1話 ソラヒメの好きな物って何だろな
今日は何とかこの時間帯、21時ごろに出せました〜
最近この時間帯の投稿が多いです
「さっむ!
何だよ!
王都はもう秋なのかよ!?」
予想外にも、このくそ熱い筈の時期に木枯らしみたいな風に吹かれ、この俺シムルは絶賛二の腕をさすり中だ。
真夏の昼下がりの筈なんだが……おかしいな。
最近こんな日ばっかりだ。
「そんなわけないでしょ。
ここもセプト村も気候はたいして変わらないわ。
……けど、確かに今年は少しおかしいわね……くしゅん!」
俺の隣で小さくくしゃみをしたのは、勿論と言うか何というかでいつも大体一緒に居るテーラだ。
俺と話をしながらも、小さな体でせっせと竜の寝藁を集めている。
「そうなのか?
てっきり毎年こんな感じなのかと思った……ぜ!」
俺もテーラに負けないように、集めてあった竜の寝藁を農業用のでかいフォークでかき集めて、どっさりと一輪車に乗せる。
さて、何故こんな面倒な作業を俺がこなしているかって話なんだが。
ローナスは現在、夏休み真っ盛りだ。
大概の生徒や教師は、皆揃って羽を伸ばしている。
……だが、夏休み中に大半の生徒が帰っても、竜達はローナスでの生活を続けている。
人間に世話をされている以上、竜達は夏休み中も世話係が居ないと生きてはいけない。
と言うわけで、俺達のみたいに実家に帰らない生徒はこうして(無理やり)竜の世話係をやらされる、って訳だ。
「それにしても、今日も中々薄暗いな……」
作業がひと段落した俺はフォークを肩に担ぎ、竜舎の外に見える空を眺める。
こういう日が続くと、やる気とかがどんどんなくなってくような気分になるよなぁ。
ソラヒメと飛んでた時みたいに、やっぱり雲一つない青空が良い
……そんなことを考えていたら、テーラも似たようなことを考えていたのか、ソラヒメの話題を振って来た。
「そういえばシムル。
最近は夜も雲が出てるけど……ソラヒメ様、大丈夫?」
「あー、大丈夫かって言われれば……正直、大丈夫じゃないらしい」
俺の相棒ことソラヒメは、星の光を吸収して活動する星竜だ。
だから毎晩外に出て、星の光を十分に吸収し、活動するエネルギーを溜める……のが普通なんだが。
「やっぱり最近星の光が足りないって不貞腐れてたぜ?
その上、
『最近の雲はおかしいです。
星の光の魔力が雲を透過しません!』
とか何とか言ってたし」
多分この時間帯なら、あいつは今日もカレンと一緒に昼寝だろうな。
最近のソラヒメはエネルギーを溜めるためか、はたまた無駄に使わないためか、昼間でもよく寝ている。
今晩晴れなかったら、人目を忍んで夜遅くに雲の上まで飛んでみるって言ってたけど……どうなるんだか。
「そう、ソラヒメ様も大変ね……」
「ああ、あいつもあいつなりに大変らしい。
……それに、元々世話焼きなのもあって、知っての通りカレンの面倒もよく見てるしな」
「ああ……」
テーラも悟ったような顔をして反応する。
最近のソラヒメは、四六時中カレンを見守っていると言っていい。
朝から晩まで一緒に居る様子は、仲の良い親子か姉妹だ。
ただまあ……あまり元気がない状態でそんなことをしているから、ソラヒメもより疲れてよく寝てるんだろうな、とは思う。
俺も出来る限りカレンの面倒は見たいが……この通り、俺の手は大体毎日何らかの作業道具で埋まっている。
「はあ……本当に、この手の作業は毎日毎日……いつ終わるんだかなぁ」
竜舎の掃除以外にも草取りとか、教室の掃除とか。
せっかく課題が終わったっていうのに、最近は雑用ばっかりだ。
うんざりしちまうよ。
「終わらないわよ、特に竜舎の作業は。
ワイバーンも生きているんだし、竜舎だって毎日汚れていくわ。
ちゃんと掃除しないと、ワイバーンが臭くなるわよ」
「へいへい、俺はソラヒメに乗るから関係ないんだけどな……」
「屁理屈を言わないの。
早く今日の分を終わりにするわよ!」
ぴしゃりとしたテーラの声に、俺は休憩を終わらせて仕方なく作業に戻る。
……実際、雑用をするのが俺一人ならある程度さぼれるんだが、一緒に居るテーラが問題だ。
真面目なこいつは、俺がさぼったとしても間違いなく一人で作業を続行するだろう。
テーラ一人に仕事をやらせるのも気が引けるってもんだし、やっぱりここはきっちり作業をこなすしかないらしい。
「……それにしても、本当にこの寒さだけはどうにかして欲しいぜ……」
若干かじかんで来た指先をさすりつつ、俺は引き続き竜舎の寝藁を片付けるのだった。
「さて、次は新しい寝藁を入れるわよ」
「やっと折り返しかよ……」
日が沈み始めた頃、やっと折り返し地点になった作業に俺は肩を落とす。
「と言うか、何で竜が何頭も入れるくらいに広い竜舎の掃除を掃除してるのが俺らだけなんだよ!?
今更だけどおかしくねーか!?」
竜舎中に響く抗議の声に、テーラが「仕方が無いじゃない」と呟く。
「ローテーションなんだから、文句言わないの!
他の組だって、きっと同じ事を言っているわよ。
さ、早くこの藁を敷くわよ。
シムルはあっちに固まってる藁を持ってきて」
「はー、納得いかねえ……。
……ん?
何かこの藁、掃除したのと違うな……」
竜舎の隅まで一輪車を転がし、そこに重なっていた新しい藁を積もうとしたが、何かが違うように感じた。
「ええ、その藁、火竜用の特注品だから」
「火竜用?」
俺に説明をするために来てくれたらしいテーラが説明を始める。
「火竜って、飛膜前部に魔力結晶を持っているじゃない?
あの魔力結晶って火竜が戦闘態勢に移るとき以外にも、たまに発火することがあるのよ。
でもそれはものすごくたまにだし、竜舎に居る火竜はそんなことをしないように訓練は受けているけど……それでも、危ないって思わない?」
「ああ、確かに魔力結晶から出た火が藁に移ったりしたら竜舎が大火事だな。
……なら、この藁は燃えないのか?」
そう聞くと、テーラは困ったような顔になった。
「そうね……流石に火竜のブレスで燃えないものの方が珍しいから、この藁は絶対に燃えないっていうわけじゃないけれど。
少なくとも、火竜の魔力結晶からの発火程度で燃えることは無いわ。
この藁は火竜専用に、物理系魔法で耐火性を持たせているのよ」
「おー。
流石に竜専用の設備が揃ってる学園なだけあって、藁一つとっても色々と考えられてる、って訳だ」
今の話は素直に驚きだな。
他にも、聞けば色々と竜の為にあれこれ考えられたものが出てきそうだな……そう言えば。
「なあ、前にソラヒメがこの竜舎で寝かされるって話があったんだけどよ。
もしそうなってたら、ソラヒメ専用に何か作られてたりしたのか?」
「うーん。
それは難しい話ね。
星竜のソラヒメ様が欲しがるもの……何があるかしら?」
「言われてみれば……あいつって、何か欲しがったことってないな」
ソラヒメとはそこそこ長い付き合いになるが……思い返してみても、あいつには物欲ってものがあるのかどうか、もうそこから疑わしい。
それでも考えれば何か出てくるかもしれないけど……ねえな。
「……しいて言えば、あいつ案外大食いだから、食い物があったらいいんじゃね?
もうそんな気がしてきた」
「それは何というか……流石に言い過ぎじゃない?」
「いや、実際あるかもしれないぜ?
あいつ本当に物欲ってものが無いし。
……ならこの際、本人に聞いてみるか?」
俺のそんな提案に、テーラは案外と大きな頷きを返してきた。
「それいいわね。
ソラヒメ様の欲しいものって、私も気になるし。
そうと決まれば、早くこの藁の山を敷きましょ!」
「おう、そうだな!」
その後、この作業はそこそこ時間がかかったものの、割と早く終わったとだけ言っておく。
やっぱり人間って、何か目的があった方が動きが速くなるんだな。




