13話 鋼獣と双流星
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「どうだ!
効いたかこのデカブツ野郎!」
視覚ではまともに捉える事すらできない速度でデカブツに叩きつけられた雷光。
雷は神の怒りとも比喩される。
それを2発同時に受けたならば、如何に強力なモンスターと言えども無事でいられる理由はない。
『キュイイイイイイイイ!!!』
それが、通常のモンスターなら。
爆煙の中から姿を現したデカブツは、雷光が当たった脇腹を大きく抉られながらもこちらへと突進してくる。
怯んだ様子は丸で無い。
「チッ、体がデカすぎて見た目程のダメージが入ってないってか……!?」
星竜咆哮2発を叩き込まれて活動できるとかどんな体の作りしてやがる。
そもそも雷撃が体を掠っただけでも感電して黒焦げになるのが普通だ。
それをもろに食らってピンピンしてやがるとかどう言う事だ。
ソラヒメの雷球も大してダメージが入らなかったし、奴の体の材質は一体どうなってやがる。
『シムル!』
「分かってるっての!」
ソラヒメもそれは気になっていたらしい。
nearly equalの魔法陣を展開、デカブツの体を解析する。
解析結果ーーーー
「なっ、鉄だと!?」
道理で獣臭さも一切ねぇ訳だ。
『……どう言うことですか?』
ソラヒメが何を言っているのか、とそんな顔をしている。
いや、俺だって自分が何を解析したのか何も分からねぇ。
「そのまんまだ。
奴の体は外側も内側も鉄で出来てやがる。
鉄が魔力で動いてやがるんだ。
一体どんな原理だ……!?」
『なっ!?
そんな馬鹿な……!』
さしものソラヒメもこれには驚いたらしい。
俺も無機物のモンスターとか見た事も聞いた事もねぇ。
こいつはモンスターと言うか、現象と言った方が正しいかもしれねぇが。
しかし、これで俺やソラヒメの雷撃がロクに効かない理由がこれでハッキリした。
要するに肉が無いから焦せねぇって訳だ。
問題はそれが分かったからどうするか、なんだが。
「ソラヒメ、雷撃が通じねえならどうすればいいと思う?」
そう聞くとソラヒメはふむと少し唸ってから。
『いえ、全く通じてないと言うわけではありません。
確かに雷撃によるスタンは狙えませんが、雷撃の威力そのものだけで押し切れると思います。
現に、あのモンスターの体の一部を破壊する事には成功しています。
今は一部分しか破壊できていないとは言え、こうして体中を破壊し続ければそのうち活動を停止する筈です』
「成る程な、確かにそれでダメージ重ねれば多少は怯むか……っと、ソラヒメ!
来るぞ!」
『えぇ!
フッ!!』
戦略相談をしている俺達に突進して来たデカブツが、体の各所から例の魔力光線を放って来た。
破滅を乗せて降り注ぐ光の雨。
それを見た俺とソラヒメは2手に分かれ、全力で大地を蹴る。
「もっとよく狙いやがれよッ!」
バックステップからのバク転、更に体を捻って光線の間を掻い潜る。
全身のバネを使い切って放たれた光線を躱しきる。
「さて、そんじゃテメェの光線についても教えて貰うぜ!
nearly equal!」
魔法陣を再度展開し、放たれた光線を解析する。
要素:不明
属性:不明
魔法:魔力砲
総合評価:ランクA
「……こいつはまたどう言うこった」
ランクはそこそこ、ただし要素と属性が不明って言うのは今までに無い結果だ。
ますますこいつの正体が分からないが、それでもあのデカブツがどんなモノかはこの時点でハッキリと捉えられた。
「ったく、そのまんま動く要塞って事かよ!」
相手をするのに面倒ったらありゃしねぇ。
王都のエリート警備隊がやられる訳だ!
『ハァッ!』
弾幕を躱しきったソラヒメが、さっき抉ったデカブツの脇腹に向けて再び雷撃を放つ。
『キィィィィィィィ!』
その雷撃が更にデカブツの体を焼き溶かす。
自らの危機を感じたらしいデカブツがその直後にソラヒメに向けて魔力砲を複数放つが、ソラヒメは大きく跳躍して光線及びデカブツそのものから距離を取る。
どうやら俺が前に竜骨格を使った時と同じく、今のソラヒメは竜の筋力を人間の体に押し込んだようなものであるらしい。
人間の姿であっても、飛行できないことを除けばソラヒメの戦闘力は大して衰えてはいないように思える。
ならば。
「ソラヒメ、お前の力を借りるぜ!
nearly equal:星竜骨格!」
『えぇ、どうぞ!』
体全体を覆えるだけの魔法陣を展開。
人間の姿の中にあるソラヒメの真の身体能力を解析、それらの近似値を俺の体に叩き込む。
……こいつはスゲェ。
筋繊維や骨が組み替えられる感覚を味わいながら、内心で驚嘆を漏らす。
やはり火竜の竜骨格とは比べ物にならない。
実際にソラヒメの身体能力の近似値を取るのはこれが初めてではないが、改めて感じるとワイバーンと比べる事そのものがおこがましい程の力だ。
比較対象があるからよく分かる。
あらゆるパラメータが正しい意味で規格外。
これが伝説に語られる星竜の力。
「よっしゃあ!
行くぜッ!!」
星竜骨格により圧倒的な身体能力を手に入れた俺は、デカブツに正面から突っ込む。
魔力砲が俺を狙い放たれているが、全て俺の後ろに着弾しては大地を爆ぜさせる。
「俺を狙うには遅すぎだっつーの!」
大地を駆ける流星が鋼獣までノンストップで肉迫する。
奴の攻撃が、今の俺に当たる道理はどこにも無い。
『ギュイイイイイ!』
しかしながら、デカブツにもある程度の学習能力があるのか。
デカブツから放たれた光線数発が、俺の数歩先の地面を狙って放たれる。
「俺の動きを縫ってるのかもしれないが、甘ぇんだよ!」
俺は虚空に向かって大きく跳躍する。
星竜の筋力により大きく強化された体。
そのバネを最大限まで活かした事により俺は文字通り、空へと放たれた。
そのコンマ数秒の後、俺の直下で大きく爆発が起こり爆煙と砂煙が巻き上げられる。
俺の視界は大きく遮られたが、それは相手も同じ事だ。
「まだまだ食らえや!
nearly equal:星竜咆哮ッ!」
爆煙と砂煙の中の死角から、デカブツの胴体を狙って回避不能の奇襲攻撃を食らわせる!
『ギュイイイイイィィィィィィィィ!』
最初の星竜咆哮とは比べ物にならない程の至近距離からの一撃に、鋼鉄の獣が悲鳴をあげた様に聞こえるが、まだだ。
この程度で沈む様な相手じゃない事はこいつの体を解析した俺が一番よく知っている。
「フッ!」
星竜咆哮を食らって小爆発を起こした体表へ、爆煙に紛れて着地する。
こうして至近距離に居ると獣臭さの代わりに錆臭さがスゲェな。
『キイイイイイイイイン!!!』
俺の着地に気がついたデカブツが俺を振り落とそうと暴れ始めるが、この程度じゃ俺は落ちねぇ。
落としたけりゃこの5倍は揺らしやがれ!
「1発1発叩き込んでも意味がねぇなら!
連続ならどうだ!!
ーーーーnearly equal!」
左腕でデカブツの体に掴み掛かり、魔法陣を右腕に2重展開。
星竜咆哮の近似値を+側に押し倒す!
ドシンドシンキィキィうるせえんだよ、俺が出せる最大値を叩き込んで今すぐに黙らせてやらぁ!
「加速星竜咆哮ッ!!!」
両足を踏ん張り、星竜咆哮を3割強上回った威力の一撃を瓦割りの要領でデカブツの背中に叩き込む。
今までの攻撃はどちらかと言えば単発寄りの攻撃だったが、今の加速星竜咆哮は違う。
こいつを沈めるまで只管魔法陣に魔力を送り込んで、いつまでも食らわせてやる!
「オラァァァァァァァァァァッッッ!!!」
『ギィィィィィィィ!!!』
分かる。
感じる。
間違いなくこれは悲鳴だ。
鉄の体から金切り音を鳴らしながら、自らの体を侵食する絶対暴力にデカブツが泣いている。
だが、手を抜くつもりは毛頭無い。
火花を散らしながら鉄の体を溶かし、加速星竜咆哮がデカブツの体内深くに向かって侵入していく。
『キュォォォォォォン!』
俺を振り落とそうとデカブツの体がより大きく揺れる。
だが俺は剥がれねぇ。
テメェを沈めるまで絶対に剥がれねーぞこの鉄クズ野郎が!
「大人しく!
しやがれェェェ!!」
『シムル!』
光線から逃れるために距離を取っていたソラヒメが、いつの間にかデカブツの足元まで戻って来ていた。
『鋼獣、これでも食らいなさい!』
そしてソラヒメはデカブツの抉れた脇腹まで近づくと、雷撃を超至近距離から俺と同じく連続して食らわせ始めた。
『ギュロロロロロロ!!!』
たたらを踏んで、その全身で苦悶を表すデカブツ。
揺れが止んだ、今しかねぇ!
「『ハァァァァァァァッッッ!!!!』」
闇夜に輝きながら鋼鉄の体を穿つ2つの光。
如何にその質量差が圧倒的であろうとも。
如何にその体が圧倒的に硬くとも。
如何にその身に宿る力が優れていようとも。
ーーーー伝説の星竜の前には、圧倒的に無力である。
「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
『キィィィィィィィン!!!』
シムルが咆哮を上げた次の瞬間、鋼獣の体は。
背中からシムルの、脇腹からソラヒメの雷撃がそれぞれ貫通し。
体内で十字交差する怒濤の光によって、その体に大きな風穴を開けられたのであった。
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