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謎の転校生

 ふと目を開けると、満天の星空が広がっていた。どうやら俺は仰向けになっているようだ。

 

 俺は星空に手を伸ばそうとした。しかし体は全く動かない。それどころ か、全身に強烈な痛みが広がってきた。あれ? 俺どうしたんだろ・・・。

 

 徐々に意識が薄れていく。周りを見ると、壊れ果てた謎の物体が広がり、女の子がこっちを見て泣いていた。何か言っているようだったが、何を言ってるのか全く聞き取れない。


 どうやらもう意識を保つのは限界のようだ。俺は最後の力を振り絞って女の子に向かってニカッと笑ってみせた。うまく笑えていたかどうかはわからないが。


 そして、俺の意識は完全に闇と同化した。



「んっ・・・?」


 ミンミンと響き渡るセミの声。もう9月だってのによく鳴くよ、ほんと。

 俺は時計を見た。現在朝7時。さて、起きるか。


 目覚めは良好。何か夢を見ていたような気がするけど何も思い出せない。 まぁ夢ってそんなもんだよね。


 そこで、何かの記憶が頭の中をよぎった。それはヴァイロンとの一件のことである。


 俺は慌てて時計の日付を確認した。あの日から3日前である。

 マジかよ・・・。夢落ち期待してたんだけどなぁ。いや、そもそもあれ自体が夢だったのかも。


 しかし、俺の本能がそれを否定する。あれやっぱり現実なんだよなぁ。

 ふぅ、しっかりやらないとな。改めて自分を戒める。


「行ってきます。」


 素早く準備を終えた俺は学校へと登校する。


 両親や周りの世界すべてがしっかり時を刻んでいることを確認した時はすごく安心した。

 これが普通なんだけどね。


 学校へは自転車で向かう。ちょうど30分くらいだ。


 さて、遅ればせながら軽く自己紹介といきたいと思う。


 俺、如月楓(きさらぎかえで)は県立上鶴高校に通う高校2年生だ。ちなみにこの高校、なかなかの進学校である。


 成績は中の下、運動はそれなりにできるって感じかな。

 顔も別に悪くないとは思うんだけど、彼女はいないんだよなぁ。


 彼女で思い出した。俺3日以内に告白しなきゃいけないんだった。どないしよう・・・。


 鬱陶しいくらいに照り付ける太陽。額からは汗が流れる。


「・・・暑いな。」



 だが俺は登校しながら思っていた。俺には3日先までの記憶がある。

 そりゃ完全にすべてを把握しているわけではないが、自分が経験したこと はだいたい覚えている。

 これってチートってやつだよな。


 学校へ着いた俺は教室へ向かう。そして教室へ着き、自分の席にたどり着こうとしたところで、隣の席の女の子と目が合った。


「おはよう。」


 可愛らしい笑顔で俺にあいさつをしてくれたのは、春日葵( かすがあおい)である。

 何を隠そう、俺の好きな女の子だ。


 身長は小柄。髪はショートカットで目は大きくクリっとしている。気さくでだれにでも優しく、男女問わず人気が高い。

 太陽みたいな笑顔を向けけくれる彼女は、まさに俺の天使。


 「お、おはよう。」


 つい笑顔に魅了されてしまったが、自然な感じを装ってあいさつを返す。


 俺はカバンからタオルを取り出し、額に浮かぶ汗を拭いた。


「今日も暑いね~。」


 俺の仕草を見て声をかける彼女。やだ、もっと暑くなっちゃう。


「そうだね。もう9月だってのに。太陽さんはちょっと張り切りすぎだと思うんだ。」

 

俺の発言にふふっと笑う彼女。おっ、何かいい感じ?


 そこで俺はふと思った。あれ? 3日前ってこんなことあったっけ? 

 しかし、彼女と話せたことの満足感が大きく、そんな些細なことは気にならなくなった。


 しばらく取り留めのない話をしているとチャイムが鳴った。これから朝のHRだ。


 ドアがガラッっと開き、「席につけー」をいう呼びかけとともに先生が教室に入ってきた。


 この先生の名前は真田直継(さなだなおつぐ)。俺たちの担任の先生だ。見た目は30歳前後で比較的若い。けっこう厳しいところもあるが、生徒思いのいい先生である。


「さて、早速だが転校生を紹介する。」


 へぇ。転校生が来るのか。

 ・・・ん? いやいや待て待て、それはおかしい。

 俺の記憶ではそんなことはなかったはずだ。それに転校してくる時期もおかしい。普通は始業式に来るはずだ。一体どうなっているんだ・・・。


 再び教室のドアがガラッと開くとともに、女の子が長い髪を揺らしながら入ってきた。

 その女の子は教壇の前に立つと、優雅に自己紹介を始めた。


「はじめまして。橘春菜(たちばなはるな)と申します。家庭の都合で引っ越して参りました。どうぞよろしくお願いいたします。」


 その優雅な立ち振る舞いに、クラス全員が目を奪われた。

 さらっとして少し茶色がかった黒の長髪。透き通るような色白の肌。スタイルもとても良く、その小顔はアイドル級といっても過言ではない。

 さっきの立ち振る舞いからも、きっとこの子はどこかのお嬢様ではなかろうか。


「こらっ、静かに。ではみんな、仲良くしてやってくれ。」


 先生の呼びかけに「はーい」と返事をするクラスメイトたち。


「席は一番後ろに用意しといたから、そこに座ってくれ。」


 先生がそう言ってやっと気付いた。確かにそこには席が一つ増えていた。

 くっ、あおちゃんとの会話に夢中で気がつかなかったぜ。あ、あおちゃんって春日葵ちゃんのことね。


 しかし橘さんはその場を動かない。そして、


「すみません。実は私目があまり良くなくて。できれば前の方の席が良いのですが。」


 そういって彼女が指し示したのはなんと俺の前の席だった。


「そうか。どうだ川崎?」

「あぁ、いいっすよ。」


 先生の問いにそう答えたのは川崎和希かわさきかずきである。彼は野球部に所属しており、性格はさばっとしていていいやつだ。俺の親友でもある。


「すみません」と謝る橘さんに、和希は「いいっていいって」と笑顔で答えている。

 本当にこいつはいいやつだよな。


「じゃあな、楓。」

「あぁ。」


 和希との別れ、といってもただ席が遠くなっただけだが、を済ませると、俺の前の席、つまり左から2番目の一番前の席に、新しい住人がやってきた。


「よろしくお願いしますね。」

 

 そういって俺に微笑む橘さん。やべぇ、超かわいい。

 でもこの笑顔どっかで見たことあるような・・・。いや、気のせいだよな。こんな美人さんの知り合いとかいないし。


「あぁ、こちらこそよろしく。」


 HRが終わると橘さんのもとに多くのクラスメイトが集まってきた。質問攻めが始まったようだ。まぁ気持ちは分かる。

 俺も少し話してみたかったけど、まぁ後でいいか。


 俺はトイレに向かった。色々考えたいこともあったからだ。


 トイレに着くなり、俺はフルスピードで思考を開始した。

 そもそも転校生ってなんだよ。これ本当に3日前なのか?もしかして別の世界線とかなのか?

 

 それに橘さんの行動が気にかかった。わざわざ俺の席の前に移動してきたりして。たまたまなのか。

 いや、何か思惑を感じざるをえない。


 それにしても、本当にわからないことだらけだな。でも俺は自分の役割を果たさないとな。


 あまり整理もつかないまま、俺は教室へと戻った。相変わらず橘さんはクラスメイトたちに囲まれていた。まぁ美人だし、そりゃ人気あるよな。


「すごい人気だね。」


 隣の席から話しかけてくるあおちゃん。


「そうだね。あおちゃんは話さなくていいの?」

「今こんな状況だし後でいいかなって。楓君もそうなんでしょ。」

「うん、そんな感じ。」

「すごい美人さんだよね。びっくりしちゃった。」


 君の方が素敵だよ。なんて、そんな恥ずかしいこと言えない。


「そうだね。本物のアイドルみたいだ。」


 そうこう話している間に1限の始まりを告げるチャイムが鳴った。


 午前中の授業はつつがなく終了。昼休みがやってきた。


 俺たちのクラスでは机を移動させてご飯を食べる人、自分の席、学食、ベランダでご飯を食べる人がいて、人それぞれといった感じだ。


 俺は自分の席で食べることが多い。周りには仲の良い連中がいるので、話相手には困らない。

 橘さんは何度か誘われていたけど、結局自分の席で食べることにしたようだ。


 俺はいつも通り机に弁当を広げた。すると前の席の橘さんが振り返った。


「あの、一緒に食べてもいい、かな?」


 恥ずかしそうにもじもししながらそう言ってくる彼女。何この子。くっそかわええ。

 はっ、しまった。俺にはあおちゃんという心に決めた人が・・・。


「え? あ、あぁ、かまわないよ。」

「ほんと? ありがとう。」


 俺の返事に彼女は満面の笑顔。えっ? そんなにうれしいの?


 確かに一番前の席は、前向いて食べると黒板しか見えなくて虚しいからなぁ。

 俺は机の上半分を空けた。


「じゃあ失礼するね。」

 

 空いたスペースに弁当箱を置く彼女。

 それを見ていたあおちゃんが少しこちらに寄ってきた。


「えっと、私も一緒にいいかな。」

 あおちゃんは橘さんに尋ねた。


 橘さんは一瞬こちらを見たが、

「えぇ、もちろん」


 すぐにそう答えた。俺にはその顔が少し寂しそうに見えた。気のせいかな。


「良かったぁ。私橘さんとお話してみたかったんだぁ。」


 うれしそうなあおちゃん。

 あおちゃんとは食事中たまに会話はしてたけど、こういう形式的に一緒に食べるっていうのは初めてだ。俺もうれしいよ、あおちゃん。


「これまたすごい状況だね。」


 いままでの流れを黙って見ていた俺の右隣りの席の男が口を開いた。


 彼は山下昴(やましたすばる)。中性っぽい顔立ちをした彼の性格は、とにかく温厚である。怒ったところなんて見たことがない。もう聖人ってレベル。

 実は昴は俺の本当の気持ちを知っている。だからこの状況を気にしているんだろう。


「ははっ、まったくだよ・・・」


 うれしいっちゃうれしいけど、少し気まずいんだよな。

 でも橘さんとは話してみたかったし、ちょうどいいか。


 こうしてうれしくも気まずい、なんとも言えない食事が始まった。


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