12話 ヒラカ開戦
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馬車に揺られて暫く。
街道のど真ん中を走ってると言うのに、馬車の窓から人っ子一人すら見かけない辺りもう既にこの辺りの住人は避難したらしい。
街道を飛ばしている馬車内にも大きな戦闘音が聞こえてくる位には目的地に近づいて来た。
戦闘音の大半が爆発音だが、それと一緒に地響きが聞こえてくる。
それにしても、一体どんな大きさのモンスターが攻めて来てるんだか。
文字通り、街に微弱ではあるものの確かな地震を起こしながら、巨大な質量が近づいてくるのを肌で感じる。
並みの大型モンスター以上にはデカイだろう。
街を囲う城壁を超えてのご対面が楽しみだ……っと。
ヒヒーン!と言うつんざく様な鳴き声と共に馬車が急停止する。
咄嗟に足で踏ん張ってつんのめるのを防いだ。
「おっちゃん、どうした!?」
まさか馬車の進行方向にモンスターが出たんじゃねぇだろうな、そう思いながら御者のおっちゃんに声をかける。
すると御者のおっちゃんは困った様にこっちを見てきた。
「すみません生徒さん。
馬が怖がって、ここから先に進もうとしません!」
見れば馬は落ち着きがなく、鼻息も荒い。
城壁で姿は見えないものの、その向こうのモンスターの存在に当てられたらしい。
これ以上馬車で進めば要らぬ事故が起こりそうだ。
「おっちゃん、ここまでで良い。
後は足で行く。
ソラヒメ、行くぞ!」
『仕方ありませんね!』
そう言うとソラヒメと共に馬車から飛び降りる。
「生徒さん方、すいません!
お気をつけて!」
「おう、おっちゃんも早く逃げてくれや!」
踵を返して城壁へと走り出す。
背中の馬の蹄音が遠ざかって行く辺り、御者のおっちゃんは脇目も振らずに行ったらしい。
その方が俺もやり易くて良いけどな。
「ソラヒメ、とっとと行こうぜ!」
何でチンタラ走ってんだ?
『……全く、元の姿に戻れればこの様な、この様な……っ!』
「言いたい事は分かるけど今は走れッ!」
ソラヒメは飛べない事に非常にご立腹だが、今は構ってやれる余裕が無い。
気がつけばさっきより爆発音が小さくなり、代わりに地響きが大きくなってきた。
下手をすると俺達が到着する頃には警備隊が全滅している可能性まである。
「チッ、何人残ってるか知らねーけど。
面倒だが助けられる連中だけでも助けてやるか……!?」
見捨てたら見捨てたでソラヒメもうるさそうだしな。
ついでにこの事がテーラにバレた時に「人助けした」って言えば許してくれるかもしれねぇし。
バレないに越した事はねーんだけど。
「よし、城門だ!
ってアレ、閉まってやがんな」
走って行くと目の前に城門が見えたが、その巨大な門は外からの侵略者を阻まんと頑なに閉じていた。
ま、俺たちには関係ねぇけど。
「ソラヒメ、非常時だ!
ぶちかませ!」
『……今回だけですよ!」
一声掛けるとソラヒメが右腕に雷の球体を作り出し、城門に向かって投げつける。
小爆発と共に城門に大穴が開いた。
よし、これで通れるな。
「さて、例のモンスターはどこに……ッ!?」
城門を抜けると見えたそのモンスターに、正直驚きを隠せなかった。
何だアレは。
まだ城壁から少し遠い上に、日が暮れて姿が見え辛くはなってはいるのだが、ただとんでもなくデカイと言うことだけは分かる。
体高は城壁と同じ、いやもっとか。
少なくとも30メートルはあるだろう。
兎に角、予想以上にデカかった。
大型モンスターなんて表現は生温い、超弩級モンスターとでも言えば良いか。
あんなのが突っ込んで来りゃ、城壁なんざ余裕で崩されそうだ。
てか、あんなのに単身立ち向かえとか……キマイラ討伐の方が何倍楽なんだか。
帰ったら学園長に必ず文句言ってやろう。
『シムル、急ぎましょう!』
つっ立ってたらソラヒメに発破をかけられた。
「分かってるっての!」
思考を切り替えろ、今は目の前に集中だ。
俺は学園長への文句を頭の隅に追い込み、現状把握への集中を始めた。
暴れてるモンスターは取り敢えず……あの1匹だけか?
おかしいな、学園長は複数体の大型モンスターが暴れてるって言ってたが。
何で1匹しかいねぇんだ。
ーーーーま、他がいるなら目の前のやつからぶちのめせばいいか。
俺達は正体不明の巨大モンスターに挑むべく、更にそいつへと走り寄る。
近づけば近づく程警備隊が戦っている光景が見えるが、近づけば近づく程にその戦況は絶望的だと分かってきた。
その巨大モンスターの下には既に数多の屍が累々と転がっており。
魔法攻撃を仕掛ける者は奮闘虚しくその巨体に踏み潰され。
空から攻撃を仕掛けるドラゴンライダーは巨大モンスターの体の至る所から発射される光、即ち魔力の光線によって翻弄され、隙を見せた者から墜とされていく。
目と鼻の先に、地獄絵図が展開されていた。
「全員退けェ!
アンタらがお呼びのシムルが来たぞォ!」
大声で叫ぶがその声は警備隊には届かない。
『キュロロロロロロロ!!!』
『ギチン!ギチン!ギチン!ギチン』
俺の発した声は、謎の巨大モンスターから発される様々な怪音によって遮られたからだ。
「クソ、あいつら聞こえてねぇな!
……そうだ、ソラヒメ!」
『もう溜めていますよ!
さぁ、こっちを向きなさい!』
横のソラヒメがさっき放った雷球を手のひらに溜め、走りながらも巨大モンスターに向けて放つ。
デカブツの体表に当たった雷球はボフン!と小爆発を起こす。
しかし、その体表が多少剥がれた程度で、大きなダメージは見られなかった。
『なんて硬さ……!』
ソラヒメの口から驚愕が漏れる。
しかし、その攻撃は無駄にはならなかった。
警備隊の連中が俺達の存在に気がついたからだ。
巨大モンスターの周りを飛んでいたドラゴンライダーの1人が、こちらに向かって飛翔して来る。
「失礼。
ローナスの制服を着てここに着たと言う事は、貴方が『キマイラ狩りのシムル』ですか?」
キマイラ狩りだと?
……いつの間にそんな二つ名紛いの何かが出来たんだかな。
「まぁ、俺がシムルっす。
学園長に言われてあのデカブツを狩りに来たんで、他の警備隊連れて一旦下がって貰って良いっすかね?」
そう言うとドラゴンライダーが目を剥いた。
「なっ、君達2人だけでアレの相手をするのか!?
それは幾ら何でも……」
「なら、アンタらが全滅するまで続けますかね?」
助けてやるってんだから今は取り敢えず退けっての。
そう言うと思う所があるらしく、黙るドラゴンライダー。
おう、物分りが良くてありがてぇな。
『ここは私達に任せて、負傷者を運んであげて下さい』
「……すまない。
武運を。」
ソラヒメにも撤退を促されると、一言二言の返事を残して再び空へと舞い上がるドラゴンライダー。
上空で魔法陣を展開して炎を打ち上げると、他の警備隊やドラゴンライダーが撤退を始めた。
蜘蛛の子を散らした様に大型モンスターから警備隊達が一気に離れていく。
また、それと並行して大型モンスターの頭がこちらへと向いた。
どうやら、標的が警備隊から俺達に変わった様だ。
『キュイイイイイイイイ!』
『ギチン!ギチン!ギチン!ギチン!』
地鳴りと怪音を引き連れて俺達の方へと向かってくる。
「それにしてもお前、中々キモい見た目してんなぁ」
その体からギィギィと何かが擦れる様な、不快な音を立てながら近付くデカブツを見据える。
辺りが夜の闇に沈んできたが、デカブツから近づいてくるお陰でその体の特徴がハッキリしてきた。
体は左右非対称でデコボコしている。
6足の足が体の真横から出ていて虫の様だが、頭はドラゴン型のシルエットで首はスラリと天に向かっている。
それに、体中から煙の様なモノを吹き上げている所もかなり特徴的だ。
体の大きさもそうだが、どうしてこんなのが王都に近付くまで見つからなかったのか本当に驚きだ。
それに気になる所が一つ。
こいつは本当にモンスターなのか?
いや、モンスターでなければ何なのかと言う話なのだが。
そもそもモンスターとは、体内に魔力を持った動物だ。
魔力が体を強化するので普通の動物以上に体が大きく。
また、高い身体能力を持ち、ある程度歳を重ねたモンスターは魔法攻撃すら行うものもいる。
ただし、モンスターも所詮は動物。
自然の原理法則に従った『姿』になる。
よって、あんな虫だか竜だかよく分からない様な姿になる事はまずない。
ーーーー筈のだが。
まぁ、現に目の前に居るんだからモンスターって言うしかねーわな。
ただ、キテレツな姿ってんならーーーー
黒い翼を持つ化け物の姿が一瞬脳裏を掠める。
いやいや。
まさか、な。
「……まぁこいつについてはどうでもいいや。
どうせココで倒すんだしよ。
ーーーーソラヒメ、イケるか?」
『えぇ、当然!』
両腕に雷撃を纏わせながら力強く答えるソラヒメ。
「なら、行くぜ相棒!
ーーーーnearly equal!!」
ソラヒメの両腕に溜まる雷撃を解析。
両腕に魔法陣を展開してソラヒメと同じく雷撃を溜めていく。
幸い、あのデカブツはその大きさから良い的になる上、見た目通り機動力が皆無だ。
先手必勝だこの野郎が。
「ーーーー星竜咆哮!」
『ーーーーハァッ!』
俺とソラヒメの放った超高密度魔力の光が、闇を切り裂きながらデカブツに向かって発射される。
夜空を流れる流星の如きその2つの光は、吸い込まれる様にしてデカブツの脇腹とおぼしき箇所に同時に突き刺さり、爆発した。
今ここに。
後の世に言う『ヒラカ防衛戦』の戦端の幕が、本格的に切って落とされたのだった。
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