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3章プロローグ 氷結のワイバーン

やっと3章入れます……いやー、長かった;ーー

「……何が……どうなっている?」


黒髪の青年は、相棒の火竜を撫でながら、眼前の……いや、自らを取り巻く環境そのものに対し、唖然とした表情を晒していた。

彼はヒュグ。

ユグドラシル王国が誇るドラゴンライダ―部隊の一つ、火竜隊『バーナー』所属のドラゴンライダーである。


『グルルル……』


ヒュグの相棒である火竜のラスターも、白銀の世界の中、その体を丸め、主を『凍えるような』強風から守りつつ、低く唸る。


――馬鹿な、こんなことが起こりうるのか!?


現在、ユグドラシル王国は真夏である。

数十年に一度の猛暑となると言われる今年であったのだが……異変は、約一月前に起こった。

気温が急低下し、雹が降り始めたのだ。

人々は当初、「すぐに止むだろう」と高を括っていた。

……しかしながら、空一面を覆う鉛色の雲は何日経っても霧散することは無く。

昼夜を問わずに、延々と王都付近の土地に雹を降り注がせ、その範囲も日夜拡大していった。

その結果、冷害によって畑作に甚大な被害がもたらされ、多くの農民が悲鳴を上げるに至ったのだ。

また、王宮の魔法使い達も、王都付近の空に異常な魔力が集まっていることに気が付き、その魔力の流出地を不眠不休で調べ上げ……補足した。

その場所がここ……王都付近で最も標高の高い山にして、ヒュグが現在中腹まで登っている、オロス山である。


オロス山を調査するに当たって派遣されたのは、王宮からの調査隊として魔法使いが数名。

更にその護衛として、火竜隊『バーナー』からヒュグとラスターが、更に地竜部隊『レドス』、翼竜部隊『テンペト』からそれぞれ一騎派遣され、計三騎のドラゴンライダ―が調査隊に加わった。


しかし、山を登るにつれ、雹はいつしか吹雪となり、調査は困難となった。

その上、真冬以上の大寒波の発生よって、体内にコロナと呼ばれる燃焼器官を持つ火竜以外は動きが取れなくなり……調査隊は撤退を余儀なくされた。


だが……いや、だからこそ、ヒュグだけは残った。


「自分たちはまだ動ける。

だから、何かしらの成果は持って戻る!」


……そう豪語して、ラスターと共にヒュグは調査隊を飛び出した。

その後山の中腹まで飛翔したところで、地表の様子を確認しようと、ヒュグは地表へと降り立ったのだが。


「これが……ユグドラシル中で最も高くそびえ立ち、美しいと言われていたオロス山なのか……!?」


ヒュグの目の前にあったのは、豊かな水資源で人々の生活を助けて来たオロス湖だ。

……しかし、現在のオロス湖は、生命の気配を感じさせないほどに凍り付き、木々は無残にも立ち枯れていた。

豊かな緑も青も、寒波によってことごとく駆逐され、見る影もない。


『グルルル……グルァァァァァァ!』


ヒュグが呆然としていると、ラスターが湖を睨みながら咆哮した。


「どうしたラスター!?」


――何かを警戒しているのか?


ラスターの意図を理解したヒュグは、ラスターが睨む方に向けて剣を構える。

……その直後。


「何だ……地震か!?」


ヒュグは大きく揺れ始めた大地に、体を固定しようと剣を突き立てる。

だが、相棒のラスターはそんなヒュグを咥え上げ、一気に猛吹雪の中へと飛翔した。

……きっとそれは、ワイバーン独自の野生の勘とも言える産物だったのだろう。


ヒュグが「何をするのか」声を上げようとしたその時、ヒュグ達の居た場所が『パックリと割れた』


「!?」


ヒュグは直下で起こった地割れから、何かが這い出て来たのを確認した。


「あれは……ワイバーン……か?」


翼をもつそれは、猛吹雪の中でも、そのシルエットからワイバーンであると特定できた。


『ギャォォォォォォォォ!!!』


地面から這い出て来たそのワイバーンが、自分に向かって大きく咆哮してきた事を感じながらも、ヒュグは相棒の口にくわえられながら思考にふける。


――しかし、あれはどの種類だ?

野外で活動しているとワイバーンに出くわすことは時々あるが……オロス山にはワイバーンは生息していなかった筈。

……いや、それよりも、だ。

あのワイバーンは地面から出てきたにも関わらず、地竜のようにどっしりとした体型ではない。

あの体系はどちらかと言えば水竜だが……水竜にあれ程までに大きなかぎ爪があったか?


「……おっと!」


思考にふけるヒュグを一旦空中で放り投げたラスターは、曲芸のように自身の背中にヒュグを乗せる。


「ありがとうラスター。

……お前は、あのワイバーンは何に見える?」


『グルルル……』


「ラスターから言葉が返ってくるわけがないか」とヒュグは苦笑するが、その瞳は笑ってはいなかった。


――異常気象に正体不明のワイバーン。

これは間違いなく何かあるな。


「ラスター!

あのワイバーンに近づいてくれ!」


事の真相の一端を掴めるかもしれないと、ヒュグは謎のワイバーンに急襲を仕掛けることを決意した。

ラスターはヒュグの操竜術に従い、直下のワイバーンへと、吹雪をその体温でかき消しながら突っ込んだ。


『ギュオオ!』


「くっ!!」


謎のワイバーンから放たれたブレスを、ヒュグは『バーナー』の訓練で培ってきた操竜術を以って躱す。

しかし、ブレスを躱し切ったヒュグの顔には驚愕と疑問が張り付いていた。


――何だあのブレスは!?

属性が分からない……いや、見たこともない!

本当にワイバーンなのか!?


「……いや、それはいい。

当たらなければ問題は無いのだから!

次はこちらの番だ!

焼き尽くせ、ラスター!!」


『グォォォォォ!!』


ヒュグはラスターに指示を出し、謎のワイバーンに向けて火炎のブレスを叩き込む。


ブレスが猛吹雪を焼き、その射程上は視界が晴れる。

そして、そのブレスが謎のワイバーンに差し迫ったその刹那……謎のワイバーンの姿が一瞬だけ、それでも鮮明にヒュグの瞳に焼き付いた。


体型はやはり、水竜と同じように細長い。

飛膜の縁には、氷のように透き通ったかぎ爪が並ぶ。

眼は細く鋭く、体色は雪のような白。


その姿を見たヒュグは、思わず声を上げる。


「まさか……氷の、ワイバーン!?」


ヒュグは氷のワイバーン……氷竜について、風の噂程度に聞いたことがあった。


ユグドラシル王国北部、人が踏み入らないほどの銀嶺に生息する水竜の亜種。

その個体数は星竜ほどではないが、他のワイバーン種に比べれば希少種と言っても過言ではない程に少ない。

よって、そんな氷竜を相棒とすることができたドラゴンライダーはユグドラシル王国の歴史上、片手で数えられるほどしかいないという。


――そんな氷竜が、何故こんなところに居るのか……!?

それにまさか、この雹の原因はもしや……!?


『ギャォォォォォ!!』


刹那ののち、氷竜へとラスターのブレスが直撃する。

炎と氷、背反する二つの自然エレメント系魔力が混ざり合い、氷竜の周囲に白い爆発が発生した。

ヒュグロは追撃を試みようかと考えたが、「いや、そうではないな」と思いなおす。


「ラスター、一旦退こう!

このことを王宮に知らせなくては!!」


『ギャォォォォォォ!』


白銀の空の中、若きドラゴンライダーは急ぎ王都を目指し、火竜を駆るのだった。


『グルルル……』


そして、氷竜もまた、侵入者が去ったことを確認して、自らが掘った穴の中へと戻って行くのだった。

……事件はまだ、始まったばかりである。

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