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本当の気持ち

 「…うーん」

 カーテンも隙間から差し込む朝日に、私は目を覚ました。ベットから降り、バサッとカーテンを開いた。視界に広がる透き通った青い空。今日もいい天気だなぁ。さぁ、学校へ行く準備をしなきゃ。


 すべての準備を終え、玄関前の鏡で自分の姿を確認する。少し髪が乱れていたので整えた。うん、今日もバッチリ。

 「行ってきまーす。」


 自転車に跨り、学校までの道を行く。少し暑いけど、太陽の光と風が気持ちいい。10分程度して学校に着き、私は教室に向かった。

 「おはよう。」


 クラスメイトとあいさつを交わしながら、私は自分の席へと向かう。あれ? 今 日はまだ来てないのかな?


 いつもは私が来るころにはすでに埋まっている隣の席が、今日は空席だった。自分の席に座る前に楓くんとあいさつするのが日課のようなものになっていたので、少し物足りなく感じた。


 私と楓くんとは中学校の時からの付き合いだ。中二の時と中三の時に同じクラスになっただけで、別に家が近いとか、部活が同じとかそういう関係ってわけじゃない。でも、男子の中で特に良く話す仲のいいお友達って感じかな。


 特に話すようになったのは中三になった頃で、楓くんと話すのは楽しく、私はその時間が気に入っていた。そして、朝会った時の「おはよう」、帰る時の「バイバイ」のやりとりはこの頃から続いていた。

 「おーっす、春日さん。」

 

 私の斜め前に座っている男子が声をかけてきた。

 「おはよう、川崎くん。」


 この人は川崎和希かわさきかずきくん。楓くんの仲良しの友達だ。

 「今日はまだ楓来てないんだなぁ。」

 「そうだね、珍しいね。」


 楓くんはいつも早めに登校するので、いつも私より先に学校にいる。それでいて皆勤賞だから、今日みたいなケースは本当に珍しい。

 「楓くんに何か聞いてたりしないの?」

 「いや、何も聞いてないよ。何かあったのかな…」


 川崎くんの顔が少し険しくなったけど、私はいくら楓くんでもたまにはこんな日もあるだろうと少し軽めに考えていた。そう、真実を知るまでは。

 結局楓くんは登校時間になっても来なかった。そして、ガラッ教室の前のドアが開いた。


 入ってきたのは私たちの担任である真田先生だった。いつも熱血な真田先生だけど、今日はなぜか強張った表情をしていた。何かあったのかな? みんなもそれを察し、教室は静かになった。先生は教卓に立つと、その重そうな口を開いた。

 「えー、お前たちに大事な話がある。落ち着いて聞いてほしい。」

 

 先生のただならぬ雰囲気に周りが少しざわついた。しかし、それはすぐに静かになった。

 「今日欠席している如月だが…、昨日トラックにはねられて意識不明の重体だ。」


 え? 楓くんが意識不明? 先生が何を言っているのかわからなかった。

だって、昨日まではあんなに元気だったのに。不安な気持ち、恐怖心、様々な感情が心の中を駆け巡る。

 

 当然教室中がざわめいた。楓くんは助かるのか、外傷はひどいのか、など様々な質問が先生に投げかけられた。

 「外傷がひどく、昨日集中治療室で治療を受けたそうだ。集中治療室から出たが、まだ意識が戻らないそうだ。すまん、それ以上のことはわからないんだ。わかり次第、みんなにちゃんと伝える…」

 

 本気で心を痛めている先生を見て、一応質問の嵐は収まった。

 「今は面会はできないが、回復したらぜひお見舞いに行ってやってくれ」


 そうして先生はみんなに入院先の病院を伝えた。先生のこの言葉を最後にHRは終わったが、教室はクラスメイトの事故という出来事にざわざわしていた。


 私は何をどうしていいか分からず、世界から取り残されたようにただ茫然としていた。いきなりすぎてわけがわからなかったからだ。なんで、なんで楓くんが…

「大丈夫。」


 声の方に顔を向けると、川崎くんがこっちを見ていた。

 「あいつは絶対に死なない。そんなの俺が許さない。だから、大丈夫だ。」


 川崎くんの瞳には少し涙が浮かんでいたけど、そこには強い意志が感じられた。川崎くんの言葉を聞いて、このままじゃだめだと思った私は頑張って気持ちを切り替えようとした。

 「…そうだね、楓くんは今頑張ってるんだもん。私たちが信じてあげないと。」


 そう、楓くんはきっと元気になる。そしてまたここに戻ってくる。戻ってこないと許さないんだから。


 その後通常通りの授業が行われたけど、みんなどこか授業に身が入ってなかった。特に楓くんと仲の良かった川崎くんと山下くんはすごく辛そうだった。あんなことがあったんだもん、仕方ないよね…


 私自身も強い気持ちを持とうと努力したけど、やはり心のどこかではどうしても彼のことが気になってしまう。いままであたりまえのように隣にいた彼。いなくなって初めてその大切さに気付いた。早く戻ってきてよ、楓くん…


 しばらくして、特に何事もなく放課後を迎えた。少し迷ったけど、私は楓くんが入院している病院に向かうことにした。真田先生から面会はできないことは聞いていたけど、いてもたってもいられなかったからだ。病院に着いた私は受付で楓くんの病室を聞いたけど、やはりまだ面会はできないと念を押されてしまった。


 それでも私は楓くんのいる病室に向かうことにした。行ってどうにかなるわけじゃないけど、自然と足が向かったからだ。

 階段を上り、私は楓くんの部屋の前に着いた。この中に彼がいる。会いたい、でも会えない。わかってはいたけど、たかがドア1枚の先にいる彼に会えないのがとても辛かった。私はドアの前で祈った。無力な私にはそれ以外できることはなかった。楓くん、どうか早く元気なってね。


 病院を出た私は、祈るなら神社ということで、近くの神社に向かった。人事を尽くして天命を待つというけど、今回は尽くせる人事がないため、100%神頼みだ。

お賽銭を入れ、ただひたすら祈った。どうか楓くんを救ってあげてください。


 その後家に帰ったけど、食欲もあまりなく、ベットの上で楓くんのことを考えていた。思えば近くにいることが多くて、とても仲が良かった。ずっと大事な友だち思っていたけど…


 彼を失うかもしれないと思った時、とても怖かった。そんなこと考えられなかった。今は彼の声、彼の仕草、彼の笑顔、そのどれもが愛おしく感じた。


 そっか、どうしていままで気づかなかったんだろう。こんなに簡単なことだったのに…

 「私、楓くんのことが好きなんだ。」


 如月楓が死亡の危機に瀕したことで、自分の中の本当の気持ちに気付いた春日葵。彼を中心とした様々な気持ちの行きつく先は、まだ誰も知らない。


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