狗の巻 第1話 ジャッキーウルフ
俺の名はジャッキーウルフ。人は俺のことを『白面の怪盗』と呼んでいる。レベル59の盗賊だが、盗む相手は必ず富裕層からと決めている。分け前は毎度貧困層が住むスラム街にばら撒いた。世にいう『義賊』というやつだ。
だが今回の獲物は頭が空っぽでうすのろの貴族たちとは勝手が違った。『慣わしの墓』の深部に隠されているという『ブラ神の宝玉』を手に入れなければならない。
ダンジョン攻略は俺のテリトリーではない。にも関わらず赴かなければならない理由はたったひとつ。あの『七剣王ブーガン』の手に渡さないためだ。
この世界で最強と噂される男たちは沢山いる。魔導王、英雄王、サムライマスター、ハイキング、槍王、弓王、etc。だが『剣王』の称号を得ているのは『ブーガン』だけだ。歴代でもあの強さは抜きんでていると云われていた。何度か戦っている姿を見たことがあるが誰も刃を交わらせることもできず、一刀のもとに倒されていった。
悪名も広く知られていた。己の野心だけのために剣を振るい、性質も傍若無人。他人のため、天下のためにその力を発揮することは無い。
『ブラ神の宝玉』にはある秘密が隠されている。それを知るものは少ないが、仮にブーガンがそれを知れば世界の平和が脅かされかねない。だからブーガンがこのダンジョン攻略に着手したと聞いて、俺も侵入することになった。
俺にはパーティはいない。動きの遅い連中は足でまといだからだ。宝を盗むのに武力など必要無い。モンスターは躱していけば済む話だ。そもそもあそこには何度か潜ったことがある。どんなにブーガンが強くても、やつより先に宝を見つける自信があった。
仲間はいないが、もしものことを考えて手も打ってある。