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11話 貧乏くじを速攻で引いちまったか

皆様のお陰でまだまだ日間3位に残っています。

ありがとうございます!!

「学園長ォ!

尾段(びだん)のシムルっす!

失礼しまぁす!!!」


ドンッ!という音を立てながらドアを壁に叩きつける様に開ける。

挨拶代わりには丁度良いだろう。


「おぉ、シムル君。

いきなり呼び出して済まなかったね。

……それと、この前君が蹴ったせいでそのドアは至る所が軋んでいるから、もっと丁寧に扱いなさい」


言われてドアを見ると蹴った跡が付いていた。

おう、何でもっとくっきり残ってねぇんだ。


「ドアを乱暴にされるのが嫌なら俺を呼ばないことっすね。

それで、今回は何すかね。

この前同様に心当たりが何も無いんすけど」


「それは当然じゃ。

今回は、私から君に頼みがあって呼んだのだから」


そう言うと学園の顔つきが変わった。

目に鋭い光が宿った様だ。


尾段(びだん)生、いや。

王都選抜特待生シムル。

君にはドラゴンライダーの予備軍として、ヒラカ街に行って貰いたい」


「……ハァ」


どうやら俺は、王都選抜特待生とやらの貧乏くじ要素を速攻で引いちまったらしい。

面倒だし断りたさしかねぇんだが。

その前にまず聞かなきゃいけない事が1つ。


「そのヒラカって場所は、ここから近いのか?」


「うむ。

馬車で数十分といったところじゃ。

現に学園や王都に危険が及ぶと判断された為、君を呼んだと言う訳だ」


そうか、近いのか。


「それで、アンタは俺に何をさせたい?」


「王都の警備隊から連絡が入っての。

現在ヒラカ街付近で、原因は不明じゃが複数の大型モンスターが暴れているとの連絡が入った。

現在警備隊が交戦中らしいが、残念な事にもう保ちそうにないらしい。

事は一刻を争う。

そこで急遽、キマイラを『単独で』討伐した実力を持つ君にお呼びがかかったのだ」


へぇ、そう言うことか。

王都の近くで大型モンスターが大暴れとか、警備隊が負けそうだとか色々突っ込み所はあるのだが。

この際そんな事は言ったところで仕方がないだろう。

それにしてもキマイラを『単騎で』じゃなく『単独で』か。

そこを強調してきたって事は、末端の警備隊にもソラヒメについては伏せてるって話か。


「シムル君。

受けてくれるかの?」


拒否権なんかいつもと同じくねぇだろ。

内心舌打ちしながらも、表面上は聞きたいことを冷静に聞く様にする。


「その前に3つ聞かせろ。

まず、ヒラカに飛ばされるのは俺だけか?

他の特待生はどうした」


前々から思っていたが、別に王都選抜特待生は俺1人じゃ無いはずだ。

恐らく、アルス・テルドロッテもその1人だろう。


「……すまんがシムル君。

ヒラカに行くのは君1人だ」


「それはどう言う訳か、説明はあるよな?」


申し訳無さそうに肩をすくめる学園長に何となく溜飲が下がる。

逆に今の態度は、俺が単独で行く事についてはもうどうしようもないらしい事の表れなのだが。


「このローナスは一般生徒の入学を認めているとは言え、生徒の大半は貴族か豪商のご子息。

また、現在の王都選抜特待生は君以外が全員そう言った者達じゃ。

彼らを動員させるとなると、そのご両親や親族からの学園への圧力が強いと言う理由がある。

……ただ、それ以上に彼らには実戦の経験が圧倒的に足りない。

警備隊が不覚を取る程のモンスターを相手にするには実力不足だろう。

また、戦闘能力以外の点を買われて王都選抜特待生になった者たちもおる。

彼らの戦闘力は言うに及ばずじゃ」


チッ、これだから坊ちゃん共は。

俺に面倒をゴッソリ押し付けやがって。


「それに学園の安全を考えると、王都選抜特待生を全員動かす訳にもいかんしの」


そりゃ建前だろ、間違いなくよ。


「つまり、俺以外は現状だと動かせねーし。

逆に動かした所で犬死する可能性がデカいって訳だ」


一応アルス・テルドロッテの例を考えるに、他の王都選抜特待生連中も武闘派ならそれなりのやり手だとは思うんだが。

警備隊がやられそうって事からして今回の相手は軽くそれを上回る位には厄介らしい。

ま、(アルス)来ねーのは良いや。

また突っかかられても面倒だ。


「なら2つ目だ。

俺はドラゴンライダーの予備軍って話だったが、本軍の連中は俺みてーな生徒に頼りたい程余裕がねぇのか?」


そう聞くと学園長はふむ、と言って暫く考え込んだ。


「……そうじゃな。

黙っていても仕方がない。

この事は、口外せんようにな。

近々、シャルロット姫殿下がガルム王国のクライド皇太子とご成婚なさるそうでな。

王宮は現在、姫殿下に万が一の事が無い様厳重な警備が敷かれておる」


「はぁ、それでバーリッシュと小競り合いしてない本軍の連中は全員王宮の警備に回されてるって訳だ」


「それに加え、王宮から増援を出すよりもローナスからヒラカ街へ君を派遣した方が近い上、迅速に事を終わらせられるであろうと言う王宮の判断もある」


ローナスの立地面でも俺に白羽の矢が立ったのか。

つくづく嫌な学園だ。

と言うか、王宮で働いてるドラゴンライダーも暇そうで良いご身分だなオイ。

あんなガッチガチの王宮に奇襲をかけるやつとかそうそう居な……ソラヒメ位だろう。


てかあのお姫様結婚するのかよ。

そんな歳には見えなかったんだけど、政略結婚ってやつか?

まぁいい、次だ次。

これが一番重要な話だ。


「そんじゃ最後の質問だ。

今回、俺はソラヒメに乗って行ける訳?

ソラヒメの存在は隠すって方向で話が進んでたと思うんだけど」


そう聞くと学園長が押し黙る。


オイオイ、無理なのかよ?

そもそもドラゴンライダーにドラゴンに乗らずに戦えとか指示出すのは色々問題があんだろ。

ソラヒメを連れて行けない……なんて、んな訳ねぇか。

これじゃあ学園長からしたら、俺に対して相当な無茶振りを強いる形になる。

まぁ相手によっちゃあ俺1人でも十分だろうが。

流石にあの学園長がこんな要求を通して来るか?

そうは思えねえんだが……。


俺は、暫く悩んで口を開いた。


「……なら質問を変えるんすけど。

俺は、ソラヒメに乗らなきゃ良い訳?」


そう言うと何も言わずに頷く学園長。

俺を見据える瞳に力を感じる。

ほぉ、こりゃビンゴだな。


「んー、なら俺はソラヒメには乗らないって方向で。

それで、今から行けば良いんすか?」


「うむ、既に馬車が正門に着いておる。

ただ、シムル君。

私からも1つ聞きたい事があっての」


「ウス、何すか?」


俺だけ聞きっぱなしってのもアレだしな。

まぁ、何を聞かれるかは見当がついてるんだが。


「君は、何故今回の話について協力的なんじゃ?

実を言うと、今回の話は一蹴されると思っていたのだが」


「アレ、一蹴してもいいの?

……なんてのは冗談だ、そんな顔すんなよ学園長」


よし、良い顔貰ったわ。

これで今回の呼び出しはチャラにしてやる。


「学園長、アンタ言っただろ?

ヒラカは学園に近えってな」


「うむ、それはつまり……」


「勘違いすんな。

俺が出張ってやるのは、テーラが学園(ここ)に居るからだ」


「ーーーー」


そうだ、俺がこの背中に守りたいのはただ1人。


「アンタの為でも、学園の為でもねぇ」


王都や学園を守る為、なんざご大層なお題目の為に命なんか張れるかボケ。


「アンタらが助かるのも、ヒラカや王都が助かるのも」


俺は親父のみてーに、守りたいものの為だけに命を張る。


「全部テーラのついでだと思え」


ただそれだけだ。

そもそもテーラが居なけりゃ、模擬戦(デュエル)の前にローナスを抜け出す事を無理矢理にでも検討していただろうしな。


「じゃあな、学園長。

面倒が片付いたらまた来るわ」


そう言い捨て、俺は学園長室を後にした。

今回もくだらない話をしたし、これからやる事もくだらねぇ。

学園長室のドアを蹴ったって収まらねえ程にくだらねぇや。

どいつもこいつも俺にたかりやがって。

ただ。


「テーラに危険が及ぶかもしれねーなら、片付けなきゃな」


学園長室に呼び出された原因を作った上にテーラとの時間を奪った雑魚(モンスター)共、お前らは叩き潰してやる。

首洗って待ってやがれ。



「……ふむふむ」


シムルが学園長室を出た後、アルバヌス学園長は椅子に深く腰掛けながら満足そうに笑った。


「ライナス。

シムル君は本当に若い頃の君にそっくりだね」


アルバヌス学園長はそう言うと、過ぎ去った遠い過去を懐かしむ様に静かに目を閉じるのだった。



「つー訳でソラヒメ。

とっととモンスター狩りに行こうぜ」


学園長室を出た後、俺はソラヒメに事情を説明しに竜舎近くのグラウンドまで来ていた。

テーラを待たせてるし、2人で行った方が早そうだしな。

まぁ、テーラに言わなくて良いのかって話なんだが……言えば間違いなくテーラは止めに来る。

だから、今回の件はテーラにバレない様に早急に片付ける。


『シムル、聞いた話では私は貴方に着いて行けなさそうなのですが……いや、この話を聞いた以上は当然着いて行くのですが。

それでも堂々と私を連れて行くと言うことは、何か考えがあるのですか?』


「考えもクソもねーよ。

ソラヒメには人間の姿になって貰うってだけだ」


『……成る程、そう言うことですか」


俺の言いたいことをソラヒメは直ぐに理解してくれた。


学園長は、「ソラヒメに乗っちゃダメだ」と言う事を肯定さえしたものの、一言も「ソラヒメを連れて行くな」とは言わなかった。

それは裏を返せば「ソラヒメの存在が露見しなければ問題無い」と言うことじゃないかと俺は踏んだ。

なら、ソラヒメが人間の姿になれば何も問題はない。

ただ、学園長はその立場上「こうしてソラヒメを連れて行けばいい」とは言えなかったんだろう。

面倒くさそうな役回りで結構なこったな。


「ちなみに今更なんだが。

ソラヒメ、人間の姿で攻撃って出来るのか?」


『えぇ。

人間の姿そのものが高密度の魔力体ですから、ブレスや雷撃を放つ事は出来ますよ』


上出来だ。


「よし、それじゃ校門前に馬車が待ってるらしいからとっとと行こうぜ」


『えぇ、そうしましょう』


テーラを守る為、雑魚(モンスター)共をシバく為。

俺とソラヒメは夕焼けに染まるグラウンドから動き出した。








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