蘇った記憶
あおちゃんから衝撃の宣告受けた後、他に何事もなく時は進み、やがて放課後を迎えた。授業開始によって会話がぶつ切りになってしまったため、あの時以降あおちゃんと展望台についての話はしていない。
一応2人に立ち入り禁止の旨は話たが、一応展望台に行ってみることになった。
「しかし立ち入り禁止とはなぁ。」
「僕も全然知らなかったよ。」
2人がそう言うのも無理はない。俺だって知らなかった。これがアルメイダによる妨害なのだろうか。いずれにせよ、他にも妨害が襲ってくるかもしれない。少し気持ちを引き締めた方がよさそうだ。
「この先何が起こるかわからない。俺から誘っといてなんだけど、2人とも、無理はしないでくれよ。」
2人は頷き、俺たちの間に軽い緊張感が生まれた。
俺たちは早速展望台のある小さな山へ向かった。その途中は何の妨害もなく、簡単にふもとにたどり着くことができた。しかし、
「うわぁ、こりゃひどいな。」
「一体何年放置していたんだろう?」
本来ふもとには山への入り口があり、ある程度整備された細い道が頂上まで続いているはずだった。
しかし、その道は荒れ果てていて、整備されていない部分の木が無法地帯とも言わんばかりに生い茂り、その枝が完全に道を塞いでしまっていた。俺たちは一度そこで立ち止まざるをえなかった。
少なくとも昨日はこんな状態ではなかった。いや、昨日が特別だっただけだ。これがこの世界におけるあるべき姿なのだ。
「確かにひどい状況だ。でも、俺は展望台に行かなきゃならない。」
俺は自分の意思を伝えた。
「ここまで来たんだし、最後まで付き合ってやるよ。」
「問題はどうやって進むか、だよね。」
2人はこんな状況でも俺の意思を尊重してくれた。本当にありがたい。
「お、そうだ!」
和希が何か閃いたようにぽんっと手をたたいた。
「どうしたの?」
それが何か気になる昴。
「この近くに知り合いのおじさんが住んでるんだけど、確か枝切りばさみ持ってたんだよ。ちょっくら借りてくるわ。」
「マジか!? それは助かる。」
この申し出は本当に助かった。このままだと前に進むことはできなかったからだ。
そうして一人別行動をとった和希を待つこと数分、和希がおーいを声を上げながら戻ってきた。
「ほらよ、枝切りばさみ。これ、太い枝も切れるらしいぜ。」
「ありがとな。助かるよ。」
「なぁに、さぁ、行こうぜ。」
先頭を行く和希に、俺と昴はついていく。
山頂にある展望台は、ふもとからそれほど遠くない。どんどん道を切り開いていく和希に、俺は足場の悪い道に気を付けながらついて行った。道を阻む枝のせいで少し時間がかかってしまったが、ようやく俺たちは山頂へたどりつ着いた。だが、そこには信じられない光景が広がっていた。
「…ははっ、なんだよこれ…」
5、6mはあろうかという大きな金属製のフェンスが展望台の周囲をぐるっと囲んでおり、ご丁寧に有刺鉄線まで張り巡らされていた。
「こりゃすごいな…」
「ここまで徹底されると、逆に感心しちゃうね。」
和希も昴も驚きの声を漏らしていた。
フェンスにはでかでかと、『立ち入り禁止』の看板が激しく自己主張していた。どれだけ入ってほしくないんだよ。
「さて、どうする楓?」
和希の問いに答えようとした時、後方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「こら! 何をやってるんだお前たち!」
振り向くと、そこには一人の警官が立っていた。
「そこは立ち入り禁止だぞ! こっちに来なさい!」
その警官はとてもたくましく、あらゆる犯罪者を力でねじ伏せてきたとの噂になるほど町で有名な屈強な男だった。警官の表情は、立ち入り禁止場所に侵入しようとしている高校生を注意するそれではなく、まるで凶悪犯罪に対処しているかのような鬼気迫るものだった。
さすがにこの警官相手に強行突破は厳しいか。くそっ、せっかくここまできたのに。そんなことを思っていると、昴が一歩前に踏み出した。
「すみません。僕らはただ展望台を見てただけなんです。すぐにそちらに行きますね。」
そう爽やかな笑顔で言った昴は、次の瞬間、俺を展望台の方へ突き飛ばした。
「楓、行って!」
和希もすぐに昴の意図に気付いた。
「ここは俺に任せて先に行け! 一回言ってみたかったんだよな、このセリフ。」
「昴、和希…」
2人を置いて行くかどうか躊躇してしまったが、ここ立ち止まるわけにはいかなかった。
「さぁ、早く!」
「すまないっ!」
2人の声に後押しされ、俺は展望台に向けて走りだした。
「こら! 待ちなさい!」
鬼のような形相で迫ってくる警官を、二人がかりで抑えてくれていた。俺はその間にフェンスを登っていたが、屈強な警官は2人がかりでも止めることができなかった。遅れて警官もフェンスをよじ登ってくる。先にフェンスを登りきった俺だったが、最後の試練のように数段に積み重ねられた有刺鉄線が俺の行く手を阻んだ。その間にも警官は叫びながら俺との距離を詰めてくる。もう迷ってる暇はない。
「ええい、ままよ!」
そう叫んだ俺は、有刺鉄線に構わず強引に進んだ。有刺鉄線をつかんだ手には針が食い込み、さらに針は体重のかかる腕や足の肉をえぐった。
「ぐっ…」
かなり痛かったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。強引に進んだ甲斐があって、ついに俺はフェンスの向こう側へ到達した。節々が痛む体を厭わず展望台へと全力で走り、そして、俺は望遠鏡の前にたどり着いた。
後ろから警官の叫び声が聞こえていたが、そんなのもうどうでもよかった。俺は呼吸を落ち着け、そして目を閉じた。すると、行き場をなくしていた記憶が宿主を探していたかのように、すうーっと体の中に流れ込むような感覚を感じた。
どれくらい目を閉じていただろうか。多分数秒のことだっただろう。欠けていた記憶のパズルの最後のピースがはまり、俺は目を開けた。
「…そっか。やっと思い出せたよ、『ハルナ』…」
新たに芽生えた想い。それは現在の想いとの決別を意味する。




