全力のブレスを放ってくれた。


空から落ちるのではなく、一直線に空へと延びるその雷光が雲に届いた直後……一瞬にして、『空が割れた』。

雲がパリパリに乾いた木の皮みたいに次々に割れ、その向こうに星海が見える。


『これは……!?』


さしものソラヒメも、目の前の光景には驚きを隠せないらしい。

……実のところ、俺だって目を疑っている。

だって、解析スキャンの結果がよお。

まさか……雲を解析スキャンして、魔法の解析スキャン結果が出てくるなんてな。


雲壁ウォールクラウド

要素:解析不能

属性:解析不能

魔法:不明

総合評価:解析不能


俺のnearly equalで解析スキャン出来ない魔法ってことは、まさか……いや、今はそこじゃねえ。

――問題は、あれは雲なんかじゃねえってことだ。

ならなんだって話だが……結論から言うと、固体だ。

雲に似た固体……魔力で強化された空の絶壁……とでも言えばいいか。

nearly equalで魔力量や運動エネルギー、質量以外にも固体やら気体やらの判別が出来て本当に助かったぜ。


あの雲もどきは、その密度とかよく分からない材質とかが問題だった。

ソラヒメのブレスを受けても『粉々にならず、せいぜいばらばらの破片になった』あの雲みたいな物体の強度は……文字通り、鋼鉄以上の何かだ。

あのまま雲を突き抜けようとしていたら……考えるだけでぞっとするな。


……っと、ばらばらになった破片が俺達の進路を塞ぎ始めたか。


「ソラヒメ、ここは一気に突っ切れ!」


『当然です!!』


ソラヒメはばらばらになった雲もどきの破片を縦横無尽に避けながら、分厚い雲壁に開いた穴を抜けていく。


――雲壁の厚さは大体10メートル……こんなもんが空に浮かんでいれば、太陽の光どころか、そりゃ星の光の魔力だって通さないだろうよ。


俺はそんな風に考えていたが、ソラヒメは雲壁について、俺の考えの斜め上を行く結論を出した。


『……まさか、この壁は……!

星の光からもたらされる魔力を吸収して、成長しているのですか……!?』


「はぁ!?

嘘だろ!?」


俺は再度雲壁を解析スキャンする。

……確かに、ソラヒメに似たような魔力を感じる。

だからって、何でこの雲壁にそんな芸当が出来るんだか……!


『シムル、そろそろ雲から出ますよ!』


次に瞬いたときには、俺達は雲の上に出ていた。

下には、雲の壁がびっしりと地上を覆うようにして広がっている。


「何なんだよあの雲……」


『あの雲が何かは分かりませんが……何者かの手による工作だと言うことは分かります。

こんなものが、自然発生する筈が無い』


そう呟くソラヒメの声音は……若干怒っているみたいだった。


「……ソラヒメ?」


『すいませんシムル。

貴方が言わんとしていることは分かりますが……この星空を一時とは言え、私から奪い去った者を、私は許すことができない……!!』


普段は温厚なソラヒメがここまで怒るのも珍しい。

けど、壁雲の解析スキャン結果が魔法の判定だった時点で、ソラヒメの言う通り、あの壁雲は間違いなくどっかのアホが作ったものだ。

ソラヒメがご立腹なのもまあ……仕方が無いか。

これ、言っちまえばソラヒメだけに効く超局所的な嫌がらせだしよ。


『シムル、手伝ってください』


「……何をだ?」


ソラヒメは唐突に手伝え宣言をするが、俺にはその趣旨がよく分からない。

一体、何をする気だ?

……なぜか嫌な予感がする。


『この空を覆う雲を、全て吹き飛ばします!』


「……は?」


思考が止まる。

相棒、今お前何て言った……?


『だから、この空を覆う雲全てを粉砕し、吹き飛ばすのです。

この私から星空を奪ったこの憎き雲を、この雲を造り出した者の野望諸共霧散させてやろうではありませんか』


「ちょっ、本気か!?」


壁雲は最早、地平線まで広がっていると言ってもいい。

それを全部吹き飛ばすとか……正気か!?


『ええ、本気です。

当然ではありませんか』


……あれ?

こいつ、ワイバーンの時みたいに、暴君モードに入ってないか?


『さあシムル!

やりますよ!!』


「……はあ。

分かった分かった。

付き合ってやるよ」


やる気満々のソラヒメに、俺はやれやれと返事を返す。

こうなったソラヒメはもう止まらないだろうということは、長い付き合いからよく分かってる。


とは言え、だ。

俺だって相棒の嫌がることをしやがったやつの良い様になるのは癪だ。

もっと言えば、最近寒いからそろそろ暖かくなって欲しいし。

ぶっちゃけ、俺もそこそこやる気はあった。


本当に雲を全部吹き飛ばすなんて……天気を変えるような荒業が出来るかどうかは、未だに半信半疑だけどな。


『それではシムル。

今から行うのは……満天の星空の時にしか使用できない大技です。

そこでシムルには、nearly equalの魔法で私が溜めた魔力を近似して、私にその魔力を流し込んでもらいます』


「……要するに、ソラヒメの持てる魔力量の倍の魔力を使って、この雲壁を一気に吹き飛ばそうってか?」


『ええ、そういう事です』


ソラヒメの限界の魔力を俺が近似して足せば、単純計算だとそのまま大体普段の倍の威力のブレスが出るだろう。

それに、前にソラヒメの魔力を解析スキャンしたから言えることなんだが……ソラヒメの体は、ソラヒメの保持できる限界魔力量の倍くらいの魔力を通しても、多分保つ。

ソラヒメの保持できる魔力量そのものもかなり多いけど、ソラヒメの体はそれ以上に強ってことはよく分かってるつもりだ。

さて、ここでソラヒメの溜められる限界の魔力量を思い出すと……確か、山一つをぶっ飛ばせたような気がする。


……ん?

気のせいかもしれねーけど、案外天気を変えるなんて言う馬鹿げた話が、現実的になってねーか?


『それでは、いきますよ!!』


大きく声を上げたソラヒメは、その翼を大きく羽ばたかせ。

濃密な星光の魔力が漂う中、魔力の充填を開始した。

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