16話 模擬戦決着
何とか模擬戦の決着までこぎつけました;ーー
何か訳の分からん決意表明らしきモノを叫んだ生徒代表が翼竜を駆ってコッチに向かってくる。
ソラヒメを無視して突っ込んでくる辺り相当キレてるらしい。
「この俺がお前に何をしたんだっつーの」
何でそんなにキレてるのか後で聞いてやろうか。
『逃がしませんよ!』
生徒代表が標的を自分から俺へと変えた事に気がついたソラヒメが翼竜に向かって雷撃ブレスを放つ。
「その攻撃は既に見切っている!」
生徒代表がこちらに向かいながら翼竜を操竜。
電光石火の速さをもつ雷撃の間を縫い着実にこちらへと迫り来る。
「ソラヒメのブレスを躱すとか中々やるなオイ」
「シムル、覚悟!」
ソラヒメのブレスを躱しきり、真っ直ぐ最短距離でこちらに向かう翼竜。
その上で剣を構える生徒代表。
ブレスは最早牽制にならないと判断したソラヒメが加勢しようと飛んで来ているが、このままだと確実に間に合わない。
模擬戦のルールは実際の戦闘に限りなく近い。
片方のドラゴンライダーが戦闘不能になった時点でもう片方が勝者となる。
このまま俺が生徒代表の剣に斬られればソラヒメが無事だろうとその時点で俺たちの負けだ。
幾ら火竜の身体能力を得ていようと、高速で飛来する翼竜の突撃を回避しきることは不可能だろう。
回避しようとしたが最後、俺は間違いなく生徒代表の間合いに入りその剣でバッサリやられる。
「ま、それなら避けなきゃ良いだけなんだけどな」
馬鹿正直に真っ直ぐコッチに突っ込んできたお前の負けだ。
「nearly equal:加速真竜咆哮!」
右腕に魔法陣を再び2重展開。
ノータイムで火竜のブレスを叩き込む!
「なっ!?」
「ブレスを使わねぇ近接攻撃なら俺のnearly equalの反撃を受けないとでも思ったのか?
甘すぎるんだよ!!」
この体は火竜の体を人間大に小さくした様なものだ。
火竜の筋力を引き出せているのなら、魔法陣を組んでブレスを放てたとしても何らおかしくはない。
「翼竜!!!」
生徒代表が咄嗟に機転を利かせて操竜、翼竜の体を無理矢理逸らす。
また、翼竜の方も流石はソラヒメの電撃ブレスを回避しきった真竜と言うべきか。
灼熱の業火でその身の端を焦がし体制を崩しながらも加速真竜咆哮を回避。
再び突っ込んでくる。
「終わりだシムル!」
剣を振りかぶる生徒代表。
「だから、突っ込んで来た時点でお前の負けだっつーの。
ソラヒメ!!!」
『はい!』
生徒代表が剣を振りかぶった直後、翼竜の上から飛来するソラヒメ。
『ふん!』
その両腕で上から翼竜を押さえつける。
『ギャオォォォォォォ!?』
一瞬の出来事に狂乱する翼竜。
しかしどんなに暴れようとも、真竜になろうとも、翼竜は翼竜。
飛行能力を削がれた今、ソラヒメに敵う道理はどこにもない。
「シムル、貴様...!」
「へっ、火竜ブレスモドキが避けられる事なんざ最初から分かってたっつーの」
そう、加速真竜咆哮はソラヒメをこちらに呼び寄せる時間を稼ぐためのブラフだ。
当たってくれたらラッキー、位に思って放った回避される事が前提の目くらまし。
俺の目論見は上手くいったと言える。
「さて、そんじゃソラヒメ。
翼竜の背中からソイツを引きずり下ろしてこっちにぶん投げてくれや。
そいつは俺がサシで倒す。
ソラヒメはそのまま翼竜を押さえててくれ!」
『分かりました、健闘を』
今シムルに加勢しようと言っても彼の性格ならそれを受け入れないだろう。
ソラヒメは翼竜の体を大きく持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。
翼竜を気絶させ、その衝撃でアルスをシムルの目の前へと投げ飛ばした。
『...ん?』
その直後、ソラヒメは妙な違和感を感じていた。
騎乗者であるアルスが翼竜の背から降りた今、アルスの操竜術が弱まり翼竜の体内に存在する魔力量が減少するのは分かる。
だが、ここまで急速に減少するのはおかしい。
『ギャォォォ......』
翼竜自身も見る見るうちに、先程とは比べものにならない程弱々しくなっているのは見間違いではないだろう。
『あぁ、そう言う事ですか』
そこでソラヒメは一つの結論に達する。
未だに明らかになっていない生徒代表アルス・テルドロッテの魔法、それはーーー
俺の目の前に着地する生徒代表。
図らずも俺たちの立ち位置は模擬戦開始時と同じだった。
「貴様、私に情けをかけたつもりか?
愚かな。
あのまま星竜がブレスを放っていたら決着はついていたものを」
「いや、だから死人を出すつもりはねーって最初に言ったろ?
お前、そんな事したら間違いなくタダじゃすまねーぞ」
いや、もうタダで返す気は当然無いが匙加減はするつもりだ、今の所は。
「俺はお前が吹っかけてきた喧嘩に乗ってやっただけだ。
折角だ、言いてぇ事があるなら聞いてやんよ。
ただし、俺も言いてえ事を言わせて貰う」
スッと息を吸う。
「生徒代表だか何だか知らねーが、初見の相手に向かって初日のあの態度は何様だテメェ!!
あの日から今の今までその高慢ちきな態度もいい加減にしろよこのクソ野郎!!!」
アリーナ全体に響き渡る怒号。
遂に溢れたシムルの怒りにアリーナ中が震え上がる。
ただ、クラスや食堂でのアルスとシムルのやり取りを知っている一部の生徒に限ってはその怒りは最もだと思う者も少なからず居た。
「貴様こそ、このローナスの門を潜った癖に次から次へと問題を起こして何様だ!!
少しは周りの事を考えて生きろ!
この恥知らずな天上天下唯我独尊男が!!!」
また、このアルスの言葉を肯定する生徒も一部、少なからず居た。
「うるせぇ!
俺はやりたいようにやるだけだ!!
そもそも俺は降りかかる火の粉を振り払っただけだ!!」
「その振り払った火の粉積み重なり先々大きな火事になる事に何故気付けんこの愚か者めが!!」
もういい、もう沢山だ。
双方共に理解する。
お互いに価値観が違い過ぎて、片方がもう片方を叩き潰すしかなくなっている。
「失せろ」「消えろ」
「お前は」 「貴様は」
「「邪魔だ!!!」」
両者が同時に踏み込む。
アルスの剣がシムルの拳とぶつかり合うその刹那。
シムルはnearly equalの魔法を起動、魔法陣を両腕に展開。
アルスの剣を解析し、火竜の両拳にアルスの剣の硬度を上乗せする。
「nearly equal:鋼竜拳!」
文字通り鋼の硬度を手に入れたその両拳は火竜の筋力と合わさり、アルスの剣を粉砕するべく正面から殴りかかる。
姿勢、踏み込む位置、重心共に完璧な一撃。
「フッ!」
その一撃を化け物じみた速度で躱すアルス。
「はぁ!?」
大振りの一撃を躱されたシムルは体制が大きく崩れている。
そこに振り下ろされるアルスの一閃。
「ッ!」
シムルは両腕を地面に叩きつけて大きく跳躍、地面にヒビを入れながらアルスと大きく距離を取る。
チッ、どうなってやがる。
今のあいつの動きは人間の範疇を超えてやがった。
下手すると今の俺とも張るレベルだ。
nearly equalの魔法陣を展開、生徒代表を解析。
「ーーーあぁ、そう言うことかよ」
解析完了、生徒代表のデータを見ながら納得する。
道理で翼竜の方もソラヒメのブレスと張り合える程早かった訳だ。
あいつは魔法を最初から隠していたんじゃない。
目に見えない所で最初から魔法を起動していやがったのか。
ーーーシムルとソラヒメが辿り着いたアルスの魔法についてのデータは以下の通り、完全に合致していた。
【アルス・テルドロッテ】
要素:物理
属性:物質強化
魔法:超物質活性化
総合評価:ランクA
実の所、アルスは物理系の魔法使いでありながら職人ではなく戦闘職のドラゴンライダーを志す、世にも珍しい種類の人種であったのだ。
しかしながら、ランクA程の物質強化魔法であれば竜の体そのものも、その体から生成されるブレスも大幅に強化する事も可能である。
そんな魔法で人体を強化すればどうなるかは言うまでもない。
自然系魔法は物理系魔法より攻撃及び戦闘に優れている、それが世の通説だ。
しかし、アルスの超物質活性化は使いようによっては自然系魔法以上に攻撃力、破壊力を生み出せる魔法だったのだ。
つまり、合体魔法そのものも今まで隠していたのではなく。
最初に放った翼竜のブレスが既に合体魔法そのものであったのだ。
「どうしたシムル、我が剣の前に歯が立たないか!」
俺に対し余裕の笑みを浮かべて挑発する生徒代表。
「オイオイ、俺が驚いたのはお前の剣じゃなくて魔法の方だぜ。
つってもそのネタが割れちまった以上もう驚かねーけどな」
「何の冗談だ。
私が魔法を使っているだと?
笑わせる。
一体私の体のどこに魔法陣が...」
「何も魔法陣は見えてなきゃいけない何てルールはねぇだろ?
お前が体の中に魔法陣を張り巡らせてんのはもう知ってんだよ」
「...貴様、一体何をした?」
「さぁな。
で、テメェこそネタバレしただけでもう終わりかよ?」
殺気を全開にして問いかける。
「いや、まだだ。
私が立っている限り、何も終わりはしない!
終わらせはしない!!!」
返される答えと殺気。
「その言葉を待ってたぜ!!」
生徒代表が剣を構えて肉薄してくる。
さっきはタダの剣士だと思って油断したが今度はそうはいかねぇ。
左右上下から縦横無尽に振られる剣戟を硬化した両拳でいなす。
左脇を狙う剣筋を左拳で弾く。
右足を狙う斬撃を右拳で返す。
「チッ!」
火竜をブチのめした時点で既にボロボロだった俺の両拳は鋼の硬度を得たとは言え既に限界だ。
だが、まだだ。
まだその時じゃねぇ。
「今度こそ終わりだシムル!」
生徒代表が体を貫こうと剣を真っ直ぐに突きつけてくる。
ーーー今だ!
「nearly equal!」
坊ちゃん戦の時の要領で体全体を覆う魔法陣を展開。
生徒代表が突き出した剣の硬度、速度、攻撃力、運動エネルギー等全てのデータを改めて解析。
それらの値より大きな近似値を俺の拳に与える。
「おらよっ!」
さっきとは違い、生徒代表の重心は完全にコッチに傾いている。
避けられる事は無い。
確実に剣を掴み取り、そのまま握り潰す!
「馬鹿な...!」
「お返しだ!」
掴み取った剣を後ろ手に引き、生徒代表の体を引き寄せる。
そのまま生徒代表の左足を俺の右足で踏み、引き寄せた体に全力のタックルを食らわせる。
「ガハッ...」
剣を握り、足を踏んで生徒代表の体を固定している以上、タックルの衝撃はどこにも逃げない。
生徒代表の内臓にモロにダメージが入る。
堪らず生徒代表はその場に崩れ落ちた。
「俺の勝ちだ、アルス・テルドロッテ」
如何にランクA相当の魔法で体を強化しているとは言え、竜の筋力でタックルを貰えば人間の体は無傷では済まない。
勝負はついた。
「まだ...だ.....ま....だ........」
「オイオイ、まだやろうってのかよ。
冗談だろ?」
潰れた剣を杖に、根性で立とうとする生徒代表。
「しょうがねぇ、もう1発...」
「そこまで、勝負あり!」
最後の1発をたたき込もうとした時、野太い声がアリーナに響く。
学園長の声だ。
「勝者、ローナス生徒、尾段シムル!」
「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」
俺の勝利判定に会場中が湧く。
それと同時に控えから医務官が出てきて生徒代表の方へと向かう。
「...行くぞ、ソラヒメ」
ソラヒメに声をかけながらnearly equalの魔法を完全解除。
火竜の力が抜け、元の人間の体に戻る。
『えぇ、シムル。
いつも通り荒い言動や格闘が目立った事は大問題ですが、竜姫の相棒に相応しい勇敢な戦いぶりでした』
「そりゃどーも」
ソラヒメ共々アリーナの出入り口へと進んで行く。
「ま...て......」
息も絶え絶えに、医務官に肩を借りながら俺に待ったをかける生徒代表。
「待たねぇ。
お前は負けたんだ、今は黙っとけ」
振り返らずに何よりも残酷な言葉をかける。
お互いに相手を潰さなきゃ気が済まない戦いだったんだ。
終わった後でウダウダ言うんじゃねーよ。
「...ッ!」
生徒代表は、それ以上は何も言わなかった。
勝者は去り、敗者は残る。
この日、王立ローナス学園はシムルに対し、生徒代表アルス・テルドロッテを難無く下すその実力より王都選抜特待生の待遇を与える事を決定した。
次回、1章締めのエピローグ(の、つもり)




