化け物と流行り物〜モンスターゲーマー〜
とある秋の夜の幻想郷。
そこは美しい虫の音と鮮やかな落ち葉が辺り一面を覆う地上の楽園。
そんな中、霧の湖の湖畔には年中飽きもせず、勿論秋も紅い館があった。
紅魔館と呼ばれ、人々から畏れられる悪魔の館。その主人、悪名高き吸血鬼、レミリア・スカーレットは中秋の名月を背に...
「ひまあああ!!」
...退屈していた。
「さあああくうううやあああ!!」
幼い悪魔は使用人の名を叫ぶ。
強靭無敵のヴァンパイアも、日常生活においてはそこんじょそこらの赤子よりも自立できていないくらいであった。
僅か数秒後に、レミリアの部屋に軽快なノックの音が響いた。
「失礼致します。お嬢様、毎度毎度どうでもいいことで私を呼ばないでください。私はおもちゃじゃないんですよ?」
「いいじゃない。貴女も大概暇なのでしょう?」
「いいえ、私は今宵淹れる紅茶の隠し味を考えるのに手一杯ですわ」
「暇なのね。何か面白い遊びを教えて頂戴」
[それならとってもいいおもちゃがあるわ]
レミリアの声を聞いてか聞かまいでか...突然部屋の一角に黒い裂け目がうまれ、誇り高き吸血鬼の部屋にも関わらずノックもなしに金髪の女性が現れた。
「あ、暇妖怪だ」
「誰が暇妖怪よ。私は八雲紫!それに、さっきまでお昼寝に大忙しでしたのよ?」
「咲夜、今何時?」
「一大j...午前一時にございます」
「うん、大暇妖怪ね」
「強者は常に余裕があるものよ」
「それなら暇も仕方ないか...」
「でも暇は御免でしょう?」
「何が言いたいのよ」
「暇吸血鬼のお嬢様に、素敵なプレゼントですわ」
言うや否や、紫はスキマから小さな箱を取り出した。
「...何これ。モンスターハンティング?って書いてあるわ」
「それは外の世界の玩具よ。プレイヤーは狩人になって、化け物と戦うの。向こうでは大ブームですわ」
「へえ。これを私に?」
「そう。私もソロでは飽きてきたところなのよ。お暇でしょう?」
「うーん、暇妖怪の相手するほどじゃないけど、背に腹は変えられないものねえ」
「なら決まりね。咲夜、貴女の分もあるのよ?」
「お嬢様のお手伝いをしろと言うことですね、謹んでお受け致します」
「貴女はいいメイドね」
「お褒めに授かり光栄ですわ」
「...さて、操作に慣れるのに少し時間もかかることでしょうし、明々後日頃にまたお邪魔しますわ」
「はーい。まあこの私にかかればこんなもの一日でクリアできちゃうと思うけどね。咲夜、早速やりましょう?」
「畏まりました」
こうして、化け物の王が化け物を狩るゲームに戯れるという不思議な構図が出来上がった...
少女狩猟中...
「うわああ、死ぬぅ!」
「粉塵を使いました」
「何これ!雪だるま!?」
「割りましたわ」
「あ、死んだ...」
「お気になさらず、BCで待機をお願いしますね」
そして、三日後。
約束通り、八雲紫は紅魔館を訪れたが、その惨状を見て呆気にとられた。モンスターの着ぐるみを着た妖精メイドたちがそこら中に転がっている。起き上がった妖精は、すぐさまレミリアの持つランスを模した武器に突き刺され吹っ飛ばされていった。
...紫は頭を抱えつつ咲夜に問う。
「状況を説明してくれる?」
「聡明な貴女様ならお分かりでしょう」
「やっぱり?」
レミリアはすぐに飽きた。短気な性格はゲームに向いていなかったのであろう。そこで妖精メイドをモンスターとして立て、自分はハンターに扮して雰囲気を楽しむことにしたのだった。
...しかし、実際にはレミリアがモンスターであったことは言うまでもない。
紫と咲夜は顔を見合わせ、少しの間だけ現実から目を背けてゲームに没頭した。
「三日でオールクリアって只者じゃないわね」
「一晩で館を全焼させるお嬢様にはかないません」
「あいつは化け物よ」
「言い得て妙ですわ」
途方に暮れた少女たちの、幻想のハンターライフは長く続きそうであった...