2話 実技試験が追加された
「はぁー、やっと授業が終わったか」
今日も一日の授業が終わった事にホッとする。
ローナスに来て最初の頃は授業を聞くだけで頭が痛くなる事がある始末だったが、今となってはどうにか1日通して授業を聞く位はできるようになった。
俺の頭も授業に慣れてきたらしい。
「さてと。
テーラ、これからどうするよ?」
参考書を鞄にしまうテーラに声をかける。
「うーん、どうしよ。
課外活動に行こっかなぁ」
「おうそうか。
それなら俺は部屋に帰って寝るわ」
そう、ここローナスでは放課後の課外活動が「生徒の自主性を尊重する」みたいな言い分を基に認められている。
課外活動の班は大きく分けて2つ。
アツく戦闘技術を鍛える武芸班か、平和に絵を描いたり花を生けたりする文芸班だ。
これらの班活動について、《ローナス生徒の大半は放課後の自由時間をこの課外活動に充てていて、休む間も無く自らを鍛えている》...という風に、世間一般への建前上はそういう事になっている。
実情はどの班も仲間内でワイワイと楽しくやっているだけのパリピ共の集まりなのだが。
そう言えば、模擬戦が終わった直後の時は武芸系の班からの勧誘が凄かったな。
面倒だから当然全部断ったけど。
話は逸れたが、テーラもそんな大半のローナス生徒の例に漏れず課外活動班には入っていて、所属は弓班らしい。
武芸班にテーラが入っていると聞いた時には驚いたが、確かに弓ならテーラの華奢な体でも練習程度ならどうにかこなせるだろう。
実戦は知らん。
「それじゃシムル、また後で食堂でね」
「おう」
鞄に荷物をしまい終えたテーラがクラスを出ようとしたその時。
「皆さん、放課後ですが少し失礼します。
重要なお知らせがあります」
クラスの黒板側のドアがガラッと開いて、マール先生が教室内に入って来た。
「もうじき行われる定期試験ですが、その内容を変更する事が職員会議で決定したのでその事について説明しようと思います。
皆さんも知っての通り、現在ユグドラシルはバーリッシュとの戦争中です。
よって優秀なドラゴンライダーを一刻も早く育て上げる事がこの学園の急務となっています」
「なので」そう言って少し間を開けて溜めるマール先生。
クラスの生徒達も、唐突に真面目な話を切り出し始めたマール先生に釘付けだ。
「今回のテストは、実技試験として魔法の実演を追加します!
皆さん、難しいとは思いますが頑張って励んで下さい!!」
「「「えぇぇぇぇぇ!!??」」」
クラスに居る大半の生徒から上がる悲鳴。
マール先生も無理があると分かっているのか顔が渋い。
「重ねて言いますが、尾段の皆さんにはまだ魔法を使う事は学園も難しいと分かっています。
ですが、皆さんには一刻も早く魔法を使えるようになって貰わなければならないのです。
各自、試験日までにできる限りの努力をして下さい。
先生達も精一杯の支援はするつもりです。
...それでは、失礼しました」
連絡を終えてクラスから出て行くマール先生。
てか、この前このクラスの連中の大半が魔法を使えないとか言ってたマール先生がいきなり「魔法を使える様にしろ」って言い始めたのは最早ギャグレベルの話じゃねーか。
それもクソ寒い方の。
この前の授業は完全に振りかよ。
お陰でクラスは完全にお通夜ムードだ。
「...はぁ、どうしよう。
魔法、全然使えないよ」
「そうだよな。
俺達今まで魔法なんか実践する機会もなかったし、学園に入るために勉強漬けだったしな」
「それにローナスに来れば魔法について手取り足取り教えてくれるって聞いてたから今まで魔法の鍛錬何てしてこなかったのに。
どうしたらいいのさ...」
クラス中からこんな会話が聞こえる。
まぁ、魔法が使える俺には無関係の話なんだが。
「ど、どうしよう。
弓班に行ってる場合じゃなくなったわ...。
私魔法なんて丸で使えないわよ、評定に響いたらどうしよ......」
いや、無関係じゃなかったわ。
彼女が超が付くほど不安がってる。
そうだ、ここ数週間の授業内容を思い出してみても魔法について実践的な事は何もしていなかったな。
基礎的な理論みたいな事を先生達がただ只管語ってただけだ。
それを踏まえればテーラやクラスの連中のキョドり様にも説明がつくのだが。
「おいおい、落ち着けよ。
魔法なんざ練習すれば使えるようになるだろ」
「...そういうものなの?」
「そういうもんだろ。
それに、お前らこの学園に入った時点で将来魔法を使って戦う事が確定してる様なもんじゃねーかよ。
魔法が使える様にならなきゃいけない日が少し早まった、ただそれだけじゃーねか」
そう言うとテーラはクワッと目を見開いた。
「もう、簡単に言うけど、本来なら私達は翼段から首段に進級する時までに魔法が習得出来ていればよかったのよ!?
それが1年以上も早まったのよ、少し早まったなんてものじゃないわよ!!!
シムルは魔法が使えるから良いけど私はこれっぽっちも...って、そうよ!
シムル、アンタ魔法が使えるじゃない!!!
私に魔法の使い方を教えてよ!!!」
さっきとは態度が一転、救いの神が現れたかのような顔をして俺に詰め寄るテーラ。
相変わらず元気だなオイ。
いやはや、そういう顔してる所悪いんだが。
「俺のは概念干渉だから参考になるかどうかは分かんねーよ?
それでも良いなら魔法の使い方を教えてやるけど...」
「構わないわ、少しでも参考になれば!」
「お、おう。
それなら良いけどよ」
相変わらず勉強の事となればグイグイくるテーラ。
流石は優等生様だ、王都選抜特待生(笑)の俺とは大違いだな。
「なぁ、シムル。
俺にも魔法教えてくれよ!」
「お前もか」
テーラとの会話に横槍を突っ込んで来たコイツは、クラス一のお調子者のマックスだ。
うわー、面倒くせーとは内心思う。
「頼む、この通りっ!」
俺の顔色から色々察したのか、拝みながら頭を下げてくるマックス。
...ま、困って頭を下げてきた友達を無下にするほど俺も鬼じゃねぇしな。
「分かった分かった。
仕方ねぇな、テーラと一緒に見てやんよ」
「よっしゃぁ、助かったぜ!
流石シムルだ!!!」
ガッツポーズを取るマックス。
そして視界の端でむぅとむくれるテーラ。
あれ、もしかして2人だけで練習したかったのか?
少し考えが足りなかったか、などと俺が思いを巡らせている時。
「皆んな!
シムルが魔法の使い方を教えてくれるってよ!!!」
マックスがクラス中に言い放ったその一言で、クラスの時間が一瞬止まった。
...オイ、これは結構まずいくないk「わぁ、本当!?
流石シムル君!」
「よし、これで助かった!
ありがとうシムル!」
「恩に切る!」
次から次へと俺に感謝を述べつつ、周りに集まってくるクラスメイト達。
そうして視界の端でより一層むくれるテーラ。
更に何故かまたガッツポーズを取り始めるマックス。
状況はかなり混沌だ。
取り敢えず、ここで俺が言える事はただ1つ。
判決。
マックス、有罪。
あのクソ野郎、やりやがったな。
俺は、クラスの大半の連中の魔法練習に付き合わされる原因を作った戦犯を後でシバく事を固く、カタく誓った。
それにしても、何で次から次へとこうも面倒が転がり込んでくるのか。
俺は特に何もしてはいないのだが...いや、もうそんな事今更考えても仕方がねーか。
俺の学園生活の平穏は、まだまだ遠いらしかった。




