EX 竜王の力
【お知らせ】
本日1/22から本作【王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者】のコミカライズ3巻が全国書店にて発売となります!
さらにシリーズ10万部突破となりました!
ありがとうございます!!
電子版も同時発売ですので、よろしくお願いします!
ある日のこと。
俺は竜生態学って授業を受けつつ、あれこれと書かれていく板書を眺めていた。
そこには「野生の翼竜には群れなすものが多く、中には群れのリーダーとなる個体がいる」「翼竜は他のワイバーン種よりも上下関係を重んじる傾向にある」……みたいな説明が記されていた。
教科書をめくってもそんな感じのことが、専門用語も使いつつ事細かに書いてあって、正直読んでいて頭が痛くなる思いだった。
……そんなだからだろうか、俺はふと現実逃避ならぬ授業逃避気味にこんなことを思った。
──ソラヒメって竜王だし、一応はドラゴン全体のリーダーってことだよな。そういやそのくせに、あんましワイバーンがソラヒメに従ってるとこをは見たことねーな。
学園のワイバーンはソラヒメの奴に敬意を払って従うってより、ソラヒメが怖がらせているから静かにしているって節がある。
恐怖政治って言い方は違うだろうが、ともかく「なんで普段は温厚なのにワイバーンが絡むとああなっちまうのかな、俺の相棒は」って思わなくもない。
「というか竜王って言うけど、何か統治的なことはしてるのかあいつ……思い切って聞いてみるか」
ソラヒメもどうせ暇だろうし、放課後に会ったら話のネタにしてやろう。
***
「そんでソラヒメ。お前って竜王だけど、竜王らしくワイバーンたちをまとめたり統治的なことをしたりすることってあるのか? もしくは指示を出したりとか」
『藪から棒に急ですね……いや、シムルが急なのは今に始まった話でもありませんが』
放課後。
暇そうに俺のベッドに人間の姿で寝転がっていたソラヒメは、すっと起き上がった。
ううむ、こういう仕草一つとっても気品がある方だと俺にも分かるが、だからと言って竜王っぽいことをしているのかと言われたら微妙に思えちまう。
『強いて言うなら、私がワイバーンを威嚇して静かにさせる行為も、通常の星竜には難しいです。竜王の血族には竜種に対する強い命令権のようなものを持ち合わせていますから。対象の竜がよほど興奮していない限りは、静かにしたり簡単な指示を出すことも可能です』
「ってことは、竜王ってのは名ばかりじゃないんだな。てっきり称号的なモンだと思ってたけどよ」
『称号……いえ。あまりこの手の話はシムルにしたことがありませんし、そう思うのも無理はありませんね』
「どっかの誰かさんは、ローナスに来るまで自分は竜王だとも言わない秘密主義者だからな」
俺がそう言うと、ソラヒメは『それは悪かったですよ。あまり詮索されたくもなかったので』と呟く。
それから『いい機会ですから、少しお話しましょうか』と語り出した。
『実際、竜王の力は私の持つ星竜の力とは別にあります。私の星竜としての能力はよく使うブレスなどですが、竜王の力は先ほど行った他の竜に対する命令権です。条件が揃えば全世界のドラゴンに指令を下すことも可能なのです』
「全世界って……いや、お前ならやりかねねーか」
その気になれば天候すら変えちまう相棒だ、今更何をしたって驚かない。
『そして強い命令を下す際には、対象の竜の自我を一部奪って無理矢理言うことを聞かせることになります。……以前やった時には、自分が他の竜の中に入っていくような感覚で気味が悪かったですが……。特にワイバーンなどの多少種族差があるドラゴンが相手となれば、心や感覚に大きな違いがあって悪寒さえしました』
「……ソラヒメ、お前がワイバーンを嫌う理由ってもしかして」
『正直、苦手意識はそこからですね……。竜の心も人の心も、あまり覗くものでもないのです』
そう言うソラヒメは、どこか困った様子にも見えた。
あまり竜王としての過去を詮索されたくないと……セプト村にいた頃は俺に竜王だと明かさなかった理由は、もしかしたらそういう「竜王としての能力」にも忌諱感を抱いちまったからなのかもしれなかった。
「まあ、お前があまり竜王っぽく振る舞ってない理由も分かった。要は竜王としての能力を使うと気持ち悪くなっちまうと」
『そうですね。それに竜王自体は竜種全体のシンボル的な意味合いもありますから。強く生きていればそれはそれでいいのだと、父や故郷の星竜たちも言っていました』
そう呟いたソラヒメは、これまたどこか懐かしげな横顔だった。
……こいつもたまには故郷が恋しくなったりすんのかね。
でも帰りたいとかあんまし言わないし、そうでもないのか。
『さ、この話はこれでおしまいです。あまり楽しい話題でもないですし、シムルに小難しい話を聞かせてもすぐ忘れてしまうでしょう?』
「ケッ。正直、前に多少頑張ってた数学の話以外は全部抜けちまうよ。悪かったなぁ、小難しい話が苦手でよ?」
『私としては、あまり覚えていてほしい話題でもないので。ありがたいですよ?』
「おいおい、何だそりゃ」
俺たちはそう言いつつ、互いに苦笑した。
ソラヒメの竜王の力、本人があまり使いたくないと言うなら俺もこれ以上何か言うつもりもないが、ソラヒメも意外と面倒な力を抱えて困ってんのかもしれなかった。
──その力絡みでそのうち何かあれば助けるつもりだが……ま、そこは持ちつ持たれつだ。相棒同士だしな。
いつも通りにそんなことを思いつつ話していると、いつの間にか夜も更けていった。
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