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4話 テーラの苦悩

クラスの半分が一気に魔法陣を展開できる様になった翌日。

魔法陣がまだ展開出来ないもう半分の連中の為に、今日も俺はグラウンドに来ていた。

当然マックスも引きずりながら。


「シムル、俺本当に今日もやらされるのかよ...」


「今回の件はお前が原因も良いところだ。

最後まで付き合いやがれ」


「...分かりました分かりました。

昨日の夜みたいなことは勘弁を」


イイ笑い方をしてやると大人しくなるマックス。

昨日のが中々効いたか、何よりだ。


「さて、そんじゃマックスが黙った所で始めるか...と、言いたいところだが。

今日はスペシャルゲストを呼んでいるんだわ。

良いぜ、こっちに来てくれ!!!」


大声でスペシャルゲストに声を掛ける。

集まったクラスメイトが周りを見回しているが、広いグラウンドには自分たち以外に誰もいない事に首を傾げている。

残念、上なんだわ。


ヒュウウウという落下音と共に俺たちを大きな影が覆う。

クラスメイト達は「雲が出たか?」と上を向いたがそれは違った。

白い竜が高高度から頭を下に向けて自由落下して来たのだ。


「「「わぁぁぁぁぁぁっ!!??」」」


自分達に高速で迫る巨大な質量にクラスメイト達が慄く。

あの巨体が人間の上に高高度から降って来たら間違いなく人間の体はミンチになる。


その巨体がクラスメイト達に迫り、あわや押しつぶしそうになった時。


「ソラヒメ!

そろそろ良いぜ!!」


『分かっています!』


頭から落下してきた白い竜...もといソラヒメはクラスメイト達の真上で大きく羽ばたいて落下の衝撃を和らげる。

そしてそのまま空中でくるりと一回転して俺の真横に着地した。


「出来るっつーからやってもらったけど、いざ目の前でやられると割とヒヤヒヤするな」


『やれと言ったのはシムルですよ』


目を細めながら俺を見るソラヒメ。


「それはご愛嬌っつー事でな。

てな訳で、今回のスペシャルゲストはソラヒメだ!

今回お前らには俺と一緒にソラヒメの相手もして貰う。

頑張ってくれよ!!!」


「そんな無茶な!?」


「いやいやそれは無理だって」


「死んじゃうよ!

さっきだってとっても危なかったよ!」


次から次へと文句を言うクラスメイト達。


「うるせぇ!

お前らが魔法陣を昨日展開出来なかったからわざわざソラヒメまで呼んでこうして来てやってるんだろうが!!

と言うか昨日やるって言っただろお前ら!

文句ある奴はやらなくて良いからとっとと帰れ!!」


怒鳴り散らすとあれこれと騒いでた連中が黙った。

昨日自分達がやると言ったことを捻じ曲げる奴は居ないらしい。

それに、試験までに魔法陣が使えなくても困るだろう。

とは言えソラヒメは予想外も良いところだっただろうが。


ちなみに俺だってなんの考えも無しにソラヒメを呼んだ訳じゃない。

必要だと思ったから呼んだまでだ。


昨日魔法陣を展開出来た連中と展開出来なかった連中の差は何か。

軽く考えてみたが、単純にビビり方に差があったんじゃないだろうか、そんな結論に至った。

昨日はクラスメイト50人に対して俺1人が襲いかかる形になったのだが、流石に全員を一度に襲うことはできない。

一部の俺の視界から逃れた奴は棒立ちしている時間が長かったという訳だ。

また昨日は襲ったものの、ある程度そいつが図太い為に大してビビらず死ぬ気になれなかった、と言うことも考えられる。


この2つの問題点を解消する為に用意したスペシャルゲストがソラヒメだ。

竜の体の大きさならここに居る24人、いや。

マックス込みの25人程度軽くカバーできるし、そこに俺も合わさるとなれば、体術素人のクラスメイトが相手なら均等に襲いかかる事も出来るだろう。

それにさっきソラヒメが落ちて来た時に集まった連中の顔を見てみたが、全員愕然とした顔をしていた。

この分なら全員緊張感を十分に持ってくれるだろう。


「さ、今度こそ始めようぜ。

ルールは当然昨日と同じだ。

一応言っておくけどお前ら...死ぬなよ?」


固唾を飲んで頷くクラスメイト達。


「よし、スタートだ!

ソラヒメ、撃て!!」


『はい!』


ソラヒメが光粒子を圧縮し、電撃ブレスを放つモーションを始める。

それを見たクラスメイト達が咄嗟にソラヒメから離れようと逃げだす。

オイオイ、何処に行こうってんだよ。


『ふんっ!』


ソラヒメがブレスを放った先はクラスメイト達が逃げようとしていた方向だった。

クラスメイト達の鼻先の地面が雷撃ブレスによって穿たれ、線が引かれる。


「「「っ!!!」」」


急停止するクラスメイト達。

雷撃ブレスは俺からしたらかなり手心が加えられてると感じたが、鼻先に叩き込まれたあいつらからしたら堪ったものじゃないだろうな。


『私に背を向けて逃げようなどと、中々余裕がありますね。

それと、今軽く引いた線からは出ない事をオススメしますよ』


「...出た場合は?」


『ご想像にお任せします』


震えた声で聞いてきたクラスメイトの質問に弾んだ声で答えるソラヒメ。

...コイツ、もう暴君モードに入りやがったのか。

てかソラヒメ、流石に今のは俺だって可哀想だと思うぜ。

質問してきた奴なんか涙目じゃねーか、同情してやりたいね。


『シムル、何をしているのですか。

貴方も早く攻げ...相手をしてあげてください』


再び体内で光粒子を圧縮しながら俺に話しかけるソラヒメ。

俺はあいつらの相手をしてやる以前に、今お前が言いかけた言葉が非ッ常に不安だよ。


コイツはクラスメイトに対して最後まで手を抜けるのだろうか。

途中から本気で攻撃しないよな?

...しない...よな??


「ま、その時はその時だな。

nearly equal!!!」


杞憂だと割り切って魔法陣を右腕に展開。

ソラヒメのブレスを解析(スキャン)


星竜咆哮(スターライトバースト)!」


ソラヒメが逃げ道を囲う様に雷撃ブレスを放っているなら、俺は逃げ回っている連中をこっちに誘導する様に撃てばいい。

勘付かれない程度に雷撃による誘導をしてやる。


その片手間にふと思いつき、ソラヒメのブレスについての解析(スキャン)結果を確認してみる。


【星竜ソラヒメ】

要素:光

属性:雷

魔法:雷撃ブレス

総合評価:ランクA+〜


前に測った時が計測上限外とか言う訳のわからない結果だった辺り、今回はまだ手を抜いているらしい。

とは言え現状のブレスですら最上級魔法クラスの破壊力を誇っているのだが。


『その程度ですか、まだまだいきますよ!!」


雷撃ブレスを悲鳴を上げ、逃げ惑うクラスメイトに次から次へと叩き込むソラヒメ。

地獄絵図だなこりゃ。

目の前の光景について、大きな暴君が小さな民衆を虐げてる図を分かりやすくしたらこうなった、みたいな風にしか映らないのは俺だけだろうか。

この例えもソラヒメが当代の竜王とやらなだけに、あながち間違っては居ないだろうから困るのだが。


「も、もう嫌だ!

こうなったらやってやる!

ウォォォォォォォォ!!!」


雄叫びと共に俺に向かって1人のクラスメイトか突進してきた。

コレは...来るか!


「ハァァァァァ!!!」


そのクラスメイトが大声を張り上げて魔法陣を展開。

水の槍が放たれて俺へと迫る。


「や、やった!?」


槍投げ君が歓喜の声を上げ、本日最初の合格者が出た事に周りのクラスメイトがどよめく。

あぁ、魔法陣も展開出来てるし合格だ。

ーーーただし、それはどよめいてるお前らじゃねぇんだけどな。


「よっと」


飛来した水の槍を俺は身を屈めながら体を半回転させて躱す。


「おらよ!

ぼさっとしてんじゃ、ねぇ!!」


右腕を上に挙げて真上を通過しかけていた水の槍を掴み取り、回転の遠心力を利用してどよめいてる連中の方へと叩き込む!


「「「!!??」」」


唐突に水の槍が方向転換して来たことに驚くクラスメイト達。

そしてその水の槍が向かう先には。


「キャッ!?」


1人の女子の姿があった。

近くの男がそいつを庇おうとするが、間に合わない事は明らかだ。

いや、間に合っちゃいけねぇ。

それはそいつの為にならない。


周りの連中には数秒後に女子が串刺しになってる光景が目に浮かんだだろうが、問題はない。

何故なら。


「ッッッ!!!」


声にならない叫びを上げた女子が魔法陣を展開、そしてその下から土の壁が現れた。

そう、俺が昨日解析(スキャン)した時点でそいつは地属性の使い手だと分かっていたからだ。


水の槍が岩盤の壁に当たって明後日の方向へと弾け飛ぶ。


防御に長ける地属性ならあの程度の水の槍は流石に躱せるだろうと思っていたが、大当たりだったな。


「よし、つー訳で2人合格だ。

この際俺に魔法を当てなくても魔法陣が出れば合格にしてやる。

...お前らさ、ぼさっとすんなよ?

今みてーな事も実戦じゃあるんだぜ?

今も、この先も死にたくなかったらな。

お前ら全員!

今ここで!

死ぬ気で魔法陣を使える様にしろ!!

分かったか!!!」


さっきまでどよめいてた連中に発破をかける。


将来ドラゴンライダーとして戦場を駆ける為に学園(ここ)に来ている癖に訓練で甘い事してんじゃねぇ。

今のお前らじゃ(ワイバーン)に乗ってたって俺の田舎で自給自足すら出来ねーぞ。


俺の気持ちが伝わったらしく、発破をかけられた奴らは次々に「はい!」とか「分かりました!」とかの返事を返す。

それで良い、俺だってやり甲斐があるってもんだ。


「よし、それじゃ次のセット行くぞォ!!!」


「「「オオォ!!!」」」


謎の連帯感を手に入れた俺たちの魔法陣発動訓練はその後、更なる熾烈を極めた。


ある者は焦げかけ、ある者は岩に跳ね飛ばされかけ。

それでもある者は身を呈して仲間を庇い、またある者は自ら俺の気を引き...「シムル、待て待て本当にこれ以上は死ぬって!」違った、とある馬鹿(マックス)は仲間の為に自ら危険を冒して俺の気を引いていた。


そうして夕暮れ時まで続けた結果。


「合格者、23人!

マックスと不合格者1名以外帰ってよし!!

お前ら、良くやった!!!」


(みな)、良く頑張りましたね。

褒めて使わせます』


「「「ありがとうございました!

お疲れ様でした!!!」」」


一斉に頭を下げて帰る大半のクラスメイト達。

本当に大体の連中が魔法陣を使える様になった。

ノリと勢いに任せた訓練ってすげーなこりゃ。

てかソラヒメも地味にノリノリじゃねーか。

昨日もこうやってソラヒメ込みで乗せればよかったか。


「...なぁ、ここってどこの武闘班?」


「...知らないわよ。

.....皆んな、青春してるわねぇ」


既に帰ることを諦めている顔をしたマックスと負合格者1名、もといテーラが死んだ顔で夕暮れの空を見ながらボソボソ何か言っている。


「オイテーラ。

よりにもよって何でお前が最後まで残るんだよ。

お前、成績優秀じゃなかったのかよ?」


いや、本当にこれは意外だった。

てっきり俺は昨日魔法陣展開訓練を始めた時点で、テーラが1抜け2抜けするものだと思っていた。


「その...ね。

私、こう見えて魔法を使う才能が無いって生まれた時から言われてたの。

魔力はちゃんとあるけど、そのコントロールが生れつき下手だから下手をすれば一生魔法は使えないかもって」


しょんぼりした顔でとんでも無いことを口にしたテーラ。


「は?

マジかよ」


衝撃のカミングアウトに、一瞬固まる。

いや、俺以外にもソラヒメやマックスですら固まっただろう。

先天的な魔力機能障害だなんてそんな馬鹿な、と。


「...何つーか...悪い事しちまったな」


「...何がよ?

シムルは一生懸命やってくれたじゃない」


悲しそうに笑いながらそう言うテーラ。

...そう無理に笑うのはやめてくれ。

彼女(おまえ)のそう言う顔を見るのは俺の心が死ぬ程苦しい。


「...事情を知らずにこうやって最後まで残して晒し者みてーにしちまった事だよ。

今回は俺も悪かったけどよ、アレだ、次からそう言う大切な事は最初から言えよ」


思わずはぐらかす様な言い方になった。

しかし、次の瞬間俺はそれを文字通り死ぬ程後悔した。


「うぅん、これで良かったのよ。

この事は言わなくて...良かったの。

魔法はどうせこれからも使えないからって座学を頑張って......それでも諦めきれなくて。

魔法についての勉強を頑張ってきたけど...これで分かったわ。

私は皆んなみたいに魔法は使えない。

それが今日、良く分かったわ...馬鹿みたい」


「悪かった」


テーラの細い体を有無を言わせず力一杯抱きしめる。

これ以上何か言わせて堪るかよ。

その体には丸で力が入っていなくて、力一杯抱きしめていないとテーラがどこかに行ってしまいそうだった。

次第にグスッ、グスッとテーラが嗚咽を漏らす。


畜生。

元々はテーラの為に始めた魔法練習なのに何でこうなっちまったんだ。

俺はお前の力になりたかったってのによ。


俺自身の不甲斐なさに体中の筋肉に力が入って震える。

行き場のない怒りが俺の心を焼いていた。

そうして昨日の夜のテーラの顔と言葉が脳裏をよぎる。


『明日は、宜しくね』


あぁクソクソクソクソ!

俺の馬鹿野郎が!

何であの時何かあるって気がついてやれなかったんだよこのクソ野郎!!

それにそもそも、テーラが魔法の実技試験が増えた聞いた時のやり取りからして異常だっただろうが。

無駄に偉そうな事を言うだけ言った癖に、アレが空元気だって何で分かってやれなかった。

いやそもそも何時もの高飛車っぷりからして空元気だったのか...!?


やりきれなさに顔を上げた時、マックスがおろおろしている光景が目に入った。


〈どうしたら良い〉


そう目で語りかけてくるマックスに目で答える。


〈黙って先に戻ってろ。

他の連中には何も言うんじゃねぇぞ〉


後者が伝わったかはさて置き、マックスは黙って頷いてその場からそっと去ってくれた。


「うっ...私、お姉ちゃんと違って将来魔法が使えないからって...それでセプト村にいた時からいつも家で浮いてて......それで、それでっ.....!」


テーラ自身も行き場のない怒りと悲しみで体が震えていた。

お姉ちゃん...そうか、アリス先生か。

テーラが家族についての話を忌諱したがる理由ってのはこう言う事だったのか。

それにテーラに姉がいる事も知らなかった、聞かされなかった理由もこれか。


「大丈夫だ、大丈夫だ」


「シムル...ひっぐ」


泣き続けるテーラをあやす。

喉からテーラを想う言葉は幾らでも出ようとするが、今はそれしか言えない。

言っちゃいけねぇ。


『大丈夫だ、お前が魔法を使えなくても俺が使える!

何があっても、一生掛けてお前を守り切ってやる!』


この気持ちは本当だ。

できる事なら今すぐにでも言ってやりたい、叫び出したい。

こんな言葉なら幾らでも叫べる。



それでも、とその言葉を喉奥で噛み殺す。

出るんじゃねぇ、口まで登ってくるんじゃねーぞこの野郎。

何てチープなフレーズだよ。

一生掛けても守るだと?

ちげぇ!

そうじゃねぇ!!

テーラは誰かに寄り掛かかって生きる事を良しとはしねぇし、そんな安い女じゃねぇ。

そんな芯の強さに俺は惚れたんだろ、それがテーラをテーラにしている核だろ。

それがテーラを『優等生』にしてるんだろうがよ!

足りない魔力を知力(どりょく)で補おうとした人間、それがテーラだ。


それなのによ。

それを知った今、どうして「一生掛けて守る」だなんて安い言葉を今ここで言えるんだよ。

一生掛けて努力で自分を守ろうとしてるこいつに、どうしてそんな知った様な口がきけるんだよ。

あの言葉は今までのテーラの努力を、ハンデを背負った自分自信を一生懸命守ろうとしたテーラを貶める言葉だ。

横からその努力を掻っ攫っちまう言葉だ。

今この場で言う事は絶対に出来ねぇ。

間違いなく、テーラを傷付けちまう。



俺は、ただ大切な彼女に「大丈夫だ」としか言えない自分を呪いながら、ただ只管にテーラを抱きしめていた。


夏の暑い日差しを体で感じなくなっていく。

じきに、陽が沈む。


ーーーテーラが泣き止んだ頃。

上を見上げると、星達が歌っているかの様な。

ロマンチストでもない俺ですらそんな言葉が浮かぶ程、見事な満天の夜空だった。















女の子の為に笑ったり、はたまた思わぬ所で苦しんだり悔しんだり。

青春を過ごしたなら誰にでも1度や2度は訪れる時ですね。

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