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3話 荒療治だが仕方ない

2章も10万字位での完結を目指します。

「さて、そんじゃ魔法の練習を始めるかね...」


棒読みでそう呟く。

現在俺はクラスの連中と一緒にグラウンドに出て来ている。

50人くらい居るクラスの連中が興味津々で俺の方を見ている訳だが...いざこうして見ると50人って相当な数だな。

早速教えるのがダルくなってきた。


「所で、皆んなは自分の魔法の要素が自然(エレメント)系か物理(フィジカル)系か、そもそも分かってる訳?」


「うん、それは入学試験前の適正検査で皆んな分かってるはずよ。

それにここにいる皆んなが戦闘職のドラゴンライダー志願者だし、大部分が自然(エレメント)系よ」


シムルの質問にテーラが答える。


「ほぉ、そりゃ何よりだ。

なら、1人づつ魔力解放してみてくれ。

どんなもんか俺が見てやるから。

一番前に座ってるテーラから順番にな」


「分かったわ」


するとテーラは立ち上がり、他のクラスメイトが居ない方を向いて魔力を解放。

魔力解放の影響でテーラの周囲に風が吹いたかの様な軽い衝撃波が走る。

それと同時に。


「nearly equal」


俺自身も魔法陣を展開、テーラの魔力解放を解析(スキャン)する。


【テーラ・リスフィーア】

要素:自然(エレメント)

属性:水

魔法:判定圏外

総合評価:ランクE


「ーーー成る程なぁ」


解析(スキャン)結果を見て頷く。

テーラは確かにまだ全くと言っていいほど魔法を使えないらしい。

俺のnearly equalの解析(スキャン)ですらせいぜいテーラの体から出た魔力の属性が分かった程度だ。


そもそも魔法とは、自分が持っている魔力に指向性を与えたものだ。

例えば、自然(エレメント)系の火属性なら出した炎を蛇の形にして自由に操ったり、生徒代表(アルス)の様な物理(フィジカル)系の物質強化魔法なら自分の強化したい物に対して魔力を自在に調整して送ったり。

要するに、自由自在に魔力を操る事ができればそれは魔法と呼ばれるものになるのだ。

しかしながら、今のテーラは魔力を操り調整する為の魔法陣すら発動できず、体から魔力を放出する事しか出来ていない。

それは魔法石の様なアイテムと同じくただ魔力を発しているだけで、魔法とは到底呼ばない代物だ。


また、魔法のランクは通常ではA〜Dが主流だが、魔法になっていない魔力の放出について、今回はランクEと呼ぶ事にした。


「ふぅ...それでシムル、どうだった?」


全力を出しました、みたいな顔をしているテーラ。


「残念ながら論外だ。

魔法陣すら出せてねぇしな」


「えぇ!?」


「ハイ次、とっとと魔力を解放してくれや」


テーラに結果だけ軽く教えてパパッと次のクラスメイトに魔力解放をさせる。

この人数ではテーラ一人に構っている暇はない。

がっくりと項垂れるテーラを横目に俺はクラスの連中の魔法...もとい、魔力解放を一人一人チェックしてやってはその結果を適当に教えていくのだった。



「で、結局。

魔法を使えるのが3人って何なんだよ」


マジでクラスの大半が魔法を使えないのな。

ちなみに、自然(エレメント)要素持ちが48人に対して物理(フィジカル)要素持ちが2人だ。

あの生徒代表(パツキン)ってかなり珍しい部類のドラゴンライダーだったんだなと改めて思う。


「「「......」」」


そして、クラスメイトの方はと言うとそのテンションは現在ドン底もいい所だった。

大体の連中に論外判定を下したら皆んな纏めて間に受けやがった。

これだから打たれ弱い御坊ちゃま連中は。


また、魔法が使えた3人もランクC〜D相当の魔法で「お話にならねぇ...」と言うのが俺の下した判定だった。

しかもその内の1人は物理(フィジカル)系の物質転生使いでかつ、魔法を使えと指示したら芝生を毟ってその場で紙を生成しやがった。

やる気あんのか。


「...おかしいな。

前にタイマン張ってきやがった坊ちゃんは間違いなくランクB+位の魔法の使い手だったのによ。

何でここにいる連中とこんなに差があるんだよ」


「...レオニスは別格だったのよ。

生まれつき魔法を使う才能があったみたいで、私達と同じ様に生活しててもああやって上手く魔法が使えたの」


テーラがどんよりしながら答える。


「へー、それであんなに突っ張ってやがったのか。

やれやれ、俺は他の連中より特別だ、位に思ってたのかね」


だとしたら真の意味で救いようの無いアホだけどな。

B+程度の上級魔法など、死ぬ気で練習すれば誰でも到達できるだろうに。


「ま、あの坊ちゃんはもう居ねぇんだ。

この話はさて置き。

...お前ら、魔法陣すら展開出来てないんだけど、マジでどうするんだよ?」


「「「.....」」」


再びの無言。

クラスメイト達もどうするべきなのか、未来のビジョンが丸で見えていないらしい。


いや、尾段学級の連中は倍率3桁の壁を超えてローナスに入るために勉強漬けの毎日だったらしいし、こうして魔法がある程度使えなくても仕方がないとは思うんだが。

...それでも、こんな事ってあるのかよ。


ここに居る連中の過半数が魔力を制御して魔法にする為の魔法陣すら編めないとなると、本格的にどうしようもない。

魔法の扱い方を教える教えない以前の問題だ。

俺とは違いここの連中はしっかりとした授業で魔法の理論を習ってるし、坊ちゃんの例を見るに口では「魔法が使えない」など言いつつも魔法発動の初歩段階は出来るものだと...そう、勝手に思っていたのだが。

やはり実践に勝る訓練は無しと言うことか。


「......はぁ、やむなしか」


出来ればこんな事は色々と面倒だしやりたくなかったが、最早致し方なしか。


「お前らさ、魔法を組む理論を授業で理解できてるのに実践出来ないってことは...そりゃぁお前らの覚悟が足りないからだと俺は思うんだが」


項垂れてるクラスメイトに俺はそう言って煽る。

俺の一言にムッとしたらしい何人かがコッチをふくれっ面で見てくる。

おう、やる気出てきたか。


「マール先生も言ってただろ?

魔力は自分の心の力だってな。

俺はお前らの心が本気で魔法を使いたいって思うなら、魔法陣なんざ勝手に発動するモンだと思うぜ。

つー訳で、俺は今からお前らが本気で魔法を使いたいって思える様にしてやる事にしたわ」


「「「???」」」


クラスメイト達は頭にはてなマークを浮かべて俺を見ている。

俺が次に何をするのか気になるって顔だ。

ただ、残念だな。


「ちなみに、何かアクションを起こすのは俺だけじゃなくて、お前らもだぜ?」


そう言いながら俺はポケットから1ユグのコインを取り出した。


「nearly equal:鋼手刀(メタルクロップ)!」


両腕に魔法陣を展開、鋼製1ユグコインの強度、密度などの値を両腕に上乗せし、そのままクラスメイト達の方へ跳躍。

そして俺が跳んだ先にいたのはーーー


「ーーーって待て待て、何で俺の方に跳んでくるんだよ!?」


絶叫を上げている戦犯(マックス)だった。


「おらよっ!!!」


「おわっ!!??」


マックスが右へと飛び跳ねて俺を回避、頭から芝生へと突っ込む。

俺は先ほどのマックスへの恨みも込めて、全力でマックスのいた場所をブン殴った。


大きな衝撃波と共に地面が陥没する。


「な、何するんだよシムル、危ないだろ!?」


頭に芝生をくっ付けたマックスが俺に向かって文句を垂れる。


「うるせぇな、言っただろ?

俺はお前らが本気で魔法を使いたいと思える様にするってよ。

お前ら、俺の一撃が当たったら...タダじゃ済まないぜ?」


ニッと笑ってやる。

クラスメイトの大半は俺の言いたい事が伝わったらしく顔からサッと血の気が引いていく。

流石に頭のいい奴は理解度がちげーや、話が早くて助かる。


そう、俺は

「魔法を使って俺の攻撃を躱せ、さもないとお前ら全員大怪我するぜ?」

そう言っているのだ。

とんだ荒療治だが仕方がねぇ。


「ちょっと、シムル君本気!?」


見かねた委員長が声を張り上げる。


「あぁ、本気も本気、超本気だ。

俺はやる気のねぇ奴に時間を割いてやれる程暇じゃねーし。

これがお前らを手っ取り早く本気にできる方法だと踏んだだけだ」


俺の本気の声音に委員長や他のクラスメイトがギョッとする。

これもお前らが魔法を使える様になる為だ、諦めて頑張ってくれや。


「そうそう、お前らは構わず俺を攻撃しろよ。

どうせ俺はnearly equalを展開すればお前らからダメージなんざ受けねーしな。

魔法陣を展開して俺に1発当てたやつは合格だ。

ただし、自分の危機に魔法すら使えない軟弱者は...」


ゴクリと周りのクラスメイトが生唾を飲む音が聞こえた。

いい感じで緊張してきたじゃねーか。


「知らねぇ。

どうせそんな奴は後々ドラゴンライダーになっても犬死するだけだ。

ならここでいっそ倒れちまえ、その方が楽だぞお前ら」


そう言い放つとクラスメイト全員の顔色が変わる。

俺が本気だと理解したらしい。


「そら、いくぜっ!」


適当に目の前に居たクラスメイトに向かって手刀を叩き込む。

ある程度加減したその攻撃を、紙一重で何とかそいつは躱した。

そして魔力を纏った俺の鋼手刀(メタルクロップ)は地面に3m程のヒビを入れる。


「ま、魔法発動、魔法発動!!」


鼻先で擦過した鋼手刀(メタルクロップ)が余程怖かったのか、涙目で魔法陣を展開しようとするクラスメイトの1人。

しかし、魔法陣は完全には開ききらず、魔力解放の衝撃が軽く俺に伝わるだけだ。


「オイオイ、その程度か?

ならまずは1人だ!!!」


鋼手刀(メタルクロップ)をへたり込むクラスメイトの1人へ振り上げる。


「か、カイル!!

クッソォォォ!!!」


クラスメイトが俺に狩られるのを呆然と周りが見ている中、その中の1人が声を張り上げた。

声を張り上げると同時に魔法陣が展開され、俺に向かって火球が放出される。


「nearly equal!」


左腕に魔法陣を展開、nearly equalの魔法により俺も火炎弾を発射して相殺する。


「へぇ、やれば出来んじゃん。

中々早かったな」


魔法を発動したそいつに向かって声をかける。


「や...やった。

俺も魔法が使える様になったぞ!!!」


心底嬉しそうな顔で喜ぶ火球君。

周りからは「「「おぉぉ」」」という驚嘆の声が聞こえる。

俺もここまで早く魔法が使える奴が出るとは思わなかったが...この荒療治、割と正解か。


「さて、早速一人合格者が出た訳だが。

この方法が効果的だと分かったんで、次はもうちょっとペースを上げてくわ。

お前ら...死ぬなよ?」


俺はイイ笑顔でクラスメイトにそう告げる。

どっかから「ヒッ!」と言う声が聞こえた。


「そらいくぞ!!!

nearly equal:火炎弾(ファイアボール)!!」


さっき俺がnearly equalで解析(スキャン)した火炎弾(ファイアボール)をそのまま放つ。


「「「うわぁぁぁぁっ!?」」」


堪らず逃げ出すクラスメイト達。


「おらおら、逃げてばっかじゃどうしようもないぜ!!

魔法陣を展開するイメージを持って掛かって来いや!!」


「が、学園最強に俺達がどう立ち向かえと!?」


「うるせぇ!

私語厳禁だ真面目にやりやがれ!!!」


弱音を吐いたマックスに向かって火炎弾(ファイアボール)を放つ。


「うわぁ、シムルちょっとタンマタンマ!

死ぬ、死ぬって!!!」


「聞く耳持たねえ!!!!!」


こうして、後にシムル曰く荒療治、尾段学級生曰く一方的な虐殺(ジェノサイド)と言われる魔の放課後が始まった。



さて、暫くイタチごっこを続けてやった訳だが。


「合格者が合計26人、中々良い数じゃねーか」


目の前には所々黒く焦げた地面の上に、屍が累々と転がって居た。

その中の屍の1つがムクりと起き上がる。


「シムル、確かにアンタのお陰でクラスの半分は魔法を使える様になったけど、ここまでやらなくても......」


屍の1つ、もといテーラが他の連中と同じく煤で黒くなりながら答える。


「いや、ここまでやったから26人も魔法が使える様になったんだよ。

魔法陣の発動なんて言っちまえば気持ちの持ち様だ、何つーかうまく説明できねーけど、こういう時は死ぬ気になるのが一番手っ取り早いんだよ」


「そういうものなの...いえ、そういうものね。

現に今日だけで魔法が使える様になった人がこんなに増えたんだし」


「あ、それとテーラ。

お前はまだ魔法が使えてない訳だが...どうする?」


続けるか否か。

この荒療治は一歩間違えれば大怪我をする奴が出る。

俺は別にやらなくても良いんだが、この荒療治の内容を知った以上、続けるかどうかの判断はテーラ次第だ。


「私は...やるわ。

だって、私が魔法を使えないクラスの半分側に居るだなんて悔しいもの!」


「おう、よく言った!」


それでこそ俺の彼女だ。


「さて、他の連中はどうだ。

やるのか、それともやらねーのか!?

やるんだったらこの際とことん付き合ってやる、どうする!!」


するとクラスの半分はお互いに顔を見合わせて「うん」と頷き。


「「「やります!!!!」」」


そう強く返してくるのだった。

合格だ。

流石に全員将来ドラゴンライダーを目指してるだけあって御坊ちゃまの割には気骨があるな。


「つっても今日はもう日が落ちるし、また明日にしようや。

皆んな、今日はゆっくり休んでくれや」


そう言って解散しようと思った時。


『シムル、この辺りで魔力が解放された事を感じたのですが一体......!?』


ソラヒメが竜舎の方向からやって来た。

人間の姿で駆けてくる。


「おうソラヒメ、今終わった所でだな...って、ソラヒメ?」


ソラヒメは何故か目を大きく見開いて周りをぐるっと見た後、俺の方を瞬き一つせず目を丸くしたままジーッと見てくる。

ん?と思った俺は客観的にこの光景について考えてみる。


・黒焦げた地面

・ボロボロで寝転がってるクラスメイト

・無傷でクラスメイトの前に立っている俺


...いやいや、これはちょっとおかしいな。

無駄な勘違いをされそうだ。

だが、頭の良い相棒なら全てを察してくれるんじゃないだろうか......。


『...シムル、貴方は何をしているのですか!

魔法もロクに使えず貴方に抵抗すら出来ないクラスメイトに向かって何て事を.....!』


「ちょっ、ちげーよ!

やっぱ勘違いしてんじゃねーか!?」


ダメだこりゃ。


『問答無用です!

貴方が無抵抗の彼らに暴行を加えた事は隠しようの無い事実。

貴方はどんなに口が悪くてもせめて、せめて仲間は大切にすると、そう、信じていたのに...!』


「オイオイそうやって涙目になるなよ!

何だか俺が悪いみたいに...いや、今回の話は俺が悪いのか?」


荒療治をけしたけたのは一応俺だしな。


『ほらやっぱり!

貴方はどこまでやれば気が済むのですかッ!?』


「いやだから違うんだよ話を聞いてくれっ!!!」


ボロボロのクラスメイトに、ボロボロと泣きだすソラヒメ。

そして色々とあって心がボロボロになりそうな俺。


何というか、まぁ。


「なぁお前ら、ソラヒメの誤解を解くのを手伝ってくれ」


俺にボロボロにされたのに無言で頷いてくれるクラスメイト達。

お前ら、良い奴らだな。


結局、クラスメイト達の手伝いもあり、1時間くらいかけてソラヒメの誤解は解けた。

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