恋の三重奏
3日間のタイムリープ(厳密には違うが)を終え、一時はどうなることかと思ったがなんとか与えられた使命を果たし、ついに世界は再び時を刻み始めた。
俺は組織の魔の手によりトラックに跳ねられ重症だったが、結論からいうと、1ヶ月もたたないうちに日常生活に復帰することができた。元々体がある程度丈夫だったというのもあるが、医者の話では回復力が凄まじかったらしい。これも俺の中の異細胞の力なのか。何にせよ、早めに復帰できて良かった。
入院中、和希や昴、そしてあおちゃんなどの親しい友人たちがお見舞いに来てくれたのであまり退屈はしなかったし、みんなで分担して俺のために授業用ノートを取ってくれていたので、これで授業に全くついていけないという最悪の事態は回避することができた。本当にみんなには感謝しなきゃな。今度ちゃんとお礼しよう。
学校生活に復帰した俺は、今までと変わらぬように日々を過ごした。11月には文化際で学校全体が盛り上がり、クリスマスには小規模だが友だちとクリスマスパーティを楽しみ、バレンタインにはある騒動が起きて大変だったり、その他にもたくさんの出来事があったが、それはまた別のお話ということで…
そして季節は巡り、春を迎えた。桜の花びらが風に舞う出会いと始まりの季節に、俺たちは2年生となった。奇跡的にも、俺と和希、昴、そしてあおちゃんは再び同じクラスとなった。こんなことってあるんだね。なんてことを言ってみたが、実はこうなったのにはちゃんとした理由がある。
数か月前、俺がヴァイロンに願いを聞かれた時の話だ。
「それで、君は何を望むのかな?」
「僕の願い、それは…」
願いなんていくらでもあるし、とんでもないような願いだってもしかしたら叶っていたかもしれない。でも、この時の俺は不思議と1つの選択肢しか思い浮かばなかった。
「…僕と川崎和希、山下昴、そして春日葵を同じクラスになるようにしてください」
ヴァイロンは驚いて目を丸くした。
「…まさかそんなお願いだとは思ってなかったよ。ちなみに、理由を聞いてもいいかい?」
ヴァイロンのこの反応は最もだと思う。しかし、この願いにはちゃんとした意味がある。
「僕が過去に行ってる時にですね、ハルナが転校してきたんです。まぁその出来事はなかったことになってるんですけどね… それで、今度ハルナが転校してくる時に、その時に関わったメンツで迎えてあげたいなと思いまして。もちろん、仲の良い友達と同じクラスになりたいっていう自分勝手な欲もあるんですけどね、はは…」
俺は思っていることを正直に伝えた。当然、俺が高校生でいる間にハルナが地球にやって来るなんて保障はどこにもない。しかし、もしそれが可能なら、できる限りあの時に近い状況でハルナを迎えてあげたい。俺の気持ちがちゃんと伝わったのかどうかはわからないが、ヴァイロンは納得し、しっかりと俺の願いを叶えてくれたようだ。
始業式の日の朝、教室で友だちと顔を合わせた。
「よっ、また一緒のクラスだな。」
「今回も楽しくなりそうだね。」
親友である和希と昴がそう声をかけてきた。和希は俺の前の席で、席順まで完全再現だった。すごいぜヴァイロン。
「あぁ、またよろしく頼むよ。」
そして、俺に向けられているもう一つの視線に気づいた。
「その、今年もよろしくね。」
いつからか、俺の横に立っていたあおちゃんが話かけてきた。
「うん、こっちこそよろしく。」
そう言って、あおちゃんは俺の左隣の席に座った。
あおちゃんと言えば、俺が事故に逢った頃から俺と接する時の態度が明らかに変化していた。少しよそとそしくなったかと思えば、いきなり積極的になったり、少ししおらしくなったり… 今までは仲の良い友だち感覚で付き合っていたが、俺のことを異性として意識したような感じだ。
さすがにそこまで鈍感ではないので、少なからず自分に好意が向けられているということは分かる。少し前の俺だったら飛び跳ねて喜ぶところ、いや、今でもうれしいが、もう俺には心に決めた人が…
しかし、こっちから他に好きな人がいると言うのも変な話で、この件の解決はまだ先になりそうだ。せっかく抱いてもらった好意を受け取ることができないというすごくもったいないことをしていると思うが、二兎追う者は一兎も得ずとはよく言ったもので、二股なんでする度胸ないし、そもそもできないと思う。これからどうしたものか…
始業式を終え、俺たちは教室に戻ってきた。そしてすぐに教室の前のドアが開き、担任の熱血教師、真田先生が入ってきた。こんなところまで再現されてるなんて、ヴァイロン、恐るべし。
あれ、待てよ? ということは…
先生は一通りあいさつを終え、教室のドアの方を見た。そしてまた視線を生徒たちの方に戻し、
「えー、それでは転校生を紹介する。入ってきなさい。」
ドキドキと胸が高鳴る。もしかして、もしかするかもしれない。
クラスメイトが転校生への期待を膨らませ騒ぐ中、教室のドアがガラッと開き、女の子が長い髪を揺らしながら入ってきた。
その女の子は教壇の前に立つと、優雅に自己紹介を始めた。
「はじめまして。橘春菜と申します。家庭の都合で引っ越して参りました。どうぞよろしくお願いします。」
その優雅な立ち振る舞いに、クラス全員が目を奪われた。
さらっとして少し茶色がかった黒の長髪。透き通るような色白の肌。スタイルもとても良く、その小顔はアイドル級といっても過言ではない。
さっきの立ち振る舞いからも、きっとこの子はどこかのお嬢様ではなかろうか。
しかし、俺はこの女の子のことを知っている。そう、ずっと待ち焦がれていた、俺の大好きな女の子だ。
目が合うと、彼女は極上の笑顔で微笑んだ。やばい、可愛すぎてどうかなりそう。
「席は一番後ろに用意しといたから、そこに座ってくれ。」
先生がそう言ってやっと気付いた。確かにそこには席が一つ増えていた。
しかし、彼女はその場を動かない。そして、
「すみません。実は私目があまり良くなくて。できれば前の方の席が良いのですが…」
そういって彼女が指し示したのは俺の前の席だった。
俺の前の席である和希はその申し出を快く了承し、俺の前に新しい住人がやってきた。
こっちを見てうれしそうにしている彼女を見ていると、こっちまでうれしくなった
HRを終え休み時間が始まるや否や、ハルナ、いや、春菜がこちらを振り返る。
「やっと会えたね。」
感動の再会。みんながいる手前さすがに抱きしめるとかはできないが、俺も彼女もお互いにすごくだらしない顔をしていたと思う。
「うん、でも、思ったより早かったね。びっくりしたよ。」
数年は会えないことを覚悟していたが、まさか半年程度でまた会えるとは…
これは後から聞いた話だが、ヴァイロンを始めとする惑星保護機構の働きかけによってかなり減罪されたらしい。アルメイダの悪事の証拠を示し、私情とはいえ『愛』のために行動し、過去に甚大な被害を与えたわけではないという点が評価されたようだ。正直そんなにガバガバな法体制でいいのかよと思うが、そんなことよりもこんなに早く再会できたことがうれしい。ヴァイロンには感謝してもしきれない。
俺と春菜のやり取りから俺たちが知り合いだとわかったのか、クラスメイトたちが俺たちの関係について色々な質問をしてきた。さすがにいきなり大勢の前で恋人というのも恥ずかしかったので、適当にごまかしながら対処していると、春菜はぷぅーと頬を膨らませてた。いや、ごめん。さすがにこんな大勢の前で言うのは恥ずかしすぎる。あとそんな顔も可愛いよ。
そんな俺たちの様子を横から見ていたあおちゃんは、俺たちの関係に気付いたのか、席を立ち、春菜の前へ移動した。春菜もそれに気づき2人は向かい合う。
「私、春日葵。よろしくね。」
「うん、こちらこそよろしくね。」
穏便に収まりそうなので安心していたが、あおちゃんがとんでもないことを言った。
「私、負けないからね。」
いやいや、負けないって… これは間違いなく宣戦布告だ。
「うん、私も負けないよ。」
対する春菜も堂々と答えた。もしかして険悪な雰囲気なのかなと思って2人を見ると、2人とも爽やかな笑顔を浮かべていた。もしかしたら、あおちゃんは春菜のことをなんとなく覚えているのだろうか。いや、まさかな…
とりあえず、あおちゃんにだけは俺たちが付き合っていることをちゃんと伝えたほうがいい。それで俺のことをあきらめてもらえれば問題は解決だが、多分そのことをわかった上で宣戦布告したんだと思う。だからこの件は一筋縄ではいかないだろう。正直そこまで好いてもらえるのはありがたいことだが、日本は一夫一婦制だから、そこはどうしようもない。
このままずるずる過ごしていたら、いつか刺されることになるかもしれないし、一体どうしたものか…
長い時を経て再会した2つの音は、美しい音色を奏でた。そこに新たに別の音が加わり、その音は三重奏となって響き渡った。
2年生になり、早速大波乱の予感。一体俺の学園生活はどうなってしまうのか…
はじめまして。たいしょうと申します。
まず初めに、最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。
この作品は私の処女作であり、文章も話の内容もめちゃくちゃな部分も多く、あまりいい出来だとは言えないと思います。
それでも最後まで書くことができたのは、読んでくれる方々がいたからです。本当にありがとうございました。
そして、更新頻度が異常に遅く、ご迷惑をおかけしました。12話分の掲載に1年と2ヶ月もかかってしまい、反省しております。
実際に話を書いてみて思ったのは、頭で話をなんとなくイメージできていても、いざそれを文章にして書こうと思うと、とても大変だということでした。私に国語力があまりないのが原因なんですが…
さて、本作品はまだ続きが書けるような終わり方をしていますが、一応ここで終わりという風にさせていただきます。もしかしたら今後なんらかの続編があるかも…
また次回作に挑戦するつもりでいるので、もしよろしければ読んでいただけると嬉しいです。
それでは、またお会いできることを楽しみにしています。