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終わりと始まり

 何もない暗闇。そんな空間で俺の体はふわふわと宙に浮いていた。何も考えることもできず、ただ流されるままに浮遊していた俺だったが、突然目の前に白い光が現れ、その光はどんどん広がり、ついに俺の意識を覚醒させた。

 

 目を開けた瞬間、何が何だかわからなかった。見知らぬ天井、ベットの上にいる俺、そして目の前に立っているヴァイロン。一体何がどうなっているんだ。

 「はじめまして、いや、君にとっては久しぶり、になるのかな?」

 「…はい、お久しぶりです。」


 まだ完全に起ききってない脳を酷使し、俺は答えた。本来の時間軸では、これが初めての俺とヴァイロンの出会いとなるわけだから、彼の言ってることは正しい。

 寝ながら話すのも失礼なので、俺は体を起こそうとした。しかし、

 「ぐっ…」


 いきなり体に激痛が走った。なんだこの痛みは。

 「おっと、無理はしなくていいよ。君は重症患者だからね。」


 痛みを意識した途端、全身に鈍い痛みが走りだした。なんだ、なんでこんなことに。とりあえず上体を起こすことには成功した。

 「本来君の意識はまだ戻ってないんだけど、ちょっと緊急事態だったから意識だけ戻させてもらったよ。本当は体の方も直してあげたいんだけど、干渉は最小限にしないといけないからね。すまない。」

 「え、あっ、はぁ…」


 無理やり意識戻したとか言われてもリアクションに困る。

 「それで、君はおとといトラックにはねられたんだけど、覚えてないかい。」


 そう言われて、記憶の中を探る。そうだ、確かに俺はトラックにはねられている。

 「…そうだ、そうでした」


 そのことを思い出した瞬間、眠っていた脳が覚醒し一気にたくさんのことを思い出した。

 「っ! ヴァイロンさん。あなたに言わなきゃいけないことが…」


 そこまで言って疑問が生じた。なんでここにヴァイロンがいるんだ? それにさっき『おととい』事故にあったって… つまり今日は…

 

 耳を澄ましてみると何も音は聞こえない。病院だから静かだとか、そういう問題ではない。ここからは確認はできないが、この感覚は前にも経験している。

 「気づいたようだね。」

 「また、時間が止まったんですね…」


 ヴァイロンはこくっと頷いた。

 正確には「また」ではない。この時間軸ではこれが最初の時間停止だ。俺はこの時間停止を防ぐために過去にタイムリープしたわけだが、結局その役目は果たせなかった。

 「その、約束守れなくて、本当に申し訳ありませんでした」


 俺は今動かせる体を精一杯使って謝罪した。

 「いや、こんなことがあったんだ、仕方ないよ。それより、私に話ってなんだい?」

 

 ヴァイロンは全く怒りもせず、俺の話を聞こうとしていた。え、そんなあっさりでいいの? 少し拍子抜けしたが、すぐに気持ちを切り替えた。

 「はい、かなり長い話になるんですが…」


 俺はハルナのこと、昔の記憶を取り戻したこと、アルメイダの悪事など、知っていることすべてをヴァイロンに話した。話している間、ヴァイロンは真剣に聞いてくれていた。しばらくして、俺を話を終えた。

 「…なるほどね」


 ヴァイロンは納得したようにうなずき、何やら端末のようなものを操作し始めた。

 「こっちでも楓くんがタイムリープしてる間の出来事を時空観測装置で観測していてある程度のことまでは把握してたけど、話が聞けて良かったよ。これで色々と納得がいった。」


 ヴァイロンにとってはかなり驚くようなことをたくさん話したを思うが、すんなり納得してくれたのはそのせいか。

 「あ、あの!」


 俺の言葉に、ヴァイロンがこちらに視線を向けた。

 「ハルナは、今どうなっているんでしょうか…」


 今は他の何よりもハルナのことが心配だった。事情があるとはいえ、彼女は法を犯してしまった。今頃どんな罰を受けているのかわからない。

 「彼女は今取り調べを受けているよ。」

 「…どんな罰則を受けることになるんでしょうか」


 無断で時間を遡るということがどれほどの罪になるのかは俺にはわからないが、きっとそんなに軽いものではないのだろう。

 「無断での時間遡行はかなり重い罪に分類される。でも、今回の場合は彼女の私情を挟んだとはいえ、結果的に事情が事情だし、幾分罪は軽くなるよ。だからといって、罪を犯したことをなかったことにはならない。それだと秩序が乱れてしまうからね」

 「…そうですか」


 少し不満はあったが、ここら辺が妥協点だろう。減罪してくれるということなので少し安心した。

 「それとアルメイダの件、君たちのおかげで犯罪者たちを確保することができたよ。もともと惑星保護機構にアルメイダの息のかかった連中がいることはわかっていたんだ。ただ証拠がなくて、いや、正確には握り潰されていて、彼らを処分できないでいた。感謝するよ。」


 一通りの説明の後、ヴァイロンは思い出したかのように一言付け加えた。

 「そうだ、これでこの町の展望台にかかった暗示も消えるから、安心していいよ」


 全ての元凶であり、今の俺をこんな風にしたアルメイダ。正直やつらは許せないが、ついに処分されたということで安心した。これから惑星保護機構とアルメイダとの間で一悶着あるのではないかと思っていたので、以外とあっさり解決したようで驚いた。この町のアルメイダによる呪縛も解けたようで、やっと俺は本当の意味でアルメイダから解放されたようだ。

 

 そうなると、残る問題が一つあった。とても重要な問題だ。

 「その、お願いがあるんですけど…」

 「なんだい?」

 

 ヴァイロンは興味深そうに俺を見た。

 「実は記憶を取り戻してわかったんですけど、僕、ハルナのことが好きなんです。だからハルナと連絡をとりたいんですが…」


 俺は自分の気持ちを素直に伝えた。これが俺が最終的にたどり着いた答えだ。

 「ほう、そうだったんだね。しかし、そうなると前に好きな子のことは好きじゃなくなってしまったのかい?」

 「いや、正直今でもその子のことは好きです。でも、僕の中でその子よりもハルナを好きな気持ちが大きくて」


 あまり誠実ではない答えだが、これも事実だから仕方ない。すると、ヴァイロンから以外な言葉が返ってきた。

 「その子、君のことが好きだっただろうに、もったいないなぁ」

 「い、いやいや、そんなことないですよ。そりゃあ仲は良かったですけど…」


 あおちゃんが俺のことが好き? そんなまさか。そんなこと、ないよな…

 「でも、僕はもう決めたんです。ハルナに告白するって」


 追い打ちをかけるように俺は話を続ける。

 「それに、もし今告白できれば、この時間停止もすぐに解除されると思うんですが…」

 「…ふむ、確かに」


 ヴァイロンは少し考えた後、

 「分かった、本来こういうことはできないんだけど、今は緊急事態だ。少し待ってくれるかい。」


 そう言ってヴァイロンは端末を操作し始めた。

 自分で言っておいてなんだけど、今になってすごくドキドキしてきた。いままで告白なんてしたことなかったからなおさらだ。しかし、告白と言ったものの、正確にはこれは告白ではない。なぜなら、俺がすでにハルナの気持ちを聞いてしまっているからだ。だから、今から行うのは告白というよりは返事と言った方が正しい。 それでも、俺にとっては大きな出来事なのである。

 「さぁ、準備ができたよ。」


 ヴァイロンがそう言うと、俺の目の前に透き通った画面が表示された。あっ、これアニメとかでよく見る未来的な通信装置だ。何もない空間に画面が出るなんですごい。おっと、少しはしゃいでしまった。

 「じゃあ、一度私は席をはずすから。終わったら呼んでくれ」

 「お気遣い感謝します」


 正直人前で告白するのは恥ずかしかったから助かった。さすが『愛』を重んじる種族。そういうところはさすがだな。

 しばらくすると、画面になつかしの美少女の姿が映し出された。

「よっ、ハルナ!」


 先手必勝。自然な感じであいさつをしてみた。掴みとしては悪くないはずだ。

 「えっ!? 今ハルナって… えっ、あ、そっか… 記憶、取り戻したんだね!」

 「あぁ、おかげさまでね。」


 いきなり名前で呼んだせいか、ハルナはすごく取り乱していた。そういうところも俺的にポイント高い。

 「…その、『ハルナ』って呼ばれるの、なんか照れるね」

 「あぁ、その、昔こう呼んでたから、これが自然なのかなって思って。俺も正直こう呼ぶの恥ずかしい…」

 「…でも、うれしいな」

 「お、おう…」


 俺は完全に照れてしまって、ハルナも赤面しており、なんだか甘酸っぱい空気になってしまった。しかし、それは長くは続かなかった。俺の状態を見て、ハルナの声のトーンが下がる。

 「そのけが、もしかして…」


 察しのいいハルナは、このけががアルメイダによるものだと気付いているようだ。

 「あぁ、ちょっとトラックにぶつかられちゃってさ。なーに、一か月もあれば治るさ。」

 「…ごめんね。こうなることがわかっていた、いや、もしかしたら取り返しのつかないことになっていたかもしれないのに、私が余計なことをしたせいで…」


 ハルナは自分に責任を感じていた。自分が展望台に行くことを勧めなければ、さらに言えば自分が俺に会いに来なければこんな事態にはならなかったのではないかと。

 「あのさ、この前も言ったけど…」


 この前というのは俺と榛名がタイムリープしていた時のことだ。

 「ハルナは何も悪くない、むしろ感謝してるよ。あのままだったら俺、一生記憶を取り戻せなかったと思うから」


 記憶を取り戻した今なら分かる。あんなに楽しかった思い出を忘れたままでいるなんて考えられない。そして、思い出したのは楽しかった思い出だけじゃない。

 「それに、記憶を思い出せたおかげで、俺は大事な気持ちを思い出すことができた。」

 「…大事な気持ち?」

 「そう。だからハルナ、聞いてほしい話があるんだ。」

 「…うん、わかった。」


 どうやらハルナは何かの覚悟を決めたようだ。

 「この前の告白、ありがとな。すごくうれしかった。」


 その時のことを思い出したのか、ハルナの顔がかぁーっと赤くなる。せっかく気持ち固めてたのに、そんな顔されちゃうとこっちまで照れちゃうよ。

 「それで、昔の記憶を思い出して分かったんだけど、当時、俺はハルナのことが好きだったよ。」

 「…私も好きだったよ、楓くんのこと。」

 「おぉ…」


 なんだこれ? なんだこれ? ちょっと甘すぎやしませんかね。

 「それで、じゃあ今はどうなのかって考えたんだ。考えて、そして答えが出た。俺は…」


 緊張で声が上ずっていたかもしれない。喉もカラカラだ。ハルナは真剣な表情で俺の言葉の続きを待っている。ええい、ままよ! 届け、俺の気持ち!

 「俺は、ハルナのことが好きだ!」


 言ったぁ~、ついに言ってしまった。人生初告白。まだ心臓がバクバクいっている。告白ってこんなに緊張するものなのか。

 「…うれしい」


 喜びのあまりか、ハルナはポロポロと涙を流していた。

 「えぇ!? 何も泣かなくても…」

 「だって、ずっと、こうなることを、夢、見てた、から」


 ハルナは泣きながら一生懸命言葉を紡いでいた。

 「だからね、私も大好き、だよ」


 涙混じりに笑顔を浮かべるハルナ。なんだその表情。可愛すぎて直視できない。本当俺にはもったない子だよなぁ。しかもこんなに好いてもらってて、もはや神に感謝。


 泣きじゃくってたハルナだったが、しばらくして落ち着いた。

 「ごめんね、取り乱しちゃって。」

 「いや、そこまで喜んでもらえてうれしいよ」

 

 今時こんな純粋な子っていないよね。そんな彼女が申し訳なさげに、されどその目は真剣に口を開いた。

 「その、どうしても聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」

 「うん、いいよ」

 

 俺に聞きたいことって一体なんだろうか。

 「楓くんはさ、この前まで春日さんのことが好きだったよね。どうして私を選んでくれたの?」


 なるほど、そういう質問ですか。確かにそれは気になるところだと思う。正直に思ったことを答える。それが、俺の彼女に対する誠意だ。

 「確かに俺はあおちゃんのことが好きだったし、別に嫌いになったわけじゃない。ただ、昔の記憶を思い出してから、俺の中であおちゃんを好きな気持ちより、ハルナを好きな気持ちの方が大きかった。だから俺はハルナの気持ちに応えた、というのが正直なところかな。」

 「うん、そっか。教えてくれてありがとう。」


 ハルナは納得したように微笑んだ。

 「じゃあ俺たち、恋人ってことでいいんだよね?」

 「…うん、そうだね。」


 お互いこういったことには慣れてなく、すごくギクシャクしている。

 「あっ、大事なこと忘れてた。」


 突然の言葉にハルナは少し首をかしげた。

 「俺たち、住んでる惑星が違うじゃん? どういう風に付き合っていけばいいのかな?」


 基本的に離れ離れで、たまに会える感じなのだろうか。遠距恋愛? 織姫と彦星? そこのところはどうするつもりでいるのだろうか。

 「あぁ、私地球に住むから問題ないよ」


 ハルナは当然のようにそう言い放った。

 「え!? そんなにあっさり決めちゃっていいの!? ご両親とか大丈夫なの?」


 普通他の惑星に彼氏ができました。だから私その惑星に住みますなんてことそんなさらっと言えるだろうか、いや言えない。

 「うん、2人とも私の恋を応援してくれてるから。」


 それは『愛』を重んじる種族だからなのか、それとも単に娘の幸せを願う親心からきているのだろうか。いずれにせよハルナの両親には感謝しなくちゃいけないな。いつか挨拶に行こう。

 「…そっか、ならいつも一緒にいられるね」

 「…うん」


 まるで空気が桃色に染まったような甘ったるい雰囲気に包まれながらも、俺たちの前には避けられない一つの大きな障害があった。そう、ハルナは法を破った罰を受けなければいけない。

 「いつになるかわからないけど、私が釈放されたら、すぐに地球に向かうね。だから、それまで会えなくて寂しいけど、待っててくれる?」

 「うん、もちろん。いつまでだって待つよ。」

 「ふふ、ありがとう。」


 こんな楽しい時間がいつまでも続けばいいのに。しかし、そんなわけにはいかなかった。

 「話はついたかな。」

部屋の外で待っていたはずのヴァイロンが部屋の中に入ってきた。

 「どうやらうまくいったようだね。さて、そろそろ時間だ。」

 「はい、わかりました…」


 正直名残惜しかった。できることならずっとハルナと話していたい。でも、さすがにそれはできないから…

 「じゃあハルナ、またな!」

 「…うん、またね」


 『さようなら』ではなく『また』と、俺たちは再び再会の約束をした。そして、そこで通信は途絶えた。

 「おめでとう、楓くん。私もうれしいよ。」

 「ありがとうございます。上手くいってよかったです。」

 「さぁ、外を見てごらん」


 外? 言われるままに窓から外を見た。するとそこには、

大空を舞う鳥、道路を走る車、道行く人々… 心地よく響き渡る町の喧噪。俺が待ち望んでいた光景が広がっていた。

 目を閉じ、神経を研ぎ澄ませば感じる大地の鼓動、地球の呼吸。おかえりなさい。

 「君のおかげだよ。本当にありがとう。」


 ヴァイロンは畏まって頭を下げた。偉い人に頭下げられるのってなんか複雑な気分だわ。

 「いえ、色々迷惑かけてしまって… こちらこそありがとうございました。」


 ひどい目にはあったけど、貴重な経験ができたし、可愛い彼女もできたし、こちらとしても感謝ですよ。

 そして、俺はどうしても確認しておきたいことがあった。


 「それで、ヴァイロンさん、約束、覚えてます?」

 「あぁ、君が時間停止の解除をしたら君の願いを一つ叶えるというやつかな? 時空艦観測装置で確認してるよ。それで、君は何を望むのかな?」

 「僕の願い、それは…」


 俺はヴァイロンに願いを告げた。

 「君は本当におもしろいね。わかった、善処してみるよ。」

 「よろしくお願いします。」


 そして別れ時間はやってきた。

 「今回の件、本当にありがとう。じゃあ私はもう行くよ。元気でね。」

 「はい、ヴァイロンさんもお元気で。」


 すぅーっとヴァイロンの体が消えた。本来俺とヴァイロンは決して会えないはず存在だ。だから、多分彼と会うことはもうないだろう。


 俺の周りで生じていた宇宙規模の問題、それらはなんとか解決へと向かってくれたようだ。ここ数日間でたくさんのことがありすぎた。それもありえないようなことばかり。でも今なら言える。ありえないなんてことはありえない、と。


 一人になった部屋で外を見る。

 「本当にこの世は不思議なことだらけだよなぁ」


 俺の発した一人言は誰の耳にも届かず、部屋に流れ込む風にかき消された。


 それにしても、あー、体中が痛い。学校への復帰はいつになることやら…


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