1話 面倒ごとは終わらない
2章に突入しました。
学生にとって切っては切れ離せないモノがシムルに襲いかかります!
時は模擬戦から数週間後、シムルが学園生活に慣れ始めた頃。
王立ローナス学園には本格的な夏がやって来ていた。
外では蝉の声がうるさく鳴り響き、茹るような暑さも相まってシムルのやる気は大幅に低下していた。
「あちー、暑過ぎる。
朝なのに何で王都はこんなにあちーんだよ。
あー、田舎に帰って冷たい洞窟の中で昼寝してぇ」
食堂の机に突っ伏す。
机は外気よりも多少冷んやりしていて気持ちが良い。
「何言ってるのよシムル、今日も1日始まったばかりよ。
シャキッとしなさいよシャキッと」
そう注意するテーラの肌も汗ばんでいる。
「本当にテーラは優等生だよなぁ、こんな日でもやる気全開とか。
流石だぜぇ...てか、他にも意識高い奴が所々に居るな」
周りを見渡せば朝飯を食いながら参考書にかじりついてる奴がちらほら居る。
「それはそうよ。
だってもうすぐ試験だもの」
「...は?」
「だから、試験よ試験。
夏休み前にある定期試験」
「あぁ、話には聞いてたけどそろそろだったのか。
それで他の連中はクソ真面目に頑張ってるって訳だ。
ちなみに、テーラは勉強やらなくて良いのか?」
「私もそろそろ始めるわ。
でも、私よりシムルの方が問題あるんじゃない?」
「どう言うことだよ?」
「だって、試験の点数が足りないと夏休み返上で補習をずっと受けなきゃいけないのよ?
だから皆んな猛勉強してるのよ」
「そうか。
ま、俺は補習を受ける事になっても仕方ないな」
「...思ってたより落ち着いてるわね。
秘策でもあるの?」
「いんや何も。
ただ、ジタバタしても始まらないって思っただけだ」
補修を受けるのは面倒だが、実の所、補習を受けるようになっても仕方がないとは思っている。
俺は他の尾段生よりも遅くここに入学してきた。
その遅れを今更取り返す事は難しいだろう。
何より、ここの連中はこの国の中でも選りすぐりのエリート集団だ。
そのエリート集団が猛勉強して補習を回避すると言うのに、俺が猛勉強をした所で補習を回避出来るかどうかは怪しい部分がある。
...いや、多分無理だろうな。
一応俺も自分の実力位は分かっているのだ。
なら、いっその事勉強せずに補習を受ければ良い。
正直、勉強するのもダルいしな。
「人生なるようにしかならねーや。
気楽に行こうぜ、気楽に」
「本当、シムルのそう言うところは見習いたいわ」
ため息をつきながらそう言うテーラ。
「おう、見習え見習え。
無駄に力んでると出せる力も出せねーぜ?」
「...そうね、その通りかも」
テーラは軽くはにかみながらそう答えた。
...今朝の心の保養はコレで済んだな。
「だろ?
そんじゃ、クラスに行こうぜ」
俺達はクラスへ移動しようと席を立つ。
「あ、シムル君。
ちょっとちょっと」
後ろから声がしたんで振り返ると、眼鏡を掛けたおさげちゃんが俺の事を呼んだいた。
こいつは同じクラスの、えっと名前は...忘れた、まぁいいや。
いつも通り呼ぼう。
「何だよ委員長。
呼んだか?」
「委員長はやめてって言ってるのに。
私にはウェンディって名前があるのよ?」
「あ、そうそうウェンディだウェンディ」
「また名前を忘れてたの?
本当に、シムル君はいつ皆んなの名前を覚えるのかしら」
「ま、その内覚えてやんよ」
「何よそれ」
委員長ことウェンディはクスクス笑いながらそう言った。
それにしてもいつ名前を覚えるか...ね。
いや、ぶっちゃけた話全員一気に覚えるのは無理だ。
俺は誰かについて呼んだり表したりする時、そいつの名前より見た目の印象で呼ぶ事が多い。
見たまんまの方が分かりやすいからな。
ちなみに、ウェンディも委員長っぽい見た目をしているから委員長と呼んでいるのであって、決して委員長という訳ではない。
俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。
「それで、俺に何の用だ?」
「あ、そうそう。
さっきそこで学園長先生とすれ違ってね。
その時シムル君を学園長室に呼ぶように言われたのよ」
「......」
「シムル君、そういやな顔をしないの」
「寧ろ嫌な顔をするなって方が無理だ」
学園長が絡む所にロクな話があった試しがねぇからな。
「観念して学園長先生の所に行ってきなさい。
まだ授業が始まるまで時間はあるんだし」
面倒ごとは早めに片付けるのが吉、か。
「おう、そうだな。
つー訳でテーラ、俺ちょっと行ってくるわ。
先にクラスに行っててくれや」
後ろで俺と委員長との会話を聞いていたテーラにそう伝える。
「うん、所でシムル。
アンタまた誰を殴ったの?」
テーラが笑顔で聞いてくる。
心なしかその笑顔が怖え。
「違ぇよッ!
誤解だっての!」
全く、これだからあの学園長は......。
「で、次はどんな面倒っすか?」
学園長室に入ってまずは一言。
これは俺がこの場で口にするには何よりも適切な言葉だ。
何せ、思い当たる節が何もないのだから。
「ふむ、確かに面倒ではあるかもしれないが...君にとっても悪い話ではないのだよ、シムル君。
聞いておいて損は無く、それでいて聞いておかないと後々君が困る話だ」
「いや、アンタの話何て大体そうじゃねーか。
用件だけを言ってくれ、用件だけを」
少し苛立ちながら学園長に話しかける。
そういう遠回しな言い方は時間の無駄だっての。
「そうじゃの、では簡潔に言おう。
君は、王都選抜特待生に選ばれたのだ」
「...何すかそれ」
「これ、そう嫌そうな顔をするでない」
聞いたことのない単語だったが、面倒な匂いだけはプンプンする。
間違いない、これは新手の面倒ごとだ。
「王都選抜特待生とはな。
言ってしまえば王都の未来に貢献しそうな人材に与えられる処遇の事だよ」
「何で俺がそんなのに選ばれたんっすか?」
「それは勿論、君がソラヒメ様を従えているから、と言いたい所だが。
他にも理由はある。
君がバーリッシュのキマイラを倒せるだけの戦闘能力を持っているからだ。
それについては君がローナスに編入した日に言っていたことだが、君自身が圧倒的な戦闘力を持つ事については学園中の生徒が証人だ」
...はぁ、そう言うことかよ。
頭の中で色々と繋がったわ。
「成る程な。
道理でアンタが入学したての俺に模擬戦を許した筈だ。
要するに、あの模擬戦は俺の実力を確かめる為のものだった、と。
ついでに学園中に俺が王都選抜特待生とやらに相応しい力があるって事を見せつける目的も込みだった訳か」
詰まる所、俺自身が王都選抜特待生についてどう感じていようと、いざとなれば学園中の生徒の意志を使って俺を王都選抜特待生の地位に据えられるって事だ。
実際、学園中の生徒に向けて「シムルには王都選抜特待生になるだけの実力がある、そうは思わないかね学園中の諸君!!!」とでも言えば済む簡単なお仕事だろう。
いい面の皮だぜ、全くよ。
「左様。
君の事をアルス君に認めさせると言う理由もあったがの。
それと、あの結果は国王様に報告させてもらったよ。
国王様もシムル君が概念干渉使いだと言う事には大層驚いていらっしゃった」
「そうか、そりゃどうでも良い話で。
それじゃぁそろそろ本題へ。
さっき言ってた俺が聞いておいて損がない所と聞いておかないと困る所、それぞれ詳しく聞かせて欲しいっすね」
「良かろう。
ではまず聞いておいて損がない話について。
王都選抜特待生は、言ってしまえばローナスを表す重要な1つの要素。
つまり、自らが王都選抜特待生だと公表すれば」
「世間からの評価が良くなるってか?」
テーラとデートした時に分かったが、世間のローナス生徒への反応はかなり良い。
王都選抜特待生と言った時の反応はそれ以上だと容易く予想できる。
...まぁ、一部の層にはローナス生徒のウケは極端に悪かったが。
「左様。
君が概念干渉使いだと世間に知れ渡っても、王都選抜特待生の肩書きがあれば評判はそこまで悪くはならないだろう」
「ほぉ、俺の身分を保証してくれるって訳だ。
そりゃぁ良いこと聞いた」
「他にも生活保護等が付くが...君はあまり興味がないだろう。
次は、聞いておかないと困る話をしよう。
この事は他言無用で、心して聞いて欲しい」
「はいよ」
「相変わらず軽い返事じゃが...まぁ良い。
君が今の条件を認めた、それこそが大切だ。
さて、王都選抜特待生は先程、王都の未来に貢献しそうな人材に与えられる処遇と言ったが、それは表の顔なのだよ。
王都選抜特待生の裏の顔、それは王宮直轄のドラゴンライダー部隊の予備軍だ」
「...へぇ、つまり?」
「つまりも何も、そのままじゃ。
ローナスは竜絡みの事件も扱っていると君が編入した日に言ったが、そちらの対応に追わせる事もあるやもしれん。
最悪、バーリッシュとの戦争が過激化した場合には、君は戦争地域へ送られるかもしれん。
このご時世、国は君の様にキマイラを単騎討伐できるドラゴンライダーを燻らせておく余裕が無いのでな。
その点は覚悟していてほしい。」
「はぁ...そうすかそうすか。
そりゃぁ俺の身分保障を差し引いても損しかない話だ、貧乏くじだなこりゃ」
「...随分と冷静じゃな」
「いや、冷静もクソもねーだろ学園長。
いつも通りの出来レースを組んでおいてよく言うぜ。
ここで俺が王都選抜特待生になりたくねぇとか言ったって学園で総会でも開いて俺を担ぎ上げるつもりだろ?
全くよ、俺はあの模擬戦からずっと学園中でモテモテなんだ。
学園中がアンタと一緒に王都選抜特待生に俺をご指名する事まで見え見えだっつーの。
この会話からして茶番もいい所だな」
「ほぉ、そこまで分かっておったか...。
ならば学園長としてはもう何も言うまい。
王都選抜特待生としての使命をこれから果たして欲しい。
...そして、個人的な立場としてなら言いたい事がある」
学園長は椅子から腰を上げ、俺の前に立った。
「すまんシムル君。
迷惑をかける」
そう言って頭を下げる学園長。
「......顔を上げてくれ、学園長」
「分かった。
王都選抜特待生とやらになってやる。
てか、どうせ俺がキマイラとやり合ったのを王宮直轄特殊攻撃第二連隊に見られた時点でココまで決まってたんだろ?
ならもう何を言ったって後の祭りだぜ、学園長」
学園長について、正直気にくわない所は多い。
ただ、誰であれ筋を通されたなら俺も筋を通し返す、それだけだ。
「...そうじゃな、シムル君。
君は、思ってた以上に聡いの」
「そうか?
そりゃどうも。
ほんじゃ、授業が始まるからそろそろクラスに戻るぜ」
そう言って学園長室のドアに向かう。
話は終わった、最初から結論が決まってたしょうもねぇ会話がな。
「そうじゃ、それと最後に。
聡い君には一応助言をしておく」
...嫌な予感がする。
「聞きたくねぇ」
「分かっているとは思うがの」
急いでドアを開けて学園長室からの脱出を試みる。
「王都選抜特待生となった以上次の試験は教師一同当然期待しているからの」
ドアが閉まる直前に超絶早口でまくし立てる学園長。
そうして閉まるドア。
脱出、失敗。
「...聞こえなかった事にするか」
「ダメじゃ」
閉まったドアに向かって呟くと次の瞬間に学園長室から帰ってくる返事。
この野郎、聞こえてんのかよ。
イラっときた俺は学園長室のドアにに回し蹴りを食らわせて、一目散にクラスへと撤退した。
ドアの向こうから何やら文句がガヤガヤ聞こえてくるが...いいや。
「これも聞こえなかった事に」
「ダメじゃ!!!!!」
チッ。
あのクソジジイ、どんだけ地獄耳なんだよ。
最近感想を頂く事や活動報告にコメントを頂く事が増えてきました、ありがとうございます!




