3.5話 俺も変わっていくらしい
前回の続きなので今回は少し短めです、ご容赦をm(_ _)m
『...そうですか。
つまり、シムルはクラスメイト達の手助けをしていた、と』
「そーゆー事だ。
別に俺だってクラスの連中を虐めようと思ってやったわけじゃねーよ」
俺はクラスメイト達とソラヒメをなだめた後、夕飯を食う前に一旦ソラヒメと自分の部屋に戻っていた。
『それにしても、魔法陣を展開させる為に死ぬ気にさせる、ですか』
「何だよ、荒療治だったけど効果は覿面だったぜ?」
ふむ、といった顔をしているソラヒメに聞いてみる。
現にクラスの半分が魔法を使える様になったのだ。
後の半分は明日また適当に襲えば魔法陣を展開出来るようになるだろう。
それに、俺はクラスの連中から魔法について教えてくれ、って頼まれたから俺なりの方法で教えてやっただけだ。
さぁ言い返すなら言い返してみろ、そんな事を思っていたのだが。
『いえ、方法自体に文句を言うつもりはありません』
「えっ、マジで?」
予想の斜め上すぎる肯定に思わず聞き返してしまった。
肩透かしを食らった気分だ。
『...何ですかその顔は』
「い、いやぁな。
まさかソラヒメからあの方法についてゴーサインが出るとは思わなかったっつーか、なんつーか...」
破顔しながら答える。
さっきのクラスメイトが屍のように累々と転がっていた光景を見て唖然としていたソラヒメの口からは、絶対反対意見が飛び出るものだと思っていた。
『あのですねシムル。
私は貴方について暴力的だとは思っていますが、その一方で相棒としての信頼や配慮は知っての通りキチンとあるのですよ?
先程貴方のクラスメイト達が話していた通り試験が近く、時間がない事を踏まえれば貴方が多少強引な手に出たとしても仕方がないと私は思います。』
俺が暴力的だとか言う所は兎に角、サラッと肯定意見を述べてくれるソラヒメ。
ただ、「信頼もクソもさっき状況判断だけで俺を責め立てやがったじゃねーか」って言葉が喉から出かかった俺は悪くない筈だ。
...まぁアレは客観的に見れば、仕方がないと言えば仕方がないので喉奥でグッと堪えてやる。
『それに貴方の言う通りきちんと効果が出たのならば、方法がどうあれ問題はありません』
...今更だけど、ワイバーンの時といい今回といい実はソラヒメって結構暴君モードに入りやすいのか?
いやそれはそれとして。
「なら、何で今さっき無駄に悩んでたんだよ?
てっきり文句でも考えてるのかと思ったぜ」
『あぁ、それはですね。
私は先程貴方の説明にあった、魔法陣を展開させる為にクラスメイトを死ぬ気にさせる、というやり方そのものに私は驚いていたのです』
「そうか?
魔法を使う事なんか気の持ち様だと思うんだが」
『えぇ、それはその通りなのですが...。
魔法、ひいては魔法陣の発動及び魔力のコントロールは使用者の精神面が大きく影響しますからね。
確かに魔法陣の展開すら出来ない人には効果的な方法だったかもしれません』
ここまで聞いた限りだと特にソラヒメが悩んでいる要素が見当たらないのだが。
内心首を捻っていると、しかしながら、そう付け足してソラヒメは続けた。
『私が言っているのはそこではありません。
何故貴方がその様な...シムル風に言えば、面倒な事をしたのかが分からないのですよ。
以前の貴方ならば、そもそもクラスメイトに魔法を教える話そのものを強引にでも蹴っていた筈です』
あぁ、そっちの話か。
今度は俺がふむ、と考え込む。
言われてみればその通りだ。
マックスのお調子者のせいとは言え何故俺がこんな面倒な事を受け入れているのか。
全くもって我ながら謎だ。
「んー、確かにな。
何で俺がこんな事をしてるんだろうな。
マックスの奴に捕まる直前は部屋で寝るつもりだったのにな」
『...シムル。
貴方今マックスと言いましたか?
それは人名、ですよね?』
何故だか驚いた顔をしているソラヒメ。
「そりゃそうだろ。
どうかしたのか?」
ソラヒメの問いかけの趣旨がイマイチよく分からない。
『いえ...まさか貴方が付き合いの浅い人について名指しで呼ぶなんて。
そんなことがあるのかと思いまして』
「オイオイそりゃ失礼ってもん...でもないか」
そうだ、そもそも何故俺はマックスの名前を覚えているのか。
委員長の様にクラスの連中の事は基本的に特徴で呼んでいるというのに。
...いや、それはただあいつのお調子キャラが濃すぎて気がついたら名前を覚えていただけか?
それにしちゃぁ何だか変な違和感が拭いきれねーけどなぁ。
『シムル、そう深く考える事はありませんよ。
寧ろこれらの事は良い事です。
今まで田舎で私としかほぼ話さなかった貴方がこうして誰かと積極的に関わりを持とうとしている。
それは貴方の大きな、確かな進歩ですよ』
うーむと唸る俺に対してフォローを入れるソラヒメ。
「そうか?
そりゃどうもだ」
褒められて癪に触る事はないので素直に喜んでおく。
それにしても俺が誰かと積極的に関わる、か。
少し前じゃ全然考えた事も無かったな。
一生静かに田舎で過ごすもんだと思ってたしな。
『シムル、そろそろ夕食の時間ではありませんか?
そろそろ出た方が良いのでは?』
時計を見る。
そろそろ出ても良い頃合いか。
「そうだな、ほんじゃ行ってくるわ。
ソラヒメも飯食いに行くのか?」
『えぇ。
また後で会いましょう』
ソラヒメは窓から、俺はドアから、それぞれ飯を食いに部屋の外に出た。
誰かと積極的に変わる事が俺の進歩...か。
先程ソラヒメに言われた言葉が脳内で自動的に反芻される。
歩きながらふと思う。
俺があの時キマイラに向かわず、サーヴァントを見捨てていたなら、と。
あの時はソラヒメ独りでキマイラに立ち向かわせる訳にはいかなかったし、最早そんな事は考えても意味がないのだが。
それでも、と益体の無い妄想は続いていく。
もしあそこで俺とソラヒメが渓谷から飛び去って居たならば。
こうしてやれ何時に起きろだのやれ何時に飯だのと時間に縛られた生活をせず。
毎日の様に面倒な授業を受けず。
王都選抜特待生とか言う面倒な役を演じるピエロにならず。
生徒代表をブチのめさず。
ただ田舎で無為に、平和に。
過ごして居たのだろうか。
あの田舎暮らしは魅力的だ、そう思う俺は間違いなく今も居る。
あの生活には誰かによって引き起こされる面倒と言う面倒が一切ない。
完全に俺だけの世界だ。
ただーーーー
「あ、シムル!
食堂行くでしょ?
早く行きましょ!」
「あらシムル君、今日はお疲れ様。
昼間のシムル君は怖かったけど、貴方のお陰で私も魔法陣の展開ができるようになったわ。
ありがとう」
「シムル、早く飯行こうぜ!
今日の献立はカレーだってさ!!」
ーーー田舎暮らしを続けてたら、目の前の騒がしい連中とも会わなかっただろうな。
既に日常の一部と化したこの光景を目の当たりにして、俺はそう思うのだった。
俺は田舎暮らしに戻りたい。
その気待ちは未だに変わらない。
それは当たり前だ、あんな引っ立てられ方したら誰だって萎える。
出来る事ならテーラとソラヒメを連れて田舎暮らしに戻りたいと願う俺が居る。
ただ。
ガキの頃から好きだった女の子が彼女として側にいて。
騒がしい仲間が居て。
無駄に学園中から持て囃されて。
面倒が起きたら相棒がいつでも助けてくれる。
「ーーーこんな生活も、まぁ悪くはないか」
そう思い始めて居る俺も、確かにここに居る。
「シムル、何か言った?」
「いんや何も。
ただ、明日テーラ達をどうやってシゴいてやろうかって考えてただけだ」
「えぇ...。
手加減...してね?」
今日の惨状を思い出したのか恐る恐る聞いてくるテーラ。
そんなテーラに俺が言う事はただ1つだ。
「おう、期待通り存分に本気出してやんよ!
覚悟しとけよ!!」
「もう、全くシムルはシムルね!!!
...でも、明日も宜しくね」
「任せろっての。
必ずテーラが魔法陣を使える様にしてみせるさ」
「シムル...」
そうして見つめ合う俺たちの良い雰囲気を。
「お二人共、お熱いですなぁ」
「シムル君とテーラさんって本当に仲良いよね」
空気を読まないアホ1匹が掻っ攫っていった。
この野郎。
「マックス、お前は明日も追加で補習だ。
今日使える様になった魔法陣で俺を楽しませてくれや」
「何で俺だけ!?
ウェンディも居るのに!」
「そりゃぁ、委員長は何も悪いこと言ってねーからな。
それと、今日の昼間はよくもやってくれたな。
なんなら今ここでお前の魔法練習に付き合ってやんよ、歯ぁ食いしばれ!」
「タンマタンマ、シムルタンマ!
冗談にならないって!!
と言うかシムル、その笑顔超怖いって!!!」
これがここ最近の俺の、いや。
俺達のテンションだ。
こいつらと一緒に居るとうるさくて愉快で、疲れて気分が良くなって。
学園生活、中々悪くねぇじゃねーか。
俺の中の考え方に、nearly equalのプラスマイナスで言う所のプラス方向の大きな変革が訪れている事を、俺は感じていた。




