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無色透明  作者: なつめ
2/3

あか

父に手紙が届いたのは、降り続けていた雨が、もうすこし強くなった日だった。

親戚が、久々に会おうと、手紙を寄越したのだ。

父は久々に兄弟に会えると喜んで、母も父が嬉しそうなのをみて、とても喜んだ。

私も、兄のように慕っていた従兄に会えると言われ、嬉しかった。

ただ照れが勝って「そう」としか言わなかったけれど、父は嬉しそうだなぁと言って、私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。私は嫌がってみせた。でも顔はにやけていた。


その日になって、私たちは船に乗り込んだ。

その親戚はとても裕福で、別荘を、とある島に持っていたのだ。

その島は、無人島というわけではなくて、ほかに宿泊施設もいくつか点在していた。

私たちは船の中で、そういうところに泊まる、ほかのひとたちとトランプなどをして遊んだ。

父はとても人が良くて、すぐに誰とでも打ち解けてしまうのだ。

私は近くに泊まると言っている同年代の子を見つけて、一緒に話していた。

その子はよくよく聞いてみれば、私の通う高校の、一つ上の学年に所属していた。

来年は受験だ、と憂鬱そうな顔をして、君にはもう一年あるね、と羨ましそうだった。

彼はとても物知りで、私にいろいろなことを教えてくれた。 島にでる虫、食べられる植物。花言葉だって教えてくれた。

私たちはあっという間に打ち解けて、島に着いたら遊ぼうと約束した。

とてもとても楽しい時間だった。



船が島について、私たちはしばしの別れを惜しんだ。 明日遊ぼうと、場所を指定して、連絡先を教えあって、もう高校生になるというのに、子供の様にゆびきりをした。

島について、従兄にあって、ちょっとだけおしゃべりをして。

そして、事態は急変した。

気がついたら、父が血を口につけたまま床に倒れていて、母の胸は赤く染まっていて、ほかの親戚は腰を抜かしたり、気を失ったり、ぐったりを倒れ伏したまま、動かない人もいた。

従兄は、高笑いをしていた。

鋭く尖ったナイフを片手に、笑っていた。

何故かなんてわからなくて、私は従兄の前で、目を見開いたまま動くことができなかった。

息も出来なくて、まるで神話に出てくるメデューサの目を見てしまったようだった。

それくらい、あの時の従兄は怖かったのだ。

従兄は、目の前で硬直する私の前で、一人づつ親戚を刺した。

赤い、赤い、あかい血が、ぼたぼたと地面に滴っていた。

私にも血は飛んで、私の頬に跡を残した。

従兄が目の前でざくざくとやるものだから、地面にへたり込んだ私の、地面にべたりとついたスカートは、血でぐちゃぐちゃになっていた。

従兄は時折ナイフを取り換えていた。 適当に放り投げたナイフが、私の膝元にびゅんと飛んできたとき、私の硬直は解けた。

私は血まみれのナイフを手に、開いた窓から外に飛び出して、走った。

狂気に満ちた従兄はまだ気づいていないようで、私は裸足の足に、石が刺さるのを感じながら、携帯を取り出した。

なぜか警察じゃなくて、彼に電話をかけていた。

彼は、明日来るはずだった場所で落ち合おうと言って、私もそれに従った。

血まみれのナイフを見て、彼は驚いたようだった。しかし、今頃ぼたぼたと涙があふれ出した私がつっかえながらも事情を説明すると、震える私を抱きしめて、固まって離れなくなった手から、ナイフを外した。

彼は、私が走ってきたほうを見て、しまったという顔をした。

道にはところどころ、スカートから血が滴っていたのだ。

従兄が私を殺そうと思えば、場所はすぐにわかるくらいだった。

私の携帯が震え、メールが届いたことを知らせた。

彼が私の手から携帯をとって覗き込んで、ここに隠れていろ、とその部屋に、かろうじて隠れられそうな場所を示した。

彼は、別の場所を探すと言った。

もっと広い場所があれば、そこに移動できるから、とも言った。

二人だと目立つから、少しだけ待っていて?と言われて、戻ってくるからとも言われて、私はうんと頷いた。

誰から、どんなメールが来たかは、聞けなかった。


彼はナイフを、ティッシュで何重にもくるんで、私に渡した。護身用だと言って。

私は気を付けてね、と何度も言って、ありがとうと、ごめんなさいと繰り返した。

彼は大丈夫とだけ言って、部屋を出た。私の携帯は、彼が持って行った。

私は、ただ隠れた。


しばらくして、部屋に誰かが入ってきた。

私は飛び出しそうになって、しかし知らないひとであるかもしれないと思い出して、血まみれのスカートが目立たないように、三角座りで息を殺した。

足音は、迷わず私の方まで近寄ってきた。

彼かな、と思いながら、私はそっと隠れ場所から顔を出して、

息が、止まった。


血まみれの従兄が、片手に血まみれの私の携帯を持って、こちらを覗き込んでいた。

嘘だと思った。 私の携帯を持っているということはつまり、彼は。

従兄は血走った眼で私を睨んで、ぐっとナイフを掲げた。

刺される、と思った。 私はティッシュの鞘からナイフを抜き取って、突き出した。

ナイフと、ナイフは、同時だった。

同時だったのだ。




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