王都の町で初デート3
なんやかんやあったが俺たちは無事大路地に出る事ができ、換金所に着いた...と思ったのだが。
「なぁテーラ。
目の前にある建物って、何だ?」
マジで何だよこの神殿。
俺らは換金所に行くんじゃなかったのか?
「何って、ユグドラシル中央銀行よ。
この国で一番大きな銀行よ。
銀行の中に換金所が併設されてるの」
あー、銀行か。
......銀行か。
王都の建物はスケールが違うなオイ。
俺の建物への概念が塗り替えられそうだ。
概念干渉使いだけど。
「さ、入りましょ」
「はいよ」
テーラの後を追って銀行へと入る。
こう言う場に堂々と入れる辺りテーラって本当に貴族になったんだな、と実感する。
「銀行内は貴族ばっか...ってそりゃそうか。
そう言う場所だもんな」
「ううん、いつもはこんなに貴族は多くないわ」
「どういう事だ?」
「今は戦争中でしょ?
だから色々な所でお金が動きやすくなってるのよ。」
「ほーん、戦争景気って訳だ」
戦争...ねぇ。
そう言えば隣国とこの国は戦争中だったな。
隣国のキマイラと渓谷で出くわさなきゃ、今頃俺は田舎で平和に暮らしてた訳だ。
こうしてテーラと再会する事も無く、な。
横目でテーラを見る。
「どうしたの?」
「いや、なんも。
ただバーリッシュとの戦争が無きゃ、俺は今頃テーラとこうしてなかったんだなって思っただけだ」
「...そうね。
不謹慎だけど、あんな形でもシムルとまた会えた事だけは良かったって思うわ」
少し歩いていくと「換金所」と書いてある看板上から垂れ下がっているカウンターがあった。
ここか。
「いらっしゃいませ...おや、テーラ様ではありませんか。
本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターに座っていた役人が話しかけてくる。
どうやらテーラの知り合いらしい。
「お久しぶりです、エイブさん。
今日は魔法石の換金をお願いしたいのですが」
「承りました。
では鑑定致しますので、お持ちになった魔法石をこちらに」
そう言うと役人は木のケースをいくつか出してカウンターに並べる。
木のケースはサイズが大きいものから小さいものまである。
鑑定する物をサイズ毎に分けて置いてくれってことらしい。
とは言え、今回俺たちが鑑定を頼むものは1つしかないのだが。
「シムル、アレをここに置いて」
「はいよ」
テーラが指を指した木のケースへ星結晶を置く。
「なっ!
こ...コレは...!?」
エイブとか言う役人が驚いている。
この星結晶本当に凄いんだな。
「...少々お待ちください。
腕によりをかけて鑑定致しますので」
そう言うとエイブはカウンターの後ろへと下がって行った。
「エイブさんがあの調子だと暫く掛かるわね。
そうだシムル、鑑定が終わるまでの間にご飯食べに行きましょ!
お金は鑑定が終わった後で返して貰えばいいわ」
「そうだな、そろそろ昼飯時だし行くか」
「いいお店知ってるわ、混む前に行きましょ」
そうして俺たちは銀行を後にした。
銀行前の大路地から少し離れた小さな路地、その中の1つでテーラは立ち止まった。
「着いたわ」
「へぇー、中々オシャレじゃん」
そこはオレンジ色をした煉瓦作りの小さな店だった。
煉瓦を包む多過ぎないツタは店をオシャレに見せる一つの技法だろうか。
日当たりの良さも相まって中々雰囲気が良く見える。
テーラと一緒に店の中に入る。
店の中はヒンヤリしていて気持ちが良かった。
「いらっしゃいませ、お好きな席をどうぞ」
「あそこが良いわね」
テーラが向かったのは窓際の席だった。
「中々雰囲気いい店じゃん」
「でしょ?
知る人ぞ知る、ってお店なの」
つまり穴場か。
「さ、何か頼みましょ。
もうお腹ペコペコ」
そう言いながらテーラはテーブルの横に置いてあったメニューを開く。
さて、そんじゃ俺もメニューを、と。
・日替わりサンドイッチ
・レッドビーフサンドイッチ
・ナイフフィッシュサンドイッチ
・サラダサンドイッチ
・ミックスサンドイッチ
など色々と他にもメニューが書かれているがどれもサンドイッチだ。
成る程な。
変なレストランよりは俺が飯を食いやすいだろう、って気を使ってくれたのか。
「ふんふん。
シムル、決まった?」
メニューを物色していたテーラが聞いてくる。
「あぁ、決まったぜ」
「分かったわ」
テーラがテーブルに備え付けてあるベルを鳴らす。
すると店の奥から店員が出てくる。
「失礼致します。
ご注文はお決まりでしょうか?」
「えぇと、ミックスサンドイッチを1つお願いします。
シムルは?」
「日替わりサンドイッチ1つとレッドビーフサンドイッチ1つで」
「あ、それとオレンジジュース2つお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちください」
素早く注文をメモして厨房へと向かう店員。
「レストランってこんな感じなのか」
「シムルはレストランは初めて?」
「あぁ。
知り合いの畑の農作業手伝って小遣い入ったら、定食屋に偶に入るレベルだった」
「そうなんだ。
王都には他にも美味しいお店がいっぱいあるからこれから色んなところを回りましょ」
「そうだな。
期待しとくわ」
雑談をして暫くすると店員が注文したメニューを持ってやって来た。
「お待たせ致しました。
ミックスサンドイッチ、日替わりサンドイッチ、レッドビーフサンドイッチ、オレンジジュースでございます。
以上でご注文のお品はお揃いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「それではごゆっくりどうぞ」
注文したメニューをテーブルに置いた後、店員は伝票を折ってテーブルの隅に置いてから再び店の奥へと下がって行った。
「さて、それじゃぁ食べるか」
サンドイッチに手を伸ばすとテーラがペシッと手を軽く叩いてくる。
前にもこんな事あったな。
「待って、まだ食前の祈りをしてないじゃない」
「...それって食堂以外にもこう言う所でもするのか?」
「当たり前じゃない。
ただ、やり方は人それぞれだから食堂以外なら好きなようにやれば良いのよ」
そう言うものなのか。
なら俺が言うことは一つだ。
「分かった。
...頂きます」
そう言うとテーラは変な顔をした。
「ねぇシムル、田舎にいた時から思ってたんだけど、そのイタダキマスってどう言う意味なの?」
「イタダキマスじゃねぇ、頂きます、だ。
要するにこう言うこと」
俺は両手を合わせて目を瞑る。
「【貴方の命を頂きます】...なんてな。
田舎にいた時は自給自足の生活だったからな。
命への礼儀は大切だと思った、ってわけよ」
目を開けるとテーラは感心したような顔をしていた。
「シムルって、時々とても良いこと言うわよね」
「時々って何だ時々って。
いつも筋を通した行動をしてんだろ?」
「何言ってるのよ...冷める前に食べましょ」
テーラは軽く両手を組んで黙祷すると、サンドイッチを食べ始めた。
「うん、やっぱりここのサンドイッチは美味しいわね!」
「なら俺も、どれ」
日替わりサンドイッチから手をつけてみる。
サンドイッチの中身はレタスを始めとした野菜と魚のフライだった。
サクッとした食感に野菜の瑞々しさが加わって中々美味い。
あっという間に平らげてしまった。
お次はレッドビーフサンドイッチ。
レッドビーフは高級食材として名高い牛だ。
人には簡単に慣れないので家畜化する事はできず、またその気性の荒さから野生の個体を捕まえるのも一苦労と言う話だ。
それらの事情からその肉は中々に高いのだとか。
俺の住んでいた地方には生息していなかったから狩る事ができず、よって今まで食える機会がなかったのだが。
まさかこんな所で食えるとは。
サンドイッチ自体はシンプルにレッドビーフの焼肉を挟んだだけの物だ。
さて、どれ程美味いのか。
がぶりとかぶりつく。
「美味え」
思わず声に出しちまった。
肉汁がスゲェ。
旨みがスゲェ。
そして何より、獣独特のクセがないのがスゲェ。
「ねぇ、美味しい?」
テーラがニコニコしながら聞いてくる。
「あぁ、最高だ。
来てよかったぜ」
「そう、良かった。
後ね、それと...」
「何だよ?」
何やらテーラがモジモジしている。
「その...実はまだレッドビーフサンドイッチって食べたことないから...えっと...」
「あぁ、そう言うことか。
ほらよ」
レッドビーフサンドイッチをテーラに渡す。
「ただ、テーラのミックスサンドイッチも俺にくれよ?」
「えぇ、良いわよ」
そうして俺たちはお互いのサンドイッチを分け合った。
「美味いか?」
「うん、来て良かったわ」
そうして俺たちはゆったりとした昼時を過ごした。




