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9話 学園は授業項目を見直せよ

昨日は日間総合ランキング100位以内に入ったと報告致しましたが、気がつけば10位前後まで上がっていました!

読者の皆様、本当にありがとうございます。

「......は?」


思考が止まる。


ここ、王立ローナス学園は入試倍率3桁の超エリート学園にして王都最上級校の1つだ。

その学園のクラストップレベルの秀才が何言ってやがる。

冗談ならもう良いっての。


頭の中には幾らでもテーラへのツッコミが思いつくが、真面目な顔で話すテーラにそれらを言う事は憚られた。


「シムル。

だからそのビブンセキ......何だっけ?

あともう一つも」


「...微分積分と三角関数だ」


「そう、それそれ!

それってどんなものなの?

計算式?」


たまげた。

テーラはマジで微分積分と三角関数について知らないらしい。

挙句タダの掛け算が書いてある教科書を見てクラストップが「難しい」とか言っているのだ。

余計にたまげるわ。

王都の学園の数学力はどうなってやがる。


「...取り敢えず、説明してやんよ。

まずは微分からだ。

微分ってのはな、変数の小さい変化に対応する関数の変化の割合の、その最大値を求めることを言うんだよ。

ついでに関数の変化量もな」


「.......。」


説明するとテーラが目を大きくしたまま動かなくなった。


「おーい、大丈夫か?」


テーラの顔の前で手を振ってみる。


「え、えぇ。

でも、ちょっと何言ってるか分からないわ。

シムル、今の説明ってアンタが適当に考えた訳じゃなくて?」


「な訳ねーだろ。

ちゃんと解いて理解したっての」


「......。」


ジトッとした顔で俺を睨むテーラ。

あ、コイツ信用してねぇな?


「なら論より証拠だ。

さっきの小難しい話は一旦忘れろ」


俺はノートにスラスラと簡単な数式を書いた。


《(X^n)'=nX^(n-1)》

よし、こんな所か。


「テーラ、微分ってのはこう言うモンだ。

ここからお前が分からない所について質問してくれ。

さっきのお返しで何でも答えてやんよ」


この程度の簡単な例ならある程度理解できるだろうし、俺だって解説が可能だ。

さぁ、どこからでもかかって来いよ!


「...なら、まず1つ目の質問よ。

シムル、これどこの国の文章?」


「......へっ?」


再びの予想の斜め上を行く質問に変な声が出た。

一瞬テーラが何を言いたいのか分からなかったが、3秒位してようやく理解した。


「いや、お前!

公式だよ公式。

記号に代入して解くアレだよ!

この文字が分かりづらいなら、◯でも□でも書き直せば...」


「◯でも□でも!?

それじゃあこの式に法則とかってないの!?

デタラメじゃない!

...それと、代入って何?」


それを聞いた俺は一瞬で悟った。

ーーーコレは、ダメなやつだ。


テーラは文字式すら理解出来ていない。

今のテーラに微分積分どころか三角関数を教えるのは夢のまた夢だろう。


「...何よシムル。

言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」


「いや、その...な。

すまねぇテーラ、教えるには色々と早かったらしい」


目を逸らしながら謝る。

何故だか、テーラに対して申し訳なさがこみ上げて来た。


「な、何よ!

馬鹿にしてるの!?」


顔を赤くしてむくれるテーラ。


「いや違えよ。

テーラが知らない事を無理矢理突っ込んで悪かったって言ってんだよ」


「やっぱり馬鹿にしてるじゃない!

なら、教科書の問題を解いてみてよ!

すぐに解けたらアンタが難しい計算が出来るって認めてやるわ!!!」


どうもテーラの負けず嫌いスイッチを入れちまったらしい。

とんだ失態だ。

テーラが机の上の教科書を乱暴にひったくってページを適当に開く。


「12×12は!?」


「144」


11×11から19×19は公式みたいなもんだ。

即答に決まってるだろ、小手調べってやつか。


「なっ!?」


「オイ待て驚くのが早すぎんだろ!?」


どう言う事だ。

一体どこに驚く要素があった!?


「...よく12を12回も頭の中で足せたわね......」


死にたくなった。

学園の秀才がこのザマだ。

真面目な話、今のはテーラが未だに俺をからかっている可能性も否定出来ないような言い方だった。

それでも悲しい事に、テーラの顔は至って真面目だ。


さっきやった竜生態学との開ききったこの差は何なんだよ。

今すぐ学園長室に乗り込んで、数学を自主勉強なんかにせずちゃんと授業項目に組み込めや!と強く叫びたい。


「なら...6×3×6×3は?」


「324」


完全にさっきの問題の延長線上の話じゃねーか。


「シムル、何で手計算無しに今のも分かったの!?

アンタ答えさっき見てたんじゃ...」


「舐めんな!!!」


あ、テーラが少し涙目になって引いた。

...少し言いすぎたか。

何はともあれ、よく分かった。


俺の親父は、

「数学は世界の共通言語だ。

どこの国、どこの世界でも数の概念は変わらない。

だから数学を知っていればどこの世界でも生きていけるし、数学の話で友達もできるさ」

などと言っていたのだが。


そんな事は嘘っぱちで、親父の数学論は実は無駄に凄かったって事だけはよく分かったァッ!

何が世界の共通言語だ、何も理解されてねーじゃねーか!?

完全に外国語扱いだったじゃねーかよ!


...いや待てよ俺、冷静になれ。

よく考えろ。

そもそも、王都どころかこの国の数学のレベルって一体どんなもんなんだろうか?


一応試してみよう。

一応、な。


「なぁテーラ。

729を割れるだけ3で割り続けてみてくれ。

それでその結果を俺に教えてくれ」


ちなみに、7+2+9=18。

それぞれの桁数の合計が3の倍数より最終的には割り切れる、と言うのが正解だ。

これは流石に簡単すぎたか?


「えっと...」


「待て、紙とペンに手を伸ばすな。

暗算で解け」


「...分かったわ!

シムルに出来て私に出来ない筈ないもの!」


頼むからそうあってくれ。


「うーんと...あ、分かったわ!」


ん?

何で目を細めながら笑ってるんだよ?


「シムルったら、今の問題適当に作ってて答え分からないでしょ?

全く、適当に言ったこんな大きな数字を割ってちゃんとした数なんて出るわけないじゃない

せめて3じゃなくて、2の数で割りきれる偶数の問題を作るべきだったわね」


.......。


「テーラ、紙渡してやるから解いてみろ。

ちゃんとした数どころか綺麗な結果が出てくるぞ」


「えっ、そんな事」


「良いから、紙に書いてみろ」


俺は諭すようにテーラに鉛筆を握らせた。



ーーー5分後。


「グスッ...シムルに、勉強で負けた.....」


そこには絶望に打ちひしがれたかの様な姿のテーラがテーブルに伏していた。

テーラのノートには729=3×3×3×...と、3が律儀かつ整然と並んでいる。


「ま、まぁ待てよ。

知らなきゃ出来ないこともあるしよ。

ほら、竜生態学を俺に教えてくれてた時のお前と同じだって」


上手いこと言ってテーラをなだめてみる。

いや別に俺は悪い事をしてはいないのだが。


「......そうね、シムルは数学がとてもできる事は分かったわ。

基礎数学の勉強はもう終わりにしましょ。

このままだと、私がシムルに質問することになるわ」


どんよりした声で机に突っ伏しながらそう呟くテーラ。

机と腕で声がこもっていて、声のトーンが余計に低く聞こえる。


「いや、さっきの微分についても分からないが所があるなら俺に聞いても...」


次の瞬間、テーラはガバッと机から起き上がった。


「嫌よ!

勉強だけはシムルに聞くのは、嫌!!」


テーラは涙目で訴えながら、断固として嫌がる姿勢を見せてくる。


「分かった。

なら今日はもう勉強やめるか」


俺は大きく息を吐きながら椅子の背もたれにどっかりと寄りかかった。

背もたれが首より低いので、俺の顔は上を向く様になった。


「こうしてると、昔親父に数学習ってた時のことを思い出すな...」


あの頃の俺は親父に数学を叩き込まれて今のテーラみたいになってたっけな。

それで疲れるたびにこうやって背もたれに寄りかかって天井を見上げてたっけか。

その内勉強が嫌で逃げ出して、テーラに会って。

ガキの頃の英才教育の反発で、我ながら今じゃ俺は悪ガキもいい所だ。


「ねぇ、シムル。

さっきもお父さんについて言ってたけど、シムルはお父さんから数学を習ってたの?」


「あぁ。

何かやけに頭の良い人だったんでな。

小さい頃から数学について叩き込まれてた」


「そうなんだ。

シムルのお父さんがそんなに凄い人だったなんて知らなかったわ。

......てっきり今のシムルみたいな人だと」


自然な感じに小馬鹿にされた気がしたが...まぁいい。

それより親父について、か。


「親父は俺とは間逆だ。

冷静で頭がキレてかつ誰にでも優しかったな。

まぁ、親父はちゃんとした教育を受けて育ったみてぇだし、何処かの没落貴族だったりしてな」


ハハハと笑いながら答える。

でも実際に親父から教えて貰った数学がこうもテーラと差があると、本当にその節があるな。


「所で、お父さんはセプト村に居たのよね?

私も会いたかったなぁ。

どうして教えてくれなかったのよ?」


「何つーか、あの頃は何となく親父に訳の分からないことをやらされてる気がしてな。

俺を無理矢理机に向かわせて、数学とかその他諸々を教えてくる親父があまり好きじゃなかったんだよ。

お前と同じで、あの時の俺にとって、家の事は少し避けたい話だったんだ」


「今もお父さんの事は嫌い?」


「いや、大好きだ。

物心ついた時にお袋は居なかったし、親父から色々教わったしな。

感謝してるよ」


今とあの頃じゃ感じ方が丸で違う。

逐一面倒だと思ってた、学問から生活術に至るまでの親父の細かい『授業』は、全部俺の為だったんだと今になって感じている。

あの頃の俺は本当に親父に大切にされていた。


「なら今度の夏休み、シムルが帰る時に私も一緒に行って良い?

ご挨拶がしたいわ」


「勿論良いぜ。

墓参りついでにテーラを連れてけば親父も喜ぶかもな」


予想はしていたが、そう言うとザクッとヒビが入った様な顔をするテーラ。

まぁ、下手に隠す意味も無いし仕方ないな。


「その...ごめんね」


「良いんだよ別に。

俺は親父を恨んじゃいねーし。

思い出しても何ともねぇや」


「今は、シムルのお父さんが遺してくれた数学は好き?」


「んー、それは何ともな。

日常生活で役に立つわけでもないしな。

でも数学が分からなきゃnearly equalは使いこなせねーし、親父には感謝してるよ。

多分親父には俺がnearly equalを使う日が来ることを分かってたんじゃねーか、って最近思ってる」


「...nearly equaって、難しい数学を理解しなきゃ使えない様な魔法なの?」


テーラの顔が面白いくらい苦くなった。

そんなにトラウマか。


「あぁ、実はそうなんだよ。

昨日だってテーラの体の中の魔力を測るのにnearly equalで割合とか計算したしな。

他にも速度とか重さは全部別々のデータとして見ることになるから、それを応用するなら自分で考えなきゃならねぇ」


「割合って、1割2割の?」


「おう、パーセンテージの事だ」


「もう、何よそれ」


そんな会話をつらつらと重ねている内に、俺は昔の事を思い出していた。

親父が死んだ、その日からその後の話だ。






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